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カルタータ  作者: 希矢
第七章 『日常は終わりを告げる』
223/991

その223 『レパードらの捜索』

 イユとリュイスは人の隙間を縫いながら、カウンターへと近づく。こんな時間でもカウンターにはきちんと人がいた。行き場をなくしたギルド員たちの溜まり場ではなく、ギルドとして正しく機能していることにほっとする。

「すみません」

 一足先にカウンターに近づいたリュイスが、そこにいた男に声を掛けた。金髪の巻き毛が印象的な男だ。

「言伝が入っていませんか」

「こちらに、言伝番号とギルド名をお書きください」

 リュイスは渡された紙とペンを使って、セーレの言伝番号とギルド名を記す。番号で管理しているのは、ギルドの数が多すぎるからだそうだ。ここにいる溢れんばかりのギルド員を見れば、納得がいった。

「確認してまいります」

 記入の終わった紙を受け取って、男がカウンターから下がる。少しして、封筒を手に持ってきた。

「代表者レパード様のギルドでお間違いないでしょうか」

「はい」

「それではこちらをどうぞ」

 封筒を渡されたリュイスはそれを丁寧に開けていく。中から出てきた用紙は綺麗に折りたたまれていた。リュイスが開けるのに合わせて、イユも乗り出して、中身を確認する。

 文字は勉強中でも、セーレ内の暗号は身についている。今回は、はじめの文字が、三日月の印になっているから、下から上へと文字を追っていく。二つ目の文字が階段になっているので、段落のはじめの文字は段落数にあわせて飛ばして読む必要がある。

 面倒なことだと思うが、セーレではこれを徹底している。マレイユやシェルが言うには、他のギルドも似たようなものだという。言伝番号だけではギルドの情報が漏れることがある。機密が漏れてもいいギルドはそのまま言伝するかもしれないが、大抵のギルドは機密を扱う機会がある。ものづくりに関するギルドなら新しい商品の情報、市民の困りごとを解決することが目的のギルドなら依頼主の顧客情報、魔物狩りギルドなら特殊な魔物の倒しかたといった具合だ。

「……これは、レパードから刹那に宛てているようね」

 イユが解読する限り、返事ができる状態であればギルドに書き置きを残すようにとの内容が書かれている。イユたちが助けにくるとは思っていないようで、閉鎖された都を抜け出す手段も同時に探すとあった。

「そうですね。二人がまさかはぐれているとは思いませんでしたが……」

 これは凶報だろう。一体何があったか分からないが、探す手間が二倍に増えた。

「とりあえず、僕たちのことを報せましょう。ギルドに三時間後に来ると記しておきます」

 すれ違いにならないように、あらかじめ時間を決めておくつもりらしい。リュイスの判断は、こういうとき信頼できる。イユは頷いた。

「任せるわ」

 リュイスが言伝を頼んでいる間に、イユも男に近況を聞いておく。壁を越えて都に侵入したとは言えないので、それは伏せ、仲間を探しているとだけ伝えた。二人の特徴を挙げて、男の反応を見る。

「あのお客様でしょうね」

 男は思い当たったようだ。

「確かに、銀髪のお子さんをお探しのようでした。恐らく情報収集目的でしょうが、酒場に行くと仰っていました」

 早速目撃情報を手に入れて、イユは内心ガッツポーズをとる。これは有力な情報だろう。

「ただ、私がそれを聞いてから六時間は経っています」

 酒場でいくら何でも六時間も時間をつぶすとは思えない。間違いなく既に移動しているだろう。しかし、こうやって痕跡を追っていけば、レパードに近づくことができるかもしれないとも思う。きっとこんな時間まで歩き続けるはずもないから、どこかで休んでいる可能性もあった。それならば、追いつけるだろう。

「この辺りで、寝ているということはないのよね?」

 可能性としては高そうだと、気づく。ただ、ごったがえしたこの中を探すのは骨が折れそうだ。

 受付の男が情報を持っていないかと期待したが、彼はにこりと笑うだけだった。

「リュイス、まずはこの中を探しましょう」

 言伝を頼み終わったリュイスに話し、ギルド内を二人で探していく。足の踏み場もないほどの場所を跨いで、一人一人顔を確認していると、一人の男にぎろりと睨まれた。睨み返してやると、リュイスが慌てて戻ってきて、頭を下げてからイユの腕を引っ張る。睨まれたのだから睨み返しただけなのに、低姿勢すぎやしないかと少しむっとする。

 そんなちょっとしたハプニングもありながら、ギルド内を一周する。結局、二人の姿は見つからなかった。

 あの二人なら、わざわざ宿は取らずにギルドで仮眠している可能性は高いと思っていただけに、肩透かしだ。

「酒場に行きましょう」

 こうなれば、目撃情報を順に追うべきだろう。ギルドでただ待つよりは、ずっと有意義だ。

 ところが、受付の男の話をした途端、リュイスの目が丸くなった。

「レパードが、酒場にですか?」

 何がそんなにおかしいのだろう。イユが首を傾げるのに、リュイスは口をつぐんだままだ。こういうとき、必ず解説をいれてくれるのに不思議だ。

「何かおかしなことでもあるわけ?」

 追及するイユに、リュイスがようやく躊躇いがちに白状する。

「レパードはその、……お酒が苦手なので」

 イユは思わず噴き出した。レパードの特徴といえば、眼帯に、顔に入ったいくつもの傷、それに何よりあの鋭い眼光だ。それに、赤い羽の帽子に、前がはだけた服といい、いかにも空賊をやっているような外見もしている。そんな男が、まさか酒を苦手とするなんて到底思えない。

 イユにとってのとんでもない新発見に、これは早く見つけて、からかってやらねばならないと心に決める。

「それじゃあ、酒場を探しに行きましょう」

 宣言するイユに、リュイスが待ったを掛けた。

「その前に、一つ確認させてください」

 カウンターへと戻り、先程の受付の男に声を掛ける。

「あなたが見たという僕たちの仲間は、手紙を送ってはいませんでしたか」

 その言葉に、受付の男がにこりと笑みを深めた。

「はい、確かに送られていましたよ」

「その手紙はいつ届くことになりますか?ここから少し離れた場所なので、伝え鳥ならばすぐだと思いますけれど」

 イユは、リュイスと受付の男とのやり取りに首を捻る。そんなことを聞いてどうするのだろう。

「手紙の配達は都の封鎖に合わせて止まっています。封鎖が解除されればすぐでしょうが、こればかりはなんとも言えませんね」

 伝え鳥も、人と同じように出入りを禁じられているとは、中々厳重だ。だからペタオは戻らざるを得なかったのだと気づかされた。

 リュイスが隣で考えるような仕草をしている。

「閉鎖の理由は知らされているのでしょうか」

 イユは焦った。下手な質問は、イユたちが外から侵入したことをばらすことに繋がるかもしれない。住民たちは知っているのだろうから、イユたちが聞くべきでないのだ。

「いいえ。私たちにも知らされておりません」

 イユの焦りに対して、男の返事はあまりにも自然だった。まるで知らないのが当たり前のことのようだ。

「随分身勝手なのね」

 閉鎖をしているのはシェイレスタの兵士たちだろう。イユの意見に、男はにこりと笑った。

「上の方々のお考えは、私たちには到底わかりかねますから」

 肯定とも否定とも取れない、さらりとした言葉に、イユはこれ以上の言及を避けた。下手なことをいうとぼろが出る気がしたのだ。

「イユ、そろそろ行きましょう。お話、ありがとうございました」

 リュイスの合図で、イユはカウンターから遠ざかる。リュイスが丁寧に、男へと会釈していた。

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