4話 魔法
「今回の依頼分の報奨金とギルドカードです」
俺は再び帰路を歩き始め、1時間ほど経てアスリルへと戻ってきていた。
カワツサ草を納品し報奨金を受け取る。
ギルドカードを見るとレベル13になっていた。
「リーリャさんはレベルはいくらなんですか?」
気になっていた事を尋ねてみる。
「私ですか?私のレベルは21と平均的な女性レベルですよ」
普通に生きている女性でもレベル21ぐらいになるのか。
「ちなみにDランクになる人のレベルはいくらぐらいなんですか?」
「そうですねえ。だいたいDランクになる方はレベル40。Cで70。Bで100。Aで150。Sで200ぐらいですかね。あくまで目安程度なのですが」
Sランクになるには200か。
まだまだ先は長いな。
俺は冒険者ギルドを出て、図書館へと向かった。
入場料として銅貨3枚を払う。
図書館といっても本の総数は50にも満たないがそれでも今の俺にとっては宝の山といっても過言ではない。
1つ1つ題名に目を通していく。
『メディル奮闘紀』『亜人対魔物』『ホーンラビットとエッグタートル』
大半が神話や昔話じみたものだ。
それらの中から俺は探していたものを見つけた。
『初心者向け魔道の本』
リーリャに魔法について聞いてみると詳しく知りたいなら図書館にある本を読むことを勧められたのだ。
俺は魔道の本を本棚から取り出し椅子に腰掛けページを捲る。
「すいませんもう閉館の時間なのですが」
役員の方に声をかけられ辺りを見回すと、入館した時には7.8人いた人は皆帰っており、俺は4時間以上も本を読んでいたようだ。
俺は本を片付け、図書館を出る。
宿屋に戻り自室のベッドに腰掛け時計を見て時間を確認する。
夕食までまだ時間がある。
俺は魔道の本の内容を思い出し魔法の練習をすることに決めた。
指の先に小さな火を灯すイメージをする。
そして体内の魔力を放出、そしてイメージ通りの形に収束させる。
本によれば魔法とはいかに魔力をイーメジに近づけれるかが大きな鍵となるようだ。
小さな火、小さな火、小さな火、小さな火。
だめだ、火を出すどころかそもそも魔力を感じることができない。
魔力を放出し、収束するにはまずは自身の体内にある魔力を感知しなければならない。
これを魔力感知能力というらしい。
魔力感知能力が乏しいとそもそも魔法を使うことがままならない。
まずは魔力を感じれるようにならないといけないな。
その後も何度か挑戦してみたが上手くいかず、夕食の時間になったので1階へと降りる。
今日は見慣れない女性が料理を運んでいた。
俺が席に着くとこちらに気づいたのかそそくさと俺の前に立ち軽くお辞儀をする。
「挨拶が遅れてしまってすいません。この店の主人の妻ミシェル=ガディールと申します。お食事の方もすぐにご用意しますので少々お待ちくださいね」
そういうとミシェルはもう一度軽くお辞儀をして料理運びに戻った。
食事を終え、しばらくゆっくりしていたところ気づくと1階にいるのは俺だけになっていた。
そろそろ自室に戻ろうと思ったところマイルちゃんが俺の元へと小走りで近づいてきた。
「ねぇねぇ!アリルお兄ちゃんは冒険者なの?」
「まだ成り立てだけどね」
子供の好奇心というやつだろう。
俺は笑顔で優しく答える。
こう見えても子供は好きだ。
「すいません。マイルがご迷惑をお掛けしてしまって」
俺たちの会話が聞こえたのか厨房からミシェルが出てきた。
「ねぇねぇ、ママもすごい冒険者だったんだよね!」
「ミシェルさんも冒険者だったんですか」
「あららこの子ったら。もう8年以上前の話なんですよ」
8年前まで現役の冒険者だったなんて思わせないほどおしとやかな雰囲気が漂っている。
「Aランクの魔法使いさんだったんだよママは!」
