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カルタータ  作者: 希矢
間章 『そして、底から』
359/992

その359 『勧誘と目的地』

 ヴェインはイユのことをつま先から頭のてっぺんまでじろじろと見つめた。その視線に居心地の悪さを感じ、睨みつけてやる。

「何よ?」

 ヴェインのにやにやとした表情は変わらない。その表情のままに、発した。

「あんた、『スナメリ』に入るつもりはないか?」

 その言葉に、イユよりも周囲のシリエとアンナが飛び上がった。シリエなど、「ヴェインさん?!」と動揺を声に出している。

 イユ自身も、ヴェインの意図が分からず、聞くしかなかった。

「いいの?私は『異能者』かもしれないのよ?」

 あくまで強気に聞くイユに、ヴェインもまた譲らない。

「なぁに。味方側にも危険があった方が、メリハリがでて楽しいだろ?」

 この男の頭のねじは、実は一本や二本飛んでいるのかもしれない。会ったばかりの『異能者』かもしれない少女を相手に、いきなりギルドに勧誘する頭を疑う。

「賛成しかねるね」

 ヴェインの隣で、アダルタが反論した。それを受けたアンナとシリエがほっとした顔をする。

「握ってみな」

 ところが、アダルタがそう言って渡してきたのは、一本のナイフだった。投げられたそれを辛うじて受け取る。どういう意味かを図る余裕もなかった。とりあえず受け取るだけで精一杯だったイユに、アダルタが一瞥する。

「どう見ても素人同然だ。こんなのは、『異能者』だろうがなんだろうが、すぐに死ぬよ」

 あくまで、『異能者』だから止めるのではなく、ナイフの腕を見ての判断らしい。そう思うと同時に、イユは、反論したくなる気持ちを抑えた。確かに、まともにナイフを使ったのは、アズリアの飛行船に乗り込んだときぐらいなものだ。セーレはなるべく全員が戦えるようにナイフの扱いを教えているが、イユに限っては異能があるので、試してもいない。それよりは字の勉強に船の手伝いをして過ごしていた。

「どうせ、雑用ぐらいしかやってきてないわよ」

 柄の方をアダルタに向けて返せば、アダルタは大人しく受け取った。

「その割に、手は荒れていないようだね」

 鋭い女だ。イユは内心舌打ちしたくなった。イユの手は、荒れることがない。荒れてもすぐに異能で治してしまえるからだ。だが、異能があるから綺麗なままだというわけにもいかない。

「そういう体質なのよ」

 もう少しまともな言い訳ができたら良かったが、思いつかないのだから仕方がない。イユの言葉に、誰も納得した顔をみせないのが辛いところだ。

「アダルタの許可が下りないんじゃ仕方がないな。諦めるとするか」

 ヴェインの言葉に、イユは「そもそも」と付け足した。

「私はすでに今のギルドで満足しているの。入るつもりはないわよ」

 それにアダルタがぼそりと呟く。

「物好きなギルドもいたものだね」

「今、私を勧誘してきたギルドにだけは言われたくないのだけれど」

 思わず突っ込んでしまったところで、「あいつがおかしいだけさ」とアダルタに反論された。やはり、ヴェインがおかしいだけらしい。納得の表情を浮かべたイユを見てか、ヴェインがお手上げだというように両手の平を天へ向けた。

 そこに間が訪れる。シリエがたまりかねて、おずおずと切り出した。

「えっと、とりあえず皆さん。中でお話しませんか?」


 不穏な挨拶で始まった五人だったが、テーブルにつくほどには意外なほどに穏やかな雰囲気があった。妙な勧誘騒ぎが逆に、空気を和ませたこともあったのだろう。

 そういうわけで、一行は、一旦船内に入り、テーブルを囲んでいる。テーブルに並べられたのは、一枚の地図だ。

「船にも乗ったことだし、場所を聞きたいわ」

 挨拶のあと、そう発言したのはアンナだった。アダルタもヴェインも『スナメリ』のなかでは大物だが、あくまでこの船のリーダーはアンナだ。お手並み拝見といったようすで二人が見守るなか、アンナ主導の会議が始まった。

「早速だけど、大蠍とはどこであったの」

 地図で示せと言うのだろう。それは、難しくないかと疑念が沸く。砂漠の地図などあってないようなものだ。

「どこが、マゾンダになるのよ」

 アンナはすぐにある山脈を指差した。

「ここよ」

 それは、地図の三分の一は占めそうな長い山だ。こんな場所を歩いていたと思うと、気が遠くなった。

「シェイレスタの都は?」

「それは、こっち」

 示されたのは山から少し離れた位置にある四角形の建物だ。都を囲んだ壁の様子が、見事に地図に書き表されている。

「マゾンダに入るための洞窟の位置は、どこになるかしら」

 イユの質問に、アンナの手が止まった。

「いくつかあるけれど、それを聞いて場所が分かるの?」

 イユは、首肯した。

「分かるわ。大蠍に襲われたとき逃げ込んだ先がその洞窟だもの」

 イユの言葉に、言われた意味がわかったようでアンナが眉をひそめた。

「つまり、ここから近いと」

「そうよ。だから、先に大蠍のいる場所に案内するわ。その後で私の向かいたい場所に行ってもらう」

 テーブルの反対側にいるヴェインのにやにや顔が、崩れない。一方のアンナは終始しかめっ面である。その顔には、はっきりと騙されたと書いてあった。

 心外な。イユは心の中で反論する。場所がいくら近くであろうが、いたのは事実なのだ。だましたつもりは毛頭ない。

 アンナに示された洞窟の位置から、イユは大体のあたりをつけた。指示した場所を、シリエがくるりと丸で囲む。

「ヴェインさん。早速ですが、操縦をお願いしてもよろしいですか?」

 アンナの言葉に、イユは目を剥いた。アンナが船長というから、勝手にアンナが操縦すると思っていたのだが、違ったらしい。

 にやにや男は、「もちろんだ」と自慢げにその仕事を引き受けた。

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