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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
聖魔大戦編
62/95

神山に棲まうモノ

 



 ーーーーーー


 獣人族が降伏してしばらく。気絶していたレオンたちが目を覚ました。


「うぅ……オレは……?」


「レオン様」


「ん? お前か。どうした?」


「レオン様は、敗れました」


「そうか……」


 あれほど敵愾心を燃やしていたレオンは、随分と淡白な反応だった。


「あっさりしているな?」


 ジンは近づきつつ、声をかける。悠然としているが、裏では激情して襲いかかられてもいいように身構えていた。しかし、そんな素振りはない。


「オレたちは力がすべてだ。強い奴に従うーーそれができない奴は獣人ではない」


「なるほど」


 その理屈にジンは納得した。わかりやすくていい。


「それで、オレたちはどうすればいい? 女を求めるのか?」


「そんなことをするつもりはない。ただ、少し教えてほしいことがある」


「何だ?」


「神について」


 ジンがそう言った瞬間、獣人族とエルフたちがざわめく。この反応を見て、ジンは彼らが何かを知っていると直感した。


「な、なぜそのようなことを……?」


「余と麗奈は、少し神に用があるからな」


 駄女神を引きずり出してぶん殴るーーそれがジンたちの目的だ。さらに麗奈は、元の世界に帰るという目的もある。そのためにも神との接触は前提条件だ。


「知らないぞ! 神なんてーー」


「ほう?」


 レオンが大きな声で否定するが、ジンが凄めば口を噤んだ。


「話してくれるよな?」


 一語一語を句切りつつレオンに迫るジン。『強い奴に従う』ーーそれが彼らの口にしたルールである。これは自白を迫ると同時に、種族としての矜持にも疑問を投げかけるものだ。


 誇りを大切にする彼らにとって、ある意味でこれは究極的な選択である。島に生きる者としての禁忌と、種族としての禁忌。そのどちらを破るのかという。そして、


「……知っている」


「獣人!?」


 エルフのリーダーが驚いたようにレオンを見る。が、彼は投げやりに言った。


「仕方ないだろ。強い者には逆らえんのだ」


「はぁ……」


 そんな彼の様子に、エルフのリーダーは諦めたように嘆息する。そして彼もまた口を開いた。


「知られた以上、隠し通す理由はない。お話ししましょう」


 エルフのリーダーが語ったのは、この島の歴史だった。


 島はこの世界を創造したという神によって生み出された。そして同じく神に創造されたのが人間である。ジンたち地球の知識でいうと、猿人程度の段階だ。


 猿人たちは各々がその嗜好に合った生活をするようになった。まず見られたのが食の嗜好による差異である。菜食を好む者、肉食を好む者、そのどちらも好む者。それはやがてエルフ、獣人、人間と別れていく。


 次に、魔法に対する適性が運命をわけた。低い者は人間のまま、高い者は魔族へと。こうして大まかな種族が分化した。


 そしてあるとき、人間と魔族は禁忌を犯した。創造主たる神が立ち入りを禁止した場所(聖域)に入り、知恵の実を食べてしまう。彼らは神の逆鱗に触れ、島を追放された。それを見たエルフと獣人族は聖域に決して立ち入らないようにしたという。


「なるほど。ところで天使族の話がなかったが……」


「天使族は同じく神の創造物ですが、それは人間から分化したものではなく、神の従者であり使徒として創られたのです。なので、この話にはありません」


「そういうことだったのか。しかし、会ってみたいものだ」


「て、天使族にですか!?」


「ああ」


 それ以外の何に会うというのだ、とばかりに怪訝な表情をするジン。そんな彼を、島の住人は不思議クリーチャーを見るような目で見ていた。


「何かおかしいわけ?」


 そこで麗奈が訊ねる。彼女が聞いた限りでは、神の従者である天使族に会えれば神に会う近道になると思えたからだ。それはジンもまた同様である。だからその質問に対する答えを待った。


 エルフのリーダー曰く、


「あの者たちは神と自分たち以外を無価値と言い切る、選民意識の塊のような連中です。交渉なんて論外。気分を悪くされるだけでしょう」


 レオンはストレートに、


「あいつらは強い。いくらあんたでも負けるぞ」


 と忠告した。エルフたちは歯に衣着せぬ物言いに、ジンの逆鱗に触れるのではと恐れた。だが、彼らの予想に反してジンの受け止めは『そうか』という淡白なものである。否定的な見解を示されたからといって処罰するほどジンは狭量ではなかった。そうでなければ、言論自由の国ではやっていられない。


