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カルタータ  作者: 希矢
第九章 『抗って』
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その539 『確認と』

「無事だね」

 航海室に戻ってきたイユたちに、ラダの確認の声が掛かった。

「怪我人はいませんか」

 ワイズの言葉に、イユは首を横に振る。

「火傷はしかけたけれど、もう治ったわ」

 アグノスもリュイスも、見た限りでは無傷だ。ミスタは少し怪我を負っていたが、ワイズの魔術が必要なほどではない。

「扉は?」

 クルトの質問には、レパードが答える。

「塞いだ。残っていた土嚢を積み上げたから暫くは問題ない」

 土嚢と聞いて、一行は苦い顔をした。皆、土砂の撤去作業を思い出したのだろう。

「そっちの状況はどうだ?」

 クルトは、「ぼちぼちかな」と返す。ラダが舵に触れながらも説明をした。

「場所は嘆きの口で間違いないみたいだ。だが、嘆きの口の果たしてどこにいるのかは分からない」

 イユはラビリに見せてもらった地図を思い起こす。嘆きの口は、シェパングの主だった都市のある大陸、その横に位置していた。さすがにシェイレスタと比較しても小さかったが、それでもシェイレスタの三分の一はあったはずだ。シェイレスタを端から端まで飛ぶことを考えたら、それなりに広いことが窺える。

「おまけに、元々タラサに搭載されている地図が僕らが持っている地図と大きく違っていてね。タラサに表示される地図では、ここは全く別の地域にあたるみたいだ」

 解説が必要になって、イユは助けを求めた。

「つまり、タラサは古い船なので、その当時と比べると、飛行石が大きく移動してしまっているわけなのですね」

 リュイスの説明に納得する。飛行石が動くから永い年月をかけて、地図が変わってしまったらしい。

「という前に、タラサに地図があったんだな」

「ああ。システムが掌握できるようになったと同時に見られるようになったよ」

 レパードの質問に、ラダは頷いて答える。セーレだと地図は紙だが、タラサは機械のなかにあったらしい。

「まぁ、方角は分かるから、飛んでいれば大きく外した方向に着くことは無いと思うよ」

 クルトの発言にイユはほっとする。

「問題は食料と水の不足ですね。嘆きの端から端に移動したとして、今の物資で足りるかどうか……」

 リュイスの発言に、はたと気がつく。イユたちはタラサを基地のように使っていたとはいえ、食べ物は殆ど街で買ってきた弁当だった。

「やっぱり、あの魔物の山を……」

「却下だ。人食い飛竜の数が減ったら、残らず海に沈めるぞ。今のままだと重いだけだ」

 レパードにすぐに切り捨てられる。

「嘆きの口なら、至るところに水の湧き出る小島が点在しているから、余裕だろ。食べ物もそこで調達できる」

「ひょっとして、嘆きの口に来たことがあるのですか」

 レンドの助言に、リュイスがきょとんとする。

「あぁ、魔物狩りギルドにいたからな」

「また物好きな……」

 クルトは呆れ顔だが、今イユたちがその物好きのいく場所にいることを忘れているに違いない。

「まぁ、暫くは航行だ。カメラを壊されたから外の様子が確認できないんだよな。魔物は人食い飛竜だけじゃない。早めに直さないと厄介だぞ」

 問題はカメラをいつ直せるのかだ。窓の様子を見ながら、イユは唸る。青空に混じって時折人食い飛竜の影が掠めていく。まだ魔物たちは諦めたわけではないのだろう。今はまだ外には出られそうにない。

「それもそうだが、誰か機関室に行ってくれないか。今のままだと燃料の無駄遣いだ」

 ラダの言葉を聞いて、クルトがぽりぽりと頭を掻いた。

「そういうところは、凄い古代遺物(アーティファクト)でも変わらないよね。ライム、聞いてる? ボクでも多分分かんないからさ、機関室行くよ」

「機関室!」

 言葉が届いたらしく、ライムが目をぎょろっとさせた。

「そうだよ、そこに行かないともっと詳しいことが把握できない」

 既に心ここにあらずと様子で呟いているが、どうにか会話は成立している。

「把握だけじゃなくて、実際の調整作業もだよ。ほら、行くよ」

 クルトがライムを引っ張っていく。それから、振り返った。

「あ、レッサも連れていくね。優先度的に、食堂は後回しだし」

 イユたちが部屋を一通り確認したときにも、レッサはまだ作業に没頭していた。そのため、今も変わっていないだろう。本当に機関部員たちは興味を引くものを前にすると、周りが見えなくなる。

「頼んだわ」

 クルトには機関部員を任せるとして、イユは窓の外を見やった。

「さっきから聞こえてくる、唸り声みたいなものは、無視で大丈夫なの?」

 誰も言わなかったから聞かなかったことだ。イユの耳は、ずっと風の唸るような音を聞いている。小さい音ではあるが、イユ以外の皆にも届いているだろう。

「問題ない。嘆きの口にいる間はずっとこうだ」

 レンドの確約は、経験者だけあって信頼できる。

「後で外に出られたら下を見てみるといい。すぐに理由が分かるはずだ」

 だが、奇妙な言い方には、イユは首を捻るしかなかった。



 窓に人食い飛竜の影が映らなくなった頃、いよいよ外に出ることになった。目的は、カメラの修理だ。クルトとリュイス、レパード、イユの四人、修理役一人と護衛役三人の構成だ。

「いいか、外に出たらいきなりあいつらが襲ってくる可能性もある。イユは念のため扉付近でいつでも扉を抑えられるようにしてくれ」

 土嚢をずらし終わっても、扉が開けられることはなかった。だが油断はできない。外に出た途端、人食い飛竜がやってくる可能性は零ではない。

「えぇ」

 返事をしつつ、ぼこぼこにされた板を手に持つ。万が一人食い飛竜が押し寄せてきた場合は、イユが再び扉を閉めることになっていた。

「何も出ませんように」

 クルトが不安そうに願い事をした。


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