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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
聖魔大戦編
67/95

召喚、ウラバナ

 



 ーーーーーー


 麗奈がクソ女神に会心の一撃を見舞ったことで、天界での目的を達したジンたち。


「帰るか」


「そうね」


 用件が済んだので帰るという選択は、ある意味当然といえた。しかし問題がひとつ。それは、帰り方がわからないことだ。


「帰るのね?」


「かえる、かえる」


「寂しいんだから」


((妖精たちは知らなさそうだな……))


 適当に相手しつつ、知ってそうな相手はいないかと探す。そこで二人が目をつけたのは最高神。天使であるルシファーはもちろん、そこで伸びているクソ女神よりも色々なことを知っていそうだ。さあ吐け、という無言の圧力が加わる。主な発生源は麗奈だ。


「ぼ、暴力反対。ラブアンドピース、なのじゃよ」


 ビクッと肩を震わせ、そう訴える最高神。しかし二人は胡散臭そうに見ていた。


「胡散臭いわね」


 麗奈は声に出している。理想ではなく現実に生きる現代日本人であった。


「ま、待つのじゃ。元の世界には返す。それは約束しよう。じゃが、少し話を聞いてくれてもよかろう?」


 最高神は何か話したいことがあるらしく、二人を引き留める。ジンたちはアイコンタクトでどうするかを話し合う。


(どうする?)


(急がないし、別にいいんじゃない? もし下らない話だったら……)


 ボコる、と麗奈は獰猛に笑う。そんな彼女に苦笑しつつ、ジンは了承したと頷いた。


 自らに危機が迫っていることを本能的に察知したのか、最高神は悪寒に身を震わせる。だが原因不明であり、不安に思いつつも話を進めた。


「まず、女神の不手際じゃが……原因は、ワシじゃ」


 てへ、とは言わないものの、それに近しい軽い感じで重大な事実を口にする最高神。瞬間、麗奈が動いた。


「あんたかぁぁぁッ!」


 繰り出される神速の拳。最高神を以ってしても視認不可能な超人的な動きだ。麗奈の拳は最高神の鳩尾に突き刺さる。グボォ、と苦悶の声が漏れた。


「す、凄まじい一撃じゃの……」


 コフーコフーと浅い呼吸を繰り返す最高神。額からは脂汗がダラダラと流れていた。効果は抜群だ。しかし麗奈は満足しない。


「威力が足りなかった?」


 などとのたまった挙句に追撃の拳を構える。未だ痛みに悶える最高神にそれを回避する術はない。そのとき、


「こらー!」


 そんな声とともに、小さな影が麗奈と最高神の間に割り込んだ。見れば、その小さな影は幼稚園児といっても差し支えないほどに幼い女の子だった。小さな手を目いっぱい広げて“とうせんぼ”をしている。


「じーじをいじめないで!」


「うっ……」


 麗奈は思わず拳を引っ込めた。女神(残念美人)と最高神(お爺ちゃん)を躊躇なく殴った彼女も、幼女は殴れないようだった。


「麗奈。気持ちはわかるが、まずは話を聞こう」


「……わかった」


 憮然とした表情でジンの言葉を聞き入れる。


「それで、俺たちの召喚があなたのせいだというのはどういうことなんだ?」


「うむ。それなんじゃが、その日ワシはディオーネーーこの娘と遊んでおったのじゃ」


 最高神は幼女を抱き寄せる。先ほどまで怒り顔だった幼女は、途端に相好を崩して最高神に抱きつき、スリスリと頬ずりした。懐いていることがよくわかる。


「ところが、少し目を離した隙に姿が見えなくなってしもうて……探しても探しても見つからなかったのじゃ。ワシは気が動転して、つい天界全体に捜索を依頼して回ったんじゃよ。女神のところへ行ったとき、たまたま召喚の作業をしていたのじゃが、それを妨害してしもうて、結果的にそなたらが召喚されることになってしもうたのじゃ」


