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カルタータ  作者: 希矢
第十章 『裏切リノ果テ』
718/994

その718 『狩人に宛てた手紙』

「『親愛なるマレイヤへ』」

 開いた手紙は、セーレの誰かに宛てたものではなかった。その意図を今となっては知る術はない。ただその名前に、心当たりがあった者がいる。

「マレイヤって、確か」

 刹那が訝しむ様子をみせたのだ。

「知り合い?」

「違う。ただ、カルタータに絡む名前。克望の資料にあった気がする。リュイスたちなら、分かるかも」

 カルタータに絡む名前が、手紙に綴られている。その事実にイユはくらくらとした。マレイユもアグルと一緒でカルタータに関わりがあったということである。この事実をリュイスやレパードであれば、把握しているのだろうか。確認したいところだが、今はいない。

 それよりは先に手紙の内容を確認してしまおうということになった。

 手紙は、こう続いている。

「『記憶を失って途方に暮れていた僕に、自分の名前をもじって名前をつけてくれたあの日を最近よく思い出します。何故か僕はその後の記憶が酷く曖昧です。誰か大切な人たちと旅をしていた気がするのですが、思い出せません。その話を、周囲にいた人たちにしたら、お前は記憶障害持ちだったのだなと言われました。おかしなことに僕の記憶は、マレイヤ、君に会ったことしか残っていないのです。

 周囲の人達は自分たちのことを『白亜の仮面』と呼んでいました。確かにおかしな人たちで、いつも仮面をつけています。お蔭で彼らの顔も名前も全く分かりません。分かるのは偉い人からの指示で忙しくしていること、昔はたくさんいたけれど今残っているのは一握りになってしまった(と言っていた)ことぐらいです。

 先日、そんな彼らからあるお願いをされました。ある島にいって、ネックレスを掘り返して欲しいと言うのです。おかしな話だとはすぐに気づきました。どうして自分で取りに行かないのかと尋ねたら、仮面をはずせないからだと言われました。

 僕は断っても良かったはずです。でも、断ったら命がないことを察していました。彼らは僕にはとても親切ですが、何か作り笑いのようなおかしさがあります。それに、彼らからは微かに血の匂いがします。彼らは僕には隠して、裏で危険なことに手を染めている気がするんです。そもそも、僕の記憶が消えたのは彼らのせいではないのだろうかとも思います。僕の存在が彼らにとって都合が良いから殺されずにすんでいるだけの気がするのです。だから、僕は大人しく従うしかありませんでした。

 島の人たちは本当に親切な方たちでした。僕が庭を掘り返したいと言ったら嫌な顔せずに案内してくれました。手紙を書きたいと言ったら、息子さんが使っていたという部屋を貸してくださいました。だから僕はこうしてネックレスを手に入れた今、手紙を書くことができています。


 僕はこれから、あの仮面の人たちを裏切ります。本当は素直に渡したほうが良いのかもしれません。

 けれど、僕はあの人たちにネックレスを届けるべきではないと考えています。それが直感なのか何なのか、よくわかりません。ただ、言うことを聞いていたら、きっと記憶だけでない、大切な何かを全て奪われてしまう怖さがあるのです。

 僕は幸い、知っています。あの人たちは持ち帰ることにこだわっていたけれどそれが具体的にどのようなネックレスなのかまでは知らないのです。だから僕はちょっとだけ工夫をします。掘り返して出てきたものは、地図です。その地図はこの家の人に迷惑が掛からないように遠い場所にします。場所は、この家の方が昔描いたという地図をいただいたのでそれを使いました。これならば、怪しまれないと思います。どこまで信じてもらえるか分からないけれど、きっととりあえずはそこに行ってみようという話にできるはずです。そうしたら僕は……。


 僕はどうやら、あの人たちとあまり変わらない人間のようです。だから、こんな恐ろしいことを思いつくのでしょう。


 もし失敗したら本当に殺されてしまいそうだから、あなたに手紙を書きました。狩人のあなたなら、きっと手紙を見つけてくれます。そうしたら、このネックレスを本当の持ち主に返してあげてください。あの人たちの話では、これは『堕ちた島の鍵』になるそうです。あの人たちは『堕ちた島の姫』と『堕ちた島の鍵』の二つがあれば『大いなる力』が手に入ると言っていました。それが何かは僕には分かりません。ただ、その力があれば、盤上を好きなように変えられるのだと、彼らは思っていたようです。そうなると、そのままネックレスを村里に置いておくのは危険だと考えます。勝手なお願いだけれども貴方に託したいのです。今まで狩人代行として手紙の配達を頑張ってきたのだから、一つぐらいお願いをしてもよいですよね? よろしくお願いします。

 あなたの友、マレイユ」

 マレイユの手紙に、イユたちは呆然とした。多くの情報がそこには綴られている。感情に整理をつけるのが大変だった。

「封筒の中に何か入ってる」

 刹那が、いち早く気がついた。手紙を入れた封筒が少し膨らんでいたのだ。

 アグルがそこから取り出したのは、銀色のネックレスだった。真ん中に円が描かれ大きな両翼が伸びている。そして、円の中心には小円があり更に小さな円が塗りつぶされていた。そう、紛れもなくこれはカルタータの紋章だ。

「これです。へクタの形見」

 アグルの言葉に、やはり繋がっていたのだと気付かされる。

「これが、マレイユが残した『堕ちた島の鍵』?」

 つまり、カルタータの鍵なのだ。

 けれど、イユたちにはカルタータの何を開けるための鍵なのかはわからない。分かるのはこの鍵のせいでマレイユは殺されたということだ。そう思うと、納得ができない。

「結局マレイユは実物をここにおいて、何をしようとしたのよ?」

 手紙にある、思いついた恐ろしいことが理解できない。

「……多分、間欠泉で不意打ちしようとした」

 刹那が、イユの疑問にぽつりと答えた。

「あの男、やっぱり『白亜の仮面』だと思う」

 背中にあった傷が思い返される。イユのなかでも繋がっていった。マレイユは、ネックレスを渡してはいけないと考えた。そこでアグルの両親に頼んで周辺の地図をもらい、村里から離れた間欠泉にネックレスがあるという嘘の情報を描き足した。そして、『白亜の仮面』が探しているところに不意打ちを仕掛けた。

「どうしてそんな無茶をしたのよ」

 相手は暗殺者だ。マレイユもナイフは扱えるだろうが、幾ら不意打ちでも危険が過ぎる。

「きっと、ネックレスを持ち帰ったらすぐに殺されると分かっていたからです」

 一か八かに賭けたのだろうとアグルが想像を働かせる。

 どうせ殺されるのであれば、少しでも生き延びる手を使いたい。だから、マレイユは打って出ることにしたのだと。

 それは理解できる話だ。だが、納得できるかと言われたら別である。

「私たちが助けに来るまで、思い留まってくれていたら良かったのに」

 食いしばった歯から息が溢れる。

 手紙のとおりならマレイユには、イユたちと共にいた記憶がなかったのだ。助けがあるなど、考えることもできなかったのだろう。だから、思い留まることができず決行した。

 それが、悔しくて仕方がなかった。

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