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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
916/993

その916 『秘密ノ部屋ニテ』

「まぁ、怪しいのはまずその絵画かな」

 時計塔の西が蒼く、東側が赤くなっている絵画だ。蒼は過去を、赤は未来を指すというのは分かったが、ここから何をしたら良いかはさっぱり分からない。

 とりあえずと、まずは絵画の裏側を探す。苦戦していると、セラが手を貸してくれた。

「それらしい法陣は、と……」

 見当たらない。ただ、何か違和感があった。それが何かが分からない。

「どうですか?」

「さっぱり。部屋に怪しいものがないか探してみようか」

 セラが頷き、行動を開始する。

 ところが、部屋探索は思いのほか手間取った。何より、ブライトがただの足手まといである。椅子の下を覗き込もうにも、骨折のせいで思うように身体が動かせず大苦戦なのだ。そのうえで、やっとの思いで椅子の下を覗いたところで、それらしい法陣も出てこない。そうしたことを何度も繰り返すうちに、すべてがブライトの思い込みではないかという気がしてくる。実はただ驚くほどに豪奢なだけな部屋なのだと言われたら、頷いてしまいそうだ。

「うーん、駄目だ、何もない。あたしの勘なら、多分この部屋なんだけど」

 蒼い砂時計が正解だったかという不安も覚えつつ、壁に仕掛けがないかを探す。やはり、それらしい法陣はない。

「その勘は、一体何を根拠にされているんですか?」

 セラは絨毯の裏を捲っていた。秘書が見ていたら怒られそうな捲りっぷりだ。

「勘って、根拠がないから勘なんじゃ?」

「いえ。言葉にできないから勘というのかと」

 実際には何らかの情報を得ているはずだと言われているのだと気が付き、ブライトは思い返す。

「……そもそも、どうしてブライト様は絵画のことを知っていたのですか」

 セラもブライトの思考を助けるように、質問をした。

「それは、タタラーナ様に呼ばれたからだね。あのときは蒼い砂時計の合言葉の先にいた部屋で、絵画の話をされたんだよ」

 タタラーナは、秘密文書室のことも知っていて、敢えてブライトにちらつかせた。それは間違いないと思ってよいだろう。タタラーナが知っていたのは、アンジェラ経由だろうとも予測はついた。ひょっとすると、ブライトは当日タタラーナの話に食いつかなかったから、タタラーナはブライトの無知さ加減を知ったのかもしれない。王家の許可がいる秘密文書室を知らないということは、王家に信頼を得ていないと、タタラーナにそう判断された可能性もあった。

「そういえば、あのときバタフライピーをすすめられたはず」

「バタフライピーですか?」

 鮮やかに色を変える飲み物を思い浮かべると、関係ないとは言い切れなくなった。

「うん。試す価値はあるかな」

 ブライトはすぐにベルを鳴らした。

「あっ、絨毯は戻しておいて」

 頷くセラを確認したところで、間髪入れず秘書がやってきた。秘書はいつもどおりの表情で、

「失礼します」

 と入ってくる。秘書の様子から叱責やお小言がないのをみて、背後にいるセラは無事に絨毯を戻せたらしいと判断する。

「バタフライピーを頼むことはできますか?」

 秘書は礼をし、下がっていく。記憶では、シェイレスタとシェパングの狭間にある島の売り物と言われた覚えがあった。タタラーナの実家に近い場所のものだと思われたが、できないとは言われなかった。


 そうしてやってきたバタフライピーを眺めたものの、

「で、これをどうするんだろ?」

 と首をひねりたくなる。

 液体なのだ。てきとうな場所でバタフライピーを零してしまって良いものかと悩んだところで、セラから意見があった。

「はじめの絵画に試せませんか?」

 ブライトの返事を聞く前に絵画を外してきたセラの行動力には、脱帽してしまった。その絵画が幾らするのかは言わないほうが良さそうだ。

「まぁ、怒られたらそのときかな」

 気持ちを切り替え、まずは一滴。正面をいきなり汚すのはないと考え、灰色の背面で試した。濃く滲んだが、それだけだ。それから数滴ずつ垂らしていく。

 結果は、滲んだ背面が増えただけである。

「駄目かぁ」

「いえ、まだ分かりません。こちらもそうなりますか?」

 セラに絵画の隅を示されて、言われるがままに垂らす。すると、驚いたことに背面が赤く滲んだ。

「えっと、なんで分かったの?」

「バタフライピーは青から赤に色を変えますよね? 蒼の位置に液体を垂らせば赤くなるのかと」

 ちょうど正面に蒼い色がある部分だからだと言うのである。まさかと思いつつ、垂らしていく。セラの言うとおり、元は灰色の額面がどんどん赤く滲んでいく。そしてそれはやがて線になり、広がっていった。


「間違いない、物を変身させる法陣だね」


 出来上がった赤いシミは確実に複雑な文様を描いている。その法陣を知っていた。というより、ブライトもよく使う類のものだ。それが、刻まれていたのである。

「光っていませんが、発動しているということですか?」

 本来、法陣は光りを放ち、発動するものだ。黒ずんで駄目になっていない以上、継続して効果があるとみてよいだろう。けれどこれは、光っておらず、同時に魔術の痕跡らしきものも感じにくい。

 今となっては、絵画を見たときの違和感は魔術によるものだと気づけるが、あまりにも目立たなくて見落としていたのだ。

「理屈はあたしもさっぱり。でも、その認識で間違いないと思う。解くね」

 線の一端を敢えて指で擦って消すと、途端に法陣が黒く濁っていった。

「さて、ここまでやって何が起きるかな」

 エドワードなら知っていたのだからもう少しヒントが欲しかった。そう彼の不親切ぶりを慮りつつ、部屋の中を探す。

 部屋の中央の、色の変わった絨毯を見つけるのにそれほど時間はかからなかった。

「絨毯の縁から順に捲ってチェックしていたんですが、中央のここまでは見れていませんでした」

 反省の色を顔に出すセラだが、普通は気づかないだろう。それほどにしっかりと繋ぎ目は隠されている。そのうえで法陣の魔術により絨毯の色も変えられていたのだから、分かるはずがない。

 セラの手で殆どその絨毯がのけられると、扉が見えてきた。

「うーん、地下道を思い返す造り」

 王立図書館の下にも地下水道はあるだろうから、ないとは言いきれない。不安を感じつつも扉を開けてもらうと、階段が見えた。幸いにして水の音も魔物の鳴き声も聞こえないが、ここからみただけでは階下の様子が分からない。

 下りるしかないと判断し、ブライトたちは階段を下っていった。

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