1話 別の世界
「それではアリルさん頑張って下さいね」
冒険者ギルドの受付嬢であるリーリャは優しく微笑みながら俺に言った。
これから俺の冒険者人生が始まる。
絶対にSランク1位冒険者になって屈辱を味あわせてやるから待ってろよあのクソ女神。
ーーー時は遡ること1時間前
ん?ここはどこだ?
「お目覚めになりましたね」
声のする方を見てみると羽衣を羽織った銀髪の女性が椅子に腰掛けていた。
「初めまして、私はこの世界の女神ラミエルと申します。突然ですがあなたにはこの世界で冒険者になってもらいます」
女神?冒険者?
いきなり話がぶっ飛びすぎて全くついていけない。
「何言ってんだこいつって顔をしてますね。それではあなたの足りない脳でもわかるように説明します」
なぜかものすごく馬鹿にされているんだが。
「私はとある女神とゲームをしました。
負けた方は相手の言うことをなんでも聞くと言う条件で。
そのゲームに負けてしまった私は"人間の願いを何でも1つ叶えること"を罰ゲームにされました。
罰ゲームとしては完璧ですよね。女神であるこの私が低俗な人間ごときの願いを叶えてやらないといけないなんてこれ以上の屈辱はありません。何としてもこの罰ゲームを回避したい私はただ叶えるだけでは面白くない、私の世界で最強の冒険者となったらその人間の願いを叶える事にしようと提案しました。
この提案は何とか受け入れられました。
そこで偶然選ばれたのがあなたです。
なのであなたには冒険者になってもらいます」
「待て待て、何で俺があんたら女神様のゲームの賭けの対象になってるんだよ。それにあんたの言うことを聞くのは絶対に嫌なこった。俺の愛する体細胞達が全力で拒絶してやがるぜ。この女神はアバズレだ、従順になるなってな!拒否だ拒否。俺は冒険者になんてならない。わかったら早く元の世界に戻してくれ。ゲームの続きをしたいんだよ」
「いいのですか?元の世界に戻ったら死んでしまいますが」
....................え?
「あなたは居眠り運転をしている車に轢かれて死んでしまったのです。
だから別の世界でやり直しのチャンスをあげよう。さらに見事、最強の冒険者になれたら元の世界で事故を無かったことにしてその上願いを1つ叶えてあげようといっているのですよ。感謝してもしたりないぐらいだと思いますがそれでも拒否しますか?」
「俺........死んだのか?」
「はい。間違いなく死にました」
・ ・ ・
「女神様転生のほどよろしくお願いいたします」
「やっと足りない脳でも理解してくれましね。それでは詳しい説明をしていきます」
いちいち虫に触る女神様だ。
だが、スタイルはいいな。すらっとしたスタイルとは裏腹に豊満な胸ときた。
何でも叶えてくれるってことはこの女神に屈辱を味あわせてやることもぐへへへへ。
「何ですか、その顔は。まるで最強の冒険者になったあかつきにはこの女神に屈辱を味あわせてやろうって顔をしてますよ」
グキッ!
