表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
831/993

その831 『広ガル死』

「お包みするのは、これでよいでしょうか」

 セラに問われて、ブライトは頷いた。

「うん、一番好きな香りだったからそれで良いと思う」

 訃報が届いたそのときから今まで、まだ頭が混乱しているのを意識する。何回か書き直したお悔やみの手紙は、ようやく仕上がったところであった。

「それにしても、あり得ないよ」

 ぽつりと呟く。改めて書き終えた文面にも同じ驚きの言葉を綴ってある。

 ブライトが受け取ったのは、ミミル・エンダの訃報であった。しかも、彼女だけでなく本邸で一緒に住んでいた彼女の家族も召使いも門番でさえ全てが惨殺されているという。ただ、唯一ミミルの姉であるユーリサという人物だけが、親戚の家に向かっている途中だった為に助かっていた。ブライトが受け取ったのは、そのユーリサから慌てて送られてきた事務的な訃報なのだ。

 伝えられた手紙から、時系列でいえば、お茶会が終わり本邸に戻ってすぐにミミルは殺されたことになる。容疑者は見つかっておらず、お茶会をしていたブライトたちも一度聞き取りに呼び出される可能性があると書かれていた。

「胸中お察しします」

 セラにそう言われたが、ブライトの心の内を正しく読み当てているとは思えなかった。動揺していたが、それよりも先に浮かぶ思考がある。


 ――――あたしは殺していない。


 ブライトの味方であっても、怪しまれるという理由だけで人殺しの指示が飛んだことはあった。

 けれど、今回は違う。ミミルはブライトが会いたいと考えていたミラベルを紹介したばかりだ。ミミルはブライトたちにとって、有用なのである。

 だから、母がブライトを使わずに誰かに殺させた訳でもないはずだと考える。

 そうなると、

「ミミルは誰に殺されたのかな」

 呟いてから最初に浮かんだのは、死んだという親戚だ。元々エンダ家は誰かに恨まれていて、親戚の死をはじめ今回の件も含めて恨んでいたその人物の犯行という想像である。

「こういっては何ですが、『魔術師』を恨む人は多いと感じています。ただ、貴族区域に入れる者となると、限られるのではと」

 セラの推察には、同意しかない。ましてや、今回は全員の惨殺だ。広い屋敷で、誰一人逃さず駆逐した犯人を思うと、庶民ではできない行為である。ミミルを始め、魔術を使える『魔術師』は自衛の手段を持つのだ。当然見張りも腕の立つものをおいている。

「同感。だからこそ、解せなくて。まるで何かの警告みたいなやり方だなって」

 言いながらも、それが何の警告かは分かりかねた。ただ、惨殺までしないといけなかったあたりに、犯人のメッセージがあるように見受けられて仕方がないのである。

「その気になれば誰でも殺せると?」

「そうなのかも」


 そしてもし、犯人が同じ人物であれば、それはブライトへの警告だったのだろう。


 そう思うほどには、立て続けに事件は起きた。はじめはアメヒアの不審死、次はエルドナ・ジュリウスの夫の死。シーリアを除く一家の惨殺事件、そして、遅れて亡くなったユーリサの死。数週間のうちにばたはたと知り合いが亡くなっていく。エンダ家など葬儀するにも人がいなくなり、ユーリサに送った手紙が最後になっていた。

「エンダ家に何かあったと見るのが普通なんだけど」

 それにしては、説明がつかないものもある。特にお茶会の面子で死亡事件が多いのだ。

「ブライト様、呼び出しがございます」

 王家からの手紙が届いたと、セラが伝える。正確には王家ではなく王家直属の騎士団からの呼び出しだった。ミミルの件で聞き取りがしたいのだという。

 予定より遅くなったのは、ユーリサが亡くなったからだろうと思われた。

「明日の昼か。ちょっと出かけてくるよ」

「はい。お気をつけて」

 セラの心配な声に大丈夫だと強気に出る。

「ただの聞き取りだもん。家庭教師より早く終わるんじゃないかな」


 自分の甘さ加減にはいつも辟易する。

 次の日、指示の通り王城に出向いたブライトは、あっと声を上げた。ラクダ車を下りた途端に出迎えた人物に見覚えがあったからだ。

「お初にお目にかかります、ブライト様。私はレイドと申します」

 丁重な礼でもって出迎えられてから、ブライトは内心で気が付かなかった自身を罵倒した。

 出迎えたのはかつてメイド長をしていたシエリの、夫のレイドだった。レイドは当時王族付きの兵士をしていた。それはつまり、王家直属の騎士団に仕えていたということだ。都内で見張りをしている兵士の一人とでも思っていたのだが、こうして出迎えをするあたり出世したようである。

 レイドは、当時から鍛え上げられた肉体はそのままに、目だけは一層険しくなっている。その目は元々目つきが悪いというのもあるが、明らかにブライトを睨みつけているように思われた。

 レイドはいまだ妻の死に納得していないのだとはすぐに気づかされた。ひょっとすると、今回の件も全てブライトのせいだとでも思っているのかもしれない。

「ご無沙汰しております、レイド様」

 敢えてはじめましてという返事に久しぶりと返す。隣にいたレイドの同僚と思われる男が驚いた顔をした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