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第九話 お稲荷様①

 授業が終わり、クラスメイト達が部活やバイト、塾などに行く。

 エイジは帰宅部であり、相方のユイも用事があるからと先に帰ってしまった。

 帰りのバスが来る時刻まで、まだ時間があったので、街を散策する。

 今日はちょいと大人な方面に行ってみようかとラブホ街を歩く。



「ちょ、ちょっとやめてください!」

「いいじゃないかよ、僕たちもう何回も会ってるんだから」

 小太りの男と制服の女子高生がラブホテルの前で言い争いをしていた。

 男が女子高生の服を引っ張り、無理やり敷地内へ入ろうとしている。


「あれ?うちの制服の子じゃんか」

 制服の胸に付けられたリボンで学年を判別できるようになっている。赤のリボンって事は三年生の先輩か。

「ほんとにムリ! ムリだから!」「いいじゃないか、ほら? みんなも見てるよ恥ずかしいでしょ? 入ろうよ」

 なんだか、可哀想になってきたな、特に男の方が。

 ふくらんだ腹をぶよぶよん揺らして、嫌がる女の子を無理やり連れ込もうとする醜態。

 彼は男として、人として最低な部類だ。

 故に――


「お兄さん、やめときなよ。みっともない」

「なんだ、お前? 関係ないだろ! あっち行け!」

『しっしっ』と俺に手を振る糞豚野郎。


「はい、えんがちょっ!」

 女子高生の服を握る手を手刀で断ち切る。

「な、何すんだ!」

「ごめん、繋がってるものはなんでも解きたくなるんだ俺、レスリングやった方がいいかな?」

「知らねぇよ!」

 嫌がっていた女子高生が俺の後ろに隠れる。

「あのシュウジさん。私、その好きな人がいるんです。だから貴方とは付き合えません!」

「えぇー!!聞いてないよー!!」

「なんでお前がショック受けてるんだよ!」

 ガーンと両手を広げ腰を落としてオーマイガーのポーズを取る俺に醜豚、いや、シュウジが俺に怒る。


「シュウジ、傷ついた男同士、今日はとことん飲もうぜ?」

 シュウジの肩を掴み、一緒に歩こうとするが『なんでだよ!』と解かれる。


「そんな事言っていいのか? アヤのパパが務める会社は僕のパパが買い取ったんだ。いつでも君のパパを解雇出来るんだぞ!」

「それは……でも、私」

 俯いて、悲しそうな顔をするアヤさん。

 なんていうんだっけ。彼氏がいるのに他の男に脅されて関係持っちゃうやつ……あー知ってるわー。

 女の子が可哀想すぎて興奮できなかったヤツだわ。Nの字が付くやつだわー嫌いだわ、そういうの。


「おい、豚野郎」シュウジの服の襟を掴み上げる。こいつ背低いな、ちょっと持っただけで地面から浮いたぞ。

「ひっ」とシュウジの顔に恐怖が浮かぶ。なんだ、さっきまでの勢いはどうしたんだ?


「今、聞いただろ。あんたとはこの子は付き合えないってさ。用は済んだろ?さっさと養豚場に帰りな」

 雑に投げ落とし、シュウジがよろめきながら後ずさりする。


「く、くそっ!お前アヤと同じ学校だな! そうか、 さてはお前が彼氏なんだろ?」

「正解!」と俺はシュウジに指差す。

「違います」とアヤさんが即答する。


「くそっ、パパは病気で入院するし女にはフラれるし。なんだっていうんだ!」

「まだ俺は諦めてないからなアヤ!」とドスドスと走って立ち去るシュウジ。あいつはあいつで苦労してるんだな。


「ありがとね。緑の校章バッヂって事は君、一年生? すごいね、見ず知らずの私を助けるなんて」

 なんだ? この美人?

