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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
聖魔大戦編
66/95

このどうしようもないクソ女神に鉄槌を

似たようなタイトルを見た気がする?


……


…………


………………


し、知らない子ですね……

 



 ーーーーーー


 門へと飛び込んだジンと麗奈。二人は見覚えのある空間にいた。空は透き通るような青、足下は白くふわふわとした雲。二人が異世界召喚されたときに女神と会った空間だ。色々と印象深いところである。見間違えるはずがない。


 二人は目線を合わせて頷き合う。言葉こそないが、間違いないという確認だった。ここは敵地。いつミカエルみたいな天使が現れるかわからない。二人は得物を構え、いつでも戦闘に突入できるようにした。その体勢を保って移動する。


「しかし、何もないな」


「そうね。まるで雲な上にいるみたい。でも、暑くも寒くもない。不思議」


 麗奈がポロっと漏らした感想。それにジンは唖然とする。


「……何よ?」


 それに気づいた麗奈が、そんな反応をした理由を訊ねた。


「え、あ、いや、何でもないぞ」


「そんなことないでしょ」


 ジンはどもりながら誤魔化そうとする。しかしながら、その程度で逃げられるはずもなく、麗奈からの厳しい追及の視線を向けられることになった。


「はぁ……」


 誤魔化しきれない、と悟ったジンは大きなため息を吐く。言いたくないんだけどな〜、という細やかな抵抗だ。だがそんな心情を麗奈が斟酌するはずがなく、さっさと喋れと犯人に自白を促す刑事のように詰め寄ってくる。仕方がないので、ジンは驚いた理由を話した。


「高度が上がると気温が下がることを知ってるんだ、って驚いた……」


 ジンはバツが悪そうに目を逸らす。顔を真っ赤にして怒る麗奈。


「私をなんだと思ってるのよ! アンネリーゼだけじゃなくてジンまで」


「ごめんごめん。だから殴るな」


 ポカポカとジンを殴る。しかしながら本気ではないらしく、軽く叩くだけだ。麗奈の身体能力は勇者ステータスであるため、一般人が受ければたとえ軽く殴っただけでも悶絶必至である。これを受けて平然としていられるのはジンだからこそだ。


「……チッ」


 そんな風に二人がじゃれあって(?)いると、どこからか舌打ちが聞こえてきた。周りに誰もいないため、普段はかき消されるその音は明朗に響く。自然、視線は舌打ちが聞こえた方向へと向く。


 女神がいた。


「「え?」」


 探していた相手が呆気なく見つかり、ジンたちは拍子抜けする。


 女神がいるのは彼女の私室(?)なのか、ローテーブルの周りに色々なものが散乱していた。面積的には服、数量的には空き缶が多い。完全な汚部屋がそこにあった。


「これだからリア充は……」


 ジンたちを憎々しげに見た女神はケッ、と吐き捨てる。どこからともなく缶を取り出すと、プルタブを開けた。炭酸の小気味よい音とともに開封され、それを一気に呷る。ゴクゴクゴク、と喉を鳴らして飲む。そしてプッハァ〜、と大きく息を吐いた。


「リア充なんてこの世からいなくなればいいのよ! いつもいつもいつもいつも……アァーッ、リア充なんて爆発しろ〜ッ!」


 仕草は完全にオヤジである。ぶつくさと文句を言う姿は、お気に入りの野球チームが負けて文句を垂れるオヤジそのものだ。


「「……」」


 麗奈はなんだあいつ、といわんばかりの批判的な目を女神に向ける。学生だった彼女からすれば、酒癖の悪い者など迷惑でしかない。だから反応も批判的だ。


 対して、ジンは温かい目を向ける。彼の顔にはわかります、と書いていた。転生する前はサラリーマンで、飲み会などにも度々参加していた。その席で例のミリオタ上司や同僚、そしてジンも酒を飲んで騒ぎつつ、仕事で溜まった鬱憤を思う存分吐き出すのだ。大人になればこういうガス抜きは要るよね。超わかる、とその反応は同情的だった。


「ジロジロ見てないであっち行きなさいよ!」


 しかし女神からすれば、どちらにしても腹立たしい。同情されようが、それをしてくる相手はリア充なのである。気持ちのいいものではなかった。大荒れの天気のように女神は荒ぶっている。


