その98 『魔女とギルドの狭間にあって』
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「……折角きてもらったのに、早々に帰してしまってよかったのかえ?」
全くそうは思っていないだろうに、マドンナからそう発言がある。
「どういうつもりだ」
取り合わず本題に入れば、ため息さえつかれた。
「女暗殺者に、リア。お前は俺らをイクシウスに売ったのか?」
リアはもともと、マドンナの依頼で引き入れた少女だった。その少女がセーレをイクシウスに売ろうとしたのだ。マドンナが無関係なら、先ほどイクシウスに向かっていたことを知っていた件と矛盾が生じる。
「隠すつもりはないのぅ」
レパードの予想通りの、あっけない反応だった。
「暗殺者の件は知らないが、リアの件は想像のとおりじゃ。まぁ、あれぐらい乗り切ってくれるとは思っていたがな」
そう軽い口調で言われては、腹がたつ。
「こっちは、死にかけたんだぞ!」
「じゃが、こうしてそちは生きておる」
握った拳で、目の前の画面を叩き割りたくなった。
「……ここまで戻ってくるのに何人仲間がやられたと思っている。お前が気にしていた餓鬼、レイファも死んだんだぞ」
女暗殺者の毒にやられたレイファを思い浮かべて、やりきれない気持ちになる。面倒見のいい姉御肌な女だった。そして、彼女はマドンナのことをとても尊敬し慕っていたのだ。
「そうか……、あの子が死んだのか……」
さすがの冷血女も堪えたとみえて、少し殊勝な態度に変わった。だが、それも一瞬だ。
「じゃがな、妾は驚いたことに危険な目にあわせたそちにどうも頼み事をしないといけないようじゃ」
切り替えの早さに、吐き気すらする。
「断る」
真っ先に切り捨てたものの、マドンナの笑い声が耳にこびりついてくる。
「そう言うてくれるな。そちは断れない」
マドンナの言いたいことは分かっている。セーレにはギルド以外に居場所がない。龍族のレパードやリュイスが無事に生きていられるのは、マドンナの温情があるからに他ならない。
だが、その温情はどうもマドンナの気分によって氷に変わることがあるようである。
「『アイリオールの魔女』が奪った魔術書について、調べてほしいのじゃ」
「ギルドがそんなことをしてどうする」
マドンナは目を伏せて言った。
「必要なことじゃ。まだ知らぬか? イクシウスの国王がそろそろ崩御するという噂」
その情報はレパードには初耳だ。噂とはいうが世間に出回る代物ではない。故に、レパードは気づいた。
「まさかイクシウス王室の情報を得るために、俺らを売ったわけか」
冷血女には一言も否定されなかった。
レパードは思案する。今のギルドは、イクシウスの国王の慈悲でどうにかなっているようなものだ。情報がほしいのはわかる。だが、一言連絡があってもよかったと思うのだ。
「さきほどの少女にも言ったがな。ギルドは今でこそ発展しておるが、いつ滅びてもおかしくない。何せ妾が仕切っているのだからな」
面白いことを言ったといわんばかりに、付け加える。
「妾はギルドを『生かす』ためなら尻尾ぐらい切るぞ? それを知らない男ではないであろう」
まだへそを曲げているのかと言われたわけだ。まるで親が子を諭すような扱いである。
しかし、この女を普通の物差しではかってはいけないことは経験上よく知っている。苦虫を噛み潰したような顔をしている自覚はあったが、マドンナの望み通り話を進めることにした。
「で、ブライトの盗った魔術書の正体を知りたいのは?」
