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カルタータ  作者: 希矢
第十章 『裏切リノ果テ』
657/994

その657 『たとえ一時でも』

 次に目が覚めたときには、イユも動けるようになっていた。ちょうど朝食の時間だったのか、食堂に向かえば美味しそうな匂いが漂ってくる。覗くと、リーサとマーサが厨房で支度をしていた。レッサは野菜の状態を確認しているところのようだ。

「イユ、起きて大丈夫なの?」

「えぇ。それよりも朝食を作っているのよね? 手伝うわ」

 休んでいてよいのにとリーサに言われたが、首を横に振る。実際無理でも何でもなく、むしろ動きたい気分であった。

 それにこうして朝食に南瓜スープを掻き混ぜていると、何だか不思議な気持ちに囚われる。

「あら、どうしたの。笑って」

「セーレにいたときはこうして三人で厨房に立つことってなかったから、斬新で」

 悪気はなかったのだが、リーサには申し訳無さそうな顔をされる。

「あのときは暗示が心配だったから」

「責めているわけじゃないの。ただ面白かっただけよ」

 イユが目を覚ましたときには、それぞれ離れている間どうしていたか既に話し合った後だったらしい。だから、イユがもう暗示に掛かっていないことは伝わっている。

 おかしなものだ。今までのセーレを取り戻したくて、イユは頑張ってきた。それが、今では今まで以上のことが出来ている。

 イユはこうして三人で仲良く料理をしてみたいと考えたことはなかった。けれど、実際やってみると得難いことをしている心地になるのだ。

「ふふ。楽しそうで何よりだわぁ」

 マーサも釣られて笑っている。

「野菜の確認してきたよ。やっぱり、あの装置凄く考えて作られてる」

 レッサが厨房に戻ってくる。発言の後半が野菜ではなく機械への感想だが、やるべきことはやっているだろう。現に先程ちらっと見せてもらっただけではあるが、イユがいない間、植えたものはすくすくと育っていた。南瓜が何よりも早く育っているので、ここ暫くは南瓜料理が主体になるが、それもまた良い。

「あっ、レパードは霜陰南瓜が苦手なんだったわね」

 とはいえスープなら他の南瓜とそれほど味の差はでないだろう。




 朝食は食堂に食べに来る方式らしい。食堂を覗くと、既にレパードと、ミスタにアグノスまでいた。

「あんたは朝食食べないでしょう」

 テーブルにちゃっかり一人分の椅子を牛耳っているアグノスにイユは呆れ顔になる。そこにリーサから不思議そうな声が掛かった。

「運んでくれるのよ。イユが教えたんでしょう?」

 どうも配達業をまだ続けているらしい。運び先は航海室と医務室、甲板だろう。イユが寝ていた間も来ていたのかもしれない。

「でも、今日はスープがあるわよ」

 イユが渡していたのはバスケットであり中に入れていたのはサンドイッチだ。スープはさすがに溢すだろう。それ以外の食事を包んで持っていくということだろうかと思案していると、

「あら、スープも運べるわよ」

 と、さも当たり前のように言われて、面食らった。

「ねぇ?」

 振られたアグノスも自信満々だ。

「ほら、これに入れて。受け取った人で、器によそえば良いのだから、問題ないわよ」

 アグノスに渡されたのは水筒だった。重そうだが、バスケットのなかに収まってはいる。それとは別に器も乗る。これもまた重そうだが、まだ持てるようだ。ヒイヒイ鳴いている気はするが、一応投げ捨てるといったことはしない。

「じゃあよろしくね」

 ふらふらしながらも、外に出ていくアグノスを見て、少し同情してしまった。意外とリーサは飛竜扱いが荒いらしい。

「それじゃあ、俺らはいただくとするか」

 テーブルに載せていた地図を片付けて、レパードが告げる。ミスタと朝食ができるまで相談していたようだ。

「何の相談?」

 配膳をしながら聞く。

「見張りだよ。ここから数時間でつくとはいえ、下はまだ鳥籠の森だからな」

 ここまできたらないとは思いたいが、主が森から飛び出して空を飛ぶタラサへと襲い掛かってくることもないとは言い切れない。それ以外に魔物の奇襲とシェパングの船の存在もある。確かに見張りはほしい。