「まあまあ。そんなカッカしちゃダメだね」


「そうそう」


「せっかくお客さんが来たんだから」


 どこからともなくヒラヒラと現れたのは、背中に二対の羽を生やした小人。妖精と形容するのが正しいだろう。彼女たちは女神の周りをクルクルと飛び回りつつ、荒ぶる女神をなだめようとする。


「煩いわね!」


 しかしそれはかえって台風に湿った空気を送り込む結果となり、威力を増した嵐に妖精たちは振り払われる。


「「「わ〜!?」」」


 女神が手当たり次第に投げてくる空き缶を回避する。そしてジンたちの許にたどり着いた。


「「「助けて〜」」」


 ジンの背中に隠れる妖精たち。相変わらず空き缶が飛んでくるが、それらはすべて【バリア】に弾かれていた。


「ふん」


 やがて手近な空き缶がなくなったのか、女神はそっぽを向いて新たな缶を開け、ちびちびと飲む。一応、収まったようだ。


「酷い目にあったね」


「ひどい、ひどい」


「女神様は乱暴なんだから」


 妖精たちは女神を口々に非難する。すると耳聡く聞きつけた女神が妖精たちを睨む。彼女たちはまたサッと隠れた。女神はそれ以上何もすることなく、また酒を飲み始める。


 女神がこちらに興味を失ったのを見て、麗奈は警戒を解く。そして、すぐさま妖精たちを抱きしめた。


「可愛い〜!」


 ぎゅーっと妖精たちを抱く。妖精たちは麗奈の腕のなかでおしくらまんじゅう状態になった。しかし嫌がることはなく、むしろキャッキャとはしゃいでいる。


「優しいね」


「やさしい、やさしい」


「気に入ったんだから」


 意外に好意的な反応だ。


「名前は?」


「私は麗奈。湊麗奈よ。あなたたちは?」


「タニア」


「ナイア」


「ハニア」


 赤、黄、青の服を着た妖精たちは、麗奈の問いに答える。並びは左から赤、黄、青となっていて、ジンは並びを反対にすればまるで信号機みたいだな、という感想を抱く。


「信号機みたい」


 麗奈も同じ感想を抱いたようだ。しかし、


「麗奈。信号機は左から青、黄、赤と並んでるんだぞ」


 ここだけは訂正しておかなければならない。


「え? そうなの?」


 麗奈は初耳のようだ。


「よかった。やっぱり麗奈だ」


「ちょっと待って」


 私の評価が酷くない? と麗奈は抗議する。しかし、ジンは無視した。


「余はジンだ。よろしくな」


「強い人だ。よろしくね」


「よろしく、よろしく」


「よろしくなんだから」


 妖精たちは二人によく懐いた。そしてジンは気になっていたことを訊ねる。


「ところで、アレはどうしたんだ?」


「それはねーー」


「それは、それは」


「言えないんだから」


 イヤイヤ、と拒否する妖精たち。『言えない』ということは、女神がああなった理由を知っているということだ。なぜ言えないかは、妖精たちがチラチラと女神を見ていることから容易に想像できる。だからジンは対策を講じた。


「問題ない。話してくれ。女神には聞こえない。証明しようか?」


 胡乱な目を向ける妖精たちに対し、ジンは悪戯っぽく笑う。そしておもむろに女神に顔を向けると、


「女神の馬鹿野郎! ブス!」


 と、大声で叫ぶ。


「「「はわわわ……」」」


 突然の暴挙に、妖精たちは慌てふためく。女神様に聞こえていたらどうしよう? ただじゃ済まない、とブルブル震えている。しかしながら、女神が反応する様子はない。


「「「あれ?」」」


 なぜ? どうして? 妖精たちは互いに顔を見合わせる。そして大丈夫だと言っていたジンを見た。相変わらず彼は笑顔だ。


「な? 大丈夫だっただろ?」


「そうなのね」


「そうそう」


「おかしいんだから」


 妖精たちは口々に言う。ジンは笑顔のまま、種明かしをした。


「魔法を使ったからな。女神に声は聞こえない」


 ジンは【サイレント】の魔法を自身の周囲に使っていた。効果範囲内の声は外に漏れない、という実に不可思議な魔法だ。


「それで、話してくれるな?」


「もちろんなのね」


 タニアが代表して答えた。


 ーーーーーー


 ジンたちを異世界に送り込んだ後、女神は自分の住処に戻ってきた。


「面倒な仕事も終わったわね。さぁて、どこかに私に相応しいイケメンはいないかな〜♪」


 ジンたちに向けたのとはまったく異なる甘ったるい声を出しつつ、女神は異世界の様子を移すウィンドウを眺める。地球でもジンの飛ばされた世界でも、空間ウィンドウなどというものは存在しない。しかし天界では物理法則も何もないため、実現が可能だった。


