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第十五話 密売人を捕えよ

 終電の時間が過ぎ、人もまばらになった深夜の繁華街。

 その路地裏でユイは男を追いかけていた。

 男は銃身に血管が生きてるように脈打つ銃をユイの方へと向ける。

「なんなんだ、お前はよ! しつこいんだよ!」

 銃に火花が走り、硝煙と共に銃弾が撃ち出される、だがそれは通常の銃弾ではない。

 紫色に光る銃弾は、形を変え口を開く骸骨の顔に変わった。

「ちっ!」

 ユイが舌打ちした瞬間、地面から炎のゴーレムが立ち上がり銃弾を防いだ。

 ゴーレムの影に隠れて、走る男を見るがそれを守るように剣を持つ人形が立ちはだかる。


 最近、街に出回る魔導兵器をユイ達は追いかけていた。

 死霊を撃ち出す銃に、魔導鉱石をエネルギー源に動くオートマタ。

 普通の人間が触れてはいけない領域にある魔術を使う武器を組織は魔導兵器と呼んだ。

 奇跡的に、まだ大衆の認知にまでは至っていない。

 街のギャングが暴力団に抵抗するために、この魔導兵器を使用しているという情報が事務所に入ったのだ。

 今、追いかけている男はその密売人の男だった。


 ゴーレムが炎を吹き出し、オートマタ達をロウソクのように溶かしていく。

 プラスチックが燃えた臭いと熱で歪んだオートマタ達の残骸を見る。

「こんな粗悪品で、よくもまぁ……」

 残骸の中の心臓部にあった濁った魔導鉱石を見る。

 ルビーやダイヤモンドといった鉱石に魔力を宿したのが魔導鉱石だ、普通は鉱石の中心部に炎のようにマナが揺らめいている。

 だが、これは雑にマナを宿した、プロがやったとは思えない代物だった。

 おそらくは、大量生産の過程で質より量を取った弊害であろう。

 使われた材料も軽量化を重視した水道パイプにも使われる塩化ビニールだ。


「こんなのでも、一般人には脅威なんだけど。残念ながら私達の世界では通用しないのよね」

 遠くに走って、長い路地裏をもうすぐ抜ける男の背中を冷たく見る。

「まぁ、作戦通り言ったし、後は任せたわよ、エイジ」


「ははっ! やった、逃げ切れた!」

 汗を全身に流し、歓喜の声を上げる密売人。

 目の前に大通りが見えてきた、ここを右に曲がれば自分の車が駐車してある。あとは全速全開で逃げればいい。

 だが、突然なにかにつまずいて地面に抱きつくように転ぶ。

「ぐぇっ!」

 痛みに耐え切れず、押しつぶされたようなうめき声を上げる。

 一体なんだというのかとつまずいた物を見る。

「よぉ、兄さん」

「なんだ、お前は!?」

 気さくに笑顔で声をかけるエイジがいた。

 しゃがみながら、こんな夜中にジョギングなんて精が出ますねと状況に似合わない呑気(のんき)な声色で話す。

  「てめぇ、あの女の仲間だな!?」

 痛みで顔をひきつらせてエイジを睨みつけながら、銃を構える。

「やめときなよ、こういう時は素直に武器を捨て、両手を地面に着けるのが正解だ」

「うるせぇ!」と男が引き金をひく。

 黒い手が撃ちだされた死霊をつかみ、ガラスを割るように粉砕した。

「な、なんだ……それは?」

 目の前には黒い竜の鎧が立っている。

「これか? ドラゴンズアーマーって言うんだ、かっこいいっしょ?」

 その言葉を最後に、エイジのフックが男の顎を掠める。

 瞬間、脳が揺さぶられ意識を刈り取られた男は膝から崩れ落ちた。


「うまくいったわね」と後ろからユイが歩いてくる。

「ああ」と静かに頷き、エイジは男を抱える。

 事前に密売人の男の情報を聞き、ユイが追い込みエイジが捕らえるという作戦だった。

 追い詰められた悪党は何をしでかすかわからないという考えの元、エイジはあえて危険な方を選んだ。

 甘く見られているとひどくおかんむりのユイだったが、オートマタはプラ素材で出来ている、ならば炎を使うユイが適任だと説得されて納得したのだった。


「で、こいつはどうする? 起こして、楽しくお茶でも飲みながらお話する?」

「いえ、街中じゃ目立つわ。事務所に行って所長に引き渡しましょう」


