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カルタータ  作者: 希矢
第七章 『日常は終わりを告げる』
180/990

その180 『イユの勘違い』

 部屋に引き上げようとしたところで、イユとリュイスは駆け付けてきたラビリに呼び止められる。

「イユ、イユ!ちょっといいかな」

「何?」

 先ほどまで一緒にいたのだ。それなのに改めて何かあったのだろうかとイユは首を傾げる。

「うん、改めてお礼を言っておこうと思って」

 イユの首はかしげたままになる。思いつくことがなかったのだ。

「初めて見たよ。リーサがあんなに自然に楽しそうだったの」

 ラビリもまたリーサのことを気にしていたのだと実感した。考えてみればそうなのだ。ラビリは『魔術師』の見習いになるまでセーレにいた。人形のようだったリーサを知っているはずである。

「それに、クルトもようやく女友達ができたみたいで」

「女友達?」

 その言葉に違和感を感じた。

「うん。リーサがあんなんだったからって言ったら悪いけれど、ヴァーナーとかレッサばかりに懐いちゃって、自分のことを『ボク』とか言っちゃう始末でしょう?まぁ、男勝りなのも悪いこととは言わないけれど、私としてはちゃんと女の子っぽい楽しさも見出してほしいというか……」

 イユは段々頭を抱えたくなった。どうにもイユの認識とラビリの語る理想像に反故がある。こめかみに手を当てながら、イユは考えうる自分の勘違いを口にした。

「クルトを大切に思っているのね。その……、妹だから」

 ラビリがそれに真剣に頷く。

 その顔を見てしまうと、てっきりついさっきまで弟だと思っていたとは口が裂けても言えず、イユは必死に今まで抱いていたクルト像を訂正していく。

「良い友達になってくれそうで本当に良かった」

 そう笑うラビリに、イユはちくっと心を刺された。だが、ラビリはイユのことを知っているはずである。

「いいの?私、『異能者』だけど」

 ラビリはヴァーナーと違って、イユが『異能者』であることに目くじらを立てなかった。

「知っているよ。でも、そんなことを言ったらリュイスは『龍族』だし、私なんて『魔術師』の見習いだし、そうやって区切っていったら、きりがないかな」

『区切る』とラビリは表現した。同じ人を、『龍族』、『異能者』、そして『魔術師』という境界で、『区切る』と。ラビリの考え方の根本に、元々は全て同じ人であるという認識があることを意識させられる。イユと違い、ラビリは枠に囚われない人間だと悟った。そういう広い心が、イユも欲しい。

「むしろ、ごめん。私の手紙で、逆に酷い目に合わせたって聞いた」

 それが占い師のシーゼリアのことを指しているのだとすぐに分かった。イユはかろうじて首を横に振る。薄暗くて助かったと思った。名前を思い出しただけで、表情が強張った自分に気が付いたからだ。早く話を逸らさなくてはと考え、話題を口にする。

「クルトはそういうこともきちんと伝えているのね」

 イユの言わんことを察して、ラビリは頷いた。

「常に手紙では本音で話すようにって決めているからね」

 クルトが気を遣ってラビリの提案のおかげでいいことがあったと書く選択肢もあったはずだ。しかし、この姉妹の間にはその手の気遣いはないらしいことを改めて意識する。

「仲の良い姉妹ね」

 下手に気を遣い合うよりずっと付き合いやすそうだ。

「まぁ、自慢の妹だしね?」

 ラビリはそうウインクしてみせた。

「折角だから聞いてもいいかしら」

 今度はラビリが首を傾げる番だ。

「どうして、『魔術師』の見習いになろうと思ったの」

「聞いていない?『魔術師』の動向を探ろうと思ったっていう話」

 確かにイユは概要については聞いた。しかし聞きたいのはそこではない。

「聞いているわ。それでも、あなたには妹がいるわけでしょう?いくら必要なことだからって離れて、一人で『魔術師』の元にいる。その心意を知りたかったの」

 イユの言葉ではうまく伝えきれているか心配だったが、ラビリはそれを聞いて頷いてみせた。

「……一緒にいるだけじゃ守れないって思ったから、かな」

「守れない……?」

「そう。長話になってもいいなら、お話するよ。イユの部屋に行こうか?」

 イユが思わずリュイスを見やると、彼は頷いてみせた。

「僕は部屋の外で待っていますよ。何かあったらすぐに駆け付けますから」

 この場合警戒されるのは『異能者』のイユのはずなので、駆け付けるという言葉は何か違うような気もしたが、ひとまず話の場は確保できた。

「お願いするわ」

 時間は無限ではない。ラビリは折角姉妹が一緒にいられる時間を削って、イユに割いてくれるのだ。

 それだけ大切な話を聞かせてもらおうとしているのだと、イユは心を引き締めた。

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