 すまぬ、と頭を下げる最高神。ジンは眉間を揉みほぐしつつ、話を整理した。


「ーーつまり、娘がいなくなったことで天界に騒ぎを起こし、結果的にそれが俺たちの誤召喚につながった、というわけか」


「そうなる……」


 最高神は怒られた子どものようにシュン、とする。そんな彼を見て、ジンは大きなため息を吐いた。


「はぁぁぁっ。仕方ない」


「……殴らないのか?」


「何でも殴って解決、みたいに考えないでくれるか!?」


 そんな暴力的な人間ではない、と抗議するジン。その横で麗奈が、


「殴らないの?」


「お前もか!」


 ブルータスに裏切られたカエサルのごとく絶叫するジン。不本意だと憤慨する。熱くなりすぎた、と反省。咳払いで調子を整える。そのとき、最高神に甘えていた幼女ーーディオーネが自分を見ていることに気づく。その瞳には怯えがあった。


「大丈夫だ。何もしない」


 それを払拭するため、ジンは彼女に笑いかけた。怖くないぞ、と。すると、ディオーネが最高神から離れてトテトテと近寄ってきた。そして、


「じーじといっしょ」


 という発言をした。


「……どういうことだ?」


 言葉の意味がわからず、ジンは最高神に視線を送る。どういうことだ? と。しかし追加の情報をもたらしたのはディオーネだった。


「ちから、じーじと、おなじ」


(ちからーー神力のことか?)


 というか、それしか考えられなかった。当たり前だが、ジンと最高神に血のつながりはない。雰囲気も違う。加えてディオーネの『ちから』という言葉。思い当たることは、なぜが使える神力しかなかった。


 どういうことだ、と問い詰める視線の圧力が増した。それが最高神にのしかかる。ディオーネには背丈の関係で見えていない。最高神は意外にも簡単に口を割った。


「む、それはじゃな、誤召喚した女神がどのような対応をするのか見ていたのじゃ。その場でなかったことにしてしまうかもしれんからな」


「なかったこと……というのは、元の世界に戻すということか?」


「いや。その場で魂ごと消滅させてそもそも存在しなかったことにすることじゃ」


「「えっ!?」」


 衝撃の対応に耳を疑う二人。世界から戦争をなくすには? 解:人類が地球上からいなくなればいいーーというような乱暴な解決策である。


「……そうよ。だから感謝しなさい」


「せい」


「あうっ!?」


 フラフラと蘇ったばかりのゾンビのごとく起き上がった女神。すかさず麗奈が一撃を見舞い、再び地に沈めた。


「一撃じゃ済まない気がしてきた」


 命をとらなかっただけ感謝しろーーそれで感謝する人間はいない。麗奈の言葉にジンは密かに同意した。


「……話を戻していいかの?」


「ああ。続けてくれ」


 女神の復活で変になった空気。最高神が軌道修正を図り、ジンも乗った。


「魂ごと消滅させるっていうのはどういうことなんだ?」


「輪廻転生という概念は知っておるじゃろう?」


「生命は生まれ変わる、ってやつか?」


「そうじゃ。生命ーー正確にはその魂じゃが、それは世界を回っておる。死んでもまた別の生命として戻ってくるわけじゃな。その魂を消滅させるということは、その輪から外れるということじゃ」


「ヤバイな」


「うむ。ヤバイぞ」


 神でも、大量殺人犯やテロリスト以外にはまず使わない魂の処理方法だという。


「幸いにもそなたたちは魂の消滅は免れたわけじゃ。しかし、その後が問題じゃった。勇者となった者はよいが、魔王となった者は生きている間の幸運はともかく、勇者を前にしたときには確定した死の運命が設定されておった。あまりにも不憫じゃったから、ワシが力を与えたんじゃよ」


「それが力の正体、っていうわけか」


「そなたたちが“神力”と呼んでいるものじゃの」


 これまで名前もなかったし、これからはそう呼ぼうと最高神は笑う。そして正式に神力と名づけられた力はどのようなものなのかが明かされた。


「ワシら神の格は、扱える神力の量によって決まる。そして下級の神は、上位の神に神力で干渉することはできないのじゃ」


「う〜む」


「いまいちよくわかっておらんようじゃの。具体的に説明すれば、ワシは女神に干渉することができる。たとえば、このように」


 最高神がそう言うと、突如として一陣の風が吹いた。瞬間的にはかなりの風量だろう。その風は倒れている女神の服の裾を持ち上げーー


「【スチーム】!」


 中が見えるかに思われたが、寸前でジンが湯気で遮った。


「何をするんじゃ!」


「こっちのセリフだ!」


 相手が気を失っているからといって嬉々としてセクハラをするのは最低だ、とジンは最高神を糾弾する。正論だった。ジンの背後では麗奈がシャドーボクシングを始めている。いつでもやれますよ、と視線は獲物(最高神)をロックオンしていた。