こいつもしかして俺の心が読めるのか。
「私に心を読む力はありませんよ」
絶対読めてるだろ。
「それでは説明していきます。
まず初めに理解しておいて欲しいのがあなたにこれから行ってもらう世界は人間はもちろん魔物や亜人、獣人、エルフなどが存在し、魔法も存在します。
あなたが元いた世界ほど科学技術は進んでおらず、命の危険が常に付きまとう世界です。
もしも死んでしまったらこの話もなかったこととなり、あなたの死因は事故死で処理します。
この場合私は人間の願いを叶えなくて済むので私としては何より望ましいことですね。
そのためあなたは向こうの世界で冒険者にならず悠々と農家でも初めスローライフを送りたいと思うかもしれません。
しかし、それはできません。
あなたに冒険者として最強を目指す意思がないとわかった時点であなたを即座に元の世界に戻し事故死で処理。
また別の人間をこの世界に連れてくるという条件であの女神と約束しましたので。
つまり、あなたは最強の冒険者になるか、死ぬかの二択しかないのです。
さて、最後にですが最強の冒険者になると言いましたが、正確にはSランク1位の冒険者になっていただきます。
冒険者にはランクがあり、その中で一番になればいいのです。
これで説明は終わりです。
では頑張ってくださいね〜」
話が終わると俺に手を振る女神。
すると俺の頭上から青白い光が降り注ぎ、俺の真下に魔法陣が浮かび上がった。
暖かい大気が体を包み込む。
「もちろんチートな能力とか恩恵とか何かしら転生特典的なものがあるんだよな?」
「ん?そんなものあるわけないじゃないですか。何を甘えたことを言ってるんですか」
「う、嘘だろ。そんなのどうやって魔物と戦えって言うんだ。即死決定じゃねぇか」
「その時はそれまでだったってことですよ。というか私のために死んでください」
不敵な笑みを浮かべ俺の顔を見る女神。
この野郎絶対ただじゃおかねぇ。
「せめて金とか必需品ぐらいは配慮してくれ」
「それでは頑張ってくださいね〜」
「お、おい!」
俺は気づくと冒険者ギルドと書かれた看板のかけられた建物の前にいた。
持ち物を確認してみるが何も持っていない。
本当に何も持たせてくれなかったなあのクソ女神。
じっとしていても仕方がないのでスイングドアを開け中に入る。
中に入ると丸テーブルを囲んでエールを飲んでいた数人の男たちが木の軋む音に反応し俺の方を向く。
「新入りか?」
「ありゃダメだな直ぐにやめるぜ」
「あっはっはまぁ若気の至りってやつだな」
俺を見るや好き勝手に評価してくれやがる。
素知らぬふりをして受付カウンターを探す。
「初めまして、冒険者ギルドアスリル支部の受付を担当していますリーリャと申します。この度はどのようなご用件でしょうか」
何食わぬ顔で尋ねるリーリャと名乗る女性。
初めましてって、ここに来た人の顔をみんな覚えてるってことだよな。
すごい記憶力とプロ意識だ。
「えーっと、冒険者になりたいんですが」
「はい、冒険者登録ですね。それではまずはこの水晶に触れてください」
そういうとリーリャは足元から透明な水晶を取り出した。
言われた通り水晶に手を触れると何やら文字が浮かび上がる。
「アリル=ライオットさんですね。何々、レベルはと.......」
アリル=ライオットは俺の名前か。
何も伝えられてなかったが元の世界の名前だと色々と問題があるのかもな。
あの女神から唯一の頂き物だな。
「レ、レベル1!?!?!?」
突然リーリャが大きな声を上げ立ち上がる。
その声を聞いて冒険者ギルド内にいた者達が駆け寄ってくる。
「レベル1だって!?」
「おいおいそりゃ何かの間違いだろ」
「あんた何歳だ?」
「そりゃあ生まれたての赤ちゃんレベルってことじゃねぇか」
「ワッハッハ面白いガキじゃねぇか!」
駆けつけた男達が何やら騒ついている。
「あのー、大変申し訳ないのですがアリル様冒険者ギルドに来るまでは何をしていらっしゃったのでしょうか?」
別の世界でスローライフを送っていました。
「え、えーっと、家族とのんびり暮らしていただけですが」
俺が答えると何やらブツブツと独り言を始めるリーリャ。
周りにいる男達も何やら大盛り上がりだ。
「リーリャちゃん、こいつは冒険者にしない方がいい。
冒険者になったところでレベル1じゃ、その辺の小型の魔物に殺されてしまうだけだ」
身長1メートル90センチ以上はあろう大男が俺を指差してリーリャにそう告げた。
「ガルシアさん。し、しかしギルドの判断で冒険者登録を拒むことはできない決まりでして........」
「ならギルド長に言って特例措置をしてもらうんだ。
ギルドとしても明らかに力不足の者を冒険者にしてそいつが死んじまったとなっちゃあ信用問題にもなりかねないはずだ」
「わ、わかりました。ギルド長を呼んできます」
そういうとカウンターから飛び出して奥にある扉へと走り出すリーリャ。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
俺は大声でリーリャを呼び止めた。