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カルタータ  作者: 希矢
間章 『カタコトノ人生』
746/994

その746 『家族デ団欒』

 夕食は、母と一緒だった。父は執務が忙しいらしく、今日も同席できないらしい。寂しいが、母がいるので大丈夫だ。

 料理長が作ってくれたメニューは、前菜に卵のスープ、色鮮やかなトマトサラダに、ショートパスタと鶏モモ肉のコンフィだ。コンフィは予めブライトのものだけは切り分けられていて食べやすい。それに何より絶品だった。

 行儀作法に最も煩いのは食事だ。だからこそ、ブライトは料理長の配慮が嬉しい。意識をより会話に割けるようになるからだ。

「今日のお茶会は楽しかったですか」

 母の手元にある食事はいつもと同じであまり手がつけられていない。調子が悪いのかと昔はよく心配したものだが、今では理由が分かっている。今日も貴族仲間でのお茶会があったからだ。

「ええ。楽しかったわ。とても変わった種類の紅茶をご馳走になったのよ。さすがジュリウス家の令嬢だけあって詳しいわ」

 お茶会の相手はジュリアス家の人間らしい。確か、アイリオール家の次の次くらいに力の大きいところだと聞いたことがある。

「ジュリウス家の方と仲が良いんですね」

 過去にも何度も出た名前であるから、そう相鎚を打ってみる。

「そうね。他にもいろいろな方とお話はするけれど、一番数は多いかしらね」

 そう答えた母は、デザートのミルクプリンを一口だけ口にすると、スプーンを置いた。

「私のお話より、ブライトのお話を聞かせてもらえる?」

 話を振られて、ブライトは頷いた。楽しみにしていた時間だ。母には是非ともできるようになったことを伝えたかった。

「今日は、算学と歴史の授業がメインでした。算学は、ミルダから不意打ちのテストがあったけれど、満点取れました」

 ミルダは、算学の教育係だ。ハレンは魔術と行儀作法をみてくれている。他にも文学、歴史、裁縫、法律に薬学とそれぞれに家庭教師がついている。これは専門的な知識を学ぶにはやはりそれぞれの専門家を呼んだほうが良いという母の判断で決まっている。

「さすがは私のブライトね」

 褒められて嬉しくなったブライトは更に授業について詳しく語っていく。

「あたし、裁縫は不器用みたいでまだ上手に縫えないんです」

「そう。でも大丈夫よ。私も実はあまり得意じゃないの」

 ウインクをしてみせる母は、どこか茶目っ気がある。

「歴史は、もう少し自習をしようと思っています」

「良いと思うわ。昼の神アグニスと夜の神パゴスは食事の前の挨拶にも関わるから、面白いわね」

 そうして話は魔術まで進んだ。

「それと、光で隠れる魔術書を読んだの」

「ブライトは頭が良いのね。でもほら、敬語を忘れちゃっているわ」

 指摘されて慌てて直す。

「光で隠れる魔術書を読みました」

 母は両手を口元にあてて喜んでくれた。

「凄いわ、ブライト」

 えへんと胸を張るブライトは、そこで母の呟きを耳に入れる。

「本当にあなたが男の子に生まれたら良かったのに」

 少し悲しそうな母を見て、途端に心配になった。

「お母様?」

「あぁ、ごめんなさい。何でもないのよ。ブライトなら魔術が実際に使える日も近いなって思っただけ」

 母はそう言ってにこにこと笑う。その笑みは優しい。

 だから、ブライトは頑張ろうと思えるのだ。

「はい! 頑張って使えるようになります!」


「それは頼もしい言葉だ」


 突如、思いもよらない声がして、ブライトはわっと声を上げた。

「お父様!」

「執務がようやく片付いた。これから同席しても構わないか」

 父は、白い顔に白い髪、赤い目をしていて、どこか物静かな人である。これだけのことを話すのも珍しい程だ。きっと、執務が予定より早く終わっていつもより気持ちが浮ついているのだろう。

「勿論よ。さぁ、あなた。座って」

 一方の母は桃色の髪に赤い瞳をした、明るくて優しい人だ。

 二人はブライトの目から見ても正反対だ。

 けれど、母が父のことをとても好いていることは言動をみているとよく伝わる。何より、母の父を見る目が、ブライトにはきらきらして見えた。

 勿論、父も、母のことは好きだとは思っている。ただ、父は静かすぎて何を考えているのか顔に出にくい。きっと、執務の疲れもあるのだろう。頑張りすぎて無気力になることは、ブライトにも時々ある。

 いつかはブライトも、お茶会の参加で忙しい母に代わって、父の大変そうな執務を手伝いたいと思っていた。そうすれば、三人の食事の時間がもっと増えるはずだ。

「あたし、嬉しいです。久しぶりの三人の食事!」

 けれど、今のブライトにはまだそれができない。だから、ブライトはかわりに自分の気持ちをたくさん伝える。そうすれば、父はわずかながら反応を返してくれる。その反応を見た母がいろいろと推測しながら、父の行動を助けようとする。

 それらのやり取りを眺めているのが楽しかった。

 何より三人一緒にいられることがブライトにはかけがえのないことだった。

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