「ぬう。……しかしそなたとて男。女神ほどの美しい女子を見ればーー」


「じーじ。ダメ」


「すまんかった」


 ディオーネにたしなめられ、最高神は即座に掌を返した。いっそ清々しい変わり身である。


「ま、まあ気づいたように、さっき起こった風はワシが起こしたものじゃ。厳密にいえば、ワシが起こると運命づけた」


「運命づけた……そういうことか」


 ジンはキーワードである『運命』から正解にたどり着く。最高神が言っていた『干渉』をより正確に表現するなら、『運命に対する干渉』であった。このように言葉を変えて考えると、事情が見えてくる。


 上位の神が下位の神の運命を自由に変えることができることは既にわかった。ただこれが神の間にのみ適用される、と考えるのはいささか甘い。だから運命を弄ることができるか否かを決めるのは、生物としての格だということが考えられる。人間と神、どちらの格が高いかは考えるまでもない。


 そんなわけで、ジン(人間)は召喚時に勇者を前にすると死ぬ、と女神から運命づけられた。それを覆すためにはどうすればいいか。そのためには、ジンの生物としての格を女神のそれよりも高くしなければならない。最高神は女神を超える神力をジンに与えることで、それを実現したという。


「ただ、そのときに少し失敗しての」


「失敗?」


「そうじゃ。神力の量を増やしすぎての。神のなかでもワシに次ぐほどの力を与えてしもうた」


 てへ、という擬音がつきそうな顔をする最高神。ジンは最高にイラっとした。


「……救ってくれたことには感謝するが、人を勝手に人外にするな」


 転生ついでに神様になっていた、なんて洒落にならない。たがこれで転生後の高スペックには納得がいった。神様ならば、常人離れしたことが出来て当然である。


「ーーそんなわけで、君には神になってもらう」


「“ほしい”(要請)じゃなくて“もらう”(命令)なんだな……」


「すまんの。神はワシが管理せねばならんのじゃよ。じゃが、必ず天界におらねばならぬというわけではない。地上で魔王をやっていてくれてよいぞ」


「まあ、そういうことなら」


 ジンは渋々、といった様子で頷く。だが、それだけでは終わらない。彼も魔王として政治をやってきた。否が応でも培われた政治屋としての習性で、転んでもタダでは起きない。それなりの物を得なければ。なので、


「ただしーー」


 と続けるのである。


「何か他にないのか?」


 要求するものは明言せず、相手に任せる。何をもらえるかによって相手を測るのだ。


「ならそこの女神をーー」


「要らん」


「即答じゃな……」


「俺にも選ぶ権利はあるはずだ」


「ならば、ルシファーたち熾天使五体をつけよう」


 セット商法に出る最高神。なんとしても女神を押しつけたいという魂胆が見えた。そこまでするなら、ジンもとことんまで絞り出そうと考える。女神を引き受ける迷惑料だ。


「ちなみに全員、初物じゃぞ」


「そういうことは聞いてない」


 自分の言うことを聞くからといって、好き放題にしていいわけではない。いくら神の被造物、僕とはいえ意思がある限りは自由な意思の下にあるべきーーというのがジンの考えだった。一応もらうけど、まだ足りない。


「じーじ、ディーがいく」


「ディオーネ!? じゃがお主はーー」


「いく」


 翻意を促す最高神だが、ディオーネは聞き入れない。


「しかしーー」


 と、なおも食い下がる最高神に対して、


「……じーじきらい」


 伝家の宝刀が抜かれた。対おじいちゃん最終兵器“じーじなんてきらい”である。


「ぐはっ!」


 その効果は覿面。最高神は即効性の毒を呷った人間のようにその場に崩れ落ちた。これを言われれば、強く出ることはできない。できることといえば、黙って要求を呑むことである。


