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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
909/991

その909 『カルタータ研究会発足』

 知らないことと言えば、もう一つあった。

「一つ聞きたいんだけど、さっきのアンジェラ様はあなたの?」

「あぁ、我の式神だ」

 全く聞いたことのない言葉だった。これは話の方向性を間違えたかと心配になる。

「ええと、式神について聞いてもいいかな?」

 克望に不審がられたらどうしようかと思ったが、むしろ謝罪さえされる。

「すまない。唐突過ぎた。式神は簡単にいうと分身だ。我にしか使えない力だが、実在する人間を再現できる」

 魔術と言わないのだなと考えてから、とんでもない事実に思い至った。ないとはいえないのだ。シェパングでは、『異能者』は特別区域に入れられることはない。自国の『異能者』はむしろ、手厚く匿われる。

 それならば、国の最高権力者に『異能者』がいても、おかしいことではないのである。

 ましてや、克望はブライトという初対面の人間に会うのに従者を一人もつけていない。恐らく、つける必要がないからだ。骨折した『魔術師』など、後ろで控える『異能者』がいようと脅威にならないと思われている。

 そこまで考えてから、警戒感が増した。克望が明かした内容が嘘ではないとするならば、実在する人間を再現できるなど、セラの変身の異能以上に危険だ。セラが幾ら変身しようとも二人にはなれない。セラの髪の毛からブライトを二人作るなんてことは不可能だろう。

 けれど、克望の場合はそうではない。あの姿は確実にアンジェラだった。話こそしなかったが、ブライトの動作に合わせて鉄扇を突きつけることさえできた。もし、異能を持つ人間を式神として再現できたらならば、克望に多種多様な異能が使える力があるようなものだ。そして、役目を終えたそれは紙になった。役目を与える前の姿に戻ったのだとすると、それが紙である以上幾つにでも分裂できるのではないかと警戒してしまう。ひょっとすると、克望は複数体の式神を作るという芸当もできるのかもしれない。

「アンジェラ様に化けた式神は、アンジェラ様のご意向ということだね」

 確認をすると、頷かれた。

「左様。随分驚いたようだったが」

「驚くって。再現度が高すぎるもん」

 とりあえず驚いたことを克望が現れたことではなくて、アンジェラの式神を初めて見たことにしておく。下手なことを言って、怪しまれないようしておきたかった。

「ふむ。アンジェラ殿は既に何度も使われているのだが、どうも区別はついていなさそうだな」

 克望の感想に、意外とアンジェラはお忍びが好きなのかもしれないと感じた。そして、どうもブライトが考える以上にアンジェラは何か画策しているようだとも想像する。国王の看病で付きっきりが多い印象は今や完全に消えた。

「まぁ、恐らく。えっと、あたしの疑問はこれで回収されたから、今度はそっちの番かな?」

 とにかく克望に話してもらわないと、ブライトとしては情報がなさすぎてやりづらい。それ故に、話を振った。

「あぁ。我はブライト殿と手を組みたい」

 困った。これだけではさっぱり読めない。

「ええと、それは最初に聞いた認識なんだけど」

 とはいえ、仲良しになることと手を組むことは別物だろう。安易に良いと答えて良いものかも含めて、確認したいところだ。

「ブライト殿はカルタータについて随分詳しいと聞いた」

「それは、誰に?」

「サロウ殿だ」

 ようやく出てきた情報のお陰で、繋がりがみえた。相手はシェパングだけかと思ったが、イクシウスも絡むらしい。しかし、サロウとカルタータについてやりとりをしたことはない。ましてや、詳しいなどといつ伝えただろうか。

「まぁ、調べていることは否定しないかな」

 そう濁すと、

「サロウ殿とも随分やりとりをしていると」

 と付け加えられた。まだ手紙を数回やりとりしただけだが、何故かそのような話になっているらしい。

 どうも、克望との話がおかしい原因はアンジェラだけでなくサロウにもあるように思われた。

「……サロウってあたしのことなんて言っているの?」

 故に堪らず、そう尋ねる。

「困ったときに知恵を出していただける存在だと」

 嘘ではないだろう。しかし、どう考えても克望はサロウとのやりとりを何か取り違えているように感じる。


 ――――魔術の解説をつけただけなんだけなんだけど。


 などと思ってから、手紙でのやりとりだからかと想像する。ブライトがサロウに知恵を貸したのは魔術についてだけなのだが、恐らくは文章の受け取り方でそれが魔術以外に広がったのだろうと解釈した。

 最もそれで全てに納得がいった訳では無いが、あまりとらわれるのも良くない。そう考えて、特に突っ込まないことにした。

「そこまで言ってもらえるのは光栄かなぁ」

 とだけ述べて、逃げておく。

「謙遜を。我としても、ブライト殿と話し見識を広めたいところだ」

「えっと、克望は仕事が結構忙しいはずだよね? そんな時間とれるの?」

 克望の反応は一瞬鈍くなった。時間自体はそれほど取れそうにないということのようだ。

「カルタータの知識は優先的に取り扱う」

 シェパングの政治動向を考えれば、これは衝撃だ。優先的に取り扱った結果、他のものが止まるのである。そこまでのことがカルタータにあるのかと言いたくなる。アンジェラは兵器と言っていたが、克望は和平派の代表者なのだ。表向きと本音は違うということなのか、主戦派の動向を知るためかと考えてどうにもしっくりこなかった。

「ありがたいね」

 礼を述べながらも、ブライトは改めてアンジェラの言葉を思い返す。

「じゃあカルタータ研究会。始動だね」

 ウインクまでしてみる。

「カルタータ研究会?」

 ネーミングが悪かったのか戸惑うような視線をむけられた。

「ダメかな?」

 心配になり聞くと、

「いや、問題ない。サロンと呼ばず研究会とは、良い響きだ」

 と返ってきた。恐らく、ブライトがわざとシェイレスタの言葉を使わなかったのが気になったのだろう。

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