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第十六話 ドラゴンイーターと牛鬼

『アガマツ』と男は名乗った。


「最近の私服警官はエロ本を買おうとしただけで首を絞めるのか?」と悪態を吐く。

「警官? そんなものではない」

「わかってるよ、そんな事、一体なんだっていうんだ?」

 アガマツが黙って、エイジを品定めするかのように観察する。


『マスター、この者、人ではありません』

(でしょうね、この世界で会ったどんな奴よりもやばい。この威圧感……人の形をしているのにドラゴンと対峙してるみたいだ)

 ステルスの感度を上げてくれとカンさんに指示を出すエイジ。

 普段は魔力の放出を抑えるステルス機能を使って、一般人のふりをしている。

 ここで自分の正体を悟られるのは面白くなかった。

 エイジは魔術を使えない、ドラゴンイーターの能力を使えば似たような事は出来る。

 だが、人避けも人払いの術を使うには条件が悪かった。

 自販機の上に付けられた監視カメラ、男二人でエロ自販機の前で見つめ合う自分達をニヤニヤ見る飲み屋帰りの若者達。

 ここでドラゴンズアーマーを使えば、この男は躊躇なく戦闘を開始する。

 それに巻き込まれる一般人を考えれば、容易に戦う事など出来なかった。

 ユイの持つ監視カメラや携帯などの電子機器を無効化するジャミング機が心底ほしくなる、あれを持つには銅バッヂを付ける必要があった。

 ろくに魔術も能力もない鉄バッヂには必要ないだろうという組織のルールがあった。

 

「はぁ」と緊張するエイジの前で気の抜けたため息をするアガマツ。

 アガマツの手が離され、ゲホッゲホッと咳をして地面に膝をつくエイジ。

「いや、すまない。やはり気のせいだった」

「気のせいで首絞められたら、今頃世の中、絞死体だらけだよ」

「あ、いやすまなかった」この通りと頭を下げるアガマツ。


「あんた、誰か探してるのか?」

「あぁ、用あってこの街に今日来たのだ」

「なんだ、あんた旅行客か」

「うむ、オレがこの国がいた時よりだいぶ街並みが変わっている、なによりこの街は明るいな」と街灯に照らされる街を感慨深く見るアガマツ。


「ところで、ここの場所はわかるか?」と言われる、そこはヒナドリ探偵事務所だった。

「いや、知らんね。そんな事よりここがおもしろいぞ」と街外れの星印を指差す。

 エイジは事務所の場所以外の星印を見て、すぐに気づいた。

 この男は敵対する者、スナック菓子の袋を開ける感覚で人の腹を(さば)ける凶悪な存在だと。

 エイジが教えた場所は、一週間前に自分がユイと一緒に森で悪さをしていた怪物を倒した場所であった。

「なぜ、そこなのだ? 何か知っているのか?」

「この辺じゃ、お化けが出るって有名な場所さ、その星印の場所は全部そういった名所だ、あんたミステリーハンターか何か?」

「ははは! ハンターか、そうだな、オレはハンターだ」と心底おかしいのか豪快に笑うアガマツ。

「そんじゃ、俺はもう帰るよ」とバイバイと手をふるエイジの背中にアガマツが話しかける。

「小僧、またお前に会う気がするぞ」

「ああ、今度は首なんか絞めずに普通に話しかけてくれ。それから、その服のセンスは悪いからまずは服屋に行くことをおすすめするよ」



 翌日、ユイと一緒に事務所へ向かった、昨日の件はどうなったか聞くためだ。

 事務所に入ると、難しい顔をして一枚の紙を見る所長が一人でいた。

「何か、困り事?」とユイが紙をのぞき見ながら話しかける。

「う~ん……これ見てよ」と悩みの種である紙を渡す所長に、所長がそんな顔するなんてロクな事じゃなさそうねと読み進めるユイの顔も所長と同じ顔色になる。


「これ、ほんとなの?」

「まぁ、本部直々の連絡だからね。信ぴょう性は高いんじゃないかな」

 なんだよやけに辛気臭い顔するじゃないかとユイの手元の紙を見る。

 そこには、写真と文字が書いてあった、その写真にエイジは驚く。

 こいつを見たら気をつけろってさ、牛鬼なんて勘弁してほしいよと所長が言う。

「シーのせいで戦力は半減、優秀な人間は本部の方にすぐ出向になっちゃう。おまけに手練でも組織に協力的な人間は少ないしね」

「なんでだよ、この街を守るのが仕事じゃないのか?」

「それは表向き、実態は自分達の利益のために集まる集団にしか過ぎないの、力を持つ者の責務だとか言う人間の方が少ないわ」と面白くなさそうに話すユイ。

「そうだね、だから君達にばかり仕事がいくのは申し訳ないと思う。東の管轄にいる子は協力的だから、ちょっと頼んでみるよ」

「東の管轄?」とエイジの頭に、はてなマークが浮かぶ。

「えぇ、市内を東西南北に分けて管理しているの」

 事務所は中央管理班、それぞれの管轄を管理する部署になっている。

 全土も同じように別れ、世界になると大陸ごとに管理される。

「ちなみにうちの正式名称は大東連合郡東部方面部関越市中央管理班って言うんだ」

「うげぇ、ながっ! 覚えられないよ、よく舌かまないね所長」

「まぁ、そうそう名乗る事もないから大丈夫だよ」

「それより、牛鬼よ。こいつが上陸したっていうんなら私達だけじゃ対処できないわ、魔導兵器の件だってあるんだし」

「そうだね、とりあえずは魔導兵器の件は沈着に向かっているよ」

 魔導兵器の有益な情報を入手したカラスは、全国で一斉検挙を行った。

 昨日の一件もその一部だった、検挙作戦は見事に成功、これにより魔導兵器事件は終了というのが本部の見解だ。


「それにしたって、次は牛鬼だ、勘弁してほしいよ」

 牛鬼と呼ばれる写真の男にため息を吹きかける所長に「そうそう」とエイジが話しかける。

「こいつ、昨日街にいたわ。牛鬼っていうんだな、名前をアガマツって言ってたけど」

「え?」

「この事務所の事、探してたぞ」

 所長が急に立ち上がり、バッグやアタッシュケースに書類や荷物を雑に放り込んでいく。

「しょ、所長?」とユイもその喧騒に戸惑っていた。

「牛鬼と正面からやりあったら大変だ、しばらく雲隠れするよ」

 連絡は専用回線で携帯に連絡するから、ばいばいと手を振って所長が事務所から逃げ出した。

「出来る人間だとは思ってたけど、逃げ足も一流なのね」と呆気にとられるユイ。


「牛鬼っていうのは相当やばいやつなのか?」

「当たり前よ、シーなんかよりタチが悪い」


 そして、ユイの口から牛鬼の伝説を聞かされる。

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