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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
461/994

その461 『仲間と相談』

「嘘は言っていないと思います。はじめに僕の記憶を読もうとしたのも、克望でした」

 シェルが眠っている部屋に戻ったイユたちは、中で待っていたラダとレッサに先ほどの話をすると同時に、考えを整理していた。

 リュイスのいう「嘘」とは、フェンドリックが話していたサロウの武人気質についてだ。暗示を掛けられないという話が嘘でないとは、イユも信じたいところである。

「つまり、僕らの仲間は、克望に記憶を読まれるために、連れ去られているということだよね?」

 ぞっとしない顔で、レッサが呟いた。リーサたちが記憶を読まれていると思うと、イユも気が気でない。幸い、フェンドリックの言葉を信じるならば、克望はセーレの皆を確保するだけ確保して、ブライトへと向かっていることになる。だから、まだ彼らは何もされていないはずだ。

「死体がないという話だし、そういうことになるだろうね。少しでも情報が欲しいとみえるが」

 ふざけるなよ、とラダが小さく呟いた。全くもって、同感だ。克望は人間を、何だと思っているのだろう。

「ブライトは克望の動きを予測していたみたいな発言をしていた。今思えば、辻褄は合ってくる」

 レパードの言葉に、イユは確かにと思い出す。ブライトは不穏な言葉をイユたちに送っていた。「セーレはもうないよ」なんて、不気味すぎて鳥肌が立ったものだ。だが、ブライトは分かっていたのだ。克望が、セーレの皆を捕らえるだろうことを。

「姉さんは何がしたいんでしょうね」

 途方に暮れたように、ワイズが溜息をつく。

 レパードもまた、疲れたような顔をする。

「戦争を止めたいって、俺には言っていたんだがなぁ」

 ばたっと、何かが落ちる音がした。見ると、ワイズが落とした杖を拾い上げているところだ。

「そういうお話は早めに聞きたかったんですが?」

 責めるような言い方に、レパードが弁明する。

「いや、繋がらないだろ?ブライトはサロウにストーカー女……、危険なものを渡した可能性があるとか、魔術書を盗んだことで指名手配されているとか、どう考えても戦争を起こす側の行動しかとっていない」

 ぴくぴくとこめかみをひきつらせて、ワイズが告げる。

「魔術書の件がありましたね。そちらも聞いていませんでしたが、盗んだと噂の魔術書は今どこにあるのですか?」

 睨まれるレパードがさすがに哀れに映り、イユが代わりに答えた。

「知らないわ。ブライトが持って行っちゃったもの」

「……つまり、もう姉さんの手元にあるはずなんですね。しかし、姉さんは指名手配犯でもある。そうなると、ずっと持っているとは考えにくいわけですが」

 ワイズの言葉は途中から独り言に変わっていく。イユは呆然としているしかない。ワイズが何に動揺しているのか、よくわからなかった。

「後で一旦、別行動を取ります。確認したいことができました」

「単独行動は、また命を狙われる可能性があるぞ」

 ワイズの言葉に、レパードが突っ込む。

「先ほど条件を取り付けたばかりでしょう」

 しかし、ワイズはそれに対し、淡々と答える。まさか既に襲われないと安心しているわけではないだろう。だが、ちょうど良い単独行動のための建前ができたことが何よりの収穫と言わんばかりだ。

「懲りないなぁ」

 事情を聞いているレッサが、ぽつりと呟いた。


「よくわからないのは、フランドリックが本当に『支援』してくれるとしてだ。彼に、何のメリットがあるんだい?」

 当然の疑問だろう。ラダの質問は、クルトもフランドリックにしていた。

「良くも悪くも、俺たちは『魔術師』たちの話題の渦中にある。その情報が欲しいんだと」

 レパードが苦い顔で答えた。フランドリックが条件に挙げた内容とは、今後の情報交換だ。手段はギルドを使った言伝でも、鳥でも良い。

「つまり、姉さんを通じて得ていた情報を今度は直接、フランドリックとやり取りしてほしいってこと」

 クルトが意訳する。

「これがフランドリックのいう、スポンサーなんでしょ」

 シズリナを援助していたように、今度はセーレを支援するという。

「スポンサーって言うぐらいなら、もっと支援してくれればいいのに」

 イユは不満をぶつけた。フランドリックは意外とケチなのだ。飛行船を貸してくれと言ったら、さくっと断られた。

「いや、帰り手段がなくなるから、フランドリックも困ると思うよ……」

 クルトが「さすがにそれは」という顔をする。そこまで図々しくなれないという顔には、少々心外だ。

「だったら、飛行船を購入できるぐらいのお金を用意するとか」

「どれだけたかるつもりなんですか?乞食根性丸出しですね」

 イユの提案は、ワイズに否定されてしまった。

 むぅっとイユは唸りたくなる。何故、そこは皆、フランドリックに同情的なのだ。

「イユの要望はともかく、フランドリックは自分が痛い目をみない程度の支援しかしないだろう。逆に見返りも、その程度のものだ。……なんつうか、あいつは、狐みたいな奴だ。損得勘定で動く。利益があると思えば危険な綱も渡るが、そうでないものにはその程度の犠牲しか払わない」

 レパードが、フランドリックから得た印象も踏まえて、総評する。

「なるほど。強かな人物のようだ。向こうがその気ならそれでいいだろう」

 ラダもレパードの言葉に納得したのか、頷いた。

 レパードの言うとおり、フランドリックは、その気になれば危険を省みず利益を求める人間という印象だ。だが、セーレはフランドリックが求めるほどの情報も、事態を変えるほどの力も持ちあわせていない。故にフランドリックが出した条件は、両者にとって悪くない情報交換にとどまっている。ケチケチするなとも言いたくなるが、よくよく考えれば、それはそれで良い落としどころのようには思えた。というのも、下手にフランドリックの注意を引くことは、それだけ危険なことに突っ込んでいるということにもなる。情報交換程度なら、妥当なところだ。それに、『魔術師』の情報は何といっても有力だ。ラビリが危険を冒しても、得ようとしたのが今になって分かった。

「それで、ラビリの暗示は解いてもらえそうなの?」

 レッサが心配したように、クルトを見る。

 イユたちは頷いた。

「もうすぐ来るはずよ。そうしたら、念のためワイズに確認してもらう手はずになっているから」

 フランドリックが言ったのだ。ワイズに確認してもらえばすぐだと。どちらにせよ、レパードもクルトも、ラビリに掛けられた暗示には当たりがついているらしい。だから、たとえワイズに確認せずとも、レパードたちだけで判断はできる。

「良かった……」

 レッサは心底、安堵した顔をした。ラダも、心なしかほっとした顔をしている。ラビリが暗示に掛かっていた話は、先ほど二人にしたばかりだ。クルトを見て、励ましの言葉を掛けたそうにしていた。

 イユも同じ気分だった。珍しく人に怒りをぶつけたクルトに、「良かったわね」と言いたくなる。こうして、一人ずつでも良い。確実に、取り戻していきたい。

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