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カルタータ  作者: 希矢
第九章 『抗って』
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その538 『風呂確認』

「後はレパードたちがどうなったか、ね」

 念のため全船室に人食い飛竜がいないことを確認してから、イユたちは地下へと続く階段の前へとたどり着く。

「はい。無事だと良いですが」

 ミスタも十分戦える。それに、よほどレパードがいれば大丈夫なはずだ。

「大丈夫でしょう。行ってみましょう」

 そうして階段を下り始めたところで、何かが焦げたような匂いがして反射的に身を引く。先ほどまでいた場所を、青い稲妻が走っていった。

「おっと、悪い」

 レパードの謝罪の声に、イユはかっとなる。

「ちょっと! 当たったら危ないでしょうが!」

 そう言いつつも階段を下りきったイユは、広がった光景に息を呑む。ぐったりと倒れた人食い飛竜の山が出来上がっていたからだ。

「こいつら、ハッチを開けたらしくてな。数が多くて、少々暴れさせてもらった」

「まさかこれ、全部倒したのですか」

 レパードの言葉に、リュイスが呆けたように尋ねた。

「魔物相手なら手加減はいらないからな」

 ミスタも頑張っただろうが、殆どは雷に打たれている様子だ。肯定と受け止めてよいのだろう。イユは時々、レパードのことを怖く感じたことを思い出した。リュイスの魔法も人智を越えていると思うが、どちらかというと神聖さを感じる。レパードのそれは、単純な殺意だ。人を一瞬で炭に変えることのできるほど強力な雷の魔法は、その気になればいつでも放つことができる。それをしないのは、レパードという人間が人の死の重さを理解しているからに他ならない。

 余計なことを考えた気がして、イユは首を振った。代わりに魔物の山へと視線を向ける。

「……飛竜の丸焼きは食べられるものなのかしら」

 アグノスが抗議するように翼をばたばたとさせながら喚き始める。

「食うなよ、毒だぞ」

 レパードの呆れたような言葉に「毒?」と聞き返した。

「あぁ、飛竜は基本的に猛毒だ。特に血は浴びるべきじゃない。卵の殻ならば、薬に煎じることもできただろうがな」

 なんということだ。アグノスの丸焼きは、非常食にもならないらしい。

「ですが、それは飛竜の話です。人食い飛竜では薬に出来るかどうかも分かりません」

 レパードとリュイスの解説を聞いて、イユは唸った。

「それはつまり、人食い飛竜なら毒じゃないかもしれないから、食べられるかもしれないと……」

 レパードに不審な目で見られた。

「……食うなよ?」

 アグノスが隣で精一杯頷いている。「レパードに同意見」と言いたいらしい。残念な話である。これが食用になれば、イユたちは嘆きの口で食糧不足に陥る心配はなくなるのだ。

「それは置いておくとして、上階は大丈夫なのか。何体か逃したが」

 確かに、いつまでも食糧の話をしている場合ではない。ミスタの質問にはリュイスが答える。

「いえ、確認しにいきましょう。一階は一通り見ましたが、二階にまだ潜んでいる可能性があります」

 レパードたちに手短に事情を説明する。扉を開けられると聞いて、顔色がみるみるうちに蒼くなった。

「急ぐぞ」

 すぐに全員で階段を上がり始める。幸い一階に再度魔物が現れるということはなかった。そのまま二階まで駆け戻る。二階の扉も、土嚢に塞がれて魔物が侵入してきそうな気配はない。

 あとは、人食い飛竜が潜んでいるかどうかだ。早速、食堂の扉を開けようとして、呼び止められた。

「待て、まずはこっちの扉からだ」

 レパードに指摘されて、はたと固まる。指を指されて、はじめて気がつく。今までそれが扉だとは、微塵を思っていなかったのだ。

 それは、一階から上がってすぐのところにあった。壁と同じ材質、同じ色をしている。よくよくみるとノブと思しきところに、小さな出っ張りがあった。

 だが、それだけだ。レパードはノブを指差して扉と呼んでいるのだ。そして、この扉は、二つもあった。

「お前が倒れている間に見つけたんだ。これを押すだけで開く」

 レパードがノブをトントンと叩く。

「ここの扉の先は何?」

「風呂だ」

 ノブだと思ったそれが、壁の中へと押し込まれる。スイッチだったのだろう。それを合図に、壁の一部が奥へと引っ込んだ。あっという間に人一人が入れる程度の通路が現れる。

「簡単に開くからな。ばれている可能性はある。イユは右手の風呂を見てくれ。女用だ」

 男女で別れているらしい。イユもまた、言われた通りに扉を開けて中に入る。

 他の部屋と比べると、一段と狭い通路だった。白い壁を伝うように進んでいく。壁には、収納棚が設置されていた。恐らくは脱衣所なのだろう。棚を開けると、衣類を入れられる程度のスペースがある。この狭いなかには、到底魔物は隠れようがない。

 そのまま進むと、洗面台が現れた。更にその先に扉がある。がらがらと横開きの扉を開けるが、そこにも人食い飛竜の姿はない。代わりにイユを出迎えたのは、黒光りする床と、空っぽの浴槽だ。シャワーも複数用意されている。驚いたのは、浴槽の大きさだ。イユが十人、横に寝転んでも余る広さがある。これは果たして、イユの知っている浴室で合っているのだろうかと、首を捻る。あまりにも規模が大きすぎて、浴室という感じはしない。だから、レパードは浴室と言わずに風呂と言ったのだろうか。

 とはいえ、今は浴室の広さに感心している場合ではない。魔物の姿がなかったことを報告しなくてはならない。

 イユはすぐに踵を返すと、廊下へと戻った。

「こっちはいないわ」

「あぁ、こっちもだ」

 残りの部屋を全て確認した結果、結論からいうと人食い飛竜はいなかった。

 扉の開け方が船室のある一階と二階とで違うことから、人食い飛竜は扉を開けられなかったのだろうと結論づけられる。アグノスも誰かが扉を開けないと中に入れないことから、二階に関しては人以外のものに対し扉が自動で開かないような仕組みになっているのかもしれない。



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