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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
対人間戦争編
39/95

麗奈の野望

 



 ーーーーーー


 ワルテル公爵、アモロス侯爵の計画は露呈したものの、どちらも目立った動きを見せることはなかった。反対派を根こそぎ検挙したいジンは警戒を緩めることなく、その動きを注視する。双方、待ちの態勢に入っていた。


 そんなわけで、ジンはわりと暇であった。というのも、彼の仕事となるはずだった王国の政治改革は、ビジョンを示されただけで官僚たちが躍起になって取り組んでいるのだ。


 従来の政治体制を大変革するわけだから、当然ながら大反対が予想された。ジンはてっきり叱咤激励しないと動かないと思っていたのだが、結果はこの通り。反対するどころか、自ら進んで改革に乗り出していた。


 官僚たち(ここでは便宜上『官僚』と称しているが、実態は家を継げなかった貴族子弟)は、ジンが示した『家格に縛られない昇進』という方針に期待していた。特に下級貴族出身の官僚は目の色を変えている。貴族政治である以上はどうしても家格に縛られてしまう。それがなくなるというのだ。家格の壁に昇進を阻まれていた者たちからすればまさしく福音である。


 逆に、高級貴族出身の官僚は従来の政治体制を覆されてたまるか、とサボタージュを敢行した。この点はジンの予想通りなのだが、その遅滞を下級貴族出身の官僚たちが穴埋めしてしまっているために問題が表面化していなかった。彼らからすればせっかくの昇進の機会である。改革が頓挫してたまるか、と昼夜を問わずに働いた。


 明かりを確保するために私費で蝋燭を買って働く(この世界では蝋燭は高級品)、同僚(高級貴族出身)が帰宅して翌朝出勤するまで働き通していたーーなんて事例が多発していた。


 かくしてジンは暇をしていた。そこでフローラの提案で、王都の東にある湖の畔に建つ離宮のひとつにバカンスに行くことになった。ジンは渋ったが、疲れているだろうからと気遣うアンネリーゼに押し切られてしまう。気を遣われるとなんとなく断りづらい。ただ、先ほども触れたように官僚たちは激務に追われている。そんななか堂々とバカンスに行くわけにはいかないので、『王国東部の視察』と称して王都を離れることになっていた。


「マルレーネ、そして国王よ。そなたらに留守を任せるぞ」


「「はっ!」」


 二人は揃って返事をする。なお、魔王軍の主力はマリオンに率いられて帰国していた。王国に残っているのは王都の駐屯部隊と、夢魔種で編成された諜報部隊。新たに得た沿岸部に治安維持のための小勢(指揮官はオルオチ)が残るのみだ。


 ジンは多くの人々に見送られ、王都を離れた。旅のお供はアンネリーゼと麗奈、フローラ、そしてティアマトだ。護衛はフローラ付きの王国騎士が担当する。魔族の護衛はいない。いささか不用心かもしれないが、ジンが人間族を信頼しているというポーズであった。もちろん完全にフリーではなく、魔族でもトップクラスの戦闘能力を誇るアンネリーゼがいる。使い魔の妖精ピクシーたちも、密かに見張っていた。抜かりはない。


 移動手段は馬車。この世界では標準的なものだ。最も速い乗馬は特殊な技能が要るため、一般人が使える最速の移動手段である(ジンの飛行などは除く)。そしてジンは早速問題を発見した。


「……道が悪いな」


 ガタガタガタ、と車輪が乾いた音を立てる。この時代、サスペンションなどという便利なものは発明されていない。その衝撃はダイレクトに伝わってきて、ジンの尻に絶大なダメージを与えていた。


「そうですね。また痛んでしまっています……」


 ジンの発言にフローラも同意した。とはいえ、この道は王国と教会を結ぶ幹線道路であり、道はかなり舗装されている。しかし交通量が多く、すぐに痛んでしまうのだった。


「石畳にしよう」


 と、ジンは即断する。これに面食らったのはフローラだった。


「待ってください。道をすべて石畳にするなんて、どれだけお金がかかるとお思いですか!?」


 フローラは箱入り娘ではあるが、政治に疎いわけではない。道をすべて石畳にするーー金貨が数千枚は飛んでいくだろうことは容易に察せられた。ちまちまとしたものの相場は知らないが、大きな額が動くからこそ理解できたといえる。