「まあ、やるだけやってみるさ」


 そしてまた、大航海時代のヨーロッパ人のように好奇心旺盛であった。これは元来の性格ではなく、この世界で成功体験に恵まれたためだ。調子に乗っているともいう。


「有益な情報に感謝する。これはその礼だ」


 と言って、ジンは魔法を発動した。その魔法ーー【リジェネレーション】は、焼け焦げて荒野となっていた森を再生させる。瞬く間に青々とした木々が生い茂る、元通りの姿になった。これにエルフたちや獣人族は開いた口が塞がらないといった様子だ。


「これで元通りの生活が送れるだろう。最後に確認だが、天使族は神山に住んでいるのだな?」


「あ、ああ……」


「わかった。情報提供に感謝する。あと、余計なお世話かもしれないが、少しは互いに仲良くした方がいいぞ」


 そう言い残して、ジンたちは神山の方へと歩いていく。彼らの姿を、エルフと獣人族は呆然と見ることしかできなかった。


 ーーーーーー


 エルフや獣人族と別れたジンたちは登山を開始した。見た目は高尾山のようだが、実際は剣岳のように困難な山道であった。そのため、かなり体力を消耗させられた。


「大丈夫か?」


「ええ」


「なんとか……」


 余裕のあるジンが訊ねると、麗奈とレナは力なく答える。言葉とは裏腹に、疲労困憊といった様子だ。そのため、ここで休憩をとることにする。


 なお、フローラは本国に魔法で帰還させた。登山にはついてこれないとの判断からだ。体力のある麗奈たちでさえ疲れているのである。フローラを離脱させる判断は正しかったといえた。


「少し多めに休憩するとしよう」


 ジンはそう言うと、魔法で召喚した使い魔を飛ばす。航空偵察だ。また詳細な偵察のために、地上にはスケルトンを放った。彼らの偵察結果がもたらされるまで休憩にする。少なくとも一時間以上は休憩できると踏んでいた。


「やった!」


 麗奈は喜色を浮かべ、その場にゴロンと寝転がった。目を離せば寝てしまいそうなほど寛いでいる。レナは特に返事はしなかったものの、ホッとした表情で座り込んだ。


「ねえ、ジン。あれ頂戴」


「ん? ……ああ、あれか」


 麗奈の抽象的な要求に、ジンは少し考えてから解を導く。そして取り出したコップに魔法で作った氷を入れ、そこに飲み物を入れる。これで冷たいドリンクの完成だ。


 ありがと、とお礼を言ってからコップに口をつける麗奈。中身を一気に流し込む。登山で火照った身体を冷たい飲み物が冷やしていった。えも言われぬ爽快感がある。


「ほら。レナも水分補給」


 ジンはずいっとレナにもコップを突き出す。彼女はぶっきらぼうに受け取ると、舐めるように口をつけた。


「あ……甘い」


 そしてその甘さに驚いたようだ。ジンが渡したのはスポーツドリンクもどき。レナはそれを舐めるようにちびちびと飲む。


「どうしてそんな風に飲むの?」


 二杯目をお代わりしていた麗奈が訊ねると、レナは、


「毒が入ってるといけないので」


「入れるか!」


 全力で否定するジン。そんなことをして何のメリットがあるのか、と猛抗議する。


「ワタシがいなくなれば、魔王は獣欲に駆られて殿下に襲いかかるはずです。間違いありません」


「するか!」


 そりゃ、フローラのような美少女とイチャイチャできるのだから、少しばかりハッスルしてしまうのは男として致し方ないことだ。とはいえ、ジンも限度くらい知っているし、加減もする。レナの懸念はまったくの的外れであった。


 しかし、レナはその言葉をまったく信じない。


「嘘です。密かにワタシを亡き者にし、殿下を己の獣心のままに弄ぶに決まっています。このけだもの


「お前の過去に一体何があったんだ!?」


 ここまで頑なに主張を曲げないと、過去に男がらみのトラブルがあったのではないかと疑ってしまう。レナか頑なな理由は不明だが、ジンとしてはとりあえず己の不名誉な評価だけは覆さねばならない。そんなことはない、とこれまでになく強気に言った。すると、