 事務所で密売人への尋問が始まった。

 尋問はシンプルなものだった。

 映画や漫画のように、指をへし折ったり、全身に電流を流す事もしない。

 所長が一本の針を差し、男の瞳が空虚になった所で尋問が始まる。


 銃は知らない人間から卸されたという、麻薬の密売人だった彼は最初は専門じゃないと断った。

 しかし、アタッシュケースにびっしり入った大金とブツが入ったトラックに彼は容易に快諾(かいだく)した。

「これは銃じゃない、銃っていうのは鉛玉を撃ち出すものだろ? これは鉛玉は撃ち出さない、おもちゃさ、合法だ」

 それが彼の決まり文句だった、そう言いながら複数のギャング達に(おろ)していった。

 オートマタだけは、卸さなかった。なぜなら無償で半永久的に動くボディーガードとして最適だったからだ。オートマタを引き連れて、銃だけを売っていた、その銃はすべて事務所が回収済みだ。

「その人間はどんなやつだったんだ?」

「わからない、ぶかぶかのコートに声はボイスチェンジャーを使ってるのか男か女かもわからなかった」

 よだれを垂らしながら天井を見る男に、ため息をつきながら所長はエイジ達の方へ振り返る。

「今日はもういいよ、遅くまでごめんね」

 ジャケットの裏ポケットから封筒を一つユイに手渡し、出口へと促す。


事務所を出て、ビル街を歩くエイジとユイ。

「これからもこんな事件が続くのかしらね」とユイがエイジに話しかける。

 魔導兵器が街に出回っているのはここだけではない、全国レベルでそれは起きていた。

「まぁ、元を絶たない限りは続くだろうよ」と気だるそうにポケットに手を突っ込みながら返すエイジ。

「なによ、エイジ。報酬がもらえないのがそんなに不満なの?」

 ユイがふてくされたエイジの態度に眉根(まゆね)を寄せる。

 表向きはエイジはユイの助手だ、エイジが直接報酬をもらえるには少なくとも数年はかかるだろう。

「違うよ」

「え?」

「戦いの匂いがする、それもどでかいやつだ、脳に染み付いたこのドブの匂いは中々忘れられない」

「そんな縁起でもないっ」ユイは強く否定した、いや否定したかった。エイジの言葉には説得力があった。

 異世界で彼は想像も付かない場数を踏んでいる、彼のそういった嗅覚は信用に足りる。まだ短い期間でしかないがユイは直感的にわかっていた。

「へへへ、それもそうだよな」

 ポケットから手を出して、両手を頭に組みながら影を落とした顔が嘘のように明るい顔になる。

 歯を出しながら笑う彼はたとえどんな時でもこうして笑っていてくれるとユイは信じていた。


 ユイと別れ、一人でエイジは大通りをコソコソと隠れるように抜け、たくさんの自販機が並んで置いてある街の一角へ向かっていた。

 もう夜も遅い、警察に御用になる事は避けたかった。

 だが、彼にはやるべき事があった、彼の肉体は十五歳まで若返っている、だが実年齢は二十五歳、その有り余る欲望を抑えるのも限界であった。

『一八歳以上』そう書かれた看板のある自販機コーナーに忍び寄る。

 スパイ映画の主人公のように周囲を見渡し、誰もいない事を確認する。

 屋敷内では禁制の品をエイジは入手しようとしていた。

 今日は絶好の機会だった、常連のおっさんや根暗そうな若者も今日はいない。

 というより、街は誰もいなくなった様に静かだった。

 平日の深夜という事が理由かもしれないが、普段はもう少し夜の街を彩る輩がいてもおかしくない。

「ゆえに、チャンスだ」

 そっーと入口に垂れるのれんを潜ろうとする。

 しかし――


「おい、お前」

 そう背後から、野太く低い声が聞こえた。

「……え?」

 振り返った瞬間、首根っこを掴まれ持ち上げられた。

 自分を持ち上げる男は二メートルの身長に常人離れした馬鹿でかい身体。

 ぼろ布の様なローブを羽織り、鬼のような鋭い目をしている。

「あんた誰だい?」

 丸太のような太い手首を掴み、自分を持ち上げなんとか話すエイジ。


「……アガマツ」そう呟くように、男は言った。

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