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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
501/993

その501 『作業前確認』

 一同は、すぐにそれぞれの持ち場に分かれることになった。クルトは医務室に赴き、ラビリは確認したいことがあると言って厨房に走る。ライムは、ラダとワイズを伴って、航海室の機械の前で説明を始めた。アグノスはその周りをぐるぐると駆け回り、皆の視点が行き届かないであろう天井にちらちらと視線をやっている。何か見つけようと躍起になっているらしい。

 残ったのは、イユとミスタとリュイス。そして、統括するといっていたレパードだ。

「お前たちは、まず土砂の状態を確認しておくのが良いだろうな」

 レパードにそう助言を受け、イユは頷いた。

「時間が勿体無いです。行きましょう」

 扉を開け、イユとリュイス、ミスタの三人で通路を歩く。レパードは厨房に行くようだ。厨房の奥はカビの件があって魔物の有無を念入りに確認できていない。ラビリ一人だと危険かもしれないと判断した様子だ。

「実際、どう土砂を片づけていくの?」

 イユは廊下を歩きながら、尋ねた。土砂は通路の先にあるから、今の位置からでもはっきり見える。通路を塞ぐように覆われた土砂には、ごてごてとした岩も混じっている。天井の青い照明光が、途中で土砂に阻まれて途切れていた。

「土砂を捨てるにしても捨て先がないと難しいですよね」

 リュイスの意見に、ミスタは歩きながら考える仕草をする。

「少なくとも、大きな入れ物がいるな。袋やドラム缶の調達は必要になる」

 運び込むための器の調達は、確かに問題だ。加えて、土砂を移動されせば終わりではないだろう。扉が壊れているなら修理も必要になる。そもそも土砂を運び出すにはショベルがいる。ないもの尽くしの状況に、げんなりしてしまった。

「風の魔法でどの程度掘ることができるの」

 作業がなくなることを祈って、ちらりとリュイスに聞いてみる。さすがに風の魔法で土いじりの経験はないらしく、悩むような表情をみせた。

「分かりません。早速やってみても良いですが……」

 間違えて飛行船の壁に穴をあけないか心配だと言われたら、止めてよいのか悩むところだ。

「まずは実践ね」

 手作業と壁の修復の手間を天秤に掛けた結果、イユはそう結論付けた。土砂までの距離はそこまで離れていない。足を止めたイユは、目の前に聳えた土砂を前にして、「さぁ、やってみて」と促す。

 頷いたリュイスが、イユたちよりも前へ出た。ミスタも、盛り上がった土砂を見上げている。

 この砂が見えている範囲だけであれば良かったが、ここから先にあるのが下り階段というのが気にかかる。もし、ここより下の階が全て土砂に埋もれていたら、リュイスの魔法を使いまくる以外の手が思い付かない。

「行きます」

 今回はお試しだ。威力を抑えたのか、風が集うのを待つ時間はなかった。

 ふわりと髪が風に持っていかれ、イユは目を細める。目の前の土砂に風でできた穴が空いた。見つめていると、その穴が大きく深くなっていく。それに合わせて、周りの砂が飛び跳ねる。混じっていた岩が粉々に砕ける。そうして細い、しっかりとした道ができていく。風が通り道を作った分だけ、土砂が周囲にどんどん積もっていく。それはまるで山のように盛り上がって、天井にまでぶつからんばかりになった。

 そして――。

「あっ」

 一瞬、やらかしたかのようなリュイスの声が聞こえた。イユには、目の前の積もりすぎた土砂が、さらさらと崩れ落ちていく光景が見えている。

 あっという間だった。積み上げた砂が、風で作った通り道を埋めていく。折角見えてきた床が、またしても砂だらけだ。

 失敗を実感するより前に、イユは後ずさった。

「ちょっと!」

 砂は、リュイスが作った道にだけ流れはしなかった。イユたちがいたすぐそこまで、さらさらと崩れ落ちていく。ゆったりとした流れだが、その場で立ち尽くしていたら、砂まみれだ。しかも、砂は意外と重い。あれよこれよとしている間に、足が土に埋まり、よろけた。どうにか踏ん張り、足を動かそうとしたところで背後から砂が襲いかかる。

 危うく、土砂に埋もれるところだった。


「いきなり大丈夫か、お前たち」

 騒ぎを聞いて、駆けつけてきたレパードが声を掛ける。

「意外とスリルがあったな」

 ミスタの感想に、「ちょっと、ベッタ入ってるわよ」と、イユは突っ込んだ。

「すみません、風でも掘ることは出来そうだったんですが」

 やはり、捨てる場所がないと厳しいということなのだろう。だが、幾らリュイスが砂を動かせても、袋まで自動で砂を積む魔法が使えるとは思えない。

「やはり、手作業だな」

 ミスタの結論に、イユは「うっ」と声なき声を上げた。

「かなり途方もない作業になりそうだけれど」

 救いは、リュイスが掘ったことでか、砂が柔らかそうなことだった。だが、重労働であることは変わりない。

「何も常に二人で掘れとは言わない。やることのない奴は極力こっちに回すようにしよう」

 レパードの配慮に、イユは感心してしまった。なるほど、全体を統括して人を振り分ける役目は、大事である。

「取り急ぎは、必要なものの購入でしょうね。リストに纏めましょう。僕がここでこれ以上やれることもないので、皆さんの様子を回って聞いてきます」

 経費担当のリュイスの発言にも、イユは頼もしく感じた。リュイスが早速、手持ちの手帳に、袋とドラム缶に加えてショベルを書き足したのもポイントが高い。

「それなら、先にラビリのところに行ってくれ。厨房の前でほぼほぼ纏めてあったからな」

 その言葉に、リュイスは頷く。

「私たちはどうする?」

 ショベルがくるまで、まさか手で砂を掻き出すわけにもいかない。

「俺は、レンドと合流して知り合いのギルドの候補を伝えてこよう」

 なるほど、ミスタは浪漫にかまけるだけの男ではないのだと、改めて思わされた。

「イユは、裁縫を頼んで良いか? 持ち込んだ布で、服を作っておいてくれ」

 レパードの言葉の意図が読めずにいると、補足が入った。

「どうしたって、この先汚れるだろ? 全員、ライムみたいになるつもりなら止めないが」

「あ! そうね」

 土砂の撤去に、掃除に、ただ歩くだけでも、大昔の建造物というのは汚れるものだ。今通っている幅広の廊下も砂が溢れ、埃だらけなのである。証人に、ライムがいることも忘れてはいけない。

 そして残念なことに、ここに汚れを落とすシャワーはない。貴重な水を布に垂らして拭き取るのがせいぜいだ。今着ている服が大切なら、せめてエプロンのようなものは作っておいたほうがよいと、レパードは提案しているのだった。

 イユは頭のなかで計算した。リミットは、ラビリの買い出しが終わるまでだ。袋を買ってきてもらったら、できれば土砂の撤去に時間を割きたい。ぼろ布を繋ぎ合わせる手間を考えると、意外と時間がないことが予想できた。

「すぐに、取り掛かるわ」


 こんな形で、それぞれのやることは瞬く間に決まっていったのだ。

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