 しかし、ジンが考えを曲げることはなかった。彼も舗装工事には莫大な費用がかかることは承知している。ただ、彼の視点はそこに留まらない。そのような目先の負債には囚われず、その先を見ていた。すなわち、整備された道路が生み出す莫大な経済効果に。


「フローラ。道を整備するにはたしかに多くの費用がかかる。だが、それ以上に多くの利益をもたらしてくれる。例えば石畳になって道がよくなれば、車軸が折れるなんてことはなくなるだろう。そうなれば移動がよりスムーズになり、物流が盛んになる。すると商人たちが活発に動き、税収も増えるだろう」


「な、なるほど……」


 目から鱗、といった様子だ。しかし効果はそれだけではない。


「軍にとっても有益だ。こちらも移動が楽になるからな。迅速な展開が可能になる」


 現在、王国防衛の要は魔族である。ジンのように空を飛ぶなんていう芸当はできない。よってちんたら陸を歩くしかないのだ。そのためには整備された道が必要になる。それも、できるだけまっすぐなものが。ジンの構想では江戸時代の東海道のように、数キロごとに宿場町を設ける予定だ。これをとりあえず、王都から東西南北の地方都市に伸ばしていく。帰ったら早速取りかからせることにした。


 フローラは官僚たちに余計な仕事を増やしてごめんなさい、と心の中で謝った。しかし残念なことに、ジンの野望はそれだけに止まらない。同時に職人を呼び集め、サスペンションを開発させようと考えていた。もちろん国主導である。官僚たちの負担も割り増しだ。


「ジン様。今はお仕事のことを忘れてください」


 と、待ったをかけるのは隣に座るアンネリーゼ。彼女は本気でジンの身を案じている。仕事を忘れてバカンスをしよう、というのも自分が休みたいからというよりも、日々激務に追われる彼を気遣ってのことだった。だから、仕事のことばかり考えているジンにストップをかけたのだ。


 ジンもまた、そんな彼女の気遣いをわかっている。だからこそ苦笑しながら『すまない』と謝った。


「もう、ジン様ったら」


「あははっ。ジンってば、すっかりこいつの尻に敷かれているわね」


「失礼な。私はジン様のご苦労を少しでも和らげようとーー」


「あー、はいはい」


 アンネリーゼの言い訳を、麗奈は手をヒラヒラさせて適当に流す。途端にアンネリーゼは頰をピクピクさせる。普段は温厚な彼女だが、麗奈のことになると別人のように気が短くなってしまう。性格が奇跡レベルで合わないのだ。


 ジンはアンネリーゼがキレる前に話に割り込む。


「俺としては、思いついたことを話しただけなんだがなぁ」


「それもダメです。今回、ジン様には何もかも忘れてバカンスを楽しんでいただかないと」


 アンネリーゼは使命感に燃えていた。ただ、少し肩に力が入りすぎている。ジンは彼女の肩に腕を回し、そっと抱き寄せた。最初は驚いていたアンネリーゼだったが、すぐに力を抜いて身を委ねる。


「気を遣わせてすまないな、アンネリーゼ。今度からはちゃんと休むようにするよ」


「はい」


 ジンがアンネリーゼの頭を撫でれば、彼女も胸板に頰をすりすりとこすりつける。とても甘ったるい空気が車内に満ちた。しかもどこか近寄りがたい、二人だけの世界だ。麗奈やフローラは耐えられない、といった表情になる。


『キュイ!』


 そんな空気を読まずに二人の元へ飛び込んでいったのは、先ほどまで身体を丸めてスヤスヤと眠っていたティアマトだった。察するに『構って!』といったところか。護衛の騎士たちを震え上がらせたドラゴンとはいえ、まだまだ子どもである。


