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3話 初依頼

「これがカワツサ草か?」


 俺はアスリルを出て北東に1時間ほど歩いたところにある森に来ている。


 一番簡単そうな依頼を受けたつもりだったが

 この世界について無知な俺には非常に困難な依頼となってしまった。


『カワツサ草10本 銅貨5枚』


 これが今回の依頼内容。


 これは常時依頼である。


 常時依頼とは、いちいち毎回依頼を出したり受けたりせず、依頼は出しっぱなしで、冒険者は受注手続きをすることなく勝手に依頼素材を冒険者ギルドに持っていき買い取って貰う形式の依頼である。常に需要がある薬草などはこの形式の依頼が多い。


 何が問題だったのかというと俺は薬草を見分けることができなかった。


 リーリャは『カワツサ草は白い花を咲かせているのですぐにわかると思いますよ』と言っていたが、白い花を咲かせた草を3種類ほど見つけてしまった。


 どれも白い花であるが花びらの形や枚数が全然違う。


 さてどれを持ち帰るか。

 鞄も何もないので持ち帰れるのは50本程度が限界だ。


 こういう時は仕方がない。


 あれしかないな。あれだあれ。


「必殺!ど・れ・に・し・よ・う・か・な・め・が・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り!」







「ご、ごめんなさい〜〜〜!」


 食事をする者たちで賑わっている冒険者ギルドにリーリャの声が響き渡る。


 あのクソ女神を頼りにした俺が間違いだった。


「いえ、カワツサ草を知らなかった僕が悪いのでそんなに気にしなでください。それにまた取ってくればいいだけですので」


 俺は軽く微笑みながらリーリャに告げる。


 しかし言葉とは裏腹にかなり焦っている。


 もうすっかり日が暮れてしまい、今から森に行くのはどう考えても無理だ。


 だが有り金はなく、このままでは野宿することになってしまう。


 それどころか飲み物すら買うことができない。


 かれこれ6時間は何も飲んでいない。


 このまま明日また森まで行くのはかなり骨が折れる。


「あ、そういえば!ちょっと待っててくださいね!」


 リーリャは何かを思い出したのか、慌ただしく席を立ち上がると何やら書類の束をあれでもないこれでもないと次から次へと目を通している。


「ありました!アリルさん、ちょうどさっき通常依頼でハヤハエ草20本の納品依頼が来てまして、アリルさんが採って来てくださったハヤハエ草をこちらの依頼に振り当てるというのはどうでしょうか?

 残りは買取カウンターにてきちんと買い取らせていただきます」


「是非お願いします!」


「はい!」


 俺もリーリャも歓喜の声をあげた。


 俺にとっての女神はリーリャだ。




「それではこちらが報奨金とギルドカードです。あ、それと言い忘れていたのですがギルドカードを紛失しますと再発行に金貨1枚を必要としますので取り扱いには十分ご注意下さい」


 俺はリーリャからギルドカードを受け取り、目を通す。


 アリル=ライオット

 レベル6

 Eランク3020位

 貢献ポイント(15)

 体力D- 筋力D 防御力E+ 俊敏性D 魔力C-


 レベル6!?


 あまりにもレベルが上がるの早すぎやしないか。


 今日は一日歩いて草を採っただけだ。


 それほどまでに最初のレベルはすぐ上がるということか。


 レベル1が赤ちゃんレベルだからまぁそんなもんなのか。


 あと順位が1上がっている。


 順位としては小さな一歩だが私にとっては大きな1歩だ。


 報奨金は銀貨が2枚と銅貨が3枚。


 銅貨2枚分少なくなってしまったがそこは割り切ろう。


 俺はリーリャに礼を言って冒険者ギルドを出た。


 さてと、宿を探さないとな。


 夜の街は家から漏れる灯である程度は見えるが街灯がないため些か暗い。


 しばらく歩いていると"ガディールの宿屋"という看板を見つけ中に入ってみる。


 外観とは似つかず内装はかなり綺麗であった。


 エールを飲みながら楽しそうに食事をしている人達が5組ほどいる。


「いらっしゃーい!」


 俺が辺りを見回しているとカウンターから可愛い声が響いた。


 見るとまだ8歳ぐらいであろう猫耳の少女が俺に向かって元気に手を振っている。


 あれが獣人ってやつか。


 ..........かわいいな。


「マイルの名前はマイル=ガディール!お客さんお名前は?」


「アリル=ライオットです。泊まれる所を探しているんだけど部屋は空いてるかな?」


「空いてるよ!」


「ならそこでお願いします。しばらく泊まりたいんだけどいいかな?」


 元気に頷き、猫耳少女は手元の紙に今の情報を書き写していく。


 "アリルお兄ちゃん ー 日数わからない"


