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カルタータ  作者: 希矢
第七章 『日常は終わりを告げる』
208/992

その208 『出立』

 そして、イユたちはとうとうシェイレスタのある大陸に踏み込んだ。見つけたとき蜃気楼にぼやけて見えていたそれは、ここまで近づくと地平線にまで続く巨大な砂漠となる。ここから都までは、きっと目と鼻の先のはずだった。

 船がその大地に乗り上げた途端、熱風がセーレを焚きつける。おまけにその風は砂をセーレに運び、気づけば甲板が黄色く染まっていた。

 地面より高く飛んでいるにもかかわらず、灼熱の大地がイユたちから水分を奪った。ただでさえ水不足なのに、飲み水が欲しくてたまらなくなる。船員たちは少しでも乾きを抑えるため、見張りを残して甲板から去ることになった。

 それでも、見張り台は甲板に比べれば幾分かマシだった。きっと、地面から離れれば離れるほど涼しくなるのだ。それならば、より上空を飛べばよいといいたいところだが、飛行石が不足しているセーレにとってその選択肢はなかった。

 また、見張り台にいても長時間の滞在は厳しい。短い時間で船員たちは入れ替わった。そうなると人数に余力はない。普段は三人で見張り台にいることもあったイユも、今はリュイスと二人で停泊地点を探している。リュイスも風の魔法を使い少しでも船を推し進めながら、双眼鏡を握っている。

 それにしても、停泊地点を見つけるのは至難の業だった。太陽の光をまるで鏡のように反射させる砂は、ただ眩しかった。異能で視力を調整してもよかったが面倒になったイユは、リュイスとともに双眼鏡を握ることにした。双眼鏡上で減光フィルターをつけてしまえば、探すのはだいぶ楽になった。とはいえ、目に負担がないだけで、砂には悩まされるままだった。口の中に入り込んで、ジャリジャリ言うのも嫌だった。それに、砂ばかりの大地は中々に単調で変化がないのも辛かった。よくよくみれば砂は風に吹かれてその姿を変えていっている。だが、新しい大陸に近づく度着陸地点を探してきたイユとしては、その色合いは黄色一色であまりにも違いがない。まだ空の方が雲の形が変わる分、面白みがあった。暑さで頭がぼおっとしてくる中、汗を必死に拭って目を凝らし続けた。

 交代の合図が入ると、イユたちは一目散に船内に駆け込んだ。船内は甲板に比べれば、幾分か涼しい。汗を拭き取りながら、イユは自身の新たな装いが既に黄色に染まっていることに気がつく。砂を払いのけながらも、げんなりする。大切にしたいと思ったそのすぐ後での、この仕打ちだ。リーサへの申し訳なさに頭が痛くなる。

 それから数時間して、シェルから都が見えてきたという連絡が入った。

 やはり砂漠だらけで、都までの間に停泊できるような場所はないのかもしれないとイユは思った。だから初めから、ブライトの言う通りにしておけばよかったのだと。そう考えると、イユたちがやってきた今までの努力が全く無駄のような気がして、余計に気が滅入った。

 ところが、その後にミンドールから停泊地点を見つけたという連絡が入る。時刻は夕暮れ近く。砂漠の熱さが引いてくる頃合いで、それは見つかった。ミンドールが言うには、砂漠を縫うように、台地が現れた。その中に身を隠せる場所があるかもしれない。そう思ったミンドールが、同じ見張り台にいたマレイユと探すうちに、とうとう見つけ出した。山のように連なったそこを抜けていくうちに、偶然洞穴のような窪みがあったのだ。そこには魔物がいる形跡もなく、都からそこまで離れているわけでもない。セーレをすっぽりと覆うような大きさのうえ、同時に熱風を防ぐ盾となる。これ以上ない条件に、誰からも反論の声は上がらなかった。セーレはすぐに着陸地点へと向かった。

「もうすぐ、都だからな。お前は一度支度をしに、部屋に戻れよ」

 レパードに言われて、イユは荷物をまとめだす。夕暮れの今、ここから歩けば都に着くのは夜中だ。物資の調達をするのであれば、都で一晩明かして朝から買い出しに行くしかない。イユは服を着替えるか悩む。今ある一着だけで済ますか、明日の朝、リーサに見繕ってもらった服を着るかだ。リュイスの話では、夜の砂漠は冷えるらしい。悩んだ末、今の衣服に上着を着る形をとることにした。

 それから他の荷物を手早くまとめていく。ただ、まとめると言ってもイユの持ち物はそんなに多くない。所持品を全て詰め込んでも、大した量にはならなかった。

 絵本をぺらぺらとめくりながら、レパードたちを待つ。セーレは着陸地点に到着した頃だろうか。廊下からばたばたという足音が聞こえてくる。気持ちがざわついて、絵本を読んでいてもさっぱり頭に入らなかった。

 そのせいか、レパードが再び扉を開けた時には、イユはその扉におでこを打ちつけかけた。足音を聞き付けて、扉まで駆け込んだせいだ。

「あぁ、悪い」

 謝るレパードに、文句は言えない。今回ばかりは自業自得だ。気にしてないという合図を送りながら、イユは扉の外の様子を見る。廊下で並んでいるのは、リュイス、それに、刹那、そして、ブライトだ。

「やっほー、久しぶり!」

 顔を覗かせたイユを見て、ブライトが大きく手を振った。それに返しながら、イユはブライトの様子を観察する。見る限り少し痩せただろうか。尖りがちな顎が更に尖ってみえた。また、全体的に若干薄汚れてもいた。水不足なのもあって、ブライトも風呂には自由に入れなかったのだろう。

「本当に、久しぶりね」

 それでも、顔を見ると気が楽になった。ブライトが無事なのは知っていたが、こうしてブライトがここにいるだけで安心感があるのだ。

 それから、イユはもう一人を見やった。

「刹那も行くの?」

 こくんと、頷かれる。

「絶対行くってお願いした」

 刹那が、絶対などという表現を使うとは珍しい。しかし、刹那がいれば、確かに買い出しは楽になる。レヴァスか彼女がいれば、何より薬の類も補充がきく。怪我人がまだいることを考えればレヴァスが居残り、刹那が出掛けるのは納得がいった。

「それじゃあ、行きましょう」

 イユの声に合わせて、五人は進む。よくよく考えれば、スズランの島にいたときと同じ人選だ。そのせいか、都にスズランの島と同等の脅威が待ち受けているような気さえした。それでも、これでようやく、イユたちは目的地に着く。長い旅の終わりが見えてきた。

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