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カルタータ  作者: 希矢
第九章 『抗って』
567/994

その567 『情報を引き出せ』

 シェパング政府と言われれば、それが誰を指す言葉かは理解できる。

「円卓の朋ね」

 交代制だというそれを担っているのが克望だったはずだ。

「確か、克望様という方と抗輝様という方がいるのでしたね」

 記憶を探っているような言い方はリュイスのものだ。如何にも聞いたことはある程度、という風に受け取れる。

「確かに、その二人が有名どころでしょうな」

 エルダも肯定する。

「ですが、最近は抗輝様が表に出ることが多いご様子です」

「それって、戦をしたがっていた?」

 思わず口を開いたイユに、エルダは小さく首を横に振った。

「滅多なことは言うものではありません。大望をお持ちではありますが」

 濁すあたりに、説得力がない。だが、ここまで話されればイユでも見えてくるものがある。抗輝は戦争のきっかけが欲しいのだ。だから、確定していない情報を流した。そういうことかもしれない。

「野望で戦争を起こすつもりかしら」

「ですから、発言にはお気をつけなさい」

 イユの言葉に、エルダは表情を変えている。どうやら、イユは地雷を踏んでいるようだ。そう思ったところで、リュイスの無邪気を装った質問が飛んだ。

「しかし、仮にそうだとしても、克望様がお止めになるのではないですか」

 忘れそうになるが、克望は和平派なのだ。抗輝にとっては政敵にあたるだろう。

「えぇ、おっしゃるとおりです。ですから、お嬢様が指摘されるようなことはありません」

 イユの発言を引きずっているせいか、エルダの口調は堅かった。

「その……、ですが、あまり表には出てこられないのですよね? 今はどこにいらっしゃるのですか?」

 最も知りたい質問だろうに、リュイスの表情は変わらない。あくまで自然体、最近いないといわれた克望のことを心配している響きまである。

「桜花園ではお姿を拝見することはありませんが、心配せずとも今は明鏡園に戻られているだけのことでしょうな。すぐに戻られると思います」

「確か、ご実家が明鏡園でしたか」

「えぇ。お屋敷が離れにあるそうですね。シェイレスタ方面から来られたのであれば、通られましたかな」

 聞かれ、イユは内心戸惑った。通るどころかこれから行きたい場所である。

「はい。とても風光明媚な場所でした」

 知ったような口を、とリュイスに言いたくなるが、実際に明鏡園に訪れたことがあるのだろう。

「そうでしょう。あの美しさは桜花園とはまた異なる赴きがありますから」

「ですが、克望様のお姿は拝見できませんでした。残念です」

 リュイスの発言に、イユは内心ひやっとする。明鏡園にいないイユたちでは、拝見などできるわけがないのだ。

「そうなのですね。明鏡園のギルド支部には顔を出されたと伺いましたが……。まぁ、確かに忙しくされている方でしょうから、中々直接お見掛けするのは難しいでしょう」

 代わりにと、エルダは続けた。

「抗輝様であれば、桜花園の麓にいらっしゃいます。皆、一目見ようと押し掛けるほどでしてな。機会があれば覗いてみるのも良いかもしれません」

 絶対行かないと、心に決める。イユの正体が見破られることはないだろうが、わざわざ目的でない『魔術師』に会っても仕方がない。

「あなたはシェイレスタに長くおられたのですかな?」

 抗輝への態度が顔に表れていたのか、エルダはイユにはそう振った。

「違うわ」

「彼女はイクシウスから来ています。シェイレスタには機械人の話があって向かいました」

「あぁ、なるほど」

 リュイスの弁護に、エルダは納得した顔をした。恐らくギルドの支部長ともなれば機械人の話も聞いていたのだろう。イユたちはシェイレスタの地図すら手に入らなかったのを思い出して、もやもやしてしまった。

「機械人の発掘は賑わっておりましたか」

「はい。それどころでなくなってしまいましたが」

 リュイスは余計なことは言わなかった。話を元に戻そうとする意図を感じて、イユも「散々だったわ」と付け足す。

「散々……?」

「えっと、マドンナの訃報を受けたときギルドが混乱状態になりまして、それで……」

 リュイスの説明に納得したのか、エルダは「あぁ、なるほど」と呟いた。

「あちらの混乱は想像できます。こちらも当初は似たような状態でしたから」

「そうですか、そちらも。実は警備が厳しくて、シェパングに渡るのは大変だったのですが……」

 まさか一瞬のうちに違う場所に移動したとはいえないにしても、リュイスは中々ばれそうなことを口走るものだとイユはひやひやする。詳しく聞かれたら、イユでは絶対に誤魔化しきれない。

「えぇ。そうでしょうな。正直、シェイレスタからここに来たのはあなたたちが初めてかもしれません」

 エルダの感想を聞いて、胃がきりきりと痛んだ。余計な質問をされないか不安になる。

「かなり厳重だと聞いております。ギルドでもよほどの理由がないと通ることもできないとか……。桜花園周辺はそうでもないですが、明鏡園周辺は今も政府の軍用船が巡回しておられるそうですな」

 話を聞いていて、顔が暗くなりそうなのをぐっと堪える。明鏡園は警戒をしなくてよいと聞いていたはずだが、事情が変わってきていることを察したからだ。

「ですが、逆に言えばそのおかげで暗殺ギルドを追い詰めることができたのでしょうな」

「そうですね。さすがだと思います」

 エルダの話に、リュイスは感心したように同意する。二人の会話を聞きながら、イユはここまでに得た情報を振り返るのであった。

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