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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
勇者編
22/95

そのころ、勇者はⅣ

 



ーーーーーー


 北のホワイトグリズリー、西のビッグホークの討伐を終えたことで、麗奈たちの四獣討伐の旅も後半戦を迎えた。残るは南のトドラシ、東のクラーケンである。


 麗奈たちはまずトドラシのもとへ向かう。トドラシは地球でいうところの南極に棲んでいる。王国の南端から見える氷山がその南極のような場所だ。麗奈は対岸からその姿をじっと眺めている。その表情は憮然としていた。というのも、今の自分の格好に納得がいかないのだ。


 現在の麗奈の服装についてだがーー何も変わっていない。ギャンベゾン(鎧の下に着る服)の上にフルプレートの鎧、金の縁取りがされた純白のマントを羽織り、左腰にはすっかり慣れた剣の重みと、いつも通りの格好だ。


 ならばいいじゃないか、と思うかもしれないが事はそう単純ではない。目の前に氷山があることから容易に想像できようが、ここは寒い。冬の北海道などよりも寒い。そんな場所で鎧を着ただけーーコートのひとつも着込まないのは(麗奈の常識的には)違和感がある。もっとも寒くはない。【防寒のペンダント】という実にファンタジーなアイテムによって、寒さはきっちりガードされて暑くも寒くもない、快適な温度に保たれている。麗奈は便利だな、と思いつつも情緒がない、と思っていた。そのためつい、街の人々を羨ましいと思ってしまう。コートにマフラー、手袋をつけた人々が。


「どうかされましたか、勇者様?」


「イライアか……。いや、あの人たちが羨ましいと思ってね」


「羨ましい? あの賎民たちがですか?」


 麗奈は頷いた。貧乏人を見下したようなイライアの物言いは気に入らないものの、グッと我慢して。


「私の世界ではこんな便利なものなんてなくて、ああいう風にコートとかマフラーを着けてたから」


 麗奈は元の世界に思いをはせる。そして改めて魔王を倒して元の世界に戻る決意を固めた。……女神が帰還に関して言及していないことについては気づいていない。


「そうなのですか。意外と勇者様の世界は進んでいないのですね」


 イライアの発言に麗奈はカチンときた。元の世界のことを思っていたためにタイミングも悪かった。


「そんなことないわよ。たしかに魔法はなかったけど、この世界よりはずっと進んでた!」


 つい感情的になり、大声で反論する麗奈。イライアはその剣幕に驚き、申し訳ありません、と謝るとそそくさとその場を去っていった。


 ひとり残された麗奈はポツリと、


「何やってるの、私……」


 と後悔した。


ーーーーーー


 そんな麗奈の心情を他所に、トドラシ討伐はやってくる。早朝。港には小型の舟ーー高瀬舟のような形状ーーが待機しており、スティードが麗奈に乗船を促す。麗奈はこんなちっぽけな舟でモンスターと戦えるのかどうか、不安で仕方がない。


「ねえ、これ大丈夫なの?」


「安心せい。どうせトドラシは出てこん」


「え? どうして?」


「トドラシはな、この氷山の奥地にある、凍らない湖に棲んでおる。だから襲ってくることはない」


「……」


 南極っぽいところに存在する凍らない湖。ファンタジー、ここに極まれり。麗奈は釈然としないものを感じつつ舟に乗り込んだ。


 だが麗奈はさらなる理不尽に見舞われる。対岸に到着してしばらく休憩した後にその発表はなされた。


「よし。では山を登るかの」


「え!?」


 スティードからの驚愕の発表。麗奈は思わず乙女には相応しくない声を上げた。華の女子高生、登山経験はゼロである。中学校の登山実習は台風の直撃で中止になってしまった。そんな彼女に突然『登山をしろ』というのは酷である。


(ほら、雪山って色々危ないって言うし。エベレストなんて地面に亀裂があるんでしょ? そこに落ちて氷漬けになった死体が出てきたって話もあるし)


