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カルタータ  作者: 希矢
第九章 『抗って』
651/995

その651 『覚醒』

 そう、刹那と変わらない。

 それが、イユが感じた主の正体だった。

「もし、それが事実だとして、どうすれば倒せる?」

 刹那は聞くだけ聞いたあと、返事を聞く間も惜しんで続いてやってきた手へと飛びかかる。

「刹那は力を使い果たすと、消えるかもしれないんでしょう?」

 刹那を待つことはできない。イユは周囲に確認を取る。

 頷くレパードに初耳のマーサが驚いた顔をする。イユもワイズが言っていたことを思い返した。治癒の力を使いすぎると消えるかもしれないと。

 それを主に当てはめると、影の力も同様で力の供給がなければ消えるかもしれないということになる。

「主のエネルギーって、なんだ?」

 レパードの問いに頭を働かせる。現に主は消えていないのだ。何か力の供給源がある。イユには分かる気がした。鳥籠の森は徐々に範囲を広げつつある。あらゆる木々を枯らしてその枝に鳥籠をつける。

「生命力みたいなものだと思うわ」

 吸い取っているから消えない。木々の生命力だけではない。恐らくはイユも奪われたと感じたあの力。あれは影の力ではなく、森の主が単にエネルギーを求めた結果といえるのだろう。

「イユちゃんのお話だと、木を全て枯らしてしまうということ?」

「そうよ。それどころか、人間からも奪うことができるみたいね」

 無理を承知でいえば、供給元を断つには木々を全て枯らしてしまえばよい。吸い取る生命力がなければ、暴発した力はいつか終わりを迎えるはずだからだ。

 けれど今のイユたちにそのような手段はとれない。そもそも、周囲は既に力を吸い尽くした後のようで枯れた木々しかない。出入り口まで戻っている暇もないだろう。

 だから、打つとしたら他の手になる。


「けれど、レパードだけは、大丈夫なのよ。そして、私もレパードの魔法に打たれている間は平気だった。主の弱点は雷の魔法で間違いないわ」

 命を張った検証だったが、上手くはいった。しかしこれで、あとはレパードに魔法を打たせてしまえばよいだけ、とはならない。強力な魔法はレパードでも放つのに時間がかかるだろう。だから、刹那の動きをサポートしつつイユたちも守らないといけないレパードにその余裕はない。そうなると打てるのは別の手だ。

「俺の魔法で、あの手を全て覆ってしまえばいけなくはなさそうだな」

 イユの説明よりも先に、同じことを思いついたらしいレパードから提案がある。そのとおりと、イユは頷いた。

 雷の魔法は効果がある。ただし、分裂されたらきりがないのは変わらない。やるとしたら、レパードの言うとおりに主の手を全て雷で囲ってしまえばよい。纏めて止めをさせれば増えることはできないだろう。

「威力はこの際無視でいいと思うの。私が動けるぐらいの魔法でも効果はあったわけだから」

「だが、問題は少しも取り残さずに主を囲えるかだ」

 特にタラサから引き剥がすのが難しい。タラサの中に逃げ込まれては仲間のことも心配だが、レパードの魔法も行き届かない。全て引き剥がすには、今ここにいるイユたちが引き付けるのが効果的だ。他の手段はイユには思いつかなかった。

 まだ動き回っている最中、手をいなしながらも会話に入ろうとしている刹那を見つける。イユたちの会話が気になっているようだ。

 イユは無理やり声を張った。

「一箇所に集めるわ!」

 直ぐに返事がある。

「誘導は私がやる」

 そこには、きっぱりとした意志がある。いくら刹那といえどもふらふらしているのだから休ませてやりたいところだが、イユたちは今ろくに動けない。他にやれる人間はいないことを、他でもない本人が一番良く理解しているのだろう。無理はしない程度に主の手をいなしながら、タラサに向かおうとする。

 だから、頼むしかなかった。

「頼むわ」

「任された。魔法石の予備、持ってない?」

 イユはレパードのほうを見やった。イユ自身は手持ちがない。

「俺もない。リーサのところだ」

「わかった」

 刹那の手持ちが心もとないのだろうかと不安になったが、刹那は淡々とそう返すだけであった。




 イユの不安はすぐに払拭された。刹那の誘導は、至って力業だったのだ。魔法石をタラサの周りにばらまきはじめたのである。次々と爆発するそれをみて、タラサが壊れやしないかと別の不安を抱くほどだ。これだけ数があるなら、充分足りるのだろう。

 逆にいえば、これだけの魔法石を使わないと誘導できないともいえる。それに、刹那自身が、負傷で動きが落ちていることを理解しているのだろう。だからこそ、出し惜しんでいないとみた。

 薄々感じるものがある。きっと、この策が上手くいかなかったら、イユたちはやられるしかないということをだ。少なくとも刹那はそう考えて行動しているように見受けられた。

 意識が朦朧としてくるのを感じて、そっと舌を噛む。それに気づいたのか、マーサから声が掛かった。

「イユちゃん。無理は駄目よ。辛いなら目を閉じてもよいから」

 そうはいっても、この場で寝てしまって気付いたときには鳥籠の中というのは避けたいところだ。せめて、最期のときぐらい、知らずにというのは避けたい。

 そこまで考えて、何を諦めているんだと言いたくなった。どうにも、森の主――正確には暴発した力だが今は明示的に主と呼ぶが――、はイユから希望を吸い取ってしまったらしい。いつもどうしてか悲嘆的な考えばかり浮かんでしまう。最も現状が現状だ。起き上がることも満足にできないイユにやれることなど、思いつかない。刹那の戦いぶりを遠目に応援するしかないのだ。


 本当に、そうだろうか。


 自問する。これで、イユたちがやられたら、何もできないでいる自分にきっと後悔する。本当に今のイユにやれることはないのだろうか。またしても刹那だけが傷つくのを遠目に眺めるだけというのは、情けないというものだろう。

 何もできないなど、あるはずがない。というのがイユの答えだった。微力にしかならなくとも、せめて、刹那の背後に迫った手を教えることぐらいはできるはずだ。だとしたら、諦めて目を閉じている場合ではない。


 刹那の姿を探したところで、違和感を持った。

 背後に迫る手。それを避けて、投げつけられる魔法石。力が込められ、弾けるのが手にとるように分かる。再び刹那が飛び、手がそれを追いかけるのが目に見えるようだった。


 少しして気がついた。力が視えているのだ。刹那が飛び退るその足に込められた力。魔法石の収束するエネルギー。掴もうとする手から感じ取れる熱のようなもの。レパードが溜め込んでいる魔法。

 その動きがうっすらとだが、全て感じ取れる。

「私の異能って……」

 今まで気づいていなかった。だが、思い返せば知っていたことだ。暗示に掛かったかどうか知るときと同じ感覚。或いは怪我をして倒れている仲間に助かったほしいと祈ったとき。リュイスが強大な魔法を放つ瞬間も。感じていただけで認識できていなかった。

 だが、確かに常に分かっていた。

「イユちゃん?」

 何より、暴発した力が母を殺めてしまったとき、イユの力はイユ自身ではなく外に向いていた。だから、できて当然なのだ。気づかなかったのは、自分自身の力はここまでだと思いこんでいただけである。


「私の力は、能力を調整するものよ」


 そしてそれは、自分だけに限らないのだと、はっきりと悟った。




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