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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
410/994

その410 『再会』

「動いた!」

「動いたぞ!」

「手を動かした!この『古代遺物(アーティファクト)』、生きているんだ!」

 動揺の、驚愕の、或いは感動に震える声が、周囲に満ちる。

「お前ら、動力を探るぞ!」

 大声で声を掛けるのは、先ほどまでレパードたちと話していたカラレスだろう。この事態に、大喜びの様子である。

「動力はなんだ?電気か?」

「与えてみろ、うまくいけば世紀の大発見だぞ!」

 だが、わいわいと騒ぐ男たちの様子は、イユには雑音――、控えめにいっても、どこか遠くの世界のことのようにしか感じられなかった。

 イユの目の前で、機械の手甲から指が伸びている。爪の細部まで表現されているそれは、紛れもなく、イユを指さして固まっていた。何故だろう。その指の先に、意識を惹きつけられて、目が離せない。息すらも忘れて、見入ってしまう。

「おい、大丈夫か」

 肩にかかる手のぬくもりが、イユを現実に引き戻した。

 自身が呆然と突っ立っていることに気が付き、見上げた先で、レパードの心配そうな顔を見つける。

 (何か、言わなければ)

 反射的に声を発しようとして、喉が渇ききっていることに気が付く。それでも、異能があれば、声ぐらい幾らでも出せる。

「……あいつ、私を指さしたのかしら」

 声は出せたが、動揺した声音は隠せなかった。イユには、何故かそうとしか思えなかったのだ。機械のはずの人型のそれが、動いた。通常ならばありえない光景に、愕然とするしかない。

「そんなわけないだろ。()()()()()()()()()ってだけだ」

 レパードの言葉に、ふっと息をつく。普通に考えて、レパードの言い分が正しい。イユはゆっくりと首を横に振った。

 全くどうかしていた。機械が意図的に誰かを指さすなど、あり得ないことのはずだ。はじめてみた、人型の『古代遺物(アーティファクト)』に動揺してしまい、ありもしない発想が浮かんだ。それだけのことだろう。

 自身に言い聞かせてから、周囲の様子を改めて確認する。交渉相手のカラレスは、機械人の前で、誰かを呼ぶ仕草をしている。その視線の先に、箱の形をした機械を掲げて歩く二人組がいた。周囲は、早く結果が知りたいからか、その二人とカラレスの間を取り囲んでいる。わいわいと騒いでいるので、ただでさえ暑苦しい鉱山内部が、更に蒸し暑い。

 襟を引っ張って、風を入れる。僅かに入った風が、表面の熱を取り除く。

 今となっては、世紀の大発見だと騒ぐ彼らと一緒に盛り上がる気分には、さらさらなれなかった。

 だが、どちらにせよ、カラレスは機械人に首ったけだ。ことが終わるまで、待つしかない。


 そうやって一歩引いて眺めていたからか、何やら気になる集団を見つけた。皆が機械人を見ているなかで、彼らだけがちらちらと周囲の様子を盗み見ている。

 少しして気がついた。互いにアイコンタクトを取っているのだ。

 そして、彼らは動き出した。まず、スキンヘッド姿の一人が、人だかりから一歩下がった。それに、周りの人間は気付かない。それを見て、その隣にいた刈り上げの男が、同じように下がる。鶏冠の男がくるりと皆から背を向けた。あっと思ったときには、そこにいた五人の集団が逃げるように、面々から離れていく。

「ねぇ、あれって!」

 明らかに怪しい。声を張り上げたが、その瞬間大きな音と光が周囲に満ちた。いつも見ているから分かった。雷の魔法だ。レパードが使ったのかと思ったが、人の目がある今、それはありえない。振り返ったイユが見たのは、箱から発せられる光が収束する瞬間だった。

「どうだ、動きそうか?」

「いや、だめだ。電気じゃねぇのかもな」

 カラレスの言葉に、二人組の一人が返す。察するに、二人組が持ってきた箱が、雷を発生させる機械なのだろう。魔法石が組み込まれているのかもしれない。

 再び、怪しい五人組に視線を戻そうとしたところで、既にそこには彼らがいないことに気付く。

 声をあげたが、もうすでに遅い。一体、何だったのか。そう訝しんだところで、悲鳴が上がった。

「いてぇ!離してくれよ!」

 機械人とは離れた場所だ。何事かと周囲の人間が振り返る。その動きで、人だかりの隙間から五人組の一人、刈り上げの男が、片腕を誰かに持ち上げられているのが目に入る。もう片腕は自由になっているのだから、動きようがありそうだが、抑えられている力が強いのだろう。抵抗が出来ない様子だ。その足元には、鶏冠頭の男が脛を蹴られたのだろう、蹲っていた。

「脱走はよろしくないな」

 聞き覚えのある声に、はっとした。居ても立っても居られず、走り出す。

「あ、おい。イユ!」

 後ろからレパードが追いかけてくるのが分かった。待てと言わんばかりの声だったが、待ちはしない。声の主を確認するのが先だ。

 人の波を縫って進んだ先で、ようやく視界が広がっていく。そこに、刈り上げの男の腕をがっしりと掴んだ、巨体が見えてきた。

「ミスタ!」

 スキンヘッドの無口なはずの男が、イユの姿をみて、目を丸くする。

「イユか?」

 まさか、こんなところにいるとは思わなかった。意外な再会に、目が潤む。

「あ、お前らは……!」

 後方からやってきたレパードが、声を挙げた。それが、ミスタではなく、ミスタが捕まえている男たちであることに気が付く。彼らのことを知っているらしい。

「それに、ミスタか?」

 レパードの視線がミスタに移ったようだ。レパードの不意を突かれたような声音に、イユは妙ににんまりしてしまった。

「良かった、元気そうだな」

 クルトたちから聞いてはいたが、実際に会うと、安心感が桁違いだったのだろう。レパードの安堵の声に、ミスタは無口の彼らしく、ただ頷きをもって返した。

「船長、イユ。二人も、無事のようだな?」

 ミスタの確認に、イユたちもまた、頷く。

 イユたちの様子を見たミスタが、そこではじめて、笑みらしい笑みを浮かべてみせた。

「良かった」

 ミスタの心のこもった声に、目頭が熱くなる。


「あ、あの――」

 そのとき、おずおずと頼りなさそうな声が聞こえた。ミスタに片腕を抑えられた男が、要求する。

「感動の再会っぽい雰囲気ですが、俺らのこと忘れてやしません?」

 そろそろ腕を離して欲しいんです、と切実に訴える男を、イユたちは一瞥する。

「あ、ハイ。黙っときます」

 その視線に耐えられなかったのか、男がただただ小さくなった。

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