「ティアちゃん。おいで」


 アンネリーゼが抱き止めようと手を伸ばす。が、ティアマトはヒラリとかわしてジンの左肩ーーアンネリーゼが寄りかかっている肩の逆側ーーに着地した。ジンはやはり苦笑しながら、すりすりと撫でてやる。ティアマトは『キュー』と鳴いた。気持ちいいらしい。


 その隙にアンネリーゼが手を伸ばすが、バチっと何かに阻まれる。


「痛いっ! ティアちゃん、障壁を張ったわね」


 ご名答。ティアマトは撫でられている間、アンネリーゼがいる方向に障壁を展開していた。それもただ阻むのではなく、触ると電流が流れるものを。感覚としては、冬場によく経験する静電気に近い。


 アンネリーゼはティアマトを恨めしそうに見るが、本人(?)は知らん顔だ。言葉はなくとも態度がよく示している。すなわち、『触るな』と。魔族でもトップクラスの強さを誇るアンネリーゼだが、さすがにドラゴンには敵わない。できるのは、ただ抗議することだけだった。


 ジンも、ティアマトのアンネリーゼ嫌いは筋金入りだとわかっているのでなんとも言えない。理由は彼にもわからなかったが。


 せめてもと、電流については解除させた。いずれにせよ、アンネリーゼが触れないことに変わりはない。なお、麗奈やフローラはなんだかんだでティアマトに触っている。触れていないのはアンネリーゼだけだ。


 やがてティアマトは目覚めの運動とばかりに馬車の外へと飛び立っていった。帰りはジンの魔力を頼りに勝手に戻ってくるので心配要らない。


 夕方、日暮れ前に野営の準備が行われていたところにティアマトが帰ってくる。その脚には鹿がぶら下がっていた。狩ってきたらしい。


『キュイ』


 どうだ、とばかりに胸を張るティアマト。よくやったとジンから褒められ、騎士たちからも拍手が送られる。それに気をよくしたのか、『もっと褒めて〜』とばかりにジンたちにすり寄る。ジン、麗奈、フローラにわしわし撫でられてご満悦。その流れで私も! とトライしたアンネリーゼだったが、やはりかわされてしまった。なんで〜! とアンネリーゼは憤慨。騎士たちはその光景に目を見開き、そして人間と魔族もあまり変わらないということを認識したとかしなかったとか。


 ーーーーーー


 青い空、広い湖、そしてーー美しい少女たち! ここは楽園ーーではなく、湖に面した都市、ヴェシュリーンだ。王都と教会の総本山とを結ぶ街道からやや外れたところにあり、人口は数千人といった小さな街である。しかし美しい湖畔の風景に観光客が立ち寄り、王侯貴族の別荘も集中していた。ジンたちはこの街にある王族が使う離宮に滞在することになっている。


「お待ちしておりました」


 ジンたちを出迎えたのは離宮の管理を任された使用人たち。内訳は執事二名、メイド十名だ。これとは別に、警備担当の兵士が五十名ほど詰めている。彼らを代表して、いかにもジェントルマンといった老齢の執事が声をかけてきた。


「キース。久しぶりね」


「ご無沙汰しております、フローラ殿下。勇者であらせられるレイナ様のご来訪、心より歓迎いたします。ーーそして魔王ジン様、ならびに王妃アンネリーゼ様。至らぬ点が多々あると思いますが、どうかお寛ぎください」


 ジンは毎年のように訪れているというフローラに挨拶を任せたが、執事ーーキースは全員に挨拶した。フローラの声かけに応え、麗奈を立て、そして主賓ともいうべき魔王夫妻に重きを置いている。そつがない。このやりとりだけで、キースが相当に優秀な人材であることが窺えた。


「出迎えに感謝する。しばらく厄介になるが、よろしく頼むぞ」


「ははっ」


 キースは深々と頭を下げる。ーーと、そこに接近する影があった。目にも留まらぬ速さで飛翔したそれは、しかしフワリと軽やかにジンの肩に着地する。ティアマトだ。馬車から降りる直前、ジンは魔力を強めて戻ってくるように合図していた。