 麗奈はテレビなんかで聞きかじった情報をもとに、心の中でそんな言い訳をごねる。極限状態の登山など、麗奈はご免だ。だが幸いなことに、勇者パーティーに限って、持ち物は人夫がはこぶので武器と防具だけでいいらしい。戦闘に集中しろということなのだろうが、どちらにせよ長い距離を自力で歩かなければならない。目的地の最寄駅から歩くだけの都会人にはやはり厳しいことだった。そのことをあれやこれやと婉曲に伝えるが、誰もが勇者だから大丈夫、という理由で一蹴した。麗奈はこの時ほど、自分が勇者であることを恨めしく思ったことはない。


 かくして始まった強制雪山登山はほぼ手ぶらとはいえ、麗奈にとってはかなりキツいものとなった。レベルが上がり(現在67)体力値は23168と、およそ人外の値を示しているとはいえ、それはあくまでもHPヒットポイントでありスタミナではない。そして都会のもやしっ子には雪山登山はやはり無理があった。


 山を半分も登らないうちに麗奈は息が上がってしまう。体全体ーー特に足が重い。さらに息を整えようとすれば、酸素が薄いため思うように整えることができなかった。


(だから……無理って……言ってるのに……っ)


 何でもできる完全無欠な勇者という理想を壊さないように自らの意思を直接表明できず、麗奈は心の中で恨み言を吐く。しかし決して表には出せない。そんなことをすれば、これまで必死にやってきたことーー人々からの期待や尊敬ーーが無駄になるような気がしたのだ。一種の強迫観念である。


 そんなわけで、麗奈は黙々と歩く。自身は歩行するだけの機械だと考えながら。そしてやっとの思いで頂上にたどり着けば、眼前に雄大な自然が広がっていた。周囲を氷山に囲まれ、中央にはたしかに凍っていない湖がある。地形的には洞爺湖に代表される火山湖に近い。


「うわー。綺麗」


「そうですわね」


「ふっ。たしかに綺麗だ。けれどレイナ。キミの美貌の方がもっと素敵だよ」


「あっ、そう」


 アルフォンスの気障な物言いには塩対応が麗奈のデフォルトになりつつあった。


「おいガキども。景色に見とれとらんと、トドラシを探さんか」


「え? トドラシはここにいるんじゃーー」


「ああ。じゃが湖に潜っておることもある。それならば好機じゃ。湖に潜るのはエサを獲るため。そして陸に上がったということは、腹が膨れておるということ。そして腹が太ると眠る。あとは小娘の魔法で焼いてやれば討伐完了じゃ」


 スティードはすらすらと作戦を述べていく。彼は既にトドラシの生態を利用した作戦を立てていたようだ。


 このトドラシ討伐、実は最も可能性がある四獣討伐といわれてきた。その理由は先程スティードが作戦に組み込んでいた通り、トドラシには満腹になると寝る習性があるからだ。過去に何度か同様の作戦(満腹になって寝たところを攻撃する)で討伐が試みられたが、大人しくしている間に倒しきれずに失敗している。さすがに死にかければ反撃してくるし、四獣の攻撃は並みの人間では受けきれない。だが勇者の攻撃力があればあるいはーーとスティードは考えたわけだ。


「さ、さすがスティード様、なんだな」


「素晴らしい作戦です」


「魔術師特級はだてじゃない、か……」


 ジュリアン、イライア、アルフォンスの三人が感嘆の声を上げ、それに案内役や人夫たちが続いた。それぞれが目を皿にしてトドラシを探す。しかし誰も見つけることはできなかった。


「湖に潜っておるのか……。ならしばらくは待つしかあるまい」


 トドラシ不在につき、麗奈たちは山の中腹にテントを張って泊まることになった。休めると知って、麗奈は密かに胸を撫で下ろすのだった。


ーーーーーー


 さて、肝心のトドラシ討伐だがーー特筆すべきことはなかった。一応、経過だけを説明しておくと、二日後にトドラシが帰還。そして湖中央の島で眠り始めた。そこを麗奈が最大威力の魔法【煉獄】で燃やし尽くしたーー以上である。勇者のバカげたステータスが可能にした。スティードさえ、『儂にもできぬよ』と白旗を上げている。


