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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
812/993

その812 『招待状ヲ受ケ取ッテ』

 帰宅すると、早速溜まった執務に取り組んだ。数時間、書類と格闘の末、全く片付かないことにいつも通りげんなりとする。家庭教師に時間が取られた分、余計に溜まっているのだ。

 またサンドイッチに手を付けながら、そろそろ次回の家庭教師の準備もやらなくてはならないと考える。王子が思いの外優秀なので、内容を少し見直そうと思っていたのである。そうなってくると予想より時間が取られることになると気がついたので、まずは一週間分の予定を見直すことにした。

 机から予定を書いたメモを取り出す。一週間分の曜日が横に並び、縦には時間が書かれている。家庭教師をするのは週四回、二時間程度だ。王子はまだ学校通いをせず、家庭教師に教わる期間を伸ばしているそうなので、みっちり講義を入れることになる。その時間分を黒く塗りつぶしてあった。これだけで、結構埋まっている。今週もあと三回は顔を出す。城への往復の間に仮眠を取るとしても、準備時間はもう少し必要だ。黒塗りの時間を増やしておく。

 たとえ、王子がそのうちブライトを使い捨てるつもりだとしても手は抜かない。むしろ、王家にこそブライトの存在価値を見せていかなくては、当主の座は非常に危うい。そう思うからこそ、優先度は一番高く見積もってあるのだ。

 次が、貴族同士の付き合いだ。外せないのは王妃からのお茶会の誘い。これは、王子の勉強の進捗具合を王妃なりに探るためのものだろう。だから、実質は家庭教師枠である。

 それから、既に予定が確定しているお茶会だ。今週は、タタラーナとのお茶会が一回。ミミルとのお茶会が一回ある。タタラーナがブライトのことを呼びつけるのは珍しいが、サロンのときのことがあるので外せない。ミミルのお茶会はブライトが成人になったことのお祝いと知り合いの紹介だという。ミミルだけでなく、香水に興味のある貴族たちが六人も集まるらしい。中に、中立の立場をとる家の令嬢がいるため、探りを入れるにはもってこいな会である。

 それから、予定が確定しているのが都の住民からの陳情の時間だ。いつも通りの官吏の報告になりそうだが、一時間は易易と飛ぶ。

 こうして埋まった枠の間を縫ってやりたいのが、成人になって堂々と顔をだせるようになった舞踏会やサロンだ。今週の参加はまず急すぎて無理だが、来週以降に参加できるよう予約を入れていく必要がある。とりあえず、既に幾つか目処はつけてはいた。ただ、来週もこの詰め具合だと少々回数を見直す必要がありそうだ。

「あと、議会とか裁判も一応見学の許可は取れるんだね」

 こちらも一度は見ておきたい。前者では、ジェミニが普段どういった発言をしているか気になる。後者も、裁判官がどの家の『魔術師』であるのかぐらいは知っておきたいところだ。

 だが、見学の仕組みはあるとはいえ、女の身ですぐに取り付けられるとも思えない。断られて当然、或いは年単位で待たされる可能性もある。

「一応論文聴講とかも出られるみたいだけど、そっちは後回しかな」

 論文は過去に受賞側で参加している。懐かしいが、今はそうした時間は取れそうにない。

「あとの枠は執務だね。屋敷の管理問題もあるけど」

 屋敷内の運営も分からないなりに帳簿をつけて対応している。最初は目減りしているぐらいで気に留めていなかったが、さすがに底をついてきそうでまずいのである。

 人件費は少ないはずなのだが、よく分からない。

「残った枠は……、うーん。明明後日?」

 家庭教師もお茶会もない日だ。午前中に住民の陳情の時間が入っているものの、それ以外は比較的余裕がある。魔術を覚える時間にしたいところだが、いつも以上に溜まった執務をこなす時間はここに充てるのが良さそうだ。

 そんなことを思っていたら、ノック音がした。

「失礼します。お手紙が届きました」

 珍しい時間の手紙だと思えば、黒い封筒を手にしたミヤンが入ってくる。

 それを見て、すぐにピンときた。

「ミヤン、そこに置いてすぐに離れて」

 ミヤンは頷きながらもよく分かっていなさそうだ。

「その手紙、魔術が掛かっているから。危ないよ」

 ミヤンは『魔術師』を恐れている。故に、行動は早かった。すぐにテーブルに置くと、怯えた顔をして仰け反る。

「あたしが対処しておくから、下がっていいよ」

 明らかにほっとした顔で、部屋を出ていった。


「さてと」

 テーブルに置かれた手紙を覗く。魔術は掛かっているとはいったものの、こうして確認する限り危険はなさそうだ。掛けた人物にも覚えがある。この痕跡はヴァールのもので、間違いない。

「これは、封が法陣になっているんだね」

 手紙を簡単には開けられないようにしてあるのだろう。以前ヴァールの部屋にあった魔術の簡易版だ。

 これぐらいなら、ブライトでなんとかなる。というより、なんとかできると思われて、送られてきたとみるべきだ。

「本当は、解呪とか怪我の治療とかの類は苦手なんだけどなぁ」

 噂とは尾ひれがつくものである。ブライトはオールマイティだと思われているに違いない。

 今回の手紙も、解呪用の魔術を使うのが正規の運用だ。しかしブライトが描いたのは鍵を開ける魔術を放つ法陣だ。そうして、封をする法陣をむりやりこじ開ける。

 黒い手紙のなかには、一枚の紙が覗いている。早速取り出してみると、淀みのない達筆な文字で一言だけ描かれていた。

「お約束の品の準備ができました」

 どうやらこの手紙は特別区域への招待券のようである。




 

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