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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
ボードレール王国動乱編
88/95

クソ女神は女神である


【お知らせ】魔王様の更新について


以前、チラリと零しましたが、ネタが尽きました。クオリティの低下は感じていましたが、このままだと自分で自分の作品を許せなくなりそうなので、この章が完結し次第、ひとまず完結として更新を停止したいと思います。モチベーションが回復し、ネタが思い浮かべば投稿を再開します。申し訳ありません。


 



 ーーーーーー


 人間、生きていれば下らない理由で躓くことだってある。簡単な数学の問題が、あたかもアインシュタインの相対性理論のような難問に見えることがあり、そういう場合は大体、前提が間違っていることが多い。簡単な見落としだ。


 普段は完璧超人であるジンだが、彼も人。間違いのひとつや二つあるというものだ。その失策が明らかになったのは、ある報告だった。報告者はウリエル。クソ女神を監視するため、鉱山に行っていた彼女が慌てて報告を持ち込んだのだ。


「「「クソ女神が居なくなった!?」」」


「ごめんなさい! ごめんなさい! まさかガチムチのナイスガイ(鉱夫たち)に見とれるあまり、監視が疎かになるとは……っ!」


 ウリエルが一生の不覚、と後悔を露わにする。とりあえず、ジンは思った。鉱夫に見とれる前にしっかり監視しろよ、と。しかし、これは明らかにルシファーの、そしてそれを認めたジンの人選ミスであった。


「すまぬ……」


「いや。ルシファーが気に病むことじゃない」


 ルシファーの責任ではない、と庇うジン。たしかにウリエルを推薦したのはルシファーだが、最終的に許可したのはジンである。悪いのは、それを止めなかった側だ。部下の失敗は上司の責任。当然である。


「そうよ。悪いのは脱走したクソ女神じゃない」


 麗奈も気にしなくていい、とルシファーを慰める。そして矛先はクソ女神に向いた。


「ジン様。誰が悪いか決めるよりも、まずはどこに逃げたのか探さないといけません」


「ああ。そうだな」


 アンネリーゼが冷静に進言する。こういう情報系はユリアに一任されるのが常だ。お仕事ですね! と張り切る。ジンも、責任が自分にあるからといって出しゃばるつもりはない。得意な者に任せる。


「ユリア。クソ女神の所在を調査してくれ」


「はいっ!」


「他の者も、すまない。俺のミスで要らない仕事を増やしてしまった」


 ジンは立ち上がり、謝罪する。しかし、アンネリーゼたちは気にしていない、と口々に答えた。


「全力で頑張ります!」


「父にお願いして、我が国の諜報部も動かします」


「空からも探すわ!」


 天使組もやる気である。クソ女神はやはりというべきか、天界でも不人気だった。罰を抜け出すのは許せない、ということらしい。ラファエルをはじめ、普段は自らの欲望に忠実な天使たちも、このときばかりは一致団結していた。


「絶対にあのクソ女神を捕まえるわよ!」


「「おーっ!」」


「お、おー」


 ラファエルが音頭をとり、ウリエルとガブリエルが続いた。ミカエルも控えめながら応じる。


 かくして、魔界を挙げての大捜査網が敷かれることとなった。


 ーーーーーー


 さて、鉱山から大脱走したクソ女神はどこに行ったのだろうか。ジンたちがその脱走を知ったとき、彼女は空の上にいた。


「ふん。よくもわたしをあんな場所に連れて行ってくれたわね……」


 恨み節を吐きながら、大陸上空を飛行する。クソ女神が送り込まれたのは、東州(鬼魔種)にある鉱山だった。そこはジンが支配する地域の犯罪者が集められている。比率としては男が圧倒的に多い。クソ女神は中身(性格)はともかく、見た目は美人である。そのため、男の欲望に塗れた目を向けられることが多かった。


 クソ女神にとって幸いなのが、坑道内に入って作業することがなかったことだ。もし坑道という閉鎖的な空間にいれば、ほぼ確実に襲われていただろう。もっとも、襲われたとしても撃退は容易だが。


「まったく。わたしが生まれ変わらせてあげたのに、とんだ恩知らずだわ」


 憤慨するクソ女神。彼女は当てどなく飛ぶ。とりあえずの目標は、大陸の脱出であった。魔大陸から逃げ出せば、どうにかなると考えていたのだ(クソ女神は婚活に夢中で、ジンがこの世界でどんな立場にあるのか知らない)。最初は天界に帰ろうとしたのだが、最高神から追放されたためにそれはできない。そこで、この世界のどこか(ジンが知らないところ)で暮らすことにしたのだ。


 こうしてクソ女神が到達したのが、お隣の大陸。フローラの母国、ボードレール王国がある場所だ。魔大陸からなるべく遠く、という考えから、その端ーー旧ワルテル公爵領に降り立った。街中に降りると騒ぎになるため、一旦、郊外に着陸。そこから歩いて街に入った。


