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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
892/993

その892 『長年待ッタ対話』

 客間にあったソファへとまずは腰掛けた。

 小さいが洒落たテーブルに水が配られる。反対側のソファにジェミニが座って、先にその水に口をつけた。危険がないことを示す合図だ。同じように口を潤すふりをする。

「では、お話をお聞きしましょう」

「はい。それではまず」

 前置きを言うべきか悩み、止めた。折角得た時間だ。無駄なことはしない。

「貴方の意見をお聞かせください、ジェミニ殿」


 *****


 ――――ジェミニに話したいことなど、本当は山ほどある。


 なぜ、弟を攫ったのだ。ミリアたちは結局どうしたのだ。彼女たちの心を壊し、どのように手にかけたのだ。どうして面と向かってアイリオール家と対峙しないのだ。あなたが逃げるから、周りばかりが勝手に動いて余計な犠牲者が増えたのだ。あなたは何を考えているのだ。


 恨み言は留まることを知らない。それをブライトが口にしたら、きっとジェミニの首を掴んでそのまま締め上げてしまっただろう。それほどの恨みだ。故に、はじめから何を告げるべきかはよく練ってきてあった。


「貴方は、今後シェイレスタがどのような国になるべきとお考えですか」

 まるで、どこかの家庭教師が生徒に問うような質問の仕方だった。

 ジェミニにとっても予想外の質問だったようで眉を顰めている。

「何故、それをあなたに話す必要が?」

「以前、貴方は困ったときには頼ってくださいとおっしゃいました。是非、お聞かせください」

 ジェミニは覚えていないことだろうが、そう言われて何か答えなくてはならないとは思ったようだ。

「正直、私如きが国の話を語るなど大きすぎるでしょう」

 とだけ述べた。正直あっけなさを感じる答えだった。しかも待っていても、それで終わりという雰囲気で次を紡ぐつもりがないようなのだ。

「どうしてそのような? 貴方は王城の隣にこれほど立派な屋敷を構えられる程の家の当主です。全く大きすぎるということはないでしょう」

 ジェミニの回答はあっさりしている。

「まさか。国について考えるのは王家の方々です。政には確かに一魔術師として意見を求められることはありますが、それだけのことですよ」

 ブライトの立場では準魔術師であるがために、一切意見することが許されない政だ。それについて、ジェミニは必ず出席していたという記録が、以前シーリアのメモにあった。

「政の参加にはとても熱心なものとばかり……」

「意見を言うだけのことですから。ご出席できない立場の方からしたら憧れる面はあるかもしれませんが、大したものではありません」

 どこまで本気で答えているのか掴めない。こういうときは具体性のある質問に変えることにしていた。

「たとえば、裁判のあり方を今後変えるべきではという意見が政で出たら、貴方はどうしますか?」

「どうといわれましても、どうも?」

「どうも、とは」

「王が変えたいとおっしゃるならば同意しますが、そうでないのであればそのままでも良いでしょう。……何か問題があるのでしょうか?」

 後半の質問は、表情をみてのものだろう。

「それでは貴方は何のために、クルド家の当主をされているのですか?」

「勿論、クルド家の発展のためです」


 声に出したくなった。


 ――――それではあなたは何のために、アイリオール家を滅茶苦茶にしたんですか?


 だが聞かなくとも、答えはこうなるのだ。


 ――――勿論、クルド家の発展のためです。


 握りしめた拳の色が変わってしまう。それに気がついて、手を緩めた。

「では、もしワイズ・アイリオールがアイリオール家に継いだら貴方は何をするのですか」

 本題が来たと思ったようで、ジェミニの表情が少し変わった。それは愉しんでいるのか、喜んでいるのか、よく分からない表情だった。

「何も」

「何も、とは」

 手のひらを返して、ジェミニはあっけらかんと述べる。

「言葉のとおりです。本来当主になるべき人間が当主になるのですから、喜ばしいことでしょう? 最低限、お祝いはさせていただきますが」

 言葉のとおりではないとは、よく分かった。同時に政の質問については嘘ではなかったなと確信できた。会話への警戒度が全く違う。

「貴方は今もワイズこそがアイリオール家にふさわしいと?」

「当然です。そうでなくては、私はあの日、ワイズ様を避難させなかったでしょう」

「避難?」

「貴方のお母様のことですから、言いづらいのですが。貴方のお母様はワイズ様のことでかなり取り乱しておりました。あの場に残していたら、それこそ何が起きていたことか」

 まるで、殺されそうだったから自分が助けたとでも言いたいようだ。

「ですがその後、母は落ち着きを取り戻しました。そのために、何度もジェミニ様とワイズにお会いしたいとお手紙を差し上げたはずです」

「申し訳ないのですが、それはできませんでした。まだそれは危険だと判断したからです」

 当然の言い訳は、想定通りのものだった。

「つまり、あたしたちが命を狙うだろうと思っていたと?」

「あなたにとって、ワイズ様の存在はお父上の裏切りですからね」

 そのようにブライトは思わない。だが、それを言っても伝わらないだろう。


 

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