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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
858/993

その858 『ギルドヲ使ウ案』

 帰宅したブライトは、早速セラと相談することにした。

「真実に辿り着けていない、ですか」

 執務室で王子の発言を共有すると、セラは開口一番そう呟いた。恐らく、セラとしてはかなり時間をかけて調べたつもりだったのだろう。心なしか、納得のいかない顔をしている。

「あくまで王子なりの助言だから、家庭教師に教えてもらったことを口にしているんだろうけれどね」

 歩み寄りつつも、ブライトは続ける。

「ただ、ひょっとすると一面でしか見てないのかも」

「一面、ですか」

「うん。まだ商人にしか話を聞いてないなって」

 今回の場合、登場人物は二人いるのだ。盗まれる側と盗む側、つまり商人と孤児だ。

「ブライト様は孤児にも話を聞きたいと」

「うん、そのほうがフェアかなって。問題はその方法なんだけど」

 商人は行けば会えるが、孤児はそうもいかない。きっと地下水路のどこかに住んでいるのだろうが、闇雲に探すと魔物の餌になりかねない。ヒューイに会えたらそれが一番だが、そう都合良くはいかないだろう。

「強引だけど、盗みに来たところを捕まえるしかないかなぁ」

 ブライトならば法陣を仕掛けておけば、相手の動きを止められる。それで、盗みに来た孤児を捕らえてしまえば良い。

「それだと、警戒して話してくれないのでは」

 セラの発言に、全くそのとおりだと納得する。警戒を解くしかないのだが、どうすればよいかと思案する。少しして、孤児に魔術をかけて懐柔させる方法と、記憶を読んで他の孤児の居場所を辿りそちらに聞くという方法が浮かんだ。

 どちらも楽で確実な方法であるが、セラがいる手前あまり使いたくはない。

「まぁ、根気よく説得するしかないよね」

 それに孤児を捕えるというものの、ブライトの予定の合う日に、上手いこと孤児がやってきてくれるかは運だ。だから最初に思いついたように、『法陣を用意しておいて』とは実のところいかないだろう。それこそ間違って客や商人が踏んで発動してしまったら大迷惑である。

 そう考えると、多忙なブライトに代わって動けるのはセラだけだ。

「これ、捕えるのも説得もセラ任せになりそうだけれど、良いのかな」

 全てセラに任せるには、セラの負担が多すぎる。セラは身体の調子こそ良くなってきたものの、書類整理にはじまりミヤンの手伝いで炊事洗濯掃除を行い、更には庭の管理、諸費の購入手配や屋敷の経理、弔事対応まで一手に引き受けている。加えて勉学も頼んでいるので、顔には出さないものの大忙しのはずだ。

「いざとなったら、ギルドを頼ろうと思います」

 セラからの意外な提案に小首を傾げる。

「ギルド?」

「露天商の方が言っていました。困ったときはギルドに頼むと必要なことは何でもやってくれるそうです。お金がその分掛かるみたいなのですが」

 相場をセラに聞いてみる。露天商に出せなくともブライトたちならば十分に出せる金額だ。それで気がついた。

 官吏に言われてた費用についてだ。今思えば、被害補填に加え、ギルドに頼んで孤児を捕まえる為の費用も含まれていたのだろう。細かいことは書類に書いてあったのだろうが、ギルドという名は徹底して伏せられていたと記憶している。ブライトには書いても分からないと思われていたのかもしれない。

「事実なんだけどさ。……まぁ、いいや」

 認めたところで、惨めになるだけだ。切り替えることにした。

「何でもやってくれるなら、孤児を捕らえて話ができるようにしておいてもらうところまで依頼に出せるわけなんだよね。ついでに、孤児たちの実態調査を依頼して報告書にまとめてもらうとかは?」

