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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
497/992

その497 『医務室』

「えっとね。こっちのボタンを押すとね」

 ライムが機械の一つのボタンを押す。一見すると何も変化がないが、本人曰くこれで良いらしい。

「医務室への扉が開いたはずだよぅ」

 ライムは宣言と同時に、自身が生き倒れていた通路へと飛び出す。レパードは、レンドにシェルのことを頼むと、ライムに続いた。

「この部屋だよぅ」

 土砂で埋もれた場所の隣に扉があった。はじめてきたとき気付かなかったのは、扉が土砂と同じ土色に汚れていたからだ。

 近付くと、人の気配を察してか、扉が自動で開いていく。

「ここが医務室か」

 目の前に、丸く白い極太の柱が飛び込んできた。その柱の前に、カウンター机が置かれている。医務室にやってきた人々を出迎えるためのものだろうか。本来であれば、ここに受付が立っているのだろう。

 長い間坑道に埋もれていたとは思えないほど、部屋全体は白かった。無機質な素材は、白船を思い起こさせるが、暖色系の明かりが照らされているためか、怖さは感じない。

「なんか、さっきと雰囲気が違うね」

 感想を呟くラビリに頷いたイユは、何気なく入り口に視線をやった。先ほど入った扉の左右の壁に、白地の長椅子が用意されている。黄ばんでおり、ぼろぼろと表面の革が崩れそうではあったが、掃除をすればシェルを一人寝かすことは可能だろう。

「待合室のつもりか。こいつは、病院みたいな造りだな」

 イユの視線に気付いたレパードが、そう感想を述べた。

「医務室ですから、意識はしているでしょうね」

 何を当然な。とでも言いたげな口調で言い放つと、ワイズは受付カウンターへと近寄る。

「機械がありますね」

 気になったイユたちは、すぐにワイズへと近付いた。

 先ほどは位置故に見えなかったが、カウンターの内側に一段低くなった机があり、そこにワイズのいう機械があった。

 円形の白い塊であるそれは、中央に青いスイッチがついている。ワイズが触れると、そこから光が溢れた。

「なんだっけ。ホログラム?」

 白い板のようなものが浮かび、そこに文字が浮かび上がっている。全て古代語のようだ。

「良く覚えてましたね。猿並みの記憶力ではまず忘れていると思っていましたが」

「さすがにあれは衝撃だったもんな」

 ワイズの毒舌には、レパードが代わりに返す。猿並みは否定してくれない辺り、レパードも冷たい。

「うーん、エラーみたいかな。何度も同じ字面が並んでいるね」

 残念そうに、ライムが呟いた。


「皆、こっちを見てください」

 年長者がいるからか、敬語でレッサが一行を呼んだ。レッサとクルトが医務室の奥からやってくる。いつの間にか二人で奥を見に行っていたようだ。

「ヤバい、見たことのない薬がいっぱい揃ってるよ!」

 うきうきとするクルトに、リュイスが困った顔をした。

「まず、全て期限切れだと思います」

 そもそもそのような未知の薬など、効力も分からないのに使ってみようという気がしない。形が残っていただけ万々歳だろう。

「そうだけどさ。薬を作るための機器は、いくつか使えそうかも。まだはっきりとは見てないけど」

 レパードが嬉しそうな声を発した。

「そいつはいいな。いちいち買い足そうと思ったら中々手に入らないものもあっただろ」

「そうなんだって。これ、上手く行けば薬の材料を調合して、街で売るってこともできるかも! ほら、マゾンダって発掘ギルドが多いから薬系は売りやすいと思うんだよね」

 イユは自分の目が輝くのを感じた。

「さすがクルトね! 10倍にして売りましょう!」

「えぇ?! それは幾らなんでもぼったくりだと思うよ」

「大丈夫よ、クルトの腕なら。信じているわ」

「何の根拠もない信用だよね、それ!」

 隣で、姉であるラビリが会話に混じりたそうにしていたが、それより先にレッサがイユたちの会話に分け入る。

「そんなことよりも、シェルを休ませるのに良さそうなベッドがたくさんあります」

 レッサが振り返るのに合わせて、イユの視線は医務室の奥へと向いた。

 カウンターの先には、いくつかの薄い壁で区切られた個室が用意されていた。その一つ一つにベッドがある。シーツはそのままでは使えそうにはなかったが、寝台は無機質な壁と同じ特殊な素材が使われているため劣化がない。持ってきたブランケット類を縫い合わせれば、すぐにでも使えそうである。

「砂が若干入り込んでいるみたいだが、そこは、はたけばなんとかなるだろうな」

 レパードの感想に、リュイスが頷く。

「すぐに対応しましょう。航海室の冷たい床では可哀想です。幸い、裁縫道具は先ほど街で調達しておきましたから、シーツの準備は……」

 イユは腕捲りをした。

「私が縫うわ」

 こういう場では、大抵リーサが頑張るところだが、今はイユしかいない。尤もイユの特技は早く縫うことだ。役目として不足はないだろうと自負している。

「じゃあ、皆がシェルを運んでいる間に、私は解析しておくね」

 ふんわりと柔らかい笑みを浮かべたライムは、次の瞬間その場にはいなかった。

「は?」

 廊下を駆ける音を聞いてはじめて、イユはライムが航海室に戻るつもりだと悟ったのだ。

「まだ事情を何もお伝えしていませんよね」

 ワイズが心底呆れた顔をしている。ライムがどういう人物かわかってきたのだろう。

「ボクもかなり気になっているのになぁ。抜け駆けはズルいよ」

 ましてやライムは既にこの船を調べていたはずだ。そうは思ったが、イユは何も言わなかった。話が通じる相手なら、はじめから変人扱いはしていない。

「まぁ、あいつのことはひとまずほうっておくしかないだろ。ラダ。悪いが、ライムを見張っておいてくれるか。航海室ならお前も見ておいたほうがいいしな」

 それまで大人しくついてきていたラダは、レパードの言葉に頷いた。

「外から魔物が入ってくるともしれないしね。全く、よくここで一人でいて無事だったものだよ」

 それじゃ、と言って廊下へと出ていった。

「アグノス。念のためお前もだ」

 ミスタの指示に、アグノスが「任された」とばかりに声を張り上げると、航海室へと飛んでいく。

 その様子を見守ったラビリは、そこで立候補でもするように手を挙げる。

「じゃあ、私がお掃除するね!」

 レパードは頷いてから、残った面々を見回した。

「あぁ、頼む。全員、念のため伝えておく。ひとまず医務室は危険がなさそうだが、他はどうなっているかはまだ分からない。何かあったらすぐに俺に連絡をしてくれ。船内に魔物がいるってことはなさそうだが、流入した土砂が急に崩れてきたり機械が動き出して挟まれたりする危険はあるからな」

 レパードの言葉に、全員で「了解!」と声を上げた。

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