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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
499/994

その499 『方針』

「とりあえずまともに動きそうなのは、医務室と航海室の一部の機能ぐらいだな」

 一通り見回り終わったらしいレパードが、そうまとめる。

 一同は、再び航海室に集まっていた。ラダだけが医務室でシェルを看ることになっている。それ以外のメンバーは、全員集合という形だ。

「あとは会議室と船長室だが、部屋があるだけって感じで大したことはなかった。厨房はカビだらけ、他は土砂が入り込んできていて、使えそうにない。思った以上に、使えない箇所が多い印象だ」

 レパードの報告を受けて、ワイズが「良いですか」と口を挟んだ。

「この船の規模はどれぐらいになるか、わかりますか?」

 レパードはライムへと顎をしゃくった。

 任せてくれと言わんばかりに、ライムが機械へと走る。ボタンの押下とともにすぐ、皆が集まる中央へと、絵が表示された。ホログラムだ。

「これが、船の地図だよぅ。見つけたの!」

 航海室と思われる場所が黄色く点滅している。現在地を表しているのだろう。航海室を出て右手にある部屋は、入ると四つの扉に分かれている。正面の三つの扉のうち二つは小部屋に繋がっていて、残りの一つは通路のようにぐるりと二つの小部屋を囲む作りである。これは、記憶に新しい厨房だ。

「ボクらがいた医務室はあそこかぁ」

 クルトの発言通り、医務室も描かれていた。医務室の上、航海室から出て左手に位置する部屋は二部屋あり、会議室と船長室になっているようだ。これで、表示されている地図は全部だ。

「これだと、船室が少ないね。他に階があるの?」

 ラビリの言葉に、ライムは「そうだよぅ」とのんびり返事をする。

「ここは、二階。土砂で埋もれたところが階段付近で、本来はその下があるの。更に下には機関部」

「構造自体はセーレと少し似ているんだね。大きさも同じくらいだし」

 レッサが感想を呟き、ライムがそれを肯定する。

「そうそう、そうなの」

 話を聞いていたワイズは、呆れた声を出した。

「話にならないですね。これで、飛行船が動くのでしょうか」

 ライムの話では、船を動かすには全ての扉を閉める必要があったはずだ。それなのに、船の一階から下は土砂で埋まっているという。常識で考えて、船は動くまい。こればかりは、ワイズの意見に同感だった。

「動くよぉ」

 とライムは変わらず主張するが、ワイズは無視している。ライムに信用を置いていないのだろう。

「仮に動かなくても、この二室が使えるだけで、拠点としては機能するんだよな。街と比べると不便だが、今、街に戻るほうが危険なら、まぁ、ここを暫く使うっていうのには賛成だ」

 レンドがそう意見を入れ、ミスタが大きく頷いた。大方、ミスタの頭の中は、『古代遺物(アーティファクト)』の船を秘密基地のようにできるという浪漫でいっぱいだろう。

「大きいのは、航海室と外との出入り口について、開閉ができることですね。先ほど検証してみましたが、入り口が閉まると驚くほど外の壁と見分けがつきにくくなります。場所を知っている僕ら以外には見つけにくいでしょう」

 リュイスの言葉に、ラビリが頷く。

「魔物が来ないかもっていうのは嬉しいところだよね」

「それに、今のところ、飛行船内で魔物には遭遇していないしな」

 と、レパードは報告した。土砂をどかし続けたらひょっとすると、魔物が出てくることがあるかもしれないが、そうならない限りは安全のようだ。

「安心なのは良いけれど、食べていくだけで、生活費は掛かるものだよ。どうするのかは、早めに決めておいたほうがいい」

 ラダの言葉は、ライムの近くにある機械から流れている。伝声管、或いは通信機器のようなものが医務室と航海室を結んでいるようだ。ラダが敢えて医務室に向かったのには、動作テストの意図もあったようである。

 ラダの言葉の内容について、クルトは手を挙げた。

「それそれ。本当はさ、お金貯めて船に乗せてもらう予定だったけど、船長たちのことが広まったら、マゾンダでその交渉をするのは難しくない?」

 ここにきて、イユの軽率な行動が裏目に出てくる。

 言葉をつまらせながらも、イユは愚痴った。

「やっぱり、スナメリに船を借りるのが手だったのよ」

「あのな、イユ。幾らスナメリが友好的でも、何でもかんでも頼っていいわけじゃないからな」

「あいつらだって、自分が大事だ。今の時期にシェパングには行きたがらねぇよ」

 レパードに加えて、レンドにまで悟され、イユは唸った。

「ダメ元で聞けば良かったじゃない」

「別に止めはしないが、あいつらの都合だと利点がないからな」

 今のシェパングは、マドンナの暗殺事件でばたついているという話だ。そんななかで魔物退治の依頼を受けるよりは、落ち着いている二国で依頼を受けたほうが実入りがある。だから、乗せてくれと頼むのはなしだという。

 残るは船を借りることだが、それについても迷惑は掛けたくないと思っているらしい。イユたちが万が一捕まると、船の特徴から足がつくかもしれないからだということは、後でリュイスに教えてもらった。