『キュイ』


 呼んだ? と鳴くティアマト。ジンは答えず、ただ頭を撫でてやった。そうしつつ、使用人たちの様子を窺う。最強生物たるドラゴンを見て少なからず恐怖を覚えているようだったが、努めて表に出さないようにしている。それを見て、ジンはキースにこぼした。


「素晴らしい」


 と。これにキースはお辞儀で応えた。


 ジン一行は各自の部屋に案内された。フローラには割り当ての個室が、ジンたちには客間がそれぞれ一部屋ずつ与えられている。その確認を終えるとリビングへ集合。そこでキースの用意した紅茶を飲みつつ、今後の方針を話し合うことになった。


 ジンとしては各自自由時間でいいのではないかと思っていたが、ここで張り切ったのが麗奈だった。彼女はフローラから湖で泳げるという話を聞き、すっかりその気でいたのだ。


「泳ぎましょう!」


 開口一番、麗奈は決定事項のように言った。これにアンネリーゼが反論する。


「待ちなさい。あなた、今回の目的をわかっているんですか? このバカンスはジン様がお休みになるためのものなのですよ?」


「えー。いいじゃん。ジンも泳ぎたくない?」


 アンネリーゼはわりと頑固だ。なので麗奈は彼女を口説くのではなく、直接ジンを口説きにきた。アンネリーゼが唯一逆らわないのはジンであるからだ。


「ん〜」


 ジンは少し悩む。脈ありと見た麗奈は畳みかけた。


「いいでしょ? ほら、水泳って全身運動になるしさ。たくさん運動して、疲れて眠って翌朝元気! みたいな」


 よっぽど水泳がしたいのか、麗奈も必死に利点をアピールする。ジンも最近は運動不足を自覚しつつあったのでわりと前向きだ。しかし、それが休むように求めているアンネリーゼの要望に添えるかというと、微妙なラインだった。彼女の気持ちも無碍にはできないので、決断できない。


 すると、焦れた麗奈が自殺攻撃を敢行する。ニョロ、っとまるで軟体動物のような身のこなしでジンの隣に立つ麗奈。動きが少しキモい。そして耳元で囁く。


「そ、れ、に……今なら私たちの水着姿が見られるわよ」


「長旅で疲れただろう。今日は休むぞ」


 即断だった。くだらないことを言う輩に付き合う義理はない。


「ごめんなさい! 冗談! 冗談だから〜っ!」


 麗奈は慌てて謝り、ジンにすがりつく。そして『お願い』と懇願した。そこまでか……とジンは呆れる。


「……わかった。今日はみんなで水泳を楽しもうか」


 ジンは渋々といった様子で水泳に同意した。しかし、内心で喜んでいたことは事実である。彼もまた、男なのだから。


 ーーーーーー


 離宮には王族のバカンスで使うものはほとんど取り揃えられている。そこには当然ながら水着もあり、ジンたちはそれを借りることになった。四人は着替えのために別れ、着替えたらまたリビングに集合。そして馬車に乗り、王族のプライベートスペースに移動することになった。


 ジンはキースから水着を受け取って着替える。渡された水着は普通のショートスパッツ型のものだった。日本のものに比べて多少生地がごわついている感じはしたが、まあ異世界だしこんなものだろうと納得する。だが、それに納得できない者がいた。


「ジン!」


 バタン、とノックも何もなく部屋に飛び込んできたのは麗奈。その姿は水着ーーではなく全身をローブで覆い隠している。どうした、と訝しむジン。そして麗奈はジンを見てーー固まった。


 何気に彼女がジンの肉体を見たのは初めてである。妻だ妻だと言ってはいるが、実際は形式的なものにすぎない。それはフローラも同様だ。ジンは政治上必要だから彼女たちを妻に迎えたが、本当に愛しているのはアンネリーゼだけだ(彼女とも成り行きーーというより、初夜を迎えたかをチェックされるので止むを得ず致したにすぎない。まあ、そこから深まった愛ではあるのだが)。