仮に回収しろとまで言われた場合、魔術書の影も形もわからないのが現状だ。ブライトの言葉が正しいかどうかの吟味も含め、難しい注文だと思いながら話を戻す。
「簡単なことじゃ。万が一、危険な力を持ったものだったらどうする?」
「危険な力だと……?」
「そう。例えば一国を丸々滅ぼせるような」
挙がってきた例があまりにも突拍子もない規模だったので、さすがのレパードも目を剥いた。
「なんだって?」
「今のこの時期に、シェイレスタから天才魔術師と呼ばれた少女が盗みを働いたのじゃ。よりにもよって魔術書の。普通に考えて、世界的な大問題じゃ」
ブライトの顔が浮かぶ。ばかげた発言ばかりのおちゃらけた顔だ。その顔と照らしあわせて聞けば、紛れもなく世界一の問題児だ。
「じゃが、恐らくはシェイレスタが『アイリオールの魔女』に命じて盗ませたのだ。妾はそう睨んでいるし、少なくともイクシウスはそう主張するだろう」
国家ぐるみの犯罪だ。
「下手をすれば、戦争になるな」
浮かぶのは、イユに暗示をかけたと発覚したときの、にやりと笑ったブライトの表情だ。あの少女の本性だと思ったが、同時に気になる言葉を思い出す。
「あの魔術書はカルタータの障壁絡みのもので、しかも戦争を止めるためって言っていたがな」
しかし、わざとらしい台詞の真意は分からないままだ。現状だけ見れば、戦争を止めるはおろか、起こそうとしているようにすら見えてしまう。
「『アイリオールの魔女』がか?」
不思議そうな顔をするマドンナはいつも以上に幼い顔にみえた。その顔を隠すための癖のある口調に黒服だったのだが、まだ隠しきれていないとみえる。
「ああ」
頷くレパードに、マドンナは眉間に皺をよせて考え出す。
「その言葉を信じるならば、危険ではないかもしれないが」
「ずっとあいつと一緒にいるから言うが、言葉は全く信用ならないぞ」
イユを暗示にかけたやり方をかいつまんで説明すれば、マドンナの顔はますます険しくなった。
「『アイリオールの魔女』、全く読めない人物じゃの」
同感だった。
「だが、シェイレスタが奴を切り捨てたのもわかる。聞くだけでもその存在は危険じゃな」
「待て、『切り捨てた』? ブライトは切り捨てられたのか?」
寝耳に水の事実に、何故か涙をみせたブライトが脳裏に浮かんだ。
「考えてもみぃ。こんな指名手配犯。ふつうは生きて帰ることはできない。もし、シェイレスタが『アイリオールの魔女』に魔術書を盗みにいくように命じたのだとしたら、それは紛れもない死刑宣告じゃ」
シェイレスタの国力では、イクシウスを相手にブライトを守ることはできない。イクシウスはブライトを捕えようとするし、シェイレスタも見つけ次第ブライトを公開処刑またはイクシウスに引き渡すことで、イクシウスへの体裁を整えようとするはずだ。そう、マドンナは伝える。
「まぁ、まず公開処刑じゃろうな。本人をイクシウスに引き出せば、シェイレスタからの命令だと漏れかねないからのぅ」
レパードにはいまいち信じられなかった。ブライトがそれに気づかずにシェイレスタに戻ろうとしているとは思えなかったからだ。
「なら、あいつは殺されるとわかっていてシェイレスタに戻ろうとしているのか?」
魔術書を届けるためだけに。それも、ブライトの言葉を信じれば、始まってすらいない戦争を止めるためにだ。
「じゃから、探ってほしかった。魔術書の正体をな」
マドンナの言いたいことはよくわかった。むしろここにブライトがいたら問いただしたいぐらいだった。
――――お前は、死ねと言われたも同義の命令に大人しく従って魔術書を盗み出したのか?