 目は丸く琥珀色に輝き、鼻は高く高校生とは思えない大人びた顔立ち。そう彼女はポニーテールの美女だった。

「いえいえ、当然の事をしたまでです。どうですか先輩、最近シャレた店を見つけたんです、よかったら一緒に」

「ごめんなさい、私もう帰らないと」

「それは残念だ。もし何かあったら俺が力を貸しますよ、彼氏には言いにくいでしょ?」

「ん~そうだけど……」

「だけど」の後に彼女の顔に黒い影が浮かび上がった、そして低く冷たい声で「もうすぐ終わるから」と言った。

 その不気味さに一瞬、何が起きたかわからなかった。


「そ、そうなんですか」

「私、小出あや。あなたは?」

「俺は風間エイジ」そう応えて握手をする。今の彼女には先ほどの暗い影は無く、太陽のように明るい笑顔だった。


「そんな事があったのよ」

「ナニソレ、くだらない。人の色恋に気安く足突っ込むんじゃないわよ」

 昨日起きた事を話すが、つまらなそうにするユイ。

 俺たちは探偵事務所に向かっている。なんでも飛び入りの仕事が来たらしい。

「いや、だけどさ。なんか彼女に嫌な雰囲気を感じたわけよ」

「気のせいでしょ?ほっときなさいよ」

 扉を開けると、所長と男が口論していた。


「ですから、こういった案件は相場が高いんですよ」

「だからってこの見積もりはないだろ? 普通の探偵事務所ならこの半分、いやケタが一つ減ってもおかしくない」

 太った男が所長にまくし立てる。

「ぼったくりすぎだろ。警察も警備会社もアテにならんし、最後に紹介されたのがこんなインチキ事務所とは……」

 ユイは二人の会話を気にもとめず、事務所へ入る。

「こんにちわ、所長」

「お邪魔しま……す?」

 そこにはこの前の醜悪クソフラレ豚野郎じゃなく、シュウジがいた。


「お前はあの時の……! こんな寂れた怪しい探偵事務所に出入りしているとは、さすがは暴力高校生だ、それらしいよ」

 ニヤニヤと腕を組んで嫌味を言ってくるシュウジ。

「まぁまぁ」と嗜める所長。所長フォローはありがたいが、静かに俺を睨むのはやめてくれ。


「それでこの高校生探偵君たちが俺の担当になるわけだ?」

「えぇ~彼らは今、売り出し中のコンビでして」

「いい加減にしてくれよ。俺は子供のお遊びに何十万も使うほど馬鹿じゃない」

「いや、馬鹿だろ。いい年こいて女子高生に夢中になるとか」とは絶対に口には出さず、心の中で思った。

 依頼内容はストーカー案件だった。

 なんでも毎晩、家の前に狐の仮面を被った女が立っているらしい。

 何もしてくるわけじゃない、ただそこに立っているだけなのだ。

 警察にも連絡したが何もいなかったと報告され、警備会社に言ってもまったく正体を掴めない。

 その狐の女が現れた頃から、父が病気を発症したり今度は自分も車に轢かれそうになったり危険な思いをし始めたそうだ。

 不幸が続いている、その割には身なりのいい格好をしている、腕にしている時計なんかロとレが付く高級時計だ。

 父が入院してから会社の業績が上がっているらしかった。

 それもその狐の女が現れてから。

「じゃ、別にいいんじゃない?」

 不幸はたまたまで、これから良くなるかもしれないと言う俺をシュウジは否定する。

「よくない、このまま会社を残して一家全滅もありえるだろ」

「まぁ、それはそうか」

「ったく話にならん。所長せめてこのお子ちゃま探偵団は外してくれ」

「いいですけど、これはそのお子ちゃま探偵団価格ですよ? 大人を使う場合はケタが一つ増えてもかまわいませんよね?」

「なっ!」と黙ってしまうシュウジの額に汗が垂れる。

 やれやれ、これじゃ、話が進まないな。

「なぁ、シュウジさん」と話しかける。

「なんだ?」

「その狐の女、もっと前から出てただろ?」

「なに?」

「最初はそうだな、家から離れた道路の奥の電柱の明かりに照らされてなかったか?」

「えっ……」とシュウジの顔が段々と青ざめてきた。

「次第に距離が近づき、一本目、二本目の電柱と近づいてきた」

「そして、最後は家の入口の前」

「そ、そうだ。よくわかったな」

「たぶん、次は家の中に入ってくるぜ?」

「えっ?」

「当然だろ。近づいてきてるんだから、次は玄関の扉の前、次は階段、次は自室の前と……」

「ひっ、や、やめてくれっ! 想像するだけで嫌になってくる!」シュウジは頭を抱えて、縮こまる。

「まぁまぁ、俺たちに任せてくれれば御茶の子さいさいよ」

「わ、わかった。ぜひ頼む!」

「うちは新規のお客は前金じゃなくて一括清算ですので、先に現金でお払いください」

「わ、わかった」とカバンの中から札束を一つ出す。

「つりはいらない、そのかわり今日からにでも始めてくれ!」

「だそうだ、わかったかいお二人さん?」

「はーい!」

「わかりました」

 これが俺の初仕事だ、気張っていこうじゃないか。

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