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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
聖魔大戦編
76/95

誤算

色々あってクソ忙しく、かなり短くなっています。すみません。元の分量に戻るにはしばらくかかるかもです

 



 ーーーーーー


 ワルテル公爵領を目前にした宿場町にて。ジンの護衛、約半数が一斉に体調不良を訴えた。


「どういうことだ?」


「そ、それが……今朝になって急に腹が痛いと申しておりまして。自分にも、なにがなんだか……」


 人間の護衛部隊の隊長は、訳がわからず戸惑っている様子だ。だが、理由はともあれ、護衛という任務が万全の状態でこなせなくなったのは事実である。責任を問われないはずがない。最悪、自身の首が飛ぶことも覚悟していた。


「魔王様、フローラ様、誠に申し訳ありません!」


 だが、彼は騎士であった。責任を自分が被ることで、部下には罪が及ばないようにしたのだ。


 もしもこれが突発的な事態なら、ジンは隊長が責任を負うので他を許してくれーーなんてことは許さなかっただろう。まず食事に異物を混入させた人物がいると考え、その特定に全力を挙げただろう。しかし、これはある意味で仕組まれたトラブルである。ジンに責任を追及するつもりなどなかった。ゆえに許すつもりだが、それにはそれなりの理由が必要だ。そこでひとつ芝居を用意していた。


 ーーコンコン


 隊長が頭を下げ、室内を暫しの間、静寂が支配する。そのとき、見事なタイミングで扉がノックされた。


「どうぞ」


「入るわよ」


 軽い調子で入室してきたのは麗奈。彼女は魔族の護衛部隊の隊長を務めている。麗奈はスタスタとジンに歩み寄り、世間話をするような軽さで言った。


「部隊のほとんどが、身体の調子が悪いって言っているの」


 どうする? と、実に軽い。指示を仰いでいるが、夕食の希望を訊いているわけではないのだ。当然、人間の護衛隊長はそれを看過できない。


「勇者様! そんな言い方はないでしょう! 部下を何だと思っているのですか!?」


「いや、だって押しつけられただけだし」


 叱責にも動じた様子が見られない。この程度なら、魔王城でアンネリーゼと毎日のように火花を散らしている。だから麗奈は気にもしなかった。


 その後も色々と説教をされるが、麗奈は柳に風、暖簾に腕押し、糠に釘とばかりに受け流す。ジンたちはその間、口を出さなかった。お説教の嵐が止んだのは、それから三十分後のことである。


「……はぁ、はぁ。ここまで強情な人は初めてだ……」


 呆れたように言う護衛隊長。さすがに息が切れていた。


「気は済んだか?」


 そのタイミングでジンが事態を収めにかかる。興奮してジンたちの存在を忘れていたのか、その声を聞いて直立不動となる護衛隊長。錆びた機械のようなぎこちない首の動きをしながら振り返る。


「こ、これはお見苦しいところをお見せしました!」


 王の存在を忘れるなど、消されても文句はいえない大失態である。すぐさま腰を折り、深々と謝罪した。麗奈の態度については、初見だとそう思ってしまうのも無理はない。ジンは気にしていない、と許しを与えた。そして、直後に真面目な顔になる。彼の態度からは王者の風格が漂っていた。これで場の空気は引き締まる。


「今回の件は、護衛部隊に過失はない。だから、責任を問うようなことはしない」


 その言葉に護衛隊長は安心した。しかし、続く言葉に再び身を固くすることになる。


「だがーー」


 と言って麗奈に視線を向ける。


「さっきの態度はさすがにどうかと思うぞ、麗奈」


「悪かったわね」


「反省のために、隊長職は解任する。代わりはユリアにやってもらう」


「ええ。別にいいわよ」


 麗奈はあっさりと受け入れた。ここまでは打ち合わせ通りだ。次に、ジンは護衛隊長を見る。


「そちらは原因究明に全力を上げろ。それが今回の責任のとり方だ」


「承知しました!」


 さすがにお咎めなしというのはおかしいので、そんな当たり障りのない処分を下す。ここまでは予定調和。しかし、この先はノープランの領域である。


「それでは早速ーー」


「いや待て」


 ジンは退出しようとする護衛隊長を呼び止めた。それは、今回の件で浮上した課題ーー護衛の配置について詰めるためである。毒が盛られることはわかっていたが、どれほど被害が出るかはわからなかった。半数ほどが行動不能のため、どうしても穴が出来てしまう。当初の予定は変更せざるを得ない。


 かくして話し合いは始まった。パレードは明日。急いで予定を詰める必要がある。遅れて被害状況が報告される予定であり、その前に決められることは決めるつもりだった。それはつまり、パレードを延期するか否かである。


「危険です。ここは延期すべきかと」


 と、護衛隊長は慎重論を述べる。フローラの護衛をしているレナもしきりに頷いていた。だが、アンネリーゼたち魔族は決行を主張する。急先鋒はアンネリーゼ。


「ここで延期しては、ジン様のご威光が傷つくことになります」


 横ではユリアが頷いている。彼女たちのなかで、ジンは完全無欠の王だ。その経歴を傷つけるわけにはいかないのである。


「姫様にもしものことがあったらどうするつもりだ!?」


「もしも、なんて起こるわけがないでしょう」


 レナとアンネリーゼが喧嘩を始める。両者とも、尊敬する主に絶対の忠誠を誓っており、相手の身を思ってのことだ。譲歩するつもりはもちろんなく、議論は平行線を辿る。置いてけぼりにされた護衛隊長がおろおろしているが、ジンたちはいつものことだと気にしない。


 そんなとき、毒を盛られた数の詳細が書かれた紙が持ち込まれた。持ってきた兵士(人間)はアンネリーゼとレナの言い争いを見てギョッとしていたが、触らぬ神に祟りなしとばかりに無視することにしたらしく、そのことに触れることはなかった。ジンは正しい選択だ、と心のなかで称賛する。


「それにしても、敵は考えたな」


 報告書を見て、ジンはそんな感想を漏らした。


「どういうことですか?」


「これを見ろ」


 フローラに報告書を渡し、目を通したと見ると説明する。


「行動不能になった者は魔族に多い。これが単なる偶然かというと、違うだろう。狙ってやったはずだ」


「同じ人間なら対抗できるってわけね」


 いまいちピンとこないフローラに対して、意外な理解力を見せたのは麗奈だった。ジンは意外に思いつつ、その通りだと肯定する。


「ついでに、人間なら寝返る可能性もある」


「そ、そんなことはありません!」


 裏切りを警戒されていると知り、咄嗟に声を上げる護衛隊長。ジンは彼を落ち着かせた。今の発言はあくまでも過激派の思考を述べただけで、自分は信じていると。


(ま、裏切りは警戒しているけどな)


 王国側で信用できる面子を選んでくれたはずだが、人間どう転ぶかはわからない。世のなかには無辜の市民を言葉巧みに操って自爆テロリストに仕立て上げる輩もいるのだ。油断はできない。監視の目はあちこちに光らせている。そんなことなど露知らず、護衛隊長は安堵した様子だ。


 とにかく、魔族の兵士が減ったということは信用のおける兵が少なくなったことを意味する。護衛の配置も慎重を期す必要があった。


「ない物ねだりをしても仕方がない。今ある軍勢でベストを尽くす。できる限り最高の布陣をしよう。そのために、疑問点があればどんどん質問してほしい」


 そう言ってジンは話を進め、考えられる最高の警備計画を練り上げた。そして翌日のパレード本番の日を迎えたのである。




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