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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
聖魔大戦編
74/95

迫る悪意

 



 ーーーーーー


 とある場所にて密談が行われていた。そこはかつて、教会の総本山があった都市である。過激派指導部が先の戦争で蒸発。残るは穏健派と過激派に与しなかった中立派。ということになっている。


 しかし、過激派の残党は地下に潜って命脈を保っている。今回、集まっていたのは、そんな過激派たちだ。面が割れないよう、誰もがフードで顔を隠していた。


「顔は見られていないだろうな?」


「ええ。大丈夫……なはずです」


 そんな会話が彼らの挨拶である。聖職者として生きてきた彼らは、周囲に顔が知られていた。ましてここは地域の中核都市。各地から人が集まる場所で、顔見知りと会う可能性は跳ね上がる。それで通報され、捕らえられた仲間もいた。だから、警戒を怠らない。いなくなった存在がいる、というのは好ましくないのだ。


「それにしても、今回はなぜこのような場所に集まるのだ? 別にいつものところでもよかろう?」


 ひとりが疑問を口にする。他にも同意見だという者たちがそうだそうだと声を上げた。それに対して、リーダー格の男が答える。


「それは特別なゲストがいるからだよ。いつもの場所だとかえって怪しまれてしまう」


「なんと!」


 その言葉に、周りから驚きの声が上がる。彼らがいつも集まっているのはスラムにほど近い酒場。治安は極悪だ。路上で寝ようものなら、身ぐるみすべて剥がされるだろう。


 だが、今日集まった場所は裕福な人間が通う高級料理店だ。もっとも、それは表向きの顔であり、裏ではそういった人間が後ろ暗い話をするための場所を提供していた。さらに街のゴロツキたちの元締めであり、お上にはあまり知られたくない。だから過激派たちにこういった場を提供したのだ。


 そのゲストは、過激派たちが揃った後にやってきた。見事なまでの社長出勤である。入室してきた人間を見て、過激派たちは総立ちとなった。正直、元支配者であるためにこのような態度をとるのは業腹だ。しかし、今は自分たちのパトロンであり、その支援が地獄に垂らされたクモの糸なのである。プライドにこだわってそれを自ら手放すようなバカは、ここにはいない。


「ようこそいらっしゃいました、ワルテル公爵、アモロス侯爵」


 リーダー格の男が代表して謝辞を述べる。やってきたのはワルテル公爵とアモロス侯爵。ボードレール王国でも魔族を敵視していることで有名な貴族だった。


 彼らは勇者でさえ敵わないジンの圧倒的な力を見て、武力による急進的な打倒を諦めた。彼の政治は、民衆の支持を得ていたからだ。そこでジンの政治を妨害し、求心力を低下させることを狙っていた。


 とはいえ、政治を妨害するには実働部隊が要る。私兵でやれば、あっという間に摘発されるだろう。それくらいは二人にもわかっていた。そこで目をつけたのが、領地にゴロゴロいた強硬派の残党たち。魔族政権の転覆を目論む彼らに援助することが、つまりジンの政治を妨害することになる。


 信心深いが、彼らも貴族。それだけでは動かない。もし摘発されても、教会に援助していただけ。過激派だとは知らなかった、と言えばいい。何か問題が生じれば、躊躇なく切るつもりだ。


「今日集まったのは他でもない。いよいよ、我らに反撃の好機が巡ってきた」


 ワルテル公爵が声高々に言う。あちこちからおおっ、というどよめきが上がった。


「それはどのような?」


 過激派のひとりが前のめりになって訊く。が、公爵は勿体ぶってまあまあとなだめた。それでも肩身の狭い思いをしてきた彼らは待ちきれないらしく、大好物を前にして『待て』をされた犬のように物欲しそうな顔をしている。それを満足げに見るワルテル公爵。その顔は明らかに楽しんでいた。やがて嗜虐心が満たされたのか、公爵はようやく口を開く。