「それは殿下に魅力がないということですか?」


 と、ハイライトの消えた虚ろな瞳でレナが迫ってくる。彼女の頑なさは、フローラが魔王をも籠絡する魅力の持ち主だという確信からくるものであった。決して間違っているわけではない。たしかにフローラは可愛いし、そう思うのも理解できなくはない。だが、ジンは思う。


(面倒くせぇ……)


 と。


「とにかく、毒なんて入ってないから安心して飲め」


 しかし女性との口喧嘩がいかに不利かを経験則的に学んでいるジンは、口論になることを避けた。


 こんな調子で休憩すること一時間余り。ジンのところに使い魔が帰ってきた。ついでに、招かれざる客も連れて。その存在が感知されたのは、ジンの【レーダー】の索敵範囲に入ってからだった。


「貴様らか、聖域に入った賊というのは」


 上空から威圧的に発せられる声。そこには天使がいた。ただし男。ジンがなんとなく心のなかで思い浮かべていた、金髪でナイスバディな美女ではなかった。無性にイラつくジン。


「お呼びじゃねえ!」


 遠慮など一切ない全力の魔法を放つ。


「ぬっ!? こ、この力はーーっ!?」


 天使はそのような言葉を残して吹っ飛んでいった。ジンは天使に目もくれず、麗奈とレナを急かす。


「見つかった以上、速さ優先だ。行くぞ」


「わかった」


「ええ」


 二人もその指示に従い、地を駆ける。フローラは言うに及ばず、アンネリーゼやユリアでも追従できないほどのスピードだ。この三人だからこそできる超強行軍だ。


 まあ、ジンは純粋な身体能力ではなく、魔法を使ってスピードを引き上げている。だからアンネリーゼとユリアなら、魔法を上手く制御できればジンと同じことができた。ただし、持久力では天と地ほどの差があるが。


 数分ほど全力疾走したときだった。


「っ!」


 ガン、と大岩にでも激突したのかと錯覚するほどの衝撃がジンたちを襲った。攻撃自体はジンの【バリア】が防いだが、衝撃を緩和することはできない。これにより、ジンたちの足が止まる。


「ドラゴン?」


 ジンの第一声はそれだった。彼の目前には、ヴリトラとは真逆の純白の鱗をもつドラゴンがいた。


『然り。我は神の聖域の守護竜である、聖竜シルヴァーノ。咎人よ、己の愚行を悔いるがよい!』


 言うやいなや、シルヴァーノは極太のブレスを放つ。ジンの【バリア】を抜くことはできないが、生身で食らえば塵ひとつ残らないだろうことは肌で感じられた。


 それでもジンたちに怯えはない。三人はシルヴァーノに果敢に挑む。


「やあっ!」


「ハッ!」


 麗奈とレナが突出し、各々剣を振るう。レナは牽制程度にしかなっていないが、麗奈の攻撃はシルヴァーノの鱗を斬り裂く。


「ぬぐっ!? やるではないか、小娘」


 シルヴァーノは竜顔からでもわかるほどの笑みを浮かべ、麗奈に襲いかかる。牙や爪、不意に尻尾。変幻自在の攻撃を一身に受け、麗奈は防戦一方となった。この隙をついてレナが攻撃するも、


「ええい、鬱陶しい!」


 腕が薙がれ、吹き飛ばされる。幸い大きな怪我はしなかったものの、被害は深刻だった。攻撃がかすったのか、レナの鎧に大きな穴が開いている。さらに剣は粉々に砕かれた。


「剣が!?」


「そんな場合かっ!」


 レナが砕かれた剣の破片に手を伸ばす。しかし、シルヴァーノがさらなる攻撃を繰り出そうとしているのを見て、ジンが彼女を抱えてその場を離れる。直後、元いた場所に尻尾が叩きつけられた。キラキラと金属片が舞った。レナの剣だったものである。


「ああ……」


 悲嘆に暮れるレナ。ジンは戦闘続行は不可能と判断し、魔法で魔界へと送った。その後、戦線復帰する。


「待たせたな」


「遅いわよ」


 ジンに噛みつく麗奈。しかし、その表情は笑顔だ。さすがというか、彼女の装備は多少の傷はあるものの、レナのようにクリーンヒットでもないのに半壊するなんてことはない。


「よし、やるぞ」


「ええ」


 ジンが腕を突き出すと、麗奈が駆ける。彼女の身体スレスレにジンは魔法を放つ。使う魔法は【フラッシュ】だ。球状にしたフラッシュが、シルヴァーノの目を焼く。光の強さは百万カンデラ。


