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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
405/994

その405 『鉱山事情』

「やれやれ、また人助けですかい?」

 と店主が悟るような顔をする。

「ご冗談を。ただ、縁があっただけです」

 淡々といってのけるワイズに、店主が困った顔をする。

 意外だなと、イユはワイズを見やる。確かに、やたらと面倒をみてもらっているが、数回あった店主にそんな顔をさせるのだ。口こそ悪いが、リュイスのようなお人よしの癖がワイズにはあるのかもしれない。

「今朝がた、機械人の完全形らしいものが発見されましてね。男どもは殆ど鉱山のD区画に入り浸っておりまして。恐らく、そこにいけば、ワイズ様に恩のある誰かが飛ばしてくれるはずですが……」

 店主の説明に、ワイズがこくりと頷いた。

「なるほど、タイミングが悪かったようですね」

「え、そうなの?」と、つい口を挟んだのはイユだ。

 ワイズがいつもの見下すような目で返してくる。

「今は機械人の運び出しで大急ぎでしょうからね。ようやく見つけたブツを前にして、こちらの都合を優先はしないでしょう。何せ何カ月、或いは何年もかけた成果ですから」

 目だけは冷たいが、内容は至極全うだった。大人しく頷くイユに、店主も補足する。

「そういうわけでして。悪いですが、望みは薄いと思いますぜ」

「……機械人ってそんなに運ぶのに時間がかかるものなのね」

 他にそれらしい感想も抱けず、ぽつりと呟くイユに、店主は頭を掻いた。

「発掘されたというと、素人は鉱山の中で完全な代物がぽんと出てくるイメージを持つんでしょうが、実際は一部が埋まったままのものばかりでして。それを掘り起こす際、傷をつけてダメにしたら大問題ですから、むしろここからが正念場という奴です」

 店主の説明をもとに、イユなりにイメージしてみる。土の中に、飛行ボードのような機械が埋まっているのだ。初めに見つけたのは、羽の一部のみ。これを無理に引っ張って取り出そうとすると壊れるかもしれない。だから、彼らは慎重に掘り起こすのだという。

「意外と繊細な仕事なのね」

 イユならば力任せで引っ張っているなと感想を抱く。だが、それで今まで掘っていたものの価値がなくなるとしたら、彼らは慎重にならざるをえないのだろう。

「機械人の大きさが分かっていれば余分にくりぬいて持ち帰ってから皆で崩すなんてこともできるんですが、こればかりは。おかげで苦労しております」

 店主の言葉で、機械人というのにも大きさがいろいろあるのだなと感じる。人という言葉がついているのだから、人型なのかと思ったが、ひょっとすると違うのかもしれない。

「それで、D区間はどこにありますか?」

「……待たずに直接会いに行くって言うんですね、やっぱり『らしい』ですぜ」

 ワイズの質問に、店主が引き出しを漁りだした。すぐに地図を取り出すと、カウンターに広げてみせる。使い古しているのかぼろぼろの、大きな地図だった。そこに蟻の巣のように張り巡らされた坑道が描かれている。

「如何せん協力的でないギルドもいるもんで、正しいとは言い切れないのが厄介ですが、大まかな地図は合っとるはずです。D区画はこの辺りですぜ」

 地図をAからGまで区切っていて、ある一か所がDになっていた。こうしてみると、鉱山の中は相当に複雑だ。知らずに入れば、間違いなくたどり着けないだろう。

「この地図を持っていってください。多少は役立つでしょう。あとは、こいつですかね」

 店主がカウンターの裏から何やら取り出して見せたのは、ランタンだった。

「途中まではトロッコも出てますが、足場が悪いところも多いですから、ランタンは入り用でしょう」

「助かります」

 ワイズも余計なことは言わず、受け取る。

「魔物のいる坑道と繋がった、なんて話は最近は聞きませんが、一応お気をつけて」

「大丈夫ですよ」

 ワイズはちらっとレパードとイユを見やった。魔物が出た時はこいつらがいると言いたいようだ。

 イユは頷いた。

「じゃあ、行ってくるわ」


 とりあえずと、挨拶をしてから、回れ右をして外に出る。途端に熱気が顔に当たって、すぐに戻りたくなった。

「鉱山の入り口はこちらです」

 ワイズの指差す方には、鉱山の入り口と思しき木枠で囲まれた場所が見えた。そこまで歩くのも暑さのせいで億劫だったが、文句は言えまい。

 近づくと、カンカンという音が聞こえてきた。何の音だろう。

 首を傾げるイユを見てか、レパードが答える。

「採掘の音だろ」

 地図だと、かなり深くまで掘っているようだったが、入り口付近でもまだ採掘をしている場所はあるようだ。

「おそらく、魔法石狙いのギルドが手前で掘っているんだろうな。奥にいる連中は機械というところだろ」

 レパードの推測に、ワイズが肯定する。

「えぇ。入り口付近では、炎の魔法石がよくとれます。それを余所の国に売るだけでも、やっていけますからね」

「シェイレスタとして制限はしていないのか」

 レパードの質問に、イユはイニシアのことを思い出した。あそこでは飛行石を手に入れるのに大変苦労させられたものだ。あれは、確かイクシウスが飛行石を管理しているという理由だったと思った。

「制限したくとも管理しきれないでしょう。大きな鉱山については、入山のための許可証だけは辛うじて出してはいますが、シェイレスタはとにかく鉱山が多いのです。全てはカバーできません。砂漠に常に人を派遣する余裕もありませんしね」

 制限するということは、盗掘されないよう管理する必要があるということのようだと、ワイズの言葉に脳内で補足する。

 しかし、シェイレスタはイクシウスと違って、鉱山だらけ、つまるところ、宝の山らしい。砂漠にある以上、人手を割くのも大変なので、放置せざるをえないということのようだ。

「だが、先ほどの店主の様子だと、お前も含めて『魔術師』自体は時折来るみたいだな」

「ここはサンドリエ鉱山ですから」

 つまり、有名な鉱山ですからと、言いたいようだ。

「それに、国が管理できないということは、『魔術師』がギルドを雇って採掘を行うということに繋がります」

 どういうことかよくわからず聞こうとしたところで、入り口に到着してしまった。中に入った途端、声を掛けられる。

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