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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
400/993

その400 『飛行ボード』

 レパードたちが帰ってきたとき、イユたちはまだシェルの見舞いをしていた。旅支度までフェフェリとシェリーに用意してもらったイユは、レパード、ワイズとともに、フェフェリの案内のまま屋敷内を進んでいる。

 途中、レパードにはお茶会の感想を聞かれた。素直に、美味しかったが相手のペースだったことを告げると、まぁそうだろうという顔をされた。幸い、何事もなかったため、それで上々だと思っているようだ。

 本当ならば、サンドリエの情報もジェシカから聞きだすつもりだったイユは、全く期待されていないことに少し不満はあった。

 だが確かに、敬語が散々だった分、レパードに怒られていないだけよしと考えるべきかもしれない。

「サンドリエは、ここからならどう向かうのが良いの?」

 結局サンドリエの情報を持っていないイユは、今いるメンバーに質問を振った。歩きながらのイユの問いかけには、ワイズが投げやりに答える。

「砂漠越えです」

「えっ」

 ぞっとする言葉に、イユの顔が引きつる。

 大体、砂漠越えと言ったが、大した荷物は用意されていない。今、鞄に入っているのは、水筒とサンドリエ鉱山に入るための許可証、そしてイユが元々持っている絵本と財布だった。

 ロープも念のため入れているが、出番はないだろうと聞いている。すぐに着くという話だったから、そういうものだと思っていたのだ。

「心配しなくても、砂漠に足もなく出ることはしません。乗り物を使いましょう」

「なんだ?飛行船は借りられないはずだが……」

 レパードの言葉に、ワイズの目は冷たくなった。

「あなた、馬鹿ですか?飛行船を探しにサンドリエに行くのに、飛行船を使ったらおかしいでしょう」

「分かっているよ」

 と、レパードは頭を掻く。相変わらず生意気な少年だと、その顔が言っていた。

「飛行ボードですよ。ジェシカの屋敷で、いくつか確保していたはずですから」

 先頭を歩いていたフェフェリが、振り返った。

「その通りです。これからお貸しいたします。慣れるのにお時間はかかるかもしれませんが、そこはコツを掴んでいただくことにしましょう」

 さも当たり前のように言うので、レパードとイユは顔を見合わせてしまった。それで何も自分だけが理解していないわけではないと知る。

「飛行ボードって何?」

 ワイズは明らかに呆れた顔をした。

「見ればわかりますよ、どのみちもうすぐです」

 話すことも億劫になったらしい、ワイズはそれだけしか答えなかった。


 暫くして、フェフェリが一つの大きな扉の前で止まった。

「こちらでございます」

 扉を開けると、途端に冷気が流れ込む。部屋の中は見る限り、真っ暗だ。その中を、フェフェリが一人入っていく。

「すぐに明かりをつけます故、暫くお待ちください」

 視力を調整しようとしていたイユは慌てて、力を使うのを止めた。その隣で、ワイズもフェフェリの後を追っていく。

 仕方がないので、イユとレパードも暗い道の中を続いた。

 始めに感じたのは、風の流れだった。他の部屋と違い、風が流れている。恐らく外と繋がっているのだ。

 そして、立ち込めるのはオイルと埃の匂いだった。機関室の臭いに近い。機械が置いてあるのだと意識する。

 ガシャン。レバーか何かを押す音がした。その瞬間、天井の明かりが順に灯っていく。パッ、パッ、パッと、まるで、カードを表に返すかのようだった。長方形の板を張りつめたような照明が、眩しい白色に変わっていく。

 イユは眩しさに目を細めながら、首の後ろを軽く押さえた。見上げているせいで、首が痛くなってしまったのだ。

 視線を下にやったところで、あっと声を挙げる。照明の光に照らされて、見たことのある乗り物が、通路の脇に並んでいた。

「これが飛行ボードなのね!」

 正直に言うと、苦い思い出しかない。初めてセーレに乗ったとき、イクシウスの艦に奇襲を受けたが、そのときに兵士たちが使っていた機械のことだった。

 偵察船に似た、銀色の謎の物体だ。ボードと言われると、確かにボードのように見えなくもない。人一人乗ったら一杯になる細長い板の上に、羽が生えている。

「ここは飛行ボードの格納庫でございます。広いですので、試運転も可能です」

 フェフェリの言葉に、周囲を見回す。確かに、格納庫は普通の部屋よりも広い。おまけに地面にはクッションの敷かれている場所もある。恐らく試運転で落ちた人間が怪我をしないようにとの配慮だろう。

