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カルタータ  作者: 希矢
第八章 『手繰り寄せて』
372/992

その372 『目的推測』

「それなら、次の目的地はシェパングということね?」

 克望という名が、イユとレパードの間で上がり、見えなかった道がうっすらとだが、浮かんできた。声に期待すら込めて、そう断言すると、レパードもまた、頷いた。

「あぁ、シェパングまではギルドで乗り合いができるよう、手続きは済ませてある」

 さすがに早い。何が、リュイスの行き先が分からない、だ。リュイスを追いかけるために、レパードはレパードでしっかり動いているではないかと、言いたくなった。

「問題は、シェパングのどこにいるかだ」

「克望のいる場所でしょう?」

「そいつは、どこにいるんだ?」

 レパードの質問に、イユは戸惑う。

「知らないわよ」

『魔術師』が普段いる場所といったら、それぞれの屋敷だろうか?しかし、リュイスだけならともかく、セーレの船員たちも屋敷に連れ込んだというのは、考えにくい気がした。いくらなんでも目立つのではないかと思ったからだ。しかし、相手は『魔術師』だ。権力でもって、周囲の人間の口を封じることもできる。逆に、屋敷以外の広い場所を貸しきって、そこに閉じ込めておくことも可能だ。

「そもそも、連中の目的がよくわからん。『堕ちた島の姫の供物』とは何のことだ?」

 供物なんて響き、絶対によからぬことを企てているに違いないと断言できる。しかし、レパードの言いたいことも分かった。カルタータに、彼らは何を見ているのだろう。

「堕ちた島って何を指すのかしら?」

「カルタータか?」

 イユの疑問に、レパードも確証はないようで、疑問で返す。

「俺らが十二年前、カルタータから脱した際、あとでカルタータが落ちたと聞いたことがある」

「島が落ちた?船じゃなくて?」

 飛行船なら、飛行石の燃料が切れて落ちるという話は聞いたことがあった。しかし、島は、聞いたことがない。

「島も、結局は飛行石によって浮いているんだ。飛行船とは比べ物にならないぐらいの量の飛行石だがな」

 それが一気に燃え尽きれば、確かに尽きることもあるのかもしれない。島が落ちるという話は、イユを不安にさせた。今まで地面は、安全だと思い込んでいた。ところがそれは、イユの勝手な思い込みだった。飛行石には寿命があるのだ。この世界に浮かぶ島は、いつかは全て沈む。

「とにかく、カルタータが何らかの理由で落ちたのは事実なわけだ。『堕ちた島』というのは、単純にカルタータを指す可能性はあるだろう」

 少なくとも俺は、この十二年間、カルタータ以外に島が落ちたという話は聞いたことがない、と補足される。

「それが一番あり得そうとして、カルタータの姫の供物ってことになるけれど」

 そんなものが存在するのだろうか。そもそも、カルタータは滅んで、その生き残りがセーレにいる面々だったのではないのか。

「姫巫女という者がいると、聞いたことがある」

 神殿の中央で狩人が獲物を捧げる風習に、姫巫女がカルタータを統治しているという話をされたと。イユはその内容に、思わず突っ込みたくなる。

「まんまじゃない。それなら、カルタータの姫巫女が供物を欲しているってこと?」

「おいおい、神殿はもう落ちて、存在していないんだぞ?今更何を欲しているんだ?それに、その話だとリュイスは人間なのに供物にされるのか?カルタータで捧げているのは、あくまで鳥や獣の類だったぞ」

 レパードの否定に、イユは自分の眉間に皺が寄ったのを感じた。

「与える獲物が動物じゃ足りなくなったんじゃないの?」

「仮にそうだとしても、なんでシェイレスタやイクシウスの『魔術師』が、カルタータの姫巫女の手伝いをしているんだ」

 そんなことを言われても困る。イユも、全て推測で語っているのだ。

「そんなの、知るわけないわよ」

 むっとして言うと、「悪い悪い」とレパードが謝る。

「明らかに情報が足りないな。この辺りのことを調べたいんだが、さてどう当たるべきか……」

 カルタータの伝承に詳しいのは、ほかならぬカルタータの面々だ。だが、今回はその面々がいない。

 そのとき、トントンと、ノック音がした。薄暗い部屋の中で、小さなはずのその音は不思議と響く。

「誰だ?」

「ギルドの者です」

 レパードの声に、女の声で返事が返る。イユはすぐにフィルムを収め、カメラを鞄のなかへしまった。扉を開けられてしまったら、フィルムが光を浴びて更にダメになってしまう。これ以上劣化されると、イユでも読み解けない。

 それにしても、何の用だろう。この部屋に入ってからそう時間は経っていない。追い出されるにしてもあまりにも早い。

 ガチャリと扉が開き、顔を覗かせたのは茶髪に赤いリボンが映える受付の女だった。

「失礼します」

 礼をすると同時に、ポニーテールにした髪が僅かに揺れた。再び顔を上げた受付嬢が声を張る。

「先ほど、ワイズ・アイリオール様からお呼び出しがありました。すぐに屋敷に来られたしとのことです」

 イユとレパードは思わず顔を合わせた。これが、イルレレならわかる。しかし、ワイズの指名先は屋敷だった。そもそも、この街にワイズの屋敷があったことを知らなかった。同じように、レパードも知らないようだ。

 受付嬢は、イユとレパードの視線に気付いた様子はなく、続けて述べた。

「なんでも急患として運ばされた者が、皆さまのご関係者であられるそうです」

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