 あっさりと仕事を終えた麗奈は再び雪山を登って下り、船ーー今度は大型帆船ーーに乗って東進した。港へ寄港すると、船へ真水や食料品の他に大量の魔法薬が積まれた。さらに護衛の帆船は、航行に必要な最低限の人員以外を魔術師が占めている。また麗奈が乗る船を含むすべての船の甲板には巨大な魔法陣が描かれた。


「……なに、これ?」


 麗奈はその不思議な光景に目を丸くする。その疑問に答えたのは暇をしているアルフォンスだった。


「あの魔法陣は儀式魔法だね。スティード様ではなくイライア殿が指揮されているということは、聖属性か」


「儀式魔法?」


 初めて聞いた単語を麗奈はおうむ返しした。アルフォンスは髪をかき上げ、得意気に説明する。


「複数人の魔術師が共同で魔法を行使することで、個人では使えない大魔法を発動させる手法さ。この前、キミが使った【煉獄】も、普通は儀式魔法で行使されるものさ」


 望んでいた答えが返ってきたのは嬉しいが、さり気なく人外扱いされてーーあながち間違いではないーー麗奈は不機嫌になる。今回は魔術師が多く投入されるため、スティードとイライアの二人が忙しくしている。結果、側にいるのはアルフォンスとジュリアンの二人になっていた。麗奈は早く作業が終わることを願う。


「へえ。でもどうしてそんなことを?」


「それはこの先、聖属性の結界が必要になるからじゃ」


 と、ここで仕事をひと段落させたスティード登場。だが麗奈は頭に『?』を浮かべた。イマイチ理解できていないようだ。そんな彼女にスティードはため息をこぼす。


「まったく、本当に無知な奴じゃな」


 いや、本音を隠そうともせず小馬鹿にした。イラッとするが、麗奈はこらえる。こらえて話の続きを待った。


「いいか。クラーケンは古の魔王によって生み出された存在じゃ。だから強力な闇属性の魔法を使う。そして過去に討伐を試みた者たちを利用し、自身を守護させているのだ」


 偉そうに講釈を垂れたくせに麗奈はさっぱり理解できない。頭上の『?』がひとつから五個くらいに増える。


「クラーケンは自身を討伐にきた者たちをアンデットにして、近づく者を排除させているのです。この儀式魔法【神光結界】は最強の防御魔法であると同時に、魔法に宿る神の御力によって不浄なるアンデットを触れるだけで滅することができます。これで無用な戦闘を避けるのです」


 話に入ってきたイライアの説明によると、某海賊映画のフライング・ダッチマン号のような船がクラーケンの手先となっているらしい。映画とは逆の設定だ。それらを無力化するために、この大仰な儀式魔法の準備を進めているらしい。


 麗奈もこの説明で理解した。だがそれとは別の疑問もある。


「乗り込んでる魔術師がその儀式魔法をやるのはわかったけど、あの魔法薬の山は何なの?」


 甲板上に魔法薬が一ダース入ったケースが十以上ある理由を問う。ちなみに積まれているのは魔力回復用の紫の魔法薬。一本あたり金貨一枚はする高級品だ。それが十ダース以上。護衛の船(五隻)にも積まれているとすれば六十ダースで、お値段は金貨六百枚。……元庶民である麗奈からすると、考えるだけで目がくらむような額だ。


「今回使う【神光結界】は聖属性魔法では最上級のものです。並の魔術師ではすぐに魔力が尽きてしまいますわ」


 それだけで麗奈は理解した。魔法薬で魔力を回復させ、魔法を維持するのだと。作家が〆切直前に栄養ドリンクをがぶ飲みして無理矢理作品を書き上げるようなものだ。


(頑張ってください)