「ぬっ!?」


 シルヴァーノが反射的に目を庇う。しかし一時的にせよ完全に視力を奪われた。そこへ麗奈が飛び込み、


「やぁッ!」


 ガラ空きになった胴を薙ぎ、深々と傷をつける。さらにその傷口にジンの魔法が魔法を撃ち込む。島の森を破壊した魔法【バタリー】だ。その名の通り、魔法に込められたイメージは艦船の主砲。戦艦一隻の砲撃力は、四個師団(四万人)のそれに匹敵するという。その破壊力が、すべてシルヴァーノに向いた形だ。その破壊力は凶悪である。


「ぐっ……」


 シルヴァーノの巨体がよろめく。かなりのダメージが入ったようだ。ジンたちは追撃に移ろうとするが、そうはいかなかった。


 ーーゴーン。


 ーーゴーン。


 ーーゴーン。


 と、不意に教会から聞こえるような鐘の音がした。自然とその視線は、音の発生源である空へと向く。そこにはゴテゴテに装飾を施された白い門が浮かんでいた。


「何あれ?」


「さあ」


 と言いつつ、ジンはなんとなく察しがついていた。厳しい目で門を見る。すると、その門が開き、目をくらます光とともに何かが飛び出てきた。


「苦戦しているようですね、聖竜」


 そんな声がした。空からこの世の美を集約したような天使がジンたちを見下ろしている。それに気づいたシルヴァーノが答えた。


「ふん。少し油断しただけだ。お前たちは引っ込んでおけ」


「そうは参りません。主より、聖域に侵入せし逆賊を討滅せよとの勅が下りました。我らはこれより、主命を執行いたします」


 天使は手を広げ、静かに宣言する。


「ーー聞け、同胞よ。わたくしは熾天使・ミカエル。主命は既に下れり。逆賊の討滅にその力を振るわんことを」


 次の瞬間、今までどこにいたのかと思うほど大量の天使が神山から姿を現わす。また、門からも天使がわらわらと出てきた。そして空を埋め尽くすほどの大軍勢になる。


「これは……」


「なんて数……」


 ジンと麗奈は圧倒されたように言葉を漏らす。そしてシルヴァーノは、


「ミカエルーーよりにもよって熾天使セラフィムが出てくるとはな……」


 と、同情するように呟いた。


 しかし、数こそ多いもののジンから戦意を奪うまでには至っていない。


「それちらが数というなら、こちらも数で勝負だ」


 そう言ってお馴染みのスケルトン軍団を召喚する。さらに空を飛ぶ天使が相手ということで、人型だけでなく鳥型のものも召喚する。なお、骨だけの彼らがなぜ空を飛べるのかはジンもわからない。そこはファンタジーということで処理していた。


 これにより、絵面的には聖魔の最終決戦のような様相を呈する。両者は少しの睨み合いの後、どちらからともなく前進、激突した。


「麗奈。お前はドラゴンの相手をしておけ。っ!?」


 ジンが指示を飛ばすや、ミカエルが攻撃を繰り出してきた。それを防ぎ、熾烈な攻防を展開する。攻守が目まぐるしく入れ替わり、麗奈が介入する隙はない。否応なく、なし崩し的にシルヴァーノの相手をすることが決まった。


 麗奈がシルヴァーノと交戦を始めたことを横目で確認しつつ、ジンはミカエルに言葉を投げる。


「余に神を害する意思はない。ただ話がしたいだけだ」


「黙りなさい。目的など関係ありません。聖域に侵入したことが罪なのです」


 ミカエルはジンの言葉に耳を貸すことなく、攻撃を繰り出していく。距離が開けば羽根を飛ばして、詰まれば手に持つ錫杖を使って攻撃してきた。


 対するジンはそれらを【バリア】で防ぎつつ、適宜【バタリー】や【ミサイル】などで反撃する。ときに虚仮威しの【フレイム】ーー火炎放射器のような魔法も使って牽制した。


 しかし、それらはミカエルに躱される。両者ともに決め手を欠き、千日手の様相を呈した。


「熾天使であるわたくしと互角に戦いますか……。やはり、あなたは危険です。ここで排除しなければ」


「だから、戦う意思はない」


「そんなことは関係ありません。危険な存在は排除する。そうして神の安全を確保することが、わたくしたち(天使)の使命。今度はこれまでのようにはいきませんよ」


 そう言うと、ミカエルの身体が眩く光る。元々世界から隔絶したような美しさを誇る彼女だが、その光をまとうことでより浮世離れしたように感じられた。


「行きます!」


 そしてそれは存在感のみならず、能力をも現実離れさせる。光もかくやという勢いで突進してきて、錫杖の一撃を見舞う。防げたのは、完全に【イージス】のフルオート防御のおかげであった。


