6話 緊急依頼
南門には既に50人ほどの冒険者が集まっていた。
「リーリャよ。ジャイアントードの群れがこの街に向かってるってのは本当なのかい」
「信じたくはありませんが事実です。隣国であるミルバリアより正式な伝達がありました。その数およそ30匹」
「「「「「さ、30!?」」」」」
数人が一斉に切り返した。
「あのーすいません。ジャイアントードってなんですか?」
俺は隣の男性に尋ねてみた。
「お前ジャイアントードを知らないのか?Bランクの魔物の中で1番有名な魔物じゃないか。あいつらこの時期になると出産の為に群れで餌を探すんだ。単独でも厄介なのに30匹なんてもはや災害レベルだぜ。普通なら森の中を移動してるはずだが、よりによってこの街に来ちまうとは」
Bランクの魔物。
レベル70以上の冒険者4.5人でようやく倒せるレベルの魔物だ。
ここアスリル支部の冒険者ギルドは200以上存在する冒険者ギルドの中でもかなり小規模なギルドであった。
今ここにいる者たちの平均ランクはDか良くてもCだろう。
単純計算で100人以上の冒険者で必要であったが、今ここにいる者たちでアスリルにいる冒険者はほぼ全員であった。
「ガルシアさんはいないのか!?」
1人の男が声を張り上げて叫んだ。
「そ、そうだ!あの人がいればなんとかなるかもしれない!」
他の者たちも同調するように叫び辺りを見回した。
「ガルシアさんは今他の依頼でこの街にはいません」
リーリャの答えに先程まで声を張り上げていた者たちは絶望したかのような表情になる。
後から聞いた話だがガルシアは500人いるBランク冒険者の中の32位とかなり腕が立つようだ。
「ジャイアントードの群れは今より30分後に現れると思われます。この街の運命は皆さんにかかっているんですどうか、どうかお願いします」
リーリャが涙ぐみながら今ここに集まったわずか50人の冒険者に懇願した。
「やるしかねぇな」
「あーもうこうなりゃやってやる」
「俺が絶対にリーリャちゃんを守る!」
リーリャのおかげで指揮がかなり高まったようである。
リーリャの人気はすごいな本当。
「だが実際問題どうやって100匹も倒すんだ」
先頭にいた男がリーリャに問いた。
「俺に考えがある」
1人の男が軽く手を挙げ、皆の前に出た。
「俺はダルハラ、剣士をやっている。ガルシアさんほどではないが一応Bランクだ。俺の考えを聞いてほしい。今回は何もジャイアントードを全て倒さないといけないわけじゃないんだ。撃退でもいい。とにかくこの街にジャイアントードを入れることなく遠ざけれることができれば大金星だ」
「だが、一体どうやって」
「ジャイアントードの習性を利用する。ジャイアントードは発情期こそ群れで行動するが、普段は単独で行動している。それ故に指針となるリーダーが存在しない。いわばただ何と無く進行方向を決め、見つけた餌をメスに食べさせているんだ。その上深手を負わされた時は直ぐに逃げる。つまり、数十体に致命傷を負わせ敢えて逃げるように仕向ければ他のジャイアントードもその後をついていき撃退できるはずだ」
「し、しかしそんなにうまくいくのか.....」
「ウワァハッハッハ、その作戦この大魔術師エリーナ=バイオレットの名において必ず成功させてみせよう!」
突如黒のとんがり帽子を被り杖を携えた少女が叫んだ。
「きたぞー!」
あの後謎の少女の介入により、少し話が逸れてしまったのだが結局ダルハラの作戦で皆承諾した。
今回の作戦はこうだ。
まずはジャイアントードが近づいてきたら後衛である、魔術師が一斉に魔法を放つ。
それにより前方を走るジャイアントードにダメージを与える。
この時点で逃げだしてくれれば御の字だが、恐らくそうはいかない。
その時は前衛との白兵戦となる。
前衛が戦っている間後衛の者はサポートと後方にいるジャイアントードへの攻撃をする。
そして今俺がいるのはもちろん後衛だ。
前衛の指揮を執るのはもちろんダルハラであるが、後衛の指揮はというと。
「攻撃準備ー!」
エリーナであった。
後衛、つまり魔術師又はアーチャーである者は俺を含め14人。
エリーナが指揮を執る事に反論する者は誰もいなかった。
というか、皆エリーナが後衛の指揮を執る事になるであろうと察していたのだろう。
エリーナの掛け声とともに後衛の者は弓・魔法を発動させる準備をする。
俺はもちろんこの数日間幾度と繰り返したファイアボールを発動させる。
俺は目の前に半径1メートルほどの火球を3つ作り出す。
というか未だにこの魔法以外は練習したことがない。
いよいよジャイアントトードの姿がはっきり見える距離まで近づいてきた。
ダチョウのようだが、首は2つあり鋭い爪のついた長い手が生えている。
さーていよいよ開幕だ。
「放てー!」
皆一斉に各々の全力の技を放った。
「グワァァァァァォォ!!!」
先頭の10匹近くにダメージは与えられたがまだ逃げるほどではない。
「撃て撃て撃てーーー!」
エミールは追撃の声を上げる。
エミールは自負するだけあって氷の矢を作り出し、高速度で連続射出していた。
俺も立て続けにファイアボールを発動する。
「おい!お前たち何をしている!」
射撃を放ってから数十秒後、弓を放つ者はいるものの魔法を放っているのは俺とエミールのみとなっていた。
「だめだ、これ以上放ったら魔力切れになっちまう」
他のものも同様の理由であった。
魔力切れ?まだ5回も発動させてないはずだ。
この街の冒険者ってのはそんなにレベルが低いのか?
「攻撃開始ー!」
ダルハラの掛け声と共に前衛が一斉に走り出した。
エミールは休む事なく前衛の者に当たらないように注意しながら魔法を放ち続けている。
俺は前衛をより確実にサポートできるようにするため前へ出る。
「うわぁぁぁぁぁ」
叫び声をした方を見てみると剣を弾かれ、素手となってしまった冒険者がジャイアントードに狙われている。
ジャイアントードがトドメを刺すために爪を振り上げる。
「グワァァァァァォォ!」
間一髪のところでファイアボールが命中。
続けて1発、2発とヒットし炸裂する。
すると先程まで敵意むき出しであった、そのジャイアントードが逃げ出した。
しかし1匹だけでは他のジャイアントードは見向きもしない。
「ジャベリンシャワー!」
突如頭上に現れた無数の氷の矢がジャイアントード目掛けて降り注ぐ。
後ろを振り向くと腕を組みドヤ顔をかましているエミールが目に入った。
今の攻撃で初撃でダメージを受けていた数匹のジャイアントードが逃げ出した。
ダルハラを見ると1人で2匹を相手にしている。
俺はすかさず2匹にファイアボールをヒットさせる。
隙の出来たジャイアントードに剣撃を加えるダルハラ。
2匹とも元来た道を全力で引き返した。
その後も俺は前衛のサポートをしながらジャイアントードにダメージを与え続けた。
そして十数分続いた戦いの幕が降りた。
十数匹目が逃げ出すと、それに一匹がついていった。
するとそれにつられるように残りのジャイアントードも皆踵を返し走り去っていった。
「「「「「た、助かったーーー」」」」」
その場にいた全員が同じ言葉を呟いた。
ただ1人を除いては。
「ウワァハッハッハ見たか!これが大魔術師エミール=バイオレットの力だ!」
エミールは大きくピースサインを突き出していた。
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