「一人は危ないから二人で見張ることになるのよね? 私も数に入れて」

 回せるとしても、レパードとミスタとクロヒゲ、刹那ぐらいだろう。今は、ここにはいないクロヒゲと刹那が見張りに出ているのかもしれない。

「助かる」

 てっきり寝ていろとでも言われるかと思ったが、レパードの反応は正直だった。それ故に、余計人が足りないことを意識する。マーサやリーサがいるから日常生活を送ることができるが、それ以外の面ではぼろぼろの状態だろう。ラダが目覚めたとはいえ、航海室にも人は足りず、機関室もほぼおらず、医務室で寝たきりになっている者が殆どだ。

「そういえば、機関室にも人が必要よね? レッサがここにいるということはライムが?」

 配膳を終えたイユは早速南瓜のスープに口をつけながら、尋ねる。確かライムも倒れていたはずだ。

「あぁ。昨日起きてな。休ませたかったが、機械に触れてないと回復しないと言い張られてな」

 ライムは、主に襲われても相変わらずのようだ。ある意味逞しくて、尊敬に値する。

「お陰でなのかな。今も厨房のほうにいられてるよ」

 厨房からちょうど出てきたレッサに答えられて、イユは納得する。今のレッサは一応休憩中の扱いだろう。

「単独行動は解禁になったのね」

「あぁ。言ってなかったな。離陸してからはそうしている」

 その判断で良いはずだ。イユが感じられる力の中に、主と同じような歪なものはない。最もどこまでの範囲であれば力を感じられるのかは自分でもわかっていない。

「後で一応船内を一通り回るわ。私なら主がいるかどうか判断できると思う」

「そんなことができるのか」

 驚きを口にしたのはミスタだ。イユの異能を見ていないから当然の反応だろう。

「暴発した力は歪だから、私には分かるみたい。最も範囲までは特定できないからなるべく近づいて調べる必要はあるけれど」

 正確には、暴発した力に限らない。リーサが包丁を扱うときも、レッサが装置をよく見ようとしゃがんだときも、イユにはその力が見えていた。医務室で眠っていたラダからも生命力のようなものを感じ取っている。

 意識してしまうと吐きそうなほどの力が、ここには蠢いていた。知ってしまうまでは何も感じなかったのに、今では知らないときが思い出せないほどの情報量だ。それらに蓋をして、今は何気ないふりをしている。

 実際、意識さえしなければそれらはイユには関係ないものになる。呼吸と同じだ。深呼吸しようとすると意識するが、そうしなければ勝手に息をしている。今のイユが感じているのは、その対象が呼吸に限らず自分の周囲にある全ての力になるというだけだ。

「イユちゃん?」

「何でも無いわ。ちょっと、思い出していただけ」

 てきとうに答える。あまり考え込むと、レパードあたりがまた心配しだすのが目に見えている。

「とりあえずリュイスたちと合流するまで数時間といったところだ。その間にリーサたちには支度を頼みたい」

「分かりました。お薬ですよね」

 ミンドールの状態は聞いているのだろう。リーサは少し暗い顔をする。

「その通りだ。ラダに頼んで近づけるだけ近づいて着陸するが、俺らはお尋ね者だ。ミスタとイユ、刹那と俺で行くつもりだが、それまでの潜伏は頼む」

 居残り組は、クロヒゲとラダで護衛だろう。ラダは病み上がりだし本当は数にいれるべきではないが、レッサを護衛とするのも悩ましい。

「アグノスは置いていこう。飛竜は目立つ」

 ミスタの意見に、イユは一応アグノスも護衛としてカウントした。

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