ブライトの焼かれた腕を思い出す。生きるためにあれだけのことをする人物だ。そのような殊勝な性格なはずはない。
「生きるため、か」
ふと、リーサを睨んだときのブライトの様子を思い出した。あのとき、シェイレスタ行きの船に乗るのを嫌がっていたような素振りがあったわけだが……。
「なにか、気づいたのかぇ」
「いや……」
ブライトには自分が生き延びる勝算があるのだろう。そして、どうやらそれがイユに絡んでくることなのだろうと、リーサを睨みつけたあの様子から察した。
「例えば、イクシウス施設からの脱走者をあの魔術師が確保したとして、それは大きな意味を持つのか」
マドンナにそう問えば、聡い彼女はすぐに誰のことか察しが付いたようだ。
「まさか、さっきのあの子がそうなのかえ?」
隠しても仕方がないだろうと判断する。どのみち、マドンナが興味を持ったら、プライバシーも何もあったものではない。
「しかも、どうも魔術師の家系みたいだな」
急に何かを悟ったように、マドンナが目を細めた。レパードには詳しいことがわからない。だが、その反応で十分察せられた。
「イユの存在は、魔術師にとって重要なのか」
ところが、マドンナは首を横に振った。
「断じて、魔術書の引き合いに出せるような弾ではないな。いくらイクシウスの魔術師が異能者施設の非道さを大っぴらに公言されたくなかったとしてもじゃ。童でも知っているような周知の事実じゃぞ? それをあの子に言わせたところで、今更じゃ。せいぜいイクシウスにさくっと殺されてしまうだけじゃな」
さらにマドンナは、レパードが危惧した二つ目についても否定してみせた。
「魔術師の家系だったとしても尚の事。魔術師同士の足の引っ張り合いはそれこそ山ほど転がっておる。交換条件にはならんよ」
それであれば、イユが狙われる理由が見えてこない。レパードは全くの勘違いをしていたことになる。しかし、それにしては、マドンナの先ほどの表情が気にかかった。
――――何を隠している?
探りたいところだが、簡単に尻尾を掴ませない女なのは十分承知している。
「しかし珍しいのぅ。そちが無関係な少女にそこまで肩入れするとは」
本当に珍しいものでも見るかのように、マドンナに不思議そうな顔をされる。
レパードもできればイユを見捨てたかった。レパードの肩に乗るのは、セーレだけで十分だ。それもあって、当初はイニシアに置いて行こうとしたのだ。
だが、イユの表情が浮かぶ。その顔は悲しむでもなく嫌がるでもなく、むしろ感謝の表情を浮かべていた。『セーレの皆には、初めて人らしい生活をさせてもらったから』。いつかそう言っていたイユの言葉が脳裏に蘇る。『それが嬉しくて、離れたくないと願うの』と。
――――俺はお前を殺そうとしたんだぞ。
レパードは心の中のイユに同じことを言ってやった。
突き放しても捨てられた子犬のようについてくるイユに、嫌でも心の中に踏み込まれた気がしないでもない。
それどころか、イユはセーレに残るために自身の記憶を魔術師に曝け出すことさえしてみせた。その結果が今回の醜態なのである。そういうわけだから、レパードからしてみたら、責任を感じないわけにもいかない。おかげで、厄介な頭痛の種である。
「……何故か、リーサと仲が良くてな。あいつが珍しく頑張っているんだよ」
マドンナも当時のリーサのことは知っている。だからそう話すことで、マドンナは納得した顔をした。
「あの子がか。持つべきものはやはり同年代の友人といったところじゃな」
むしろ、そのようにマドンナは同調してくる。
「お前が勧めた奴らは、とことん全滅だったわけだがな」
そもそも、リーサは初めまともに話もできない状態だった。それを不憫に思ったマドンナが、自ら推薦して何人かギルドに同年代の少女を紹介していた。
だが、不思議と彼女らとは打ちとけなかった。表面上は問題ない。むしろよく気が付くリーサだ。話ができるようになってからは、仕事だけならばきちんとこなしていた。それだけにどう手を打てばよいのか分からず頭を悩ませたものだ。
「まぁ、すすんでギルドに来るような連中は、確かに『強か』すぎる。あの子には合わないかもしれないのう」
