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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
920/992

その920 『移動ト方針』

「セラはこの後飛行船の準備をしてね」

「場所がわかるのですか?」

 セラの問いかけに首を横に振る。

「わからないよ。だから、調べていくしかないと思うんだよね」

 調べ方ならば、いくつか思い当たるものがある。その中でも最も有力なのは、つながったばかりのカルタータ研究会だ。当然危険かもしれない魔術書をおいそれと教えはしないだろうが、使わない手はない。

「ひとまず、あたしはギルドに行こうかな。普通に手紙を書いて渡すにしても時間が勿体ないから、直接預けたいんだけれど」

 克望に会いに行けたらそれが良いが、多忙そうな様子であったと思い直した。もしかすると、もうシェイレスタの都から発ったかかもしれない。それならば、城にいる誰かに頼んで手紙を渡してもらうより、ギルドを通したほうが良いだろう。

「かしこまりました。でしたら、ブライト様。飛行船の準備は他の方にお任せしても? 私も行きます」

 ブライトとあまり離れたくないのだろう。セラの意図を察して、認めることにした。

「方針が決まれば後は向かうだけだね。行こうか」




 秘密の部屋を出て、秘書のいるカウンターまで戻ったブライトは、秘書に一言礼を告げた。

「ご利用ありがとうございました」

 秘書からはそう、礼儀正しい返答がある。結局、秘書には片時も堅い口調を崩されなかったなと思い返す。『魔術師』ではないようだが、魔術の痕跡もない。あくまで王家に仕え、秘書業務を全うすることが自身の使命と決めている人物のようである。

 しかし、そうなると、秘密文書室の管理者はやはり別にいるのだろう。

「違う違う。そんなことよりも、と」

「ブライト様?」

 ブライトの独り言を聞き取ったセラに視線を向けられ、ブライトは慌てて首を横に振った。

「ううん、何でもない」

 秘書のことよりもだ。ブライトは、命喰らう障壁について改めて思考する必要がある。


 情報を整理すると、命喰らう障壁には、戦争の抑止力になる可能性がある。どうもそれはカルタータにあり、『龍族』だけを守る代物らしい。そして、賛同者を迎え入れることができ、それ以外は阻む。何が条件かは謎だが、随分便利な障壁だ。

 この魔術を習得し上手く活用することで、『龍族』の代わりに、シェイレスタの民とすることができたらとても有効になる。あくまで希望に過ぎないが、そうすれば何があっても障壁のなかにいるうちは皆の命は守られる。仮に、命喰らう障壁の存在が抑止力にならずに戦争が始まってしまったとしても、シェイレスタの国は安全になるだろう。

 ただ、現状カルタータの大きさが分からない。もし、国全体を覆えるほどでなかったら、皆が狭い障壁に籠もることは人数の都合で無理だ。だから、これは課題になるだろうと予想する。

 続いての予想は、命喰らう障壁の名そのものについてだ。命喰らうなど、決して耳障りの良い言葉とは言えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 拒まれた者の命を喰らうのだろうと想像したいところだが、最悪の想定もある。もし、障壁の維持に人の命を使うということであれば、中の人間の誰かが犠牲になる必要があるのだ。

 そうなると、こうも考えてしまう。ブライトの命の使い道は、そこにあるのかもしれないと。少なくともそこまでを王家は見越している可能性があると。




「お帰りなさいませ」

 考えながらも歩いていたブライトは、ハリーの声に出迎えられた。見上げるといつの間にか外は夕暮れになっている。蒼空が赤く溶け込んで、真っ暗になるその時へと進む様子に、時間が止まってほしいとちらりと考えた。

「ギルドに向かいたいんだけれど、良いかな」

「かしこまりました」

 ハリーの返事を聞いてからラクダ車に乗り込み、腰を下ろす。セラが何やら準備をしているなと思うと、間もなくしてパンを渡された。

「時間が経ってしまったので、決して美味しくはないでしょうが」

 確かに、これからギルドに行くとなると、食べている時間がない。準備の良いセラに感心し素直に礼を述べた。

「ううん。ありがと」

 頬張ると、驚くほどに堅かった。腐らせないように二度焼きしてあるのだ。僅かに胡麻の味が効いた素朴な味わいは、セラらしい味付けだった。

 オリーブ油をつけるようにと勧められ、言われたとおりにした。油の染み込んだパンは途端に香りが良くなり、柔らかくなる。贅沢な味だと感じた。きっと、他国に渡ったらお忍びでの活動になる。中々今までのような食事はできないだろうと、想像した。


 パンも食べてしまうと、外を見る余裕ができた。この頃にはすっかり日は落ちてしまったのもあり、人気はまるでなかった。時折、それぞれの屋敷の前に門番がいるたけだ。本当ならば、今日は国王の死を悼み、部屋で大人しくしているべき日だ。それが、悼むどころか当事者の王家も巻き込み、一日活動していた。むしろ、ギルドに連絡した後も忙しいだろう。神殿の場所を突き止めなくてはならない。

「ちょっとだけ、仮眠もしておこうかな」

 着いたら起こしてほしいと頼み、目を閉じる。自分でも驚くほどすぐに意識が吸い込まれていった。

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