 そこからジンはほぼ手出しすることはできなかった。構図的にはミカエルvs【イージス】というもので、攻撃にも防御にも、ジンはまったく関与していない。


「はぁ……はぁ……」


 そして数分後。ミカエルは息も絶え絶えになっていた。艶やかな肌からは玉のような汗が浮かび、滴り落ちている。


 対するジンに呼吸の乱れはない。まあ、本人は戦ってはいたもののほぼ魔法システム任せだったのだから当たり前だ。


(それにしても、金髪美人が汗だくで息を乱しているのはそそるな)


 なんてふしだらなことを考えられるほどには余裕がある。


「神力を使った攻撃でも倒せないなんて……。なんて邪悪な存在なの?」


 ジンとしては大変不名誉な評価である。魔王をやっているが、邪悪というよりは善良な存在だと思っていたからだ。有り体にいってショックだった。ある意味、ミカエルが与えた最大のダメージだ。


 ミカエルは息を整えつつ、辺りを見回す。各所では天使たちとスケルトン軍団が激突していた。その旗色は天使にとって悪いものだった。


模造天使レッサーエンジェルはともかく、大天使アークエンジェル能天使パワーズを圧倒し、智天使ケルビムと拮抗しますか……」


 数の上では互角。そして個々の戦力では天使側が劣位に立たされていた。ミカエルは悔しそうに唇を噛む。


「ーーですが、それもこれまでです。主の断罪を食らいなさい!」


 錫杖を振る。直後、上空に太陽のような強烈な光が生まれる。途端にスケルトン軍団が溶けた。


「なにっ!?」


 これにはジンも驚く。その姿を見たミカエルは笑む。


「これが神術【ジャッジメント・サークル】ーー邪悪なるものを滅する聖なる光です。……なぜかあなたには効かなかったようですが」


 しかし、


「これで残るはあなたたち二人のみ。神に反逆したことを悔い改めなさい。地獄で!」


 再び攻撃が再開される。今度はミカエルのみならず、手の空いた他の天使たちも加わった。【バリア】で防ぎ、攻撃と牽制は手数の多い【ガトリング】でこなす。しかし、それ以上の数の暴力によってジンは圧倒されつつあった。


(これはダメだ)


 形勢が逆転した。シルヴァーノと互角に戦っていた麗奈も少しずつ押されている。状況を打開するためにスケルトンを召喚するが、現れた瞬間、焼けてしまう。事態の打開は難しいというのがジンの下した結論だった。そして、撤退を決断する。


「【マイン】!」


 ジンは攻撃の間隙を利用し、自身を全方位の【バリア】で守った上で機雷をイメージした魔法を使う。やはり例のミリオタ上司の影響で、戦艦を撃沈するほどの威力を持つ兵器という認識があった。それを素人ならではの発想力で、水中ではなく空中で使ったのである。もちろん、威力はそのまま。周囲の天使たちを一気に薙ぎ払った。


 別の天使が突撃を敢行するが、【マイン】による爆発が起こって錐揉みしながら落ちていく。ジンが魔法による攻撃で落としたのではない。魔法のトラップであることに、ミカエルたちは気づいた。その心理的圧迫により、ジンに近づけない。神の使徒としての使命に燃えていようとも、自殺に等しい攻撃はできなかった。


 その間にジンは麗奈の周りの敵も同様の方法で一掃。麗奈に撤退を促した。


「撤退だ!」


「でも、あと少しなのに!」


「場所がわかっただけで上々だ。このままだと厳しい。ひとまずここは退くぞ」


「……わかった」


 麗奈は苦い顔で頷いた。やはりゴールを目前にして引き返すのは悔しい。それはジンも同じだが、生きていれば再び挑戦することができる。そう自分に言い聞かせた。


 二人は転移で島を離脱する。その姿を、ミカエルたちは見守ることしかできない。


「逃げられてしまいましたか……」


 ミカエルは悔しそうに臍を噛むのだった。




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