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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
843/993

その843 『嵌メテ嵌メラレ』

「さて、シーリア・スフィーユですが、私たちの調べではエンダ家の一家殺害だけでなく、自身の家族も手に掛けています」

 ガインの説明にブライトは頷く。

「本人もそうおっしゃっておりました」

「であれば、確実でしょう。証拠も見つかっています」

「証拠ですか?」

「シーリア・スフィーユは十年前に空気を熱に変える魔術書を入手しています。そして、その後実験した痕跡があるのです」

 自信のある様子のシーリアだったが、騎士団はしっかりシーリアを捕えるべく動いていたと改めて感じる。

 その驚きのままに、

「痕跡ですか」

 と口にした。ピンとこなかったのだ。

「スフィーユ家の所有する領土の一部が燃えたのですよ」

 ガインの話に目が丸くなる。与えられた領土を守るのではなくむしろ燃やしたとは、『魔術師』としてはあり得ない行為だ。

「その時に見つかった遺体は非常に惨たらしく、まさに惨殺と呼ぶべきでした。具体的な言及は避けますが、そこでは不自然な燃え方をしていたことが分かっています。空間全体が均一に燃えており、出火原因が不明なのです。これは、自然の火事では決して起きません。火事には火種が付き物ですから。そして、今回も同様の状態になっています」

 つまり、以前スフィーユ家で使われた魔術と同等の魔術が使われたことを騎士団は証明できるという。

「しかし、それだけではシーリア様の仕業とは言えないのでは?」

 可能性としては、シーリアの家族の誰かがエンダ家の屋敷に魔術を使い、その後シーリアを残して自分たちも同じ魔術で命を断った、ということもなくはない。そうすると、シーリアはブライトの発言がない限り、ただの不幸な令嬢になり得た。

 ところが、ガインはその可能性に否定的だ。

「少なくとも当時については、住民たちからの聞き取り調査の結果があります。シーリア・スフィーユはその日お忍びという形で出火のあった場所へやってきております。その時間のアリバイもありませんし、他に該当者はいません。そして、シーリアがこの魔術書を市場から入手した経緯も裏が取れています」

 当時について、シーリアが犯人なのはほぼ間違いないと言っているようなものだ。

「住民の件は事実なのでしょう。しかし、空気を熱に変える魔術は何もシーリア様だけが使えるわけでもないのではありませんか?」

 珍しいと思うが、同じように空気を熱に変える魔術をシーリア以外の『魔術師』が使う可能性もある。それこそ家族ならば習得する機会はあるだろう。つまり、この時点では今回の事件について、シーリアは完全なクロとは言い難い。

「そうです。そこで、聞き取り調査を行ったわけです」

 ガインの言葉で、シーリアの会話が思い起こされた。

 ブライトが違和感を持ったのは、シーリアに聞いた会話のやり取りだった。ブライトが殺され方を知らされていなかったように、シーリアも知らされていないのが普通ではないかと思ったからだ。勿論、自分の家族が火傷で亡くなったことも屋敷の一部が燃えたことも知っていて当然だ。しかし、それはただの放火かもしれない。少なくとも、火傷の魔術だとは断定できないはずなのである。だから、ブライトはシーリアが犯人を『魔術師』だと断定するように会話していたことを奇妙に思ったのだ。

 その感覚はガインの発言を鑑みても、あっていたようである。つまり、シーリアが知らないはずの情報を断定して話しているのであれば、それは怪しいといえる。最初の話と合わせれば、彼女が犯人の節が濃厚だ。

 それに、聞き取り調査のとき確かにガインが言っていた。

「『どうもご令嬢たちは猫を被るのがうますぎるご様子で』、でしたっけ。しっかり彼女を嵌められたようではないですか」

 シーリアはとうに追い詰められてる。それだけではなく、ブライトを釣るための餌になっていたというわけだ。

 ブライトがレイドに尾行をされたのは、シーリアとの接触からブライトがどう出るかを見るためだろう。騎士団に伝えず、シーリアを使って人を殺そうとしたものなら、今頃ブライトも捕まっている。

 改めてヒヤリとした。

「嵌めるなどと、人聞きの悪い。これは、聞き取り調査です。そこで、判明したと言うだけです。それに、正直な意見ですよ。シーリアの発言だけではまだ犯人だと断定しにくいのです。だから、ブライト様の証言があって助かりました」

 つまり、ブライトはシーリアの話から罠と考えて報告に行ったが、絶対的な罠でもなかったということらしい。騎士団の調査状況から鑑みるといずれシーリアは捕まっただろうが、現時点では証拠として弱い面があったのも事実のようだ。

 確かに、一つの可能性が残っている。浮かんだ可能性は、シーリアが自身の使う魔術と同じ方法で家族を殺されたと思い込んだというものだ。だから、シーリアは犯人を『魔術師』だという前提で話をした。スフィーユ家が誰かの恨みを買っており、それを騎士団に話せる状況でなければ、その説はより濃厚になる。

 しかしながら、どうもブライトがシーリアを売ることを騎士団は想定していたようだ。というより、どちらに転んでも良いようにしてあったようである。

 もしシーリアをブライトが売らない場合はこれまでの証拠からシーリアを捕らえ、シーリアの記憶を覗くことでブライトとの関係も露見、ブライトも捕らえることができた。

 ブライトがシーリアを売った今回は、ブライトの証言があれば更に確約されて、シーリアを捕らえることができる。

 つまり、どちらでも騎士団には旨味がある。騎士団の大半は『魔術師』ではない。しかし彼らは『魔術師』を相手に調査することの難しさをよく知っている。それ故に発揮される彼らの強かさと狡猾さを侮っていたと、思い知らされる。

「では、そういうことに。シーリア様はこのあとどうなるのでしょう」

「今頃、レイドが抑えに行っています」

 レイドが出ているのはシーリアを抑えるためだったらしい。正確にはブライトの尾行により王城に戻ったレイドを、結論付けたガインが派遣したのだろう。



 

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