 そんな麗奈が目にしたジンの肉体は、いっそ芸術的だった。ギリシャ・ローマ彫刻のように引き締まった肉体は、博物館に彼の彫刻があったとして違和感を抱かないほどだ。ルックスも相まって、まるで少女漫画の王子様が現実に現れたよう。麗奈はすっかり見惚れてしまった。


「ーーな。麗奈?」


「はっ!」


 ジンが何度か呼びかけると、麗奈はようやく現実に帰還した。誤魔化すように咳払いすると、今度は使用人キースを追い出しにかかった。キースも勇者の である麗奈に逆らえず、部屋を出ていった。こうしてあれよあれよという間に二人きりになる。


 直後、ジンに詰め寄る麗奈。そしてローブを脱ぎ捨てる。途端、露わになる現役JKの水着姿ーーそれを見てジンは首をかしげる。それはいうなれば全身タイツだった。現代を生きる日本人的には非常に恥ずかしい。出てきた感想は、


「それ、水着か?」


 というものだった。


「でしょ? ジンもそう思うわよね」


 麗奈も激しく同意する。どうやら彼女はこれについて抗議したかったようだ。そして麗奈から衝撃の事実が告げられる。


「これしかないんですって、水着」


「は?」


 言葉の意味を一瞬吞み込めず呆けるジン。とても珍しい。しかし麗奈は大事なことなのでもう一度言う。


「水着はこれしかないの」


 麗奈はこれまでの経緯を説明する。要約すれば、水着を選ぼうとはりきっていたら全身タイツのような水着を渡された。これ以外にないのかと訊くと、ただひと言『ない』と言われたそうだ。これ以外に水着があるのかといわんばかりの塩対応だったらしい。


 やむなく渡された水着を着てみたものの、やっぱりダサい。黒いので強引に解釈すればウェットスーツといえなくもないが、ダサいものはダサい。そこでジンに頼ったというわけだ。


「ジン、水着出して。可愛いやつ」


「と、言われてもなぁ……」


 困ってしまうのが実情である。水着なんて持っていないのだから。作ろうにも材料がない。ノウハウについては以前、マグロを料理させようと職人を召喚したことがある。あれと同じようにすればいいだろうが、材料についてはどうしようもない。そう説明すると、


「ならフローラに訊けばいいのよ!」


 と言って飛び出していった。そして話はフローラに伝わり、彼女は困惑しつつもキースに命じて街で生地を商っている商人を呼び出すことになる。ジンも麗奈の求めに応じて召喚魔法を使用。結果、ジャックという名のデザイナーが喚び出された。生地の選定は任せられる。


 生地商人は店にあるだけの生地を持ち込んだ。敗れたとはいえ、王族の威光は健在である。そして厳正な審査の結果、ある魔物の皮が選ばれた。


「伸縮性もあるし、これが一番だ!」


 そう言ったジャックはこれまた呼び出した服飾商人の工房を占拠。数時間のうちにジンのための男物を含む水着を四点、作り上げた。ジンはそのうちのひとつーーもちろん男物ーーを取り上げてしげしげと眺める。撫でて生地の具合を確認したり、引っ張って縫製の状態を確認したりと、それっぽい動作(実際はよくわからない)をして、


「……ふむ、いい出来だ。感謝するぞ」


「別に。それより、約束は守ってくれるんだよな?」


「もちろんだ。あとはこの者と話し合うといい」


 そう言って突き出されたのはこの街の代官。彼も今回の騒動に巻き込まれた被害者だ。後始末を完全に押しつけられた。


 ジャックも以前のジローのように、このヴェシュリーンで店を開くことになった。主に水着を取り扱う。当初は露出が多すぎて忌避されていたのだが、勇者(麗奈)や王女フローラが使ったという話が伝わると爆発的な人気が出る。そして後世において、水着ファッション界のパイオニアとして評価されることになるのだった。




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