「……仕方あるまい。わかった。認めよう」


 こうしてジンの仕事に女神のお守りに加えて、最高神の孫娘のお守りも加わった。


「おい」


 勝手に仕事を増やすな、という抗議をひと言に込めたジン。最高神はディオーネに対するそれとは違う意味でタジタジとなる。また見返りを寄越せ、という副音声もきちんと理解していた。


「世界の管理権でどうじゃ!?」


 もはや自棄くそである。商談で相手がなかなか首を縦に振らないので、言い値で売ったようなものだ。


「だからーー」


 そんなものは要らない。仕事を増やすなーーという文句が喉元まで出てくる。しかし、相手は最高神。その気になればジンを消すことなど容易く出来る。これ以上の抗弁はかえって不利益をもたらすかもしれない。


 人によって価値あるものは様々だ。イスラム教徒からすれば食料である牛も、ヒンズー教からすれば神聖な動物である。あるいは他人からすれば壊れた玩具でも、持ち主からすれば両親との思い出の品であったりと。今回も世界の管理権というのは、神的に最大級の褒美なのかもしれない。


 であるならば、ここは我慢して恩を売りつけるくらいにした方がいい、と考えた。ジンは本音を建前で幾重にも分厚くコーティング。その上で発動させた魔王モードで、


「いや、わかった」


 と納得したように頷いた。


「そうか!」


 途端に嬉しそうにする最高神。面倒な仕事が減った、と喜んでいる。ジンはうんうんと頷きつつ、恩返しの要求量を倍にしてやろうと思っていた。神側の不手際で起こったことを『面倒』と言われては腹も立つ。


 まだ喜びを発散しきれていない最高神を尻目に、ジンは新たな仲間に声をかけた。


「改めて、ジンだ。これからよろしく頼む」


「ディオーネ。おともだちはディー、ってよんでくれる」


「そうか。ならディー。よろしくな」


「っ! うん!」


 笑顔が咲いた。ディオーネにとって、ジンくらいの年代の大人が『ディー』と呼んでくれたのは初めてのことだった。自分が大人だと暗に認められたようで、堪らなく嬉しい。ジンもそんな彼女を見て、心が温かくなった。そんなときに、


「女神様!」


 と、飛び込んでくる影がひとつ。ミカエルだ。場に乱入するや危険です、と言ってディオーネをジンから引き離す。ジンを視界から外さないようにしながら周囲を捜索。そして倒れている女神を発見するや、慌てて駆け寄る。バイタルを確認して女神の生存を確認すると、ほっとひと息吐く。そして、


「女神様に何をしたのです!?」


 と訊ねる。ミカエルの登場により、先ほどまでの和気藹々とした空気は雲散霧消してしまった。かといってギスギスした空気になったわけではない。あえて表現するなら、芸人のネタが盛大に滑ったような白けた空気というべきだろう。今さら感が半端ない。


「ミカエル。これはーー」


「ディオーネ様。お逃げください。あの男は危険です」


「だからねーー」


「ささ、お早く」


 女神と一緒に庇われているディオーネが事情を説明しようとするものの、ミカエルは一切耳を貸さない。何度か試みるが、会話のキャッチボールがそもそも成り立っていなかった。一度失敗する度に、ディオーネの頰が膨らむ。そして遂に堪忍袋の尾が切れる。


「……『ミカエル。はなしをきいて』」


 どういう理屈かはわからないが、ディオーネの言葉がそのまま周囲の空間に反響した。すると不思議なことに、ミカエル(ジンがいかに危険人物かを声高に叫んでいた)は話の途中にもかかわらず口を噤んだ。


「『ジンはめがみのしっぱいでひがいをうけた。だからわるくないし、あぶないひとでもない』」


「すみません!」


 ディオーネの言葉が終わると、どうしたことか。ミカエルは非難から一転して謝罪した。土下座一歩手前の、腰を直角に曲げた姿勢。それでひたすら許しを請う。これにジンはついていけず、戸惑うばかり。


