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カルタータ  作者: 希矢
第六章 『捕まえた日常』
153/992

その153 『そして合流』

(アルティシアってどの辺りだったかな……)

 ランド・アルティシアの名前はブライトもよく知っている。ギルドが作った遊園地。そう言えば聞こえはいいが、あそこで設けた資金の半分以上はイクシウスへ渡っているはずだ。そのためのアルティシアの名なのだから。

 孤児院の横を通り、酒場へと到達する。酒場の前は人がごった返しているおかげで、誰もブライトの姿を目に留める者はいない。

 最も、全力疾走していれば目立ったかもしれない。だが、もとよりブライトにその体力はなかった。すでに息を切らせながら、路地を駆け抜ける。そこで、異変に気が付いた。

 はじめに耳に届いたのは女の悲鳴だ。続けて、逃げろという男の声。それに合わせて人の波が押し寄せてくる。

 波に息が詰まりそうになりながらも、何とか押しのけて進む。十中八九、ここでのトラブルはセーレに絡んでいる。つまり、この先に目的の人物がいるはずだ。

 人の流れをようやく抜けた先に、イクシウスの兵士を見つける。国王が崩御したと聞き及んでいることから、国王直属の部隊ではないことはわかる。

(どこの『魔術師』の?)

 知りたいのはそれだった。この機会に敢えて動いた人物。それは、大きな意味を持っているに違いない。兵士に近づくべく、階段を下りる。その先で、聞き慣れた声を拾った。

「イユ……!」

 リュイスの、悲鳴に近い声だ。

 呼ばれた人物の名から、無残な想像が沸き起こる。迷っている場合ではない。折角手紙を送ったというのに、やはりなしですというのは失礼というものだろう。

 ブライトは躊躇わなかった。人々がごった返している中で、法陣を描き始める。

 幸い、近くに張り付けてあったポスターに刃を入れ始めたブライトの行動が奇怪に映ったのか、誰にも呼び止められずにすんだ。

 完成した法陣を、すぐに兵士に向かって展開する。途端、法陣から光が発せられ、それが兵士たちに向かって弾ける。空気を変換させて、火花が発せられやすい状況を故意に呼び起こすことに成功したのだ。

 炸裂した火花が、混乱を生む。悲鳴がさらに悲鳴を呼び、まだ残っていた数名の民間人たちが慌てふためいて逃げ出す。

 その隙にと、もう一枚のポスターにも刃を入れる。酒場のポスターだろう、全面をビールの写真で埋めた絵に、切れ目が入る。

(今から出すのは、ビールじゃないけどね!)

 イクシウスの徴兵はいくつからだったか、と記憶を辿る。残念ながら思い出せない。とはいえ、確かイクシウスは二十歳で成年になれたはずだから、兵士の中には未成年がいるはずだ。そうであれば、お酒は出さないというブライトの気遣いにきっと感謝することだろう。

 魔術を放ちきれば、途端にポスターの絵からちょろちょろと水が、漏れだした。

 それを見ていたのは、残っていた民間人の一人だ。シャッターの眩しい光が放たれる。

 ヴェレーナの街が近いから、カメラを持っている人がヴァーナー以外にいてもおかしくはない。

『魔術師』は見世物じゃないのだけれどと思いつつも、ブライトはカメラを持っている民間人の方を振り返った。

 二十歳ぐらいの男だ。首から紐が垂れていて、その先に問題のカメラがぶら下がっている。ヴァーナーが持っていたものよりも、一回り小さいが、代わりに新しそうだ。

 忘れずに、笑顔を振りまきピースをしてやる。

 その背後で大量の水が溢れて出したのがいけなかったのか、男は慌てたように踵を返して逃げ出した。

 残念、どうせ写真撮影をされるなら、笑顔のシーンを撮ってほしかったものだ。

 男を諦め振り戻れば、ちょうど水が兵士へと流れていくところだった。いい具合に混乱した声があがる。これならばどうにかブライトの体力でもいけそうだ。

 余っていたポスターを破り、ナイフを片手に走り出す。走りながらナイフでポスターを切り、法陣を作った。

 火花があちらこちらで炸裂する。ポスターがぼろぼろになる頃、ようやく目当ての一行を捉えた。

 何やら知らない間に、レパードが綺麗な女の人をお姫様だっこしていて、意外と抜け目のない奴だと感想を抱く。

「こっち、こっち!」

 あらぬ方向に行こうとするので、声をかけた。気づいたイユが真っ先にこちらへと向かってくる。

 最後の法陣を作るべく、ブライトは自分の手の甲を切り刻んだ。さすがに応急処置をしたばかりの方の手は使いものにならないので反対の手を使う。両利きで助かったと思うのはこういう時だ。

 魔術を放ち、光を遮断する。外では使いものにならないあの魔術だ。ましてや、インセートの夜の光というものは、月や星だけではすまないから相当に扱いづらい。

 だが、一瞬相手が見えなくなるだけであれば、外で使うのも十分にありだ。

 イユたちが駆けつけてきたのが目に入り、ひとまず安心した。

 ようやくの合流だ。

 一行の驚いた顔が、中々に見物だった。


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