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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
820/992

その820 『事情ヲ聞イテ』

「まず、ここがセラの部屋。ベッドや浴室、ドレッサーもあるから、好きに使ってね。掃除は自分ですること」

 ミヤンの負担を考えて、掃除の注文はつける。セラはプロフィールでは庶民の出だ。やり方がわからないということはないはずだ。

「そうそう、セラはここではあたしの弟子になるから、そのつもりでね」

「弟子、ですか」

「うん。『魔術師』の弟子ってことで」

 セラは自分自身の格好を省みた。弟子にしては貧相だと思ったのだろう。それどころか、施設特有の衣類を着ているのでさすがにその格好では出歩けない。

「服は、とりあえずてきとうに屋敷にあったのを探してきたんだけど、サイズの合いそうなものを選んでもらえると」

 弟子になる人物にメイド服を着させるわけにも行かなかったので、取りに行ってきてあった。それが、逃げ出したメイドの残していった衣類だ。元々メイドでも貴族区域の者なので、私服の質も悪くはない。

「ありがとうございます。すぐに着替えたほうが良いですよね」

「うん。着替え終わったら部屋から出ておいで。あたしの部屋が隣にあるから、そこに来てくれると。あたしはそれまで他のことをしているから、シャワーとかもすませてね」

 古着は後でハリーに頼んで捨ててもらえば良いだろう。そう判断してブライトは外に出る。恐らく時間が掛かるので、二人分の夕食をミヤンに運ぶように頼みにいく。


 その後、自室で家庭教師の内容を確認していると、ノック音がした。

「はいはーい」

 扉を開けると、そこに紺青色の服を着たセラが立っている。風呂上りのためか、ほんのりと良い匂いがした。みつ編みにして一本に纏めた髪が肩に掛かって胸の方へと垂れ下がっている。肌は化粧を入れたらしく、健康的な色をしていた。

「いかがでしょうか」

 恥じらうような視線を送られるが、その姿だけならブライトより貴族っぽい。

「ちょっと地味かな?」

「弟子、ということだったので」

 なるほどと、ブライトは頷いた。派手な格好の弟子は、確かにいない。それよりも、施設にいたと思わせないだけの格好ができることのほうが大事だ。

「うん、よしとしようか」

 合格点を出したブライトは、セラを招いた。

「じゃあ次はあたしの部屋をご案内するね」

 セラがおっかなびっくり部屋に入る。

「ここがあたしの部屋。何かあったときはここか執務室で話すよ。とりあえず、ご飯たべよっか」

 そこでテーブルにサンドイッチが二つ分並んでいるのが、セラの目に入ったようだ。

「サンドイッチ?」

 不思議そうな声に、ブライトは頷く。

「うん。何かしながら食べられるから便利なんだよね」

 その答えに、セラが小首を傾げた。理由はよく分からない。

 早速テーブルに座りサンドイッチを口につけながら、ブライトはセラに説明する。

「基本的には、話し相手をしてもらうって言ったんだけど、あたし意外と屋敷にいない時間が多いんだよね。そのときは暇だと思うから、もし良ければミヤンの手伝いをしてほしいかな」

「ミヤンさんですか」

「うん、うちのメイド長。若いけど」

 きっとこれだけだとミヤンが相当優秀な人物に聞こえるかもしれないが、実情は他にメイドがいないというだけだ。

「かしこまりました」

「ちなみに、このサンドイッチもミヤンが作ってくれているよ」

 具材が若干飛び出たサンドイッチを、ひらひらとさせるとセラに小首を傾げられた。

「あの、これほどの屋敷だと料理長がいらっしゃるのでは?」

「日雇い臨時バイトなら時々」

 ブライトの声に、セラが何とも言えない顔を向ける。

「あ、そっか」

 それでブライトは気がついた。

「あたしとお母様の食事はミヤンが作るけど、皆は自分で自分の食事を作っているんだよね。だから、セラもこれからは自分で作らないといけないかも」

 ブライトは案内しようとしていた先の優先順位として、厨房を一位に繰り上げる。

「それは構いませんが」

「じゃあ、食べたら案内するね。ついでに食器を持って行っちゃおうか」

 ちなみに、普段部屋に立ち入ってほしくないときは廊下に食器を置いておく。

 食べ終わったブライトは、今回はそれをせずに直接食器を手にとった。

「ついでに、お母様の分も回収しちゃうね」

 母の部屋の前まで歩けば、やはり母も食器を廊下に出している。

「メニューが異なるのですね」

 母の皿にはスープが殆ど手づかずで残っている。

「うん、ちょっとね」

 ブライトはそれを回収すると、厨房へと向かうことにした。


「そういえば、普通に階段使っているけれど、大丈夫? 病気持ちなんだよね」

 階建を下りながらセラを気遣うと

「大丈夫です」

 と返ってきた。

「どこまでお聞きしているか分かりかねますが、私の場合は病というより薬の摂取によるものなのです」

「薬?」

 セラはそこで周りに誰もいないことを確かめた。

「はい。何の薬かは私にも分からないのですが、それを飲んでからずっと身体中が痛むようになりました」

 すぐに気がついた。それはイクシウスの人体実験だ。

「そのせいで、力を使っても5分と維持ができません」

 ということは、実質異能は使えないのも同然である。

「ということは、今も痛いってことだよね?」

 平気そうに階段を下りる姿からは想像がつきにくい。

「はい。痛みをこらえるのは得意なので」

 ブライトはうぅーんと唸った。

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