 ブライトの提案は、セラを呆れさせたらしい。

「またお金に物を言わせる気ですか」

 そう言われてしまった。

 屋敷の資金の停滞ぶりをよく知っているセラの顔は、戸惑っている。それもそうだろう。最近、舞踏会の関係でドレスの購入費用が立て続けにあったばかりだ。そのうえで、飛行船をねだったこともある。間違いなく成人してからのブライトの金遣いは荒い。

「ま、まぁこれはそんなに高くないと思うし?」

「報告書という時点で字が書ける方に限定されます」

 セラの指摘になるほどと納得する。シェイレスタの都の住民でも、読み書きができない者もいる。学校はあるが、強制ではないからだ。子供を働かせるほうが有意義と感じる親もいるだろうし、無償というわけにもいかないので貧しい家には難しい。ましてやギルドにはシェイレスタの都の住民でない者もいるという。そういう者たちが読み書きできるかといえば、また違うだろう。

「分かった。じゃあ、期待はしないよ。出来るところまでで、報告も口頭で全然オッケーで」

 セラは諦めたように礼をした。

「承知しました」



 実際のところ、ギルドに依頼して成果が上がるまでには一週間以上掛かった。

「飛行船の操縦訓練にも慣れてきたみたいですね」

 セラの報告は操縦訓練のすぐ後だった。低空飛行を練習し下り立った中庭で、セラにそう言われ同時に飲み物を渡される。受け取ると、目配せをされた。話したいことがあるという合図だ。

 ちなみに飛行船は、ヴァールが所有しているものよりも遥かに小さいものの暑さの凌げる機体にしてある。ただし、さすがにバーテンダーはいない。大金を叩いたわけではあるが、バーテンダーの代わりに操縦士によるワンツーマンレッスンをお願いした。残念ながら、以前紹介された本だけではマスターできそうになかったからだ。

「なんといいますか、さすがに頭の作りが違いますね。習得が早くて、教えることがすぐに無くなりそうで」

 そうブライトを褒める操縦士は、以前空葬のためブライトを連れて飛んだ女だ。偶然声をかけられたのは運だ。飛行船の購入をした店の主に誰かいないかお願いしたところ、仕事を探している女がいると教えられたのである。

 ただ、先程褒められたように、三回もやればクリアできそうな手応えがある。彼女とは短い付き合いで終わりそうだ。

「じゃあ、またお願いします」

「はい、是非に」

 お礼をいうブライトに女はにこやかにそう答える。セラも飲み物を渡して下がっていった。

 ブライトはたわいない話をしつつ、飲み物を飲み干すと改めて礼を述べた。そうして、早めに会話を切り上げて、出口まで女を送り届ける。


「さて、何の件かな?」

 玄関から廊下に入ったところで、セラは予想通り待っていた。余程すぐに話したい要件と思われる。

「例の万引きの件ですが、孤児を捕らえたそうです。今度、会われますか?」

 ブライトは足を止めた。すっかり忘れていたのは内緒である。

「ちょうどこの後空いていたよね? 直ぐに行こうか」

「確か騎士団の方のお呼び出しが来ていましたよね?」

 セラの言う予定は、裁判所の件だ。予想通り呼び出されてしまったわけである。

「まだ時間あるから、飛行ボードなら行って帰ってこられるはずだよ」

 ずっと寝かせていた飛行ボードは、最近になって用意してあった。やはりラクダ車よりも何倍も速いのだ。だから、ブライトだけでなくセラやハリーたちも一通り操縦できるようしてもらっている。一向に満足に乗れないミヤンは論外だが、他の者たちにはだいぶ時短になったようだ。

「すぐに持っていきます」

 飛行ボードは客がいる間は一応倉庫にしまってある。それを取ってくるつもりらしい。

「いや、セラはドレスだから着替えて。こっちで用意しちゃうよ」

 ブライト自身はちょうど操縦のためにズボンを履いていたので、好都合だ。しかし、セラはそうもいかない。渋々頷くセラをいかせて、ブライトはすぐに取りに行った。




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