「魔王が新たな嫁を迎えたのは知っているだろう。狙いはそこだ」


「新たな妻を害し、結合に亀裂を入れるというのか?」


「その通りだ」


「狙いは?」


「獣人族の娘、ミレーナだ」


 戦闘力が低いからだ、と説明する公爵。たしかにそれが一番の理由だが、他にも理由があった。


 まず、獣人族の妻たちが魔族や人間に軽んじられていることだ。新参の妻としては、序列は姉と並び二位。ところが、実際は最下位となっている。理由を簡潔に述べれば、人気がないからだ。


 ルックスや立ち居振る舞いで高評価を獲得したカレンとヴァレンティナに対して、二人は無作法な田舎者という烙印を押されていた。だから彼女たちが害されたとしてもジンはともかく、アンネリーゼも含めた上層部はそれほど気にせず、また新参者と魔族、人間との間に対立を起こさせる格好の標的だ。


「手段は問わない。すべて任せる。もちろん、出来る限りの援助はしよう」


 ワルテル公爵はそう言って話を締めくくった。過激派たちの頭のなかでは暗殺が成功するかということではなく、ミレーナを殺害した後に起こるであろう騒動にどう乗っかるかということが考えられていた。暗殺の成功は決定事項らしい。


「お任せください。必ずや魔族を混乱させてやります」


 自分たちは神に選ばれた存在。つまり、自分たちが正義。失敗するなどあり得ないーーそんな子どもみたいな理屈を、彼らは未だに信じていた。以前の敗戦など、既に忘却の彼方だった。


 ーーーーーー


『ーーということがあっての』


 過激派とワルテル公爵以下の反魔族勢力がミレーナの暗殺を企てている、というタレコミを受けたジン。ソースは最高神だ。


「……神がそんなことを教えていいのか?」


 突然、連絡してきたと思いきや、わりと重大な情報がもたらされた。それ自体はありがたいのだが、神がそういったことを安易に漏らすのは問題になるのではないか? とジンは思ったのだ。


『構わんよ。ワシが決めることじゃからな』


「「「……」」」


 その場にいた一同、絶句。ルールを決める者が最初から破ってもいい、と考えているようなルールに何の意味があるのか。ディオーネさえ、呆れた様子だ。最高神のようにはならないようにしよう、と皆が誓う。


「とりあえず、情報提供に感謝する」


『礼はディオーネでよいぞ』


「……ディーはものじゃない。あと、じーじウザい」


『ぐはっ!』


 言葉の槍に貫かれ、最高神は轟沈した。孫娘と話したいからという理由でこのようなことをした最高神に同情する者はいなかった。


 結局、ディオーネの里帰り(最高神は帰還を主張していたがディオーネが断固拒否した)については保留となった。情報提供には素直に感謝するが、目的が目的なので慎重な検討が必要だとしたのだ。ジン個人としては、ダメということでいいじゃん、と考えている。


 その後、マルレーネがワルテル公爵の悪だくみを報告しに訪れたのだが、最新情報を既に知られていて困惑することになる。彼女にしては珍しくユリアに事情を訊ね、それがジンの耳にも入ることになった。情報が漏れなく伝わるのは嬉しいが、それによって他人が迷惑を被っているーー里帰りはなしだ、とジンは心に決めた。


 それはそれとして、ジンは対策を練ることにした。この際、不穏分子を一網打尽にしようと罠を張ることにする。具体的には、裏方警備の拡充だ。また、ミレーナには悪いが、策の成功率を上げるためにこのことは秘密にしておくことにした。


 ーーと、ここまでは順調に決まったものの、問題は策の根幹にある。つまり、敵が千載一遇の好機だと考えるほどの隙があるように思え、実は警備が容易であるーーという矛盾に満ちた命題をクリアしなくてはならないのだ。ここで、ジンは躓くことになった。