レパードの印象では、イユは十分『強か』な類の人間だ。しかし、マドンナのそうした感想も分かる気がするから不思議だった。
「だが、あのイユという少女のことは、諦めることじゃな」
はっきりとした物言いに、レパードは思わず反論する。
「何故だ。イユ自体に価値はないんだろ。それなら手があるはずだ」
再び、マドンナは目を細めた。
「ただの警告じゃ。魔術師は貪欲な生き物。それを忘れるなという、な」
含みのある言い方が気になった。マドンナはやはり何かを知っているのだ。それをレパードたちに明かさない。
「しかし、カルタータの障壁ときたか。どうも縁があるようじゃな」
と、マドンナ。露骨な話の切り替えに、レパードは大人しく合わせた。
マドンナは、自身の立場では決して言えないことを、時折ヒントのようにこうして話に散りばめることがある。今回もそれかもしれないと考えたためだ。
「俺らに取り入るための嘘かとも思うわけだが」
「だが障壁があれば、文字通り戦争は起こらない。あながち嘘でもないわけじゃ」
マドンナの口調にレパードは驚いた。
「まさか、信じるのか」
「何、流行に乗ろうとした魔術師の動向を考えただけじゃ」
「流行……?」
その言葉に、レパードの、黒髪に隠れている耳が反応した。
「最近、どうも魔術師の間でカルタータの話が再び流行っているようでな」
その警告ともとれるヒントに、レパードは全く良い気がしなかった。そもそも、マドンナに売られたのはそのせいなのだろう。
「一回滅ぼした国に、今更何の用だってんだ」
自然声は冷たくなる。マドンナからはこう、告げられた。
「『深淵』じゃ」
聞きなれない言葉だった。
「はじめはイクシウスの雪山の麓だった。次は、シェイレスタの砂漠の一画。そして最近では、インセートの近くにもできたとか」
「それは何だ」
わからないと、マドンナには首を横に振られる。
「光すら通さない強力な力場という者もいる。はっきりしているのは、ある日突然そこにできて、そして徐々に大きくなっているということ」
光すら通さない力場とやらをイメージするのは至難の業だった。かろうじてレパードに浮かんだのは、いつも見ている空が黒いしみに潰される光景だ。それを魔術師たちは『深淵』と呼んでいる。
「入ったものは、『古代遺物』も含めて一人残らず帰ってきていないということ」
イメージが一つ訂正された。入るというからには、その黒いしみは大きいのだ。
「そして、時折そこから、『龍の咆哮』が聞こえてくるという噂があることじゃ」
カルタータが話題になっている理由がわかり、戦慄した。
「馬鹿な……、『龍』は死んだんだぞ?」
震える声が、レパードの動揺を表していた。
「妾にはその真実は分かりかねる。知っていることは、ただそういうものが『在る』ということだけじゃ」
マドンナはそれ以上、『深淵』のこともカルタータのことも、そしてイユのことも、何も言わなかった。代わりに、依頼を告げる。
動揺から立ち直る暇も与えようとしないマドンナに、レパードは必死に頭を切り替えた。
「そうじゃな……。引き続き魔術書は探ってもらうとしても、『アイリオールの魔女』の望むままシェイレスタに送り届けてもよいな」
「正気か?」
とんでもない発言に、レパードは訝しんでマドンナを見つめてしまう。危険かもしれない魔術書をそう簡単に届けてもよいのだろうかと、心配になる。
「しかし、イクシウスが長年読み解けずにダンタリオンに放置していたものでもあるのじゃ。どうせなら、シェイレスタの思い通りにさせたい」
「シェイレスタの肩を持つんだな」
イユには傍観と言っておいて裏ではしっかりと手助けする。そういうところは変わっていない。
「ああ。シェイレスタがいる限り、イクシウスは忘れないじゃろう、ギルドの重要性を。故にそうそう簡単に潰されては困る」
それに、確かにシェイレスタとギルドは互いに利用し利用される程度とはいえ、仲が良い関係だと聞いたことはあった。
「だったら、一つ頼まれてくれないか」
頼まれっぱなしは気が進まない。ましてや、今回はブライトというダークホースがいる以上、何が起こるかわからない。念には念をいれるべきだ。
「言うてみぃ」