「まずは乗ってみましょう。乗れないようであれば、話になりませんから」

 ワイズはそう言うと、自身の一番近くにある飛行ボードの前で屈んだ。

「ここがスイッチです。まぁ、他にそれらしいものはありませんから、さすがに馬鹿でも分かるとは思いますが」

 相変わらず人を馬鹿にした発言の後、飛行ボードの中心に埋め込まれた水色の球体を杖でつつく。

 途端に、球体が点滅した。飛行ボードの周囲を、光の線が走っていく。まるで血液が体中に流れたかのようだ。その光の線が羽に行きつくと、ばたばたと羽が動き出した。あっという間に、目の前の飛行ボードが浮かぶ。ワイズの膝ぐらいの位置まで上がると、その場でとどまった。

「これ、燃料はどうなっているんだ」

 目を丸くしてその様子を見守るレパードに、フェフェリが答える。

「飛行石でございます。あの球体はスイッチでもありますが、飛行石そのものです。衝撃を与えることで飛行石を起動させ、その力を元に飛ぶという仕組みでございます」

 それだけを聞くと、通常の飛行石と原理は同じようだ。ただ、飛行石の欠片を握って思うままに空を飛ぶのは難しい。だから、羽にまで力を流し込み、人の意図する方向へ飛ばせるようにしたのだろう。

「どれぐらい持つ?」

「1回の欠片で1日でしょうか。今回の距離であれば、燃料が切れることは無いと思います」

 ヒューっとレパードが口笛を吹いた。欠片というのがイユが過去に使ったことのある飛行石の欠片だというのならば、相当持続するように作られているようだ。

 ワイズは一足先にと飛行ボードの上に乗った。ワイズという重みを受けても、飛行ボードは全く動じた様子もなく滞空し続けている。

「重心を変えることで動きたい位置に動きます。まずはやってみてください」

 イユもすぐに自分の目の前にあった飛行ボードに飛びついた。面白そうというのが、第一の感想だ。飛行石に衝撃を加えると、すぐに飛行ボードが空に浮かぶ。すかさず飛び乗ると、飛行ボードが壁に向かって進んだ。飛んだ勢いが伝わったらしい。すぐにイユは右に重心を向ける。壁にぶつかる寸前のところで、飛行ボードが旋回した。

 そのまま、ぐるりと一周しそうになる。左側に力を変えてやると、ようやく飛行ボードが行き先を見つけたように飛んだ。

「これ、高度を上げるにはどうするの?」

 イユの質問には、ワイズが答えた。

「片足でトントンと中心を叩けば上がります。下げたいときは中心部を撫でるようにすればよいです」

 イユはすぐに右足で中心を叩いた。すっと飛行ボードが上がっていく。膝下までしか飛んでいなかった乗り物が、あっという間に胸の位置までになった。逆に今度は足で中心部を撫でるようにこすりつける。すっと下がった飛行ボードは今度は膝下まで落ちる。

 楽しい。未知の乗り物を前に、高揚した。すかさず、イユはトントンと足を叩きながら前進に重心を起こす。あっという間にフェフェリの頭上を通りすぎた飛行ボードは、天井の近くまで上がっていくとその場で大きく弧を描きながら高度を下げていく。

「これは十分そうですね」

 呆れた様子のワイズが、イユと同じぐらいの位置まで登ってくる。

「レパードは?」

 飛行ボードをワイズの隣につけたイユは気になって聞いた。ワイズが、見下ろす。

「あそこで苦戦していますが」

 飛行ボードに乗ってその場でくるくると旋回しているレパードの様子が目に留まる。意図的ではないのは、目を回している様子からして分かる。レパードこそ普段から自身の翼で飛び慣れているだろうに、謎であった。

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