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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
427/993

その427 『というわけで』

「……と、いうわけでして、馬鹿どもがやらかしてくれました」

 ワイズの説明に、リュイスが

「は、はぁ……」

 と困ったようなため息をついた。他に反応のしようがなかったのだろう。

「ハンドルを壊したのはイユだぞ」

 ぼそっと反論するレパードに

「あんな状況で着陸できたとは思えないわ」

 とイユが反論したところを、

「うるさいです、二人とも」

 とワイズに怒られる。

 黙る二人を見てか、リュイスが困ったような顔をして、感想を呟いた。

「よく無事でしたね」

 怪我だらけのリュイスにそれを言われると、イユたちとしては、いろいろ複雑な心境だ。

「なんだかんだで、墜落寸前のときに飛んで逃げましたからね」

 レパードが後部座席のワイズを引っ張りあげて空を飛び、イユは自力で脱出した。飛行船は木っ端微塵になってしまい、修理のできるような状態ではなかったため、その場に置いてきている。

「幸い、傾いた塔から少しだけしか離れていなかったので、歩いてこられました。荷物も携帯している分は、無事ですし」

「だが、飛行船で行って帰ってくるつもりだったから、食糧も水も心許ない」

 ワイズのあとのレパードの言葉で、リュイスははたと気がついた顔をした。

「具体的に四人で何日分ですか?」

「半日よ」

 把握しているイユが、リュイスの問いに答える。

「一回分の食事しか持ってこられなかったの」

 ちなみに持ってきたのは、おにぎりだった。それぞれの鞄に一つずつ、レパードだけはリュイスの分を余分に携帯している。あとは、水筒や医療品だ。飛行船に乗った際、寒さを防ぐために防寒具は着ていたので、それも鞄に詰め込めた。念のため、ロープも持ってきてある。墜落することを懸念していざというときのためにと入れておいた代物だが、使う暇もない勢いで墜落したのでそのまま鞄の中だ。

「ここから一番近い町までは?」

 リュイスが恐る恐るといった様子で確認する。

「三角館ならば半日ですが、町となると先ほど話した遊牧民の集落でしょうか。最短でも二日はかかります」

 そう、仮に徒歩で追いかけたところで、食糧は尽きてしまう。そのことに、はっきりと悟らされる。理想は今から飛行船で追いかけることだったが、それができない。だからどうあがいても、『魔術師』には追いつけそうにない。それどころか、ここにいる四人はどうにか町にいかないと、食糧不足で餓死である。

「三角館に食糧はあるのか?」

 レパードの問いに、ワイズは頷く。

「備蓄はあるでしょう。僕からお願いすれば、譲ってもらえる可能性も高いです」

 イユは提案してみる。

「三角館に飛行船はないの?くすねられるなら、それが良いと思うけれど」

「さらっと犯罪をしようとしないでください。駐屯している兵がいますから、最低でも三隻はあるでしょうが、無理ですよ」

 ワイズの反対に、首を捻る。

「無理というのは?」

「大きすぎます。僕ら四人で動かせる規模の飛行船ではありません」

 なるほど、セーレほどの規模のものだと、確かに人が足りないだろう。ましてや、航海士がこのメンバーにはいない。小型はどうにかなっても大型のものは専門の知識がないと難しいというのは、レパードから説明を受けた。

「だが、飛行船のなかに小型飛行船があるだろう?」

 レパードが食い下がると、ワイズは難しい顔をした。

「どうしても奪取したいみたいですが、警備が厳しいでしょうし、その場合は恐らく二隻必要です」

「ちなみに、ワイズ。お前、操縦は?」

 ワイズは何を当たり前のことをと言わんばかりに、お手上げのポーズをとった。

「できませんよ。基本、僕が誰かといるときは、その誰かが運転者です。急に倒れる人間は操縦者になりえませんから」

 なんとなく説得力があるが、使えないアピールをされても嬉しくはない。そう思ったことが顔に出たのか、ワイズに睨まれた。

「となると、リュイスと俺か」

 知らなかったが、リュイスは操縦できるらしい。

「できると思っているんですか?たった四人で乗り込めるような場所じゃないですよ」

「俺らが向かったときは人払いされていたからな。そう、難しいとも思えないんだが?」

 ワイズが首を横に振る。

「そのときは、あなたたちがひとしきり暴れる前でしょう。今は、警備が厳しいはずです」

 ワイズの言い分は一理あった。だが、足がないと、確実に『魔術師』を見失う。徒歩で二日もかけたくはないのだ。

「飛行ボードは?」

「本当に好きですね。ですが、今回ばかりは賛成です。飛行ボードなら、格納されていたと思いますし、借りられる可能性は高いです」

 ワイズの思わぬ肯定に、イユは「やった」と手を合わせる。それならば、墜落の危険もなくて安心だ。

「まぁ、それが良さそうか。……飛行船はお前の権限で借りられないんだよな?」

 未練がましいレパードは、きっと飛行ボードを思い浮かべているからに違いない。

「えぇ、さすがに三国に僕から声を掛けるわけにはいきません。それに、言っておきますけれど、奪取した場合は、まず追手が掛かりますからね?そうなると、逃げ切れないでしょうし」

 飛行船で追いかけられないように、飛行石を奪ってしまえば、追手はかからないだろう。そう予測したが、ワイズには提言しなかった。イユにも、ワイズが何を危惧しているかが分かったからだ。三角館は三国の中心地。つまり、そこで飛行船を奪えば、イクシウスとシェイレスタ、シェパング、全てを敵に回すことになる。既にどの国の『魔術師』とも敵対しているわけだから、今の時点でも味方とはいえないが、大っぴらに敵対するのはまずいだろう。黙っていても、『龍族』や『異能者』として狙われる身だ。それこそ、あっという間に世界的な指名手配犯になりかねない。

 それに、飛行ボードに乗るのは、イユとしては嬉しい提案だ。飛行船ほど早くないというのは事実だが、リスクと比較すれば妥当な策である。

 だが、到着には、徒歩の場合で、三角館で半日、イグオールの集落で二日なので、飛行ボードでも一日は掛かるとみるべきだ。三角館までの半日は徒歩確定となるため、合わせて、一日半。それだけの時間が空いてしまえば、『魔術師』は逃がしてしまうかもしれない。何より、『魔術師』たちはもう、シズリナを確保したため、この地に留まる理由はないはずだ。直ぐに動かれてしまうと、追いつくことは叶わない。

 それがわかっているから、リュイスの表情は暗い。

 イユたちもそうだ。セーレの皆の場所を問い質すことができなくなる。

「直ぐに動きましょう」

 リュイスの言葉に、「そうしたいところだが」とレパードが苦い顔をする。

「お前は動けるのか?砂漠越えになるぞ?」

 厄介な問題はまだあった。今は、朝なのである。つまり、ここから半日かけて三角館に向かうと、一番暑い日中に砂漠を歩く羽目になる。

 砂漠越えの辛さを、イユたちは散々経験してきた。

「水も心許ないですね」

 ワイズも思案顔だ。

「僕は大丈夫です」

 脱水症状の出ていた人間とは思えない強気な発言だが、さすがに容認はしにくい。

「分かっていないなら言うけど、砂漠は滅茶苦茶大変よ?私は三回以上死んだと思ったわ」

 イユの言葉に、しかし、簡単に折れるような人間ではないのだ。

 リュイスは「分かっています。ですが、行かなくては」としか言わない。

 絶対に分かっていないと、心のなかで罵倒しまくった。

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