 女神はいくつものウィンドウを開いて自由に操る。映っているのは異世界の男たち。その誰もがイケメンだ。異世界のイケメンを落とすーーそれが女神の楽しみである。


「う〜ん。コイツはかっこいいけど、性格悪いわね〜。こっちはイケメンで、性格もーーでも奴隷か〜。生活が苦しそうね」


 女神は地上に降り、イケメンを夫にして暮らすつもりだ。彼女はいってしまえば、自分が常に一番でなければならないと考えている。下級の神でしかない女神には、天界で己の欲求を満たすことは難しい(というか無理)。そこで地上に降りて一番になろうというのだ。下級とはいえ、曲がりなりにも神。地上に降りれば、プロ選手が小学生の大会に出場したようなチートスペックを発揮する。


 もちろん、女神の思い描く『一番』は男や才能だけではない。生活レベルでさえも一番でなければならない。だから狙うのは王族だったり、大商人(の子ども)であったり……。奴隷など論外。苦労などしたくない。『一番』を目指し、とことん楽をする。相反する欲求を同時に満たそうとする、とんでもなくワガママな性格をしていた。


「やっぱり……これね」


 しばらく悩んだ末に、女神はターゲットを選ぶ。今回は大貴族(公爵)の御曹司だ。国王に子どもがおらず、後継者と目される王族筆頭。イケメン。金持ち。性格もいい。非の打ち所がない好青年だ。


 こうして女神は好青年の元に赴いた。


 そして、




「ぐすっ……」




 失恋した。


 ーーーーーー


「ーー通算、四二五六回目の失恋なのね」


 タニアはそう締めくくった。


「へえ。そんなことがあったんだ」


 がっつり食いついて前のめりに聞いていた麗奈が声を弾ませる。恋話に興味津々なお年頃だ。


「どんな風に振られたわけ?」


 ニコニコと笑いながら訊く。他人の不幸は蜜の味。タニアたちも乗る。


「それが、王様になるはずだった御曹司が敵の罠にはまって、別の王が立ったのね。女神様のご助力で王位は奪還できたんだけど、御曹司は大活躍の女神様じゃなくて、長年側仕えをしてきたメイドとくっついちゃったのね」


「シンデレラの引き立て役か。ザマァ」


 女神の四二五六回目の恋が実らなかったことを嘲笑う麗奈。その世界は一夫多妻制で、建国に多大な貢献をしたことから、女神が望めば御曹司の妃になれた(その話もあった)。だがそれは一番でなければならない、という女神ルールに違反するため拒否。死んだことにして、天界へと舞い戻ってきた。そして今の調子であるという。


「それにしてもふざけてるわね」


「ああ」


 自分たちをミスで殺しておきながら、存在をすっかり忘れている。それは先ほど言葉を交わしても何も言わなかった女神の態度が証明していた。挙句、男漁りだ。憤慨しないはずがない。


「本当に、ふざけた話よの」


「「っ!?」」


 突如として聞こえた声に、ジンたちは反射的に戦闘態勢をとった。いつの間に現れたのか、魔法の効果範囲に白髪の老人がいた。赤白の服を着せればサンタクロースに見える。長く白い髭と、柔和な笑顔が特徴だ。


「誰だ!?」


「ワシか? ワシは神じゃ。神様。そこの女神よりも偉いんじゃよ?」


 両手を挙げて敵意がないことをアピールする(自称)神。だが油断はできない。警戒を解かせてから襲うつもりかもしれないからだ。だが、


「最高神様ね」


「さま、さま」


「お久しぶりなんだから」


 妖精たちが突撃してじゃれつく。これを見たジンは警戒のレベルを一段階下げる。妖精たちに慕われていることは信用できる材料だ。ただし解くことはない。まだ為人はよくわからないのだから。


