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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
新魔王編
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戦後処理




ーーーーーー


 魔界一日戦争が終わって数日が経ったある日、ジンは再び種長たちを集めて会議を開いた。議題は無論、敗者たちの処遇について。そして今後の方針である。


 まず反乱の首謀者であるマレンゴ、オニャンゴ、クワシについては、


「処刑です」


「処刑ですね」


「処刑でしょう」


 アベル、マリオン、マルレーネの三者の意見は完璧に一致した。


 しかしジン(魔王モード)はここで意地悪く、


「なぜ処刑が適当だと思う?」


 と訊いてみる。これは今後の方針を理解しているかチェックするための質問だ。


 答えたのはマリオン。


「魔王様のお力を示すためです。魔王様のお力は種長よりも強いことを知らしめ、魔王様が種長を裁けるーーつまり、種長より上位の立場であることを明示するのです」


「素晴らしい。満点の回答だ」


「恐れ入ります」


 マリオンは恭しく頭を下げた。


 ジンは軽く頷いてから、種長たちに向き直る。


「マリオンが言った通り、この裁きの目的は余が魔界の統治者であると示すことにある。これを忘れるな」


「「「「はっ」」」」


 ジンの声に応えた声は四つ。アベル、マリオン、マルレーネ、そしてさっきまで黙っていたティアラだ。


 そう。実はこの会議に馬魔種、緑鬼種、青鬼種の種長はいない。理由は至極単純。負けたからだ。戦争が終わって新たな枠組みを作るなかで、この三種族は大きく遅れをとった。しばらくは冷や飯を食うことになる。地球でいえば第二次大戦後の戦勝国、敗戦国のようなものだ。なお日和見していた牛魔種も少し微妙な立場に立たされている。だからこの場にいてもあまり発言していない。


 逆に勝利した三種族は絶大な発言権を得た。特に人魔種。魔王が人魔種とあってその地位は他種族より一段上のものになっている。魔王が自分の種族に利益供与するのは慣例であり、当然今回もあると思っていたのだ。


 ジンも当然、自らの支持母体に利益供与はする。しかしあまりにも人魔種が強すぎるため、婚姻を結ぶ吸血種や娘を差し出す淫魔種への配分を多くすることでバランスをとるつもりだった。


「さて、次は今後の方針だが……大きな目標としては将来予想される勇者を擁した人間たちから魔界を守ることだ。そのためにまず統一された軍を編成したい。戦をするたびに集める急ごしらえのものではなく、常に訓練された軍だ」


「承知しました。では残り三種族にも通達を出し、人選をさせます」


「いや、この軍は基幹人員以外は基本的に応募形式とするからその必要はない。志願させることで責任感を持たせたいのだ。それと同時に種領もすべて余が接収する」


「それは……なぜでしょう?」


「権威をつけるためだ。余は確かに勝った。しかしそれで落ちたのは敗者側のみ。勝者は未だ従来の地位のままだ。だからこそその程度の差はあれ、皆が余の下にあることを知らしめる必要がある。そのためには種領をすべて余の下に置かなければならぬ。もちろんこのように広大な土地を余のみで司ることは不可能だ。だから()()今まで通りの区割りで『州』という組織をつくる。その長を魔都から派遣して雑務を任せるのだ。種長は残すが、それは種族の代表として魔都に詰めてもらうのが基本になる」


「それはなんとも……」


 マリオンが言葉を失う。マルレーネは妖しく笑っていた。二人はジンの意図に気づいたのだろう。


 ジンは心の中で二人に加点した。特にマルレーネの加点は大きい。なぜなら一切の助言がなくとも正解にたどりついたからだ。


『州』の設置目的は権威づけであることは間違いないが、実は間接的に今回の戦争に負けたり日和ったりした四種族を干すことになるのだ。なぜなら彼らは頭脳労働ができないから。ジンの説明によれば『州』の長は従来の種長が担ってきた職務を代行するポスト。しかしそこに住んでいる種族と同じ種族の者が長にならなくてはならない、とはひと言も言っていない。だがもともと先の四種族は脳筋軍団であり、以前から政務を滞らせがちだった。そんな種族を魔王が要職につけるだろうか? 答えは否である。


「準備もあるから実行はひと月後だ。ではただちにかかれ」


「「「「はっ!」」」」


 かくして大改革は断行された。反抗は大きかったが、ジンの圧倒的な力を目の当たりにしては逆らえず、渋々従った。しかしこの改革がのちに秀逸な成果を挙げることになる。後世ではこれを『魔界改新』と呼ぶ。


ーーーーーー


 ジンが改革に関する諸々の仕事に追われているある日のこと、彼の執務室をマリオンが訪ねてきた。


「魔王様。ご機嫌麗しくーー」


「世辞はいい。要件は何だ? 問題が発生したならただちに対応するが」


「問題ではあるのですが、私的かつ公的で、魔王様のご協力がなければ解決できない事案でして……」


「ほう。それは?」


「魔王様とワタシの娘・アンネリーゼとの婚姻についてです」


 そういえばすっかり忘れていたーーなんてことを漏らすほどジンもバカではない。さも知っていたように話す。


「なるほど。それは余も気になっていたところだ。即位してからずっとゴタゴタが続いていたからな」


「はい。ですが現在は安定しました。それに今度の式典には種長たちも集まりますので、式もそれに合わせて挙げられたらと思ってお伺いさせていただきました」


「なるほど。それはいい考えだ。ならばアベルに仕切らせよう。中央から身を引くらしいからな。これを最期の仕事にしよう」


 数日前、アベルはジンに対して辞意を表明したのだ。彼も種長と中央の仕事を両立するのは厳しくなったらしく、後任マリオンもできたため中央から引退するそうだ。そのため彼が就く予定だった宰相補の席は組織表からはなくなっている。


「そうなのですか……」


「アベルもそなたを認めたということだ。残念がるのではなく誇りを持て」


「はっ。ではアベル殿にこの件を伝えて参ります」


「よろしく頼む」


 マリオンとアベルが協議した結果、結婚式は州創立記念式典(後の建国記念日)のプログラムに組み込まれることになった。


 かくして月日は再び流れていくーー。




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