 死の騎行(デスマーチ)に駆り出された憐れな魔術師たちに、麗奈は心の中でエールを送った。


ーーーーーー


 港を出港した六隻の船は三日の航海の後にクラーケンが現れるという海域にやってきた。突入の前に、麗奈たちへスティードの作戦が語られる。


 今回はーーというか今回も、単純な火力勝負となる。すなわちクラーケンを倒すのが先か、こちらが沈むのが先か、というわけだ。各艦が【神光結界】を維持できている間は、闇属性のクラーケンは触れることはできない。魔法さえ的確に迎撃すれば、あとは一方的に殴るだけだ。戦いの帰趨を決定づけるのはもちろん麗奈。超高火力の魔法をバンバン撃ちまくれ、というのがスティードからのお達しである。


 各艦は楔形陣形を組む。『A』を逆さにしたような形だ。そのうち『V』になっているのが護衛艦。『A』の横棒の位置に麗奈が乗る旗艦が位置していた。帆を目一杯広げ、最大限風を捕まえた状態で海上を疾駆する。【神光結界】も順次発動した。


 やがて水平線にマストが見えてきた。ーー敵だ。アンデットたちが操る幽霊船である。それが一、二、三……と増えていき、最終的に九を数えた。かなり多い。


 彼我の距離はぐんぐん縮まる。互いに向かってきているのだから距離が縮まるのも早い。わずかな間に互いの顔が視認できるまでになっていた。と、ここで麗奈は魔力の高まりを感じる。魔法発動の前兆だ。そして次の瞬間、敵の船からおびただしい数の魔法が飛んできた。結界には闇属性の侵入を防ぐ効果があるが、他属性については対象外。それらに関しては迎撃する必要がある。真っ先に反応したのはスティードだった。


「きたれーー【水壁】!」


 極限まで短縮された詠唱。発動した魔法によってたちまち海水面が持ち上がり、艦隊の前方に巨大な水の壁が生み出された。その魔法の規模と速さに、居並ぶ魔術師たちは驚嘆する。そして思った。これが魔術師特級の実力か、と。


 スティードの魔法により飛来する魔法はすべて撃ち落とされる。その間にも互いに接近を続け、遂に互いの航路が交錯するに至った。


「取舵! アンデットどもは消えるが船は消えん! 接触はなんとしても避けろ!」


 船長の怒号が飛ぶ。それは甲板に吹きつける猛烈な海風にも負けることなく、船全体に届いた。船は目測でおよそ二百メートル程度の間隔を空けて航行している。そのため回避行動をとるのも容易であった。元々アンデットは結界に任せることになっていたから、予定通りの行動だ。


 ただ、ここにきても麗奈は結界について疑いを持っていた。本当に彼らが言っているように上手くいくのか、と。しかしそんな心配は次の瞬間に吹き飛ぶ。


 すれ違うかと思えば、敵のアンデットたちはターザンの要領でロープにしがみついての移乗攻撃を試みた。マストに結びつけられたロープに掴まり、ビヨーンと乗り移ろうとしてくる。


 思わず麗奈は腰の剣に手をかけた。甲板に降り立ったときにいち早く迎撃するために。乗り移らんとするアンデットは放物線を描き、麗奈の頭上に降りてくると思われた。居合い斬りで剣を抜きざまに両断するイメージを浮かべる。しかし件のアンデットはロープから手を離して空中に身を躍らせた途端、展開されていた【神光結界】に接触。蒸発した。熱々の鉄板に肉を乗せたときのようにジュッ、といい音を立てて。


「ーーえ?」


 拍子抜けして呆然となる麗奈。完全に無防備な態勢だ。これを好機と捉えたか、アンデットたちは次々と飛び、そして結界に触れて蒸発していく。自殺志願者さながらに。


 かくして魔法の応酬こそあったものの、アンデットとの戦闘はほぼ一度も剣を交えることなく終わった。


「うっ……」


 戦闘がひと段落したことに安堵する麗奈の前で、魔法陣に手を触れていた魔術師が倒れた。


「ちょっと、大丈夫!?」


「ご安心ください、勇者様。ただの魔力の枯渇ですわ。ーー次の人は入って! 救護班はすぐに介護を!」


 イライアは心配する麗奈を落ち着かせ、他の者に指示を飛ばす。するとすぐさま別の魔術師が魔法陣に手を触れて魔力を込め始める。


 結界は常に魔法を発動しているため、絶えず魔力を消費し続ける。そして結界に何らかの効力が働くときーー今回はアンデットを浄化したときーーには、より莫大な魔力を消費する。最上級魔法の【神光結界】ともなれば、複数人で分担していても常人の魔力の半分は持っていくだろう。