「……これは?」


 という疑問を口にするのが精一杯だった。それに答えたのはディオーネ。


「いまのは“かみのことば(神の言葉)”。ディーよりよわいものに、いうことをきかせられる」


「凄いな」


「うん」


 誇らし気に胸を張るディオーネ。可愛いらしい、と思う一方でジンは本当に恐ろしい力だと戦慄する。だが、恐ろしいのはそれだけではなかった。


「ジンにもできる」


 とディオーネは言う。だがジンは本気にしていなかった。そんな神みたいなことできるわけがない。


「やってみて」


 だがディオーネは熱心に勧める。子どものお遊びだ。付き合ってやるかーーそんな軽いノリでジンはやってみることにした。


「コツはあるのか?」


「いうことをきかせる、ってかんがえるだけ」


(それで言うことを聞かせられるならどんなに楽なことか……)


 なんて心のなかでは思いつつ、ジンはミカエルに命じる。


「『顔を上げろ』」


 すると、これまでどんなに言ってもまだまだ謝り足りない、と頑として聞き入れなかったミカエルが顔を上げた。びっくりするジン。まさか本当に? と思うがすぐにそんなことはないと思い直す。


(いやいや。今のはたまたまだ)


 そう自分に言い聞かせつつ、別の命令出した。


「『走れ』」


 意味のない命令。しかし、ミカエルは走った。これでディオーネの言ったことが正しいと証明されたわけである。


「ーーはっ!? 『止まれ』!」


 使えちゃったよ……と呆然とするジン。だが、その間にもミカエルが走り続けていたことに気がつくと慌てて反対の命令を出した。


「……わたくしは一体……?」


「実験台になっておったのじゃよ」


「さ、最高神様!?」


 最高神の存在に驚き、慌てて片膝をつくミカエル。翼を畳み、頭を垂れた。


「恐れながら」


「ん?」


「この者は危険にございます。直ちに排除をーー」


 その体勢でジンを指さすと危険人物だと主張する。だが、最高神はそれを笑い飛ばした。


「問題ない。ワシらと同じ神じゃからの」


「え?」


 何言ってるんだこの耄碌ジジイ、といったようなミカエルの視線が最高神に突き刺さる。だが彼はいたって真面目だった。


「それからそなたたち天使の新たな主人でもある」


「ええっ!?」


 さっきまで敵と思っていた人間が自分の主人になるというのだ。ミカエルの混乱は最高潮に達した。そんな彼女の混乱に乗じた既成事実化を企む最高神は、早々に次の手を打つ。自身の神としての力を使い、熾天使を召喚したのだ。


「「「「お呼びでしょうか?」」」」


 現れた天使たちは一斉に片膝をつき、翼を畳んで頭を垂れる。ミカエルを含めた全員が金髪の女性。しかしながら、姿はそれぞれ異なっている。


【慈愛の天使】であるラファエルは、その気まぐれさを表すかのように髪をツインテールにし、つり目に貧乳と、ツンデレの三要素が揃った姿をしている。


【創造の天使】であるウリエルは、髪をアップにまとめて縁の太いメガネをかけている。スーツでも着せればキャリアウーマンとして通りそうな雰囲気を醸していた。


【天啓の天使】であるガブリエルは、まずその手足の長さに目がいく。髪はショートで、一見すると男のような中性的な天使である。百合をかたどったヘアピンが印象的だが、これは同時に彼女の嗜好も表していた。


【守護の天使】であるミカエルは、ロングの髪をきっちりストレートにしており、枝毛ひとつないサラサラの髪をしている。また守護というだけあって武芸の達人でもあった。鎧を着せて馬に乗せれば、立派な女騎士の完成である。


 そしてこの熾天使たちをまとめ上げる天使長ーーいうなれば【天使の天使】がルシファーである。身体つきはとても立派な女性であるのだが、唯一残念なのが身長であった。熾天使のなかで最低。頑張ってリーダー感を出そうと工夫した結果が、『妾』という一人称に代表される口調だった。


 そんな五体の天使に、最高神は主人がジンになったことを告げる。その言葉(決定)は絶対であり、ミカエルを含めて異論はない。


「よろしくお願いします。ご主人様」


 代表して天使長ルシファーが、膝をつき翼を畳んで頭を垂れる最敬礼の姿勢をとりつつ、挨拶をする。他の天使たちもよろしくお願いします、と彼女に続いた。


 ロリ巨乳にご主人様と呼ばれる背徳感に襲われ、ジンはおお、と反応するので精一杯なのだった。




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