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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
520/994

その520 『地図に描かれた新天地』

「さてさて、そういうわけで、シェパングの勉強講座開幕だよ」

 場所は医務室のままだ。ラビリはどこから運んできたのかホワイトボードを持ち出して、そこに地図を貼り付ける。

「改めて確認すると、この地図凄いねぇ。本当に、無償でもらっちゃったの?」

 ラビリが話を振った先は、リュイスだ。勉強会出席者はこの三人である。

「はい」

「滅茶苦茶助かるけど、破格すぎて驚きだよ」

 ラビリの感想に、イユは首を傾げた。

「地図ぐらいで大袈裟じゃない?」

「いやいや、地図は大事だよ。安全な航路を知るまで、そのギルドは他の島に中々渡れないんだもの。現に、皆、シェイレスタのことは知らなかったから苦労したでしょ?」

 確かにマゾンダのことを知っていたら、イユたちはここまでの災難には見舞われていない。

「ミスタやレンドがかつてのギルドを頼ってくれていますが、その彼らでさえ、シェイレスタの地図はもらえませんでした」

 リュイスの補足説明に、納得する。

「つまり、リュイスは遠慮しているように見せて、実は一番図々しかったってことね!」

 人畜無害そうな笑みだが、リュイスもやるときはやるらしいとイユの評価が変わっている。

 それを知ってか、リュイスは困ったような顔を浮かべた。

「……なんだか不本意です」


「まぁまぁ、それはそうとまずはシェパングについておさらい」

 ラビリは、指を三本立てた。

「シェパングにはシェパングならではの特徴が三つありました。さて、言えるかな」

 まさかここで復習させられるとは思っていない。イユは必死に記憶を引っ張り出す。

「一つは円卓の朋よ」

 シェパングは王政ではない。任期二年でメンバーが交代していくと言っていたはずだ。そして、円卓の朋の一人が、セーレの皆を攫った主犯と思われる人物、克望である。

「二つ目は、『自国民優遇主義』ですね」

 リュイスが、イユの代わりに発言する。

「その名の通り、自国の民を優遇するという考え方です。これは、三つ目の特徴にも当てはまります」

 ここまでヒントが出ていれば、イユでも分かる。何より、それほど強烈な印象を与えられた特徴だ。

「三つ目、『異能者』にも尊厳を、って奴ね」

 まさか、シェパングの『異能者』が弾圧されていないとは知らなかった。確か、『異能者育成計画』というものもあったと言っていたはずだ。

「はい、大正解。復習は完璧みたいだね!」

 ラビリが「さっすが!」と大袈裟に褒めたたえる。ここまでされると悪い気はしないが、逆に気恥しくなってくる。

「じゃあ、本題。ここでは地図で実際に場所を確認しながら、詳しく説明するよ」

 そう言って、ラビリは地図の南にある街を指さした。ドーム型の街に魚が描かれているので一見すると街には見えないが、それが街だと気づいたのはイユでも知っている地名が描かれていたからだ。

「明鏡園ね」

「そう。シェイレスタはこのすぐ下だから、意外と近いんだよ」

 それ以外にも、イユは明鏡園の特徴を聞いている。

「確か、観光の名所なのよね?」

 クルトがそう言っていたはずだ。

「そうそう。まぁ、シェパングの観光名所ナンバーワンは桜花園だから、二番手だけど」

 桜花園は、シェパングの中央にあった。同じくドーム型の街に木々が描かれている。

「明鏡園はギルドの街としても有名なんだよ。だから、セーレの皆もよく知っている場所」

 見知った街に連れ去られていると言われても、想像が難しい。

「実際、明鏡園に囚われているということはないでしょう。現地に向かってから情報収集が必要だと思います」

 リュイスの言葉に、イユは頷く。

「ちなみに、シェパングで最も有名な桜花園には、政治機能も集まっているから、観光地といってもイユたちが気軽に行くのはちょっと違うかな。そういう点、明鏡園は安心かも」

 地図には他にも嘆きの口、風月園、鳥籠の森、血色の湿原といった情報が書き込まれている。特に、町よりも空域の情報に詳しいのは、如何にも魔物狩りギルドの地図らしい。

「北にある風月園というのは?」

「ここは、レースで有名な場所だよ。風が凄いの」

 ラビリの説明に、ワイズが言っていたことを思い出す。

「まさか、飛行ボードのレースって」

「いろいろな種類のレースがあるから、ないともいえないけど……。ごめん、レースは詳しくないんだよね」

 ラビリは、申し訳なさそうに手を合わせた。リュイスを見たが、こちらもレースには興味がなさそうだ。好きそうなのはミスタだろうか。覚えていたら後で聞いておこうと心に刻む。

「この辺りで、覚えておくべきことはある?」

 代わりにイユは、嘆きの口、鳥籠の森、血色の湿原と書かれた地名を指差した。

「どこも危険な場所だから、普通の人は近づかないってことかな。嘆きの口の人食い飛竜は有名な話ではあるから、知っておいたほうが良いかも」

「人食い飛竜?」

「飛竜に似ている魔物だからそう名付けられたんだって。群れで襲ってきて頭が良いから、皆に恐れられてる」

 魔物狩りギルドの地図だ。人食い飛竜に限らず、魔物が沢山いるところが載っているのだろうなと想像出来る。だが、嘆きの口はシェパングの中央、桜花園の近くにあるし、血色の湿原に至っては北にある小島だ。今、必要な情報ではない。

「鳥籠の森は、明鏡園の近くにあるのね」

 イユの指摘に、ラビリは頷いた。

「そうだね。ただ、ギルドもあまり立ち入らない場所だから、詳しいことは分からないかも。それよりはここの小路」

 鳥籠の森から少し離れた場所に小さな道が書かれている。それは明鏡園から出ていた。

「この道の先が、貴族たちの別邸に繋がっているから、行く可能性があるとしたらこの辺りかも」

 地名はないようなので、イユはこの小路を貴族小路と呼ぶことにした。ラビリも言うように、可能性は高い。

「まぁ、そんなところかな」

 ラビリが地図を畳み始めた。説明は終わりということらしい。

「なるほど。地理が分かるとイメージがつきやすいわね」

 感想を述べたイユに、ラビリは「でしょう?」と誇らしげだ。

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