「それで、その最高神が何の用だ?」


 とりあえず用向きを訊ねるジン。ため口だ。最高神に対しては少しどうだろうと思えるが、ジンにへり下るつもりはなかった。最高神も特に咎めず質問に答えた。


「うむ。実はそなたたちに謝罪と礼、そして褒美をしようと思っての」


「……どういうことだ?」


 謝罪はわかるが、礼と褒美の意味がわからない。訝しむジンに、最高神は説明を続けた。


「ワシの部下(女神のこと)が適当な仕事をしたせいで、そなたたちを死なせてしまった。本当に申し訳ない」


「なら、元の世界に帰してくれるわけ?」


「すまぬが、それはできん。地球では、死者が蘇ることはないのじゃ」


 麗奈に最高神は申し訳ないと謝る。その様子から彼女が帰りたいと願っていたことが窺える。


(まあ、神だからな)


 女神が神であることには納得がいかないが、このサンタクロースっぽい最高神は神であることに納得できる。形容し難い威厳みたいなものが感じられるのだ。


 そのような最高神の謝罪を受けた麗奈。かつてのように怒りをあらわにするのかと思えば、


「そっか」


 と、実に淡白な反応を返した。ジンはおや? となる。あれほど元の世界に帰ると燃えていた彼女にしては、諦めがよすぎる。


「帰るんじゃなかったのか?」


 そのためにここまで乗り込んできたんじゃ……とジンは困惑気味。そんな彼に対して麗奈は、


「鈍感。朴念仁」


 と、罵倒した。アンネリーゼ警察がすっ飛んで来そうな暴言である。唐突な暴言に面食らってジンが目を白黒させていると、焦れた麗奈が胸倉を掴んで叫ぶ。


「あんたと別れるのが嫌ってこと! わかった!?」


 麗奈は顔を紅潮させて叫ぶ。改めて口にすると恥ずかしい。それでもこの朴念仁にわからせるにははっきりと言うしかなかった。


 彼女もまた、異世界で生きていく決意を固めていた。その決断をさせたのはやはりジンの存在が大きい。元の世界に戻っても、他人の顔を伺うつまらない生活を送るだけだ。しかしジンの許であればありのままの自分でいられる。自分を大切にして、守ってくれる。だからこその決断だった。


「……いいのう。甘酸っぱいのう」


 その横では、最高神が出歯亀根性を発揮して暖かい目で二人を見ていた。麗奈は別の意味で顔を赤くする。ジンも気恥ずかしく、咳払いで場の雰囲気を整えた。


「こほん……。そ、それで謝罪はわかった。受け入れる。あとは、あれを一発ほど殴らせてくれると嬉しいんだが」


「それは……まあ、いいじゃろう。いい薬じゃ」


「よしっ!」


 麗奈がガッツポーズ。よほど殴りたかったらしい。ジンも気持ちはわからないでもないので、特に何も言わなかった。


「そうと決まれば善は急げね」


 人を殴ることが『善』かどうかは議論の余地があるが、ともかく麗奈は意気揚々と女神のところへと歩いて行った。


「女神」


「なにーーっ!?」


 呼びかけに応える時間すら与えず、麗奈は躊躇なく殴った。アンネリーゼとのキャットファイトによって鍛えられた黄金の右ストレートが、女神の頬に突き刺さる。あまりの威力に女神の身体は浮き上がり、錐揉みしながら落ちた。受け身もなにもとれない。


(これ、麗奈の一発でよくないか?)


 ここで二発目殴られたら可哀想だ、という気持ちになって殴る気が失せたジン。それほどまでに強烈な麗奈の一発だった。


「麗奈も強いけどね」


「けど、けど」


「怖いんだから」


 妖精たちも身を震わせる。無理もない。


「は〜。すっきりしたわ〜」


(あれだけのことをしてそんなことが言えるお前がわからない……)


 ジンは清々しい表情の麗奈を見てそう思った。


「ほ、ほほっ。最近の若者は元気じゃのぉ……」


 最高神は驚きでボケたのか、そんな的外れな感想を漏らした。




【補足】「台風に湿った空気を送り込む」という言葉は、「火に油を注ぐ」の同義語を作者なりに考えた造語です。今は変わりません

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