「今回の件、船員にはお前からの依頼としてここまで運んだことにしている。シェイレスタまで運ぶのなら、追加依頼として何らかの証明がほしくてな」
セーレの船員たちの説得も骨が折れるんだと、大げさにアピールしておく。
「だから、ギルドの紋章旗をくれ」
それは、ギルドの一員だという証明のための旗であった。飛行船のどこかに掲げることで、正式にギルドの名を語ることができるようになるのだ。
セーレはこれまで、レパードたちのことがあったから紋章旗を手にすることは許されなかった。そのせいで、正規なギルド船にはなれず、こそこそとマドンナと取引しながら人員を譲ってもらうようなことをしていた。
故に、これはセーレの悲願なのだ。
そして何よりも重要なことは、これがあればイクシウスも手が出しにくいということである。ならず者の船を取り押さえることができても、信頼のあるギルド船を取り押さえるのは難しいのである。それはたとえ、イニシアで盗みを働いた魔術師を乗せている疑惑があったとしてもだ。
何故なら、世界的な指名手配犯を匿うなどギルドでは絶対に起きないからである。
当然その信用を得るため、ギルドは紋章旗の捏造はないように力を入れているし、支給の際は厳密な調査を行う。もし途中でギルド員の気が変わり悪事に手を染めた場合は、秘密裏に没収されることもあった。
だからこそ、正直もらえるかは五分といったところだ。ギルド船がシェイレスタにブライトを堂々と連れていくことはしないと、イユとの会話の間でもマドンナは言い切っていた。だから、正規ではないレパードに依頼したわけで、あべこべになる。
現にマドンナもこう言った。
「悪いが、妾から直接依頼だということにするとイクシウスにばれた時のリスクがのぅ」
だから内心、諦めたのだ。今回も、使うだけ使われるだけで何も実りはないのかと思った。そこに、マドンナが続けた。
「とはいえ、これだけのことをしておいて妾だけ何もリスクを負わないのも勝手が良い話」
はっとしたレパードの前には、凄みのある笑みを浮かべたマドンナの姿があった。
「いいだろう。セーレにギルドの紋章旗を手配しよう。それで、そちが心配しているセーレ自体への指名手配もないだろうしな」
言葉には出していなかったのだが、案の定ばれていたらしい。ブライトが指名手配犯と聞いた今、一番に懸念していたのがそれだったのだ。しかしこれでならず者の船でないと証明されたセーレ自体が、指名手配されにくくなるのはもちろんのこと、万が一シェイレスタやイクシウスに捕まったときも、全員がギルド関係者として扱われる。少なくとも、すぐに手出しされることはなくなるだろう。
長かったなと、思い耽る。もう何十年もギルドのそばにいて、今まで正式には認めてもらえていなかったのだ。それがここではじめて実った。
だがこれで、レパードが不祥事を起こした場合、ギルドは龍族を匿っていたことがばれてしまう。世界的指名手配犯に龍族だ。もしバレたら、ギルドの地位は捨てることになる。彼女にとって、一大決心だったろう。
「十分だ」
礼は言っておく。聖母と呼ばれているが、本当のところただのケチなのだということもよく知っていた。こういうところは感謝しておかないと、あとで根に持たれる。
そうしたことを考えていたからいけなかったのか、マドンナが世間話でもするように話を振った。
「そうそう、今『あの子』がそっちにいるようじゃぞ?」
あの子とか呼べる年か? などと思いつつ、顔が引きつるのを堪える。
「……お前の手配、じゃないよな?」
「それは無茶をいう。妾の手配ならどれだけ面白かったか」
わざとらしく、ため息までつかれてしまった。
「勘弁してくれ」
どうやらマドンナは早くシェイレスタに向かってほしいようだと思いつつ、レパードは軽く挨拶をして席を立った。
すぐにマドンナの姿も掻き消える。ゆったりと構えていたが、相変わらず忙しいようだ。
――――さて、まずはセーレを動かすことからだな。
事態は思っていたよりも深刻だ。いつ何が起きるかわからないからこそ、念には念を入れておきたい。
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