 と書いている辺り子供らしさがあってとても可愛い。


「一泊2食付きで銀貨2枚だよ!朝ごはんは7時から9時、夜ご飯は19時から22時の間に食べてね!お風呂は1日1回だからちゃんと守ってね!それとはいこれが部屋の鍵だよ。二階の奥から3つ目の右手の部屋だよ!」


 俺はマイルちゃんから鍵を受け取り部屋へと向かう。


 中に入ってみるとワークデスクとベットがあるだけの簡素な部屋だったが1人部屋にしては十分だった。


 俺は少し休んだ後1階に降り食事を取った。


 そしてお風呂に入ろうと思ったがその前に着替えを買いに行かなければならない。


 しかしマイルちゃんに聞いてみるとこの時間に、服を売っている店はないそうだ。


 仕方がないので今日は着回しすることにする。


 お風呂も簡素でシャワーというような細工は施されておらず、水道からお湯が出てくる程度のものであったがそれでも暖かいお湯に浴びれるというのはいいものだ。


 風呂から上がり、部屋のベッドで横になる。


 明日は朝から依頼をこなそう。


 だが今のままじゃ一生かかってもSランク1位になんてなれやしない。


 まずは俺が強くならないとな。




「ということで今日も来ました行きつけの森」


 行きつけといってもまだ2回目だが既に愛着が湧いている。


 この森では小型の魔物がたまに出る程度でかなり安全な森らしい。


 ここで今日もカワツサ草採りだ。


 しかし舐めてもらっては困る。


 俺は失敗を糧に何十倍にも成長する男だ。


 そう、今日は何と鞄を持って来たのだ。


 購入するには無理があったので朝からカウンターにいたマイルちゃんに相談したところこの鞄を貸してくれたのだ。


 肩掛けポーチの様な鞄であるがこれがあるだけで持ち帰れる薬草が2倍、いや3倍くらい増えるからな。


 俺は今度は間違えない様にカワツサ草をきちんと見分けながらカバンの中にしまっていく。


 1時間半ほどで100本のカワツサ草を採ることができた。


 作業も終え帰路を歩く。


 すると茂みが揺れているのが目に入った。


 何かいるのか?


 好奇心が掻き立てられ茂みに近づく。


 すると、鳥を咥えたウサギ。


 恐らくこの森に出るという数少ない魔物のうちの1匹。ホーンラビットが飛び出してきた。


 俺が聞いたこの森に生息する魔物は3種類。


 ホーンラビット、ジャイアンツラッツ、スライムである。


 その中でも1番危険だというのがこのホーンラビットである。


 小型の魔物にしては気性が荒く人間にでも容赦なく襲ってくる。


 事実眼前のホーンラビットは今にも俺に飛びかかろうと鋭いツノを俺に向けて狙いを定めている。


 俺はゆっくりと後ろに下がり距離を取る。


 距離にして約5メートル。


 この距離なら急に襲いかかってきても反応できると考えた距離だ。


 俺は頭を総動員させ今自分にできる行動を考えた。


 ①即座に振り返って全力で逃げる。

 ②死にものぐるいで戦う

 ③即座に振り返って全力で逃げる。


 ふっ決まりだな。


 俺は振り返って全力で逃げ出した。


 とにかく走った。


 無我夢中で走った。


 これでもかというぐらいに走った。


 1分ほど走り続けたところで息が切れた。


「ハァ、ハァ、ハァ。........ホーンラビットは」


 恐る恐る後ろを振り向くとそこにホーンラビットの姿はなかった。


 薄々気づいてはいたが、恐らくホーンラビットは初めから俺を追っていなかった。


 それか既に餌を持っていたためか、無様な姿な人間に同情したのかはわからないが何はともあれ助かった。


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