「うん。新しくていい街じゃない」


 わたしが住むのに相応しいわね、と頷くクソ女神。ジンたちが聞けば何様だ、と文句を言っただろう。


 街でクソ女神は神としての権能を惜しみなく使った。快適な生活を送るためにはまずお金が必要。ということで、商人たちから金を徴収する。神様相手であるため、誰も不思議に思わない。


 クソ女神は教会からも金を受け取ろうとしたが、ほぼない状況だったため断念している。貧乏ねえ、と苦言を呈したが、本来の教義から考えるとそれが普通なのである。むしろ、金を余らせている方がおかしい。


 元領都だけあり、クソ女神の手元には一生遊んで暮らしてもなお余りあるほどの金が転がり込んだ。しかし、それで満足しないのがクソ女神クオリティ。宿(もちろんこの街における最高のところ)は神の権能によりタダにした。


 神の権能をこれほど濫発して問題ないかといえば、大アリだ。しかも通常、地上で神の権能を使うためには様々な制約がある。だが、クソ女神はそれに縛られていない。これには理由があり、最高神がジンに女神を押しつけた際、不良在庫の処分に頭が一杯で制約をかけ忘れたのだ。要するにうっかりである。


 こうして神の権能をフル活用し、生活の拠点を築いたクソ女神。衣食住には困らない。あとは己の欲望を満たすのみ。彼女が欲するものはただひとつ。自分に相応しい伴侶である。


「まずは自分を磨かないとね。眠っていたせいで色々と荒れちゃってるし」


 と、言いつつエステを受けるクソ女神。神の権能でも何とかなるのだが、気持ちがいいからと人から施術されていた。素材は無駄にいいため、すぐにこの界隈でも有名な美人となる。それで色々な勢力が動いているのだが、クソ女神はそんなことなど露知らず、自分好みのイケメンを探す。身バレを防ぐため、髪色などを変えて準備はオーケー。勇躍、外へ飛び出した。


 神の権能を濫発していたのと同一人物とは思えないほど、クソ女神のイケメン探しは地道である。その主な手段は聞き込み。足で稼ぐという古典的な手法だ。


 盲点なのが娼婦たちの話。娼館には女っ気のない陰キャばかりが客に来そうなものだが、意外とそうではない。家を継げない貴族や商人がかなりの数、客としてやってくる。そこに掘り出し物のイケメンがいるのだ。


 また、普通に貴族の屋敷にもお邪魔する。神の権能で自分を不可視にし、屋敷内を自由に闊歩してイケメンを物色するのだ。ただ、たまにトラブルに見舞われることもある。たとえば、


「おやめください、お代官様!」


「よいではないか、よいではないか」


 と、お代官様と町娘プレイに出会ったり。


「盛ってるんじゃねえよ、この豚がッ!」


「ブヒー!」


 と、鞭で叩かれて喜ぶ雄豚を見たり。


「ま、まあ……色々あるわよね」


 わたしはノーマル、とそんなものを見るたびにクソ女神は自分に言い聞かせていた。


 そんなトラブルがありつつも、クソ女神は大陸全土を行脚して、目ぼしいイケメンをチェックしていく。だが、その結果は、


「う〜ん。イマイチね……」


 納得のいく相手はいなかった。大陸にある国はひとつだけ。その王様はいい歳したおじさんで、王子はいない。国を乗っ取ろうとかの悪巧みをしている貴族もいなかった。好みのイケメンはいても、これでは一番になることはできない。


「これじゃ、わたしが一番になれないじゃない!」


 どうしてくれるのよ! とジタバタ暴れるクソ女神。その横では、何人もの男が倒れていた。彼女を襲い、返り討ちに遭った者たちだ。


「な、何なんだお前……」


 その男のなかには、ステファヌスに取り入ろうとした旧ワルテル公爵派の聖職者もいた。ステファヌスが大好きな女を差し出し、その機嫌をとるつもりだった。数人の刺客を差し向けたのだが、ことごとく帰ってこない。なので自ら出向き、見事に返り討ちにされたのだ。


 聖職者は、鬼神と見紛うばかりの強さを発揮した女が、次の瞬間に駄々を捏ねはじめたーーそのテンションの乱高下に困惑する。そして不気味に思い、恐怖した。そして先ほどのような声が出たのである。


「あ?」


 それにクソ女神が敏感に反応。こんな美少女に失礼ね、と言ってゆっくり近寄る。恐怖に震える聖職者。クソ女神は聖職者の頭に手を置く。神の権能でちょっと性格を変えてやろうと思ったのだが、ついでにイケメン情報を吸い出してやろうと記憶を読み込んだ。


(あ、イケメン発見)


 そして見つける。イケメンで、社会的ステータスが高く、何より野心に燃えているクソ女神が好みのイケメンが。


「ご褒美よ」


「何を……ぐっ、あああっ!!!」


 ターゲットの情報をもたらしてくれた聖職者に、クソ女神はご褒美と称して術をかける。苦しみに身悶える聖職者だったが、やがて糸の切れた操り人形のように動かなくなった。




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