「どのみち、俺らの規模だと、どうしてもでかくなるしな」

 小型飛行船は乗れて三人だ。ミスタの借りた船がそうだった。それより一回り大きくても、ラダが乗ってきた船、六人乗りだ。それ以上は中型や大型になる。

「シリエたちが乗っていたぐらいのものがあるじゃない」

「あぁ、俺らに必要なのはあれぐらいの船だな」

 レパードは同意を示した。

「俺らはあれぐらいの船を借りるか、もらい受ける必要があるわけだ。恐らくだが、相場は……」

 ちらりとレパードはリュイスを見た。計算の部分はリュイスに一任しているらしい。

「はい。距離が距離なので、十人で1250000ゴールドですね」

「高過ぎよ!」

 なるほど、ギルド銀行の引き落とし額を見て、少ないと言ったはずだ。リンゴの個数ではもはや測れない。

 周りを見回してレパードは今後の方針を打ち出した。

「俺らの目的はシェパングに向かうことだ。問題はその方法だが、いろいろなアプローチがある。幸い、俺らには人手がある。だからこそ、どこにも手をつけられる」

 レパードは指を一つたてた。

「一番簡単なのは、船を借りることだ。これは、三日毎に限度額を下ろしにいくことで、金の問題がクリアされる。合わせて船を借りられそうな目星をつける必要がある。これは、俺やリュイスは街には出向けないから、他にギルドに当てがある奴と計算ができる奴で言うと……、レンドとレッサが適任だろうな。もし、この過程で、船そのものを借りるのではなく、シェパングまでの船に同行させてもらえることになったらベストだが、それはまぁ、俺らの正体が割れる可能性を考えると難しいだろう」

 それに、この方法だと、十日以上はかかる。それでは、克望がシェパングに戻る時間を与えてしまうかもしれない。

「ここの部品をいくつか売り飛ばせば、日程の問題は多少クリアに近付くと思うよ。買い手はミスタの前ギルドが詳しいんじゃない?」

 イユが考えていた不安を、クルトが打ち破った。確かに『からくり拾い』を通せば、『古代遺物(アーティファクト)』を売ってお金の足しにできる。

「嫌だ、嫌だよぅ。売るぐらいなら私が買う!」

 とライムが訳の分からないことを言っているが、それは一同無視だ。ミスタだけ何度も頷いているが、それも視界から追いやった。

「もう一つは、この飛行船を動かしてそのままシェパングまで乗りつけることだ。これは、ライムが機械の掌握をして仕切っていくのが良いだろう。まぁ、動けばの話だがな」

 ライムは、「やった!」と歓声を上げだした。もう、動かせること前提になっているらしい。

「一階が土砂で埋まっているのよ。無理でしょう?」

 イユの反応に、ライムは、のほほんと反論する。

「大丈夫だよぉ。もし、地下の制御室が機能しなかったら、扉を開けたり空気を入れ換えたりできないもの」

「ほら、見て」と言いながら、ライムが機械を操作して、ホログラムの表示を切り替えた。

「これが制御室。ここ、見て。ここに、換気の機能が入っている機械があるみたいなの」

 ライムが示したいと思われる場所が赤く点滅する。そこから、矢印が敷かれ、船全体に広がっていた。

 一同ははたと顔を見合わせた。皆の気持ちを代表して、イユは告げる。

「一応根拠があったのね」

 てっきり、ただのわがままかと思っていた。

「むぅ。ちゃんと考えてるよ! こんな飛行船に出会えるなんて、普通はないことだもの」

 ライムの不服そうな顔はともかくとして、根拠があるのなら話は変わってくる。

「船に乗りたいから、私は身を粉にして、頑張るよ!」

 拳を握り締めて語るライムに、クルトが冷静に答えた。

「船を借りる算段がついたら、多分そっちになるんじゃないかな。ジルだって待っているかもだし、時間は限られているもんね」

 クルトの発言に、手を挙げたのはミスタだ。

「つまり、船を借りられる目星を立てるまでに、この飛行船を動かせればよいわけだな」

 ミスタが益々目を輝かせるのを見て、「え? あ、うん」とクルトが若干圧され気味だ。

「しかも交渉に出るレンドやレッサ以外は、飛行船のほうに力を割いてくれるんだよね」

 ライムが意味の分からない解釈をし出し、レパードを困り顔にさせる。

「いや、そんなことは」

「船長。船は、私が仕切るって言っていたもの。仕切るってことは当然他の皆を借りちゃって良いってことだよね」

 レパードは、意図してそうした発言はしていなかったのだろう。その目が、いつそんな話になったのかと周囲に問いかけていた。クルトが、小さく首を横に振って「ボクは、知らない」と訴える。

「……そこまで、飛行船を動かしたいのか」

 絞り出すようなレパードの声は、既に根負けしていた。

「あぁ」「勿論!」

 ミスタとライムの返事に、飛竜まで声を張り上げて賛同する。

 その様子に、イユたちは呆れて何も言えなかった。

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