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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
聖魔大戦編
77/95

襲撃

 



 ーーーーーー


 パレード本番。ジンたちは金や宝石を惜しみなく使った豪華な馬車に乗って街を練り歩く。これはアンネリーゼが張り切って用意したものだ。派手すぎてむしろ悪趣味では? と思ったが、愛妻が頑張って用意したものなので文句は言わなかった。


 教会の総本山だった街は、戦争によってーーというよりジンの魔法によって一度、瓦礫の山と化した。それは教会が行なっていた非人道的な活動がジンの逆鱗に触れたためだ。ゆえに、かつての栄華は見る影もない。


 復興はゼロからのスタートであり、現在では村以上街未満の規模となっている。これは、ワルテル公爵らが多くの資金を費やした結果だ。収益的には大赤字だが、教会派の首領として街の復興を疎かにすれば求心力が落ちてしまうので止むを得ない出費なのである。


 かつて大通りだった場所は雨露をしのぐための屋根がある、小規模な店が建ち並ぶのみ。荒廃後は人口も少なく、普段の人通りは少ない。だが、今日ばかりは違う。魔王がやってくるということで、街のみならず近隣の村からも人が集まり、通りは人でごった返していた。


「凄い人……」


 ミレーナが群衆に圧倒されたらしく、その華奢な身体を震わせる。故郷以外にも他の街で何度かパレードをしてきた。だが、今日は人の数が違う。ジンの他にフローラや麗奈がいるという情報が広まり、その姿を見ようと多くの人が集まったのだ。


 パレードで使う馬車は屋根がないオープンカーである上に、より遠くの人からも見れるようにと普通より床が高くなっている。そのため遠くもよく見えるのだが、却ってミレーナにプレッシャーを与えたようだ。


「だ、大丈夫よ。このくらい……」


 強がるアドリアーナだが、その声は妹と同じく震えている。彼女も大観衆に萎縮しているようだ。カレンやヴァレンティナも同じような反応である。人口の少ないイースター島ではここまで人が集まることはないからだ。


「皆さん、そんなに緊張していては保ちませんよ?」


 こういったことに慣れているフローラは、笑みを浮かべて余裕の表情である。ジンやアンネリーゼも結婚に際しては盛大な儀式や祝宴をしたので慣れっこだ。


 太陽が最も高くなったとき、パレードの車列が動き出す。先頭は人魔種と人間の混成部隊。ジンは将来的に魔族と人間の統合を考えている。その際のネックが、互いの拒否感だ。自分と異なる存在を許容できないのである。この混成部隊は、ジンが思い描く将来像だ。魔族とはいえ、人間とほぼ同じ容姿を持つ人魔種ならば反発も少ないだろう、という考えからこの組み合わせとなった。


 混成部隊が20×50の隊列を組み、一糸乱れぬ動きで行進する。先導役の兵士は、大きな国旗をはためかせていた。


 後に続くのは、馬魔種と人間の騎兵部隊。こちらは混成ではなく、別個の部隊が縦に並んでいる。軍馬独特の大きな馬体、馬魔種の精鋭が誇る屈強な身体に観衆は圧倒された。


 さらに、彼らを超える巨体を誇る牛魔種が現れる。平均で二メートル半ある巨体、鎧の隙間から見える筋骨隆々の身体。その威圧感は半端なものではない。


 ここまで続いたところで、いよいよジンたちの出番だ。その姿が観衆に見えるようになると、大きな歓声が上がる。馬車は三台。先頭にジンとカレン以下の新妻たちが乗り、二台目にアンネリーゼ、フローラのコンビ。三台目にユリアと麗奈のコンビだ。魔族と人間の融和をテーマとしているため、種族別に分けるのは御法度。そこで別種族ごとに分けなければならないのだが、アンネリーゼと麗奈のコンビは何をするかわからないためこのような組み合わせになった。


 馬車の周囲は人間の重歩兵が固めていた。バシネットを被っているため表情は見えないが、雰囲気は強者のそれだ。彼らは重い全身鎧や大楯を持ち、大通りを闊歩する。それは簡単なようで難しく、練度の高さが窺えた。だが、先に通り過ぎた面子の印象が強すぎて霞んでしまっている。彼らがいい感じのモブになっているため、ジンたちはなおさら注目された。


「う……」


 近くに来るとさらに観衆の迫力が増し、ミレーナは無意識に一歩下がる。その背中に、ジンは軽く手を当てる。


「怯える必要はない。見ろ。観客はミレーナをどう見ている?」


 促され、横目でチラッと観客を見るミレーナ。視線の圧力は相変わらずだったが、背中に感じる温もりが彼女に勇気を与えた。最初はチラ見だったが、徐々に観客へと向き直る。


 そのとき、不意に小さな女の子と目が合った。見た目からして年齢はまだひと桁だろうが、パレードを見て目を輝かせている。幼いが、煌びやかな衣装を身に纏っているミレーナたちに憧れているようだ。勇気を出して手を振ってみる。歓声が増した。ミレーナは急なことに毛を逆立てたが、自分が手を振ったからだとわかると尻尾をゆらゆらと振る。これは、彼女の機嫌がいいときに出る癖であった。


 そんなミレーナを、ジンは後ろで優しく見守っていた。もう背中の手は離している。だがミレーナは心温まる笑みを浮かべ、群衆に手を振り続けていた。


(こうなればしばらくは大丈夫だろう)