「え、Aランクだったんですか!?」
「えぇ、ほんの一瞬だけだったんですけどね。Aランクになって直ぐにこの子が出来てくれたのでそれを機に私は冒険者を辞めてしまって」
まさかこんなおしとやかな人がAランク冒険者だったなんて。
それに魔法使いだったとは。
「あ、あの魔法について少しお聞きしてもいいですか?」
「私でわかることなら何でもお聞きになってください」
俺は魔力感知について聞いてみた。
「そうですね。魔力感知が得意な方は魔力が今どこにどれくらいの量で漂っているかを正確に把握できるそうなのですが、私も魔力感知はあまり得意ではなくて。
ただ、私の場合は体の中心から溢れでているようなイメージで魔力を感じています。
すいません、抽象的すぎてわかりにくいですよね」
「いえ、とても参考になりました」
体の中心から溢れ出てるイメージか。
よしやってみるか。
俺はミシェルさんに礼を言って自室に戻る。
ベッドに腰掛け再び魔法の練習をする。
指の先に集中させていた意識をまずは体の中心へ。
そして魔力が溢れ出てくるイメージ。
じんわりと体の中心から温かいものが滲み出てくるような感覚になる。
もしかするとこれが魔力か?
このまま魔力を体の外へ。
そして指先に収束させて小さな火ができるイメージ。
小さな火、小さな火、小さな火、小さな火。
ポシュ
「できたーーーーー!!!」
ハッと我に返り口を閉じる。
思わず大声で叫んでしまった。
しかし出来た。
ほんの一瞬の火であったが成功した。
よし、今の感覚を忘れないうちにもう一回だ。
体の中心から魔力を感じ、体外へ放出。
このまま指の先へ収束させて。
ポシュー。
よし!
それにさっきよりほんの少しだけ長くできた!ような気がする。
この調子だ。
チュンチュンチュン
目を開けると窓から朝日が差し込んでいた。
鳥のさえずりで起きるなんて元の世界ではあり得なかったな。
あの後数時間ほどやって寝てしまったんだった。
時間を確認する。
8時40分。
朝ごはんの時間が終わってしまいそうだったので急いで1階に降りて食事をとる。
なんとか、食事は取り終えた俺は一度冒険者ギルドへと向かう。
中に入ると数十人の冒険者が既に掲示板の前にいた。
掲示板に新規の依頼が貼り出されるのは毎朝9時頃であるのでこの時間は新規の割りのいい依頼を探す冒険者で掲示板は埋め尽くされてしまうのだ。
俺は他の冒険者が引くのを待ってから掲示板に貼り出されてる依頼を見る。
カワツサ草の常時依頼は健在である。
改めてよくみて見ると難易度の高い依頼が意外と多い。
難易度B以上の依頼だけで12件も貼り出されている。
内容をみて見ると『グリズリーマザーの討伐』『未開洞窟の探索』『リアリザードの尻尾5本』など確かに難易度は高そうである。
一方俺が受けられるD以下の依頼は8件ほどであった。
うち3つは常時依頼である。
俺は一通り目を通す。
よし、これにしよう。
俺は通常依頼を掲示板から剥がし、受付カウンターへと持っていく。
「アリルさんおはようございます。今日は通常依頼をお受けになられるんですね」
リーリャはいつもと同じように笑顔で俺に話しかける。
これが知人Bに向けられた笑顔なら恐ろしいな全く。
「今日も頑張ってくださいね!」
リーリャはガッツポーズで俺を見送る。
周りの冒険者がいくらかうっとりしているが見なかったことにしよう。
俺はいつもと同じ森でまずはカワツサ草を集め、鞄に詰める。
ちなみにこの鞄は昨日余ったお金で買ったものである。
いつまでも借りておくわけにはいかないからな。
そうしてしばらく森を歩いていると遠くで木の間を何かが動いたのが見えた。
俺はホーンラビトのトラウマがあるものの恐る恐る近づく。
そこにいたのはジャイアントラッツである。
「さてと討伐と行きますか」