「さて、どうしたものか……」


「難しいですね……」


 様々なプランが検討された。パーティーやパレードなど、衆目を集める催しを行なって襲撃を誘うことは確定。しかし、襲撃しやすく捕縛しやすいという条件を満たす適当な場所がなかった。思いついても魔都から離れすぎていて、なぜそこでやるのか疑問符がつくような場所なのである。


 ジンやアンネリーゼはどうしたものかと悩む。ある程度のリスクを許容すべきか、それとも万全を期すべきか……結論は出ない。そのとき、我関せずといった態度をとっていた麗奈が唐突に話に入ってきた。


「誘い出せないなら、私たちが行けばいいんじゃない?」


「突然お話に入ってきたかと思えば、おかしなことをーー」


「待て」


 アンネリーゼが呆れたように言うが、それをジンが遮った。たしかに麗奈の話はこれまでの流れからしておかしい。だが、議論が行き詰まっていたのも事実。だからここはひとつ、他者の視点を入れて起爆剤にしたいと考えたのだ。


 ジンが与太話にオーケーを出すなら、アンネリーゼも無理に止めようとは思わない。わかりました、と引き下がった。それを麗奈がニヤニヤと見ていて、ちょっとした喧嘩になったのはいうまでもない。


「ーーそれで、さっきのはどういうことなんだ?」


 喧嘩を止めたジンが改めて説明を求める。麗奈は頷き、自説をを述べ始めた。


「だから、敵を誘い出すのに丁度いい場所が遠くにあるんでしょ? なら、私たちがそこに行けばいいのよ」


「ですから、それはできないと言っているんです。適当な場所は、いずれも魔都から遠く離れています。そんなところでパレードをするなんて、怪しいに決まっているじゃないですか」


 議論が行き詰まってイライラしていたのか、アンネリーゼはいつも以上に当たりがキツい。だが麗奈はいつものことだからとめげなかった。


「『怪しまれる』って最初から決めつけるんじゃなくて、どうやったら怪しまれないようになるのか考えたら!?」


 そう言い返す。これにアンネリーゼも応戦し、二人はギャーギャーと喧嘩を始めた。それがエスカレートしないように、と眺めながら、ジンは先ほどの麗奈の発言を検討していた。


(最初から決めつけず、解決方法を探す……か)


 そういう考えはしていなかったな、とジンは反省する。場所についての検討は進んだため、今度はどうすれば誘い出せるかを考えてみることにした。


「あ……」


 ジンはあることを思い出して、そんな声を上げた。ここまで黙々と考えていたフローラやユリアは何事かと視線を向ける(アンネリーゼと麗奈は絶賛喧嘩中)。


 自然な巡り方……ジンの脳裏に思い浮かんだのは、アニメオタクだった高校の同級生との話だった。


『秦の始皇帝は嬴政という名前なんだ。天下統一すると皇帝の権力を見せつけるために街道を整備して全国を巡ったんだぜ』


 云々……。ジンはこれだ、と思った。というのも、この間に始皇帝は襲撃を受けているのである。また、支配者が己の権威を見せつけるような行動をするのも不自然ではない。さらに好都合なのは、フローラに話したことがあるボードレール王国の街道整備計画が動くことだ。その様子見、ということで旅に出ることにした。


「ーーそのついでにパレードをする、ということなら自然になるんじゃないか?」


 ジンは考えを説明した。真っ先に食いついたのは麗奈。


「それいいじゃない!」


 アンネリーゼも、


「名案です」


 と賛成する。他に意見は? と周りを見るが、フローラたちに反対意見はなさそうだった。結局、この方向で進められることになる。仕事の割り振りはさっきまでの停滞が嘘のようにトントン拍子で進んだ。


「さて、飛び切り豪華な車列にしますよ!」


 全体のマネジメントに加え、馬車などの車両等を整えることになったアンネリーゼが張り切る。


「ほどほどにな」


 ジンは苦笑しつつ、そう釘を刺した。




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