 イースター島で集めた情報によると、ミレーナは警戒心が強く臆病とえるレベルで慎重な性格だ。しかし、その壁を越えると寝食を忘れるほど熱中してしまうらしい。綺麗な蝶を見つけた、と追いかけて行って三日三晩、行方不明になったそうだ。危なっかしいが、逆にいえば熱中している間は他のことが気にならなくなるわけで、ジンには好都合だった。


 パレードは順調に進み、街の復興のシンボルとなっている鐘楼(見た目は石造りの石塔)のところへとやってきた。そこで、ジンの表情が厳しいものに変わる。直後にパレードで盛り上がっていた大通りを、歓声以外のものが満たす。それは悲鳴であった。


「どいてくれ! 馬が暴れ出したんだ!」


 馬飼らしき人物が声を張り上げる。その前では興奮した馬が大通りになだれ込んできた。暴漢などを想定していた護衛は、暴れ馬にどう対処したものかと戸惑う。また、御者は異常があったときの自然な対応として馬車を止めた。


 その瞬間を狙っていた下手人たちが動く。開幕は、どこからともなく放たれた矢であった。何箇所か同時に矢が飛来する。狙いはもちろんミレーナだ。ジンはすぐに対応する。【イージス】を発動し、矢を防ぐと同時に反撃。殺れたかはわからない。だから警戒は怠っていなかった。


(上かっ!)


 不意打ちを退けて安堵するような絶妙なタイミングで、襲撃者は第二波の攻撃を繰り出す。ジンたちが乗る馬車を目がけ、塔の上からラペリングの要領で襲撃者が降りてきたのだ。


 馬を使った進路妨害は予想していなかったが、襲撃地点はここだろうと予測していた。正面から挑んでも数の差で押し潰される。それを覆すためには、相手の意表を突く奇襲しかない。だが、ジンの周囲は護衛に囲まれている。よって奇襲は上下方向から仕掛けざるを得ず、その格好のポイントが塔の下だったのだ。


 ジンはかなりの余裕をもって対処できた。相手が振り下ろす剣を【バリア】で受ける。襲撃者は鍔迫り合いに持ち込まずに飛び退った。左右にステップして幻惑。直後に飛び込んでくる。だが、人間の動きを音速を超えて飛翔するミサイルを捕捉できる【イージス】が逃すはずもない。【バリア】で防がれた挙句、【スタン】で反撃を受けている。


 ジンの才能は元よりピカイチで、実力も世界最強だ。この世界で実用化されているものはすべて使える。前世の知識を元にしたオリジナル魔法のバリエーションも豊富だ。特徴としては、前者は威力はそこそこでありながら様々な追加効果(麻痺など)が多いこと。後者は威力は高いが、追加効果に乏しいことだ。ジンは状況に応じて二つを使い分けていた。


 結局、ミレーナに殺到する暗殺者はすべてジンが相手をした。手に汗握るような展開はなく、魔法でサクサクと戦闘不能に追い込んでいる。殺さないのは、背後関係を吐かせるためだ。情報の裏づけをとるためである。


「ジン様! お怪我はありませんか!?」


「ああ、問題ない。そっちは?」


「こちらも終わりました」


 ジンに援軍が向かわないよう、アンネリーゼたちにも下手人が襲いかかっていた。しかし、彼らはあっさりと撃退されている。それはジンよりも速かった。もっとも人数が違うので単純な比較はできないのだが。


 気遣うアンネリーゼに、問題ないとヒラヒラ手を振るジン。彼の質問にはユリアが答えていた。戦闘力はフローラの次に低いユリアだが、これくらいの敵ならば充分制圧できるだけの実力がある。というより、雑魚相手なら彼女の戦い方が最もえげつない。


 ユリアの戦い方は、【パラダイス】というオリジナル魔法で敵に性的興奮を覚えさせ、気を狂わせるというものだ。性欲は人間にとって根源的な欲望であり、常人に抗うことはできない。だがユリアの魔法は性欲を起こさせるが、決して満たされることはないのだ。そのもどかしさに、精神を壊される。「人間」ではなく、ただの「猿」になるのだ。


『怖っ!』


 というのは、効果を聞いたときのジンのリアクションである。たしかに悪魔のような効果だ。戦闘にも拷問にも使えますね、と笑顔で言うユリアに、一同戦慄させられた。可愛い見た目をして、考えることは暗部のそれに染まっている。


「アンネリーゼは護衛に被害が出ているか確認してきてくれ。麗奈とフローラも頼む。ユリアは例の仕事だ」


 ジンは次々と指示を出し、アンネリーゼたちはそれに従って動く。いずれも襲撃があればこうする、と予め決めていた行動なのだが、そんなことを他人が知るわけもなかった。ただ、ジンの泰然とした姿勢に感心するばかりである。


 突発的な事態に混乱する現場を、アンネリーゼたちが回って落ち着かせる。ジンは行列のほぼ中央部に位置する場所から動かず、送られてくる報告を素早く捌いていた。


 そんな現場のどさくさに紛れて、ユリアが姿を消す。普通は責任者不在で混乱しそうなものだが、その役割はアンネリーゼたちが見事に肩代わりしていた。


 では、ユリアが任された例の仕事とは何か。いうまでもなく、下手人の摘発である。彼女は路地裏に入り、部下(暗部)と合流。その案内に従って歩き出した。




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