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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
379/992

その379 『これから』

「それじゃあ、これからボクたちがやることをまとめると……」

 レパードがクルトの言葉を拾う。

「シェルが起きるまで、クルトとレッサは写真の現像を頼んだ。そこに必要な機材は……」

 今度は控えていたフェフェリがそっと前にでて礼をした。

「私にお任せください」

「あとは俺とイユとで、サンドリエか」

 頷いたイユに対して、横からワイズが声を掛ける。

「僕も行きましょう。お金だけ持たせるわけにもいきませんし、案内役が必要です」

 それに真っ青な顔になったのは、フェフェリだった。

「お倒れになったばかりで何をおっしゃいますか!ワイズ様は、どうかお休みください」

 最もな反応だが、ワイズはそれに対してどこ吹く風だ。

「いえ、僕が行きます。サンドリエまでは近いとはいえ魔物が出ることもありますから、フェフェリには任せられません」

「それなら余計に私をお使いください!」

 フェフェリがそう低頭するも、ワイズの意思は揺らがない様子である。

「あなたは、ジェシカの執事でしょう。僕が勝手にあなたを危険に巻き込むわけにはいきません」

「しかし、それでしたらあなたは大事なお客様なわけでして……!」

「行くと言ったら行きます。客の意思を曲げることはできませんよ」

 強情だなとイユは感心する。ワイズは、妙なところで意思が固いようだ。これは、フェフェリでは曲げられそうにない。

 レパードが二人のやり取りを見て、困ったように提案した。

「今日はもう遅い。行くとしても明日だ。そして明日には、手続きをしておいた乗り合いの結果も分かるだろう。早朝俺の方でギルドに確認を取り、無理ならサンドリエだ。その結果を持って、サンドリエ行きを決める。それでいいな?」

 ワイズはしかりと頷いた。

「えぇ、構いませんよ」

 フェフェリは何も言えないのか、もはや低頭するだけだ。そんな彼に同情してしまった。

「それじゃあ、やることはまとまったから、あとはレンドとミスタの二人宛てでギルドに言伝を頼むかな」

 ひとっ走り行ってくるよとクルトが言い、「ギルドの混雑を考えると大変だと思うよ」とレッサが突っ込んだ。「むぅ」とクルトがむくれている。

「クルトはカメラの現像があるでしょ?私が行ってくるわ」

 イユの提案に、しかしクルトは首を横に振った。

「セーレの暗号はばれている可能性があるでしょ?だから4人で別の暗号を使うことにしたんだ。今から教えるのも大変だし、ボクが行ってくるよ。現像ならレッサのが得意だろうし」

 どうもセーレが襲われた時点で暗号が漏洩した危険も、しっかり想定して行動していたらしい。よくよく考えてみれば、あの4人は世間慣れしているレンドとミスタに、頭脳派のレッサ、器用なクルトと抜かりがない。それぐらいの用心は当然のようにしていたようだ。

「あいつらとは、今日中に連絡をつける約束なのか?」

 レパードの問いに、レッサが首を横に振った。

「いえ。頻繁にとは言われていますが、特には。僕は、明日の朝でいいと思います。ただ、シェルのことは皆心配していたので、早く知らせたいんだと」

 それなら。と、レパードが指示を出す。

「早朝、クルトと一緒にギルドに行ってくるのがいいな。クルトの気持ちも分からなくはないが、どうせ暫くギルドは落ち着かない。今も朝もたいして変わらないだろう」

 クルトは、大人しく「了解」と返事をする。早く伝えたかったが、レッサの話も最もだと思い直した様子だ。

「それだと、私は?」

 無邪気に口を開いたところで、レパードの呆れたような視線が降り注いだ。

「お前は休んでろ。というか、シェルを見舞ってろ」

 最もなことを言われて、こくんと頷くしかない。休むことはともかく、見舞いなるものをしたことはないが、されたことはある。確かに、それもやるべきことだ。

 一通り決まったと思ったのか、フェフェリがおずおずと進み出た。

「皆さん。お決まりのようでしたら、今からお食事をご用意いたしましょう」

 空腹感が久しぶりに顔を出す。ずっと食べてなかったことに、今頃気づかされた。頷こうとしたところで、一つ忘れていることに気付く。皺だらけの顔に、絵本をせがむ子供の顔が浮かんだ。彼女たちに何も告げなくて良かったのか。

「私たち、宿に戻った方が……」

 言いかけたところで、ワイズの視線が来て口をつぐんだ。言ってはいけないことだったのか?と自問する。ワイズはフェフェリをジェシカの執事と呼んだ。つまり、宿の話、恐らくはワイズが抱えている『手』でもあるヴァレッタのことは、言うなという合図だろう。

「それには及びません。今からシェル様をお宿までお運びするのはご本人にも負担になると思われます。皆さんの分の寝台もご用意いたします」

 フェフェリの言葉に、それもそうかと思わされた。折角落ち着いたシェルを外に連れ出すのは、気が退ける。そのうえに、怪我人の搬送は目立つだろう。いくら夜でもイユたちは『異能者』である以上、極力身を隠すべきだ。

「それなら、お言葉に甘えるとするか。だが、そうなると、お前たちの主には顔ぐらい見せるべきだと思うが」

 レパードの提案に、明らかにワイズが苦い顔をした。

「……行きたくありませんが、ついていった方がいいでしょうね」

 その言葉に、フェフェリが困ったような視線を向ける。

「ワイズ様、……ジェシカ様のことがお気に召さないでしょうか」

「どちらかというと、僕ではなくてジェシカの方が、だと思いますが」

 フェフェリの眉はこれ以上下がらないのではないかと思うほどに下がり切った。

「そんなことは無いとは思いますが……」

 何だか気になる会話である。イユたちは大人しく二人のやり取りを聞きながら、首を捻った。ワイズが嫌がる以上、決して油断はできない相手だろう。屋敷の主なのだから、ジェシカというのは『魔術師』だ。恐らくはマゾンダの街を統治している。

「そのジェシカ様という人には、すぐに会えるの?」

 クルトの言葉に、二人は頷いた。

「今は勉学の時間ですからね、むしろ大歓迎でしょう」

「皆さまさえよろしければ、すぐにご案内いたします」

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