 イライアは大丈夫だと言っているが、倒れた魔術師は顔面蒼白で手足も痙攣している。次の瞬間に死んでしまってもおかしくはない状態だ。麗奈は気が気でなかった。


 だがそんなことも頭から吹き飛んでいくとんでもない出来事が起こった。海面をつき破って触手が飛び出る。やや遅れて本体が現れた。その姿は青いタコ。金色の目がギラリと光る。触手がうねり、生理的嫌悪感をかき立てる。その瞬間に大波が発生し、麗奈たちが乗る船を襲った。台風の中にいるかのように船が激しく揺れる。波に翻弄されるなかで甲板も海水に洗われた。それに魔術師が攫われ、結界が解けた。その瞬間、


 ーーズドン!


 近くで爆弾でも爆発したのではないかと思うほどの轟音、衝撃。船が激しく揺れる。麗奈はもう二度と着衣水泳などしたくないので、船から落ちないように近くの物に必死にしがみつく。それは他の乗員たちも同じだった。特に結界を維持する魔術師たちは。


 やがて揺れが少し治まると、未だ翻弄される船から麗奈は外を見た。ーー見てしまった。


「……ない」


 ついそんな声が出る。荒れる海原の上には、波濤に揺られる船が五隻。……一隻足りない。そんな麗奈の心情が端的に現れたひと言だった。護衛の船を一撃で葬った犯人は、言うまでもなくクラーケンである。


 圧倒的。


 理不尽。


 そんな言葉が麗奈の頭を支配する。だが頭の中に生まれた感情を制御するすべもまた身につけていた。様々な感情を頭の端へと追いやり、剣を構えてクラーケンと対峙する。


 先制したのはクラーケン。麗奈の胴の数倍はあるかという巨大な触手が目にもとまらぬ速さで振り下ろされる。麗奈も視認できなかった。しかしその一撃は結界に弾かれる。数人の魔術師の魔力を代償にして。


(早く決着をつけないと)


 死んだわけではないとはいえ、目の前で人が倒れるというのは精神衛生上よろしくない。麗奈は前回のトドラシ同様に最上級魔法で一気にとどめを刺すことにした。


「地獄の業火よ、一切を焼き尽くせーー【煉獄】!」


 炎属性の最上級魔法【煉獄】。辺り一帯を業火で焼き尽くす魔法だ。その威力は先のトドラシ戦で実証済みである。クラーケンに向けて放たれたそれは周囲の海水をにわかに沸騰させ、胴体を丸焼き、触手をボイルにした。


 しかしクラーケンは無事な触手で反撃してきた。ただしその攻撃にさっきまでのものと異なり、麗奈でも十分に目視できるものだ。標的は麗奈が乗る旗艦と護衛の船のうち一隻。旗艦に向かってきたものは麗奈が剣で切り落としたものの、護衛に対するものは防ぐ手段もなく結界に当たる。触手と結界はしばしせめぎ合った後ーー結界に供給される魔力が魔法の要求量を下回り、結界が解けた。


 クラーケンの巨体からすれば触手の一本でもかなりの重量になる。木造船などひとたまりもなくメリメリメリ、という音を立てて船体が押し潰された。


 大波、再び。


 それとともに大量の木片や打ち上げられた幸運な人物が僚船の甲板に乗る。船が波に翻弄されている間に、クラーケンは押しつぶした船を道連れにして海中へと没した。


 麗奈のクラーケン討伐は大型船二隻、魔術師以下の人員二三九名の死亡(一隻あたりの乗員は八百名)とクラーケンの討伐という結果で幕を閉じた。




活動報告にも上げる予定ですが、クリスマスとお正月に特別編をお届